世界の美術館（中欧・バルカン諸国）

　 主な美術館

　　　ポーランド
　ワルシャワ国立美術館
　ワジェンキ宮殿
　旧王宮
　ルブリン城博物館
　クラクフ国立美術館
　チャルトリスキ美術館
　ポズナン国立美術館
　トルン旧市庁舎
　グダンスク歴史博物館
　　　チェコ・スロヴァキア
　プラハ国立美術館
　王宮美術館
　チェコ・キュビスム博物館
　ムハ美術館
　エゴン・シーレ文化センター
　ブルノ市博物館
　クロムニェジーシュ美術館
　オロモウツ美術館
　スロヴァキア国立ギャラリー
　東スロヴァキア博物館
　
　

　　ハンガリー
ハンガリー国立絵画館
西洋美術館
現代美術館
ルドヴィク美術館
ヴァザレリ美術館
フェレンツィ美術館
エステルハ−ジ宮殿
ソンバトヘイ美術館
　　ルーマニア
ルーマニア国立美術館
ルーマニア・コレクション美術館
ブラショフ美術館
クルージ国立美術館
マラムレシュ県立美術館
美術館（ヤシ）
　　ブルガリア
国立美術館
国立海外アート美術館
シティ・アート・ギャラリー
ルセ・アート・ギャラリー
ブルガス・アート・ギャラリー
　

　　バルカン諸国
スロヴェニア国立美術館
ザグレブ近現代美術館
ヴィシェグラード市立美術館
ベオグラード国立美術館
ポドゴリツァ博物館・美術館
モンテネグロ国立博物館
スコピエ・アート・ギャラリー
マケドニア国立博物館
アルバニア国立美術館
　　ギリシア
国立美術館
国立考古博物館
国立歴史博物館
アクロポリス美術館
オリンピア博物館
セオフィロス博物館
　
　
　
　
　
　

　 美術館名

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■ポーランド　Poland■
マゾフシェ・ルベルシチズナ地方
　●ワルシャワ　Warsaw　（マゾフシェ地方）
　　　ワルシャワ国立美術館　　Muzeum Narodowe (National Museum)
　　　ワジェンキ宮殿　　paIac Lazienkowski
　　　旧王宮　　Zamek Krolewski（Royal Castle）
　　　美術アカデミー　　Akademia
　　　ヴィラヌフ宮殿　　PaIac Wilanowski（Wilanow Palace）
　●ルブリン　Lublin　（ルベルシチズナ地方）
　　　ルブリン城博物館　　Zamek（Castle）, Lublin
マウォポルスカ地方
　●クラクフ　Cracow
　　　クラクフ国立美術館　　Galeria w Sukiennicach
　　　チャルトリスキ美術館　　Muzeum Czartoryskich (Czartoryski Museum)
　　　ヴァヴェル城旧王宮　　Zamek　Krolewski na Wawelu（Wawel RoyalCastle）
　　　日本美術・技術センター“マンガ”館　　Centrum Sztuki i Techniki Japonskiej"Manggha"（Manggha Centre of Japanese Art＆Technology）
　●チェンストホーヴァ　Czestochowa
　　　ヤスナ・グラ（光の丘）僧院　　Jasna Gora（Jasna Gona（Bright Hill）Monastery）
シロンスク地方（シレジア地方）
　●ヴロツワフ　Wroclaw
　　　パノラマ・ラツワヴィツカ民族博物館　　Panorama Raclawicka（Panorama of Raclawice）
ヴィエルコポルスカ地方
　●ポズナン　Poznan
　　　ポズナン国立美術館　　Muzeum Narodowe（National Museum）
　　　ポズナン大聖堂　　Katedra Poznanska（Cathedral of Poznan）
　　　アートギャラリー（ロガリン）　
　●ウッチ　Lodz
　　　モダンアート美術館　　Muzeum Sztuki
クヤーヴィ・ポモージェ地方
　●トルン　Torun　（クヤーヴィ地方）
　　　旧市庁舎　　Ratusz Staromiejski（Old Town Hall）
　●グダンスク　Gdansk　（ポモージェ地方）
　　　グダンスク歴史博物館　　Muzeum Historyczne Miasta Gdafnska
ヴァルミア・マズリー地方

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■チェコ　Czech Republic■
ボヘミア地方
−中央ボヘミア地方
　●プラハ　Praha
　　　プラハ国立美術館　　Narodni galerie (National Gallery)
　　　王宮美術館　　Obrazarna Prazskeho hradu（Prague Castle Picture Gallery）
　　　プラハ市ギャラリー　　
　　　チェコ・キュビスム博物館　　Muzeum Ceskeho Kubismu
　　　ムハ美術館　　Muchovo muzeum（MuCha Museum）
　●クトナー・ホラ　Kutna Hora
　　　石の家　　Kamenny dum（Stone House）
−東ボヘミア地方
　●リトミシェル　Litomysl
　　　ポルトモネウム　　Portmoneum（Portmoneum）
−北ボヘミア地方
　●テレジーン　Terezin
　　　テレジーン・ゲットー資料館　　
−西ボヘミア地方
　●マリアーンスケー・ラーズニェ　Marianski Lazne
　　　地域博物館　　Marianske Lazne mestske muzeum（Munincipal Museum）
　●ヘプ　Cheb
　　　ファインアート美術館　　Galerie Vytvarneho Umeni（Gallery of Fine Arts）
−南ボヘミア地方
　●チェスキー・クルムロフ　Cesky Krumlov
　　　エゴン・シーレ文化センター　　Egon Schiele centrum（Egon Schiele Art Center）
モラヴィア地方
−南モラヴィア地方
　●ブルノ　Brno
　　　ブルノ市博物館　　Muzeum mesta Bma
　●クロムニェジーシュ　Kromeriz
　　　クロムニェジーシュ美術館　　Muzeum Kromerizska（Kromeriz Museum）
　　　大司教の城内絵画ギャラリー　　Zameocka obrazarna
−北モラヴィア地方
　●オロモウツ　Olomouc
　　　オロモウツ美術館　　Muzeum Umeni Olomouc
　　　大司教区博物館　　Archideicezni Museum (Archdiocean Museum)

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■スロヴァキア　Slovakia■
　●ブラチスラヴァ　Bratislava
　　　スロヴァキア国立ギャラリー　　Slovenska rnarodna galeria（Slovak National Gallery）
　●コシツェ Kosice
　　　東スロヴァキア博物館　　vychodoslovenske muzeum（East Slovak Museum）
　●パルデヨフ Bardejov
　　　イコン博物館　　Muzeum ikony

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■ハンガリー　Hungary■
中央ドナウ地方
　●ブダペスト　Budapest
　　　ハンガリー国立絵画館　　Magyar Nemzeti Galeria (Hungarian National Gallery)
　　　ブダペスト国立美術館　　
　　　西洋美術館　　Szepmuveszeti Muzeum（Museum of Fine Arts)
　　　現代美術館　　（ミューチャルノク）　Mucsarnok（Mucsarnok Exhibition Hall）
　　　ルドヴィク美術館　　Ludwig Museum
　　　ルーテル派教会博物館　　Evangelikus templom es Evangelikus Orszagos (Lutheran Church and Museum)
　　　ヴァザレリ美術館　　Vasarely Muzeum (Vasarely Museum)
　●センテンドレ　Szentendre
　　　セルビア正教会の美術館　　Szerb Ortodox Egyhazmuveszeti gyujtemeny (Serbian Ecclesiastical Art Museum）
　　　チョーベル・ベーラ美術館　　Czobel Bela Muzeum（Czobel Museum）
　　　クメッティ・ヤーノシュ美術館　　Kmetty Janos Muzeum（Kmetty Museum）
　　　バルチャイ・イェヌー美術館　　Barcsay Jeno Muzeum（Barcsay Museum）
　　　フェレンツィ美術館　　Ferenczy Muzeum（Ferenczy Museum）
　　　ヴァイダ・ラヨシュ美術館　　Vajda Lajos Muzeum（Vajda Lajos Museum）
　●エステルゴム　Esztergom
　　　キリスト教博物館　　Kereszteny Museum (Christian Museum)
　●ヴァーツ　Vac
　　　ヒンツ・ジュラ・コレクション　　Hincz Gyula Gyujtemeny（Hincz Gyula Coltection）
ドナウ川以西地方
−中央トランスダヌーヴィア地方
　●セーケシュフェヘールヴァール　Szekesfehervar
　　　チョーク・イシュトヴァーン・ギャラリー　　Csok Istvan Keptar
　　　ポリ城　　Bory var（Bory Castle）
−西トランスダヌーヴィア地方
　●ショプロン　Sopron
　　　聖霊教会　　Szentlelek templom（Holy Spirit Church）
　●フェルトゥード　Fertod
　　　エステルハージ宮殿　　Esterhazy-kastely（Esterhazy Palace）
　●ソンバトヘイ　Szomhathely
　　　ソンバトヘイ美術館　　Szombathely Keptar
−バラトン湖
　●バダチョニ　Badacsony
　　　エグリ・ヨージェフ記念美術館　　Egry Jozsef Emlekmuzeum
−南トランスダヌーヴィア地方
　●ペーチ　Pecs
　　　カープタラン通りの美術館　　Kaptalan u.
ドナウ川以東地方
−北ハンガリー地方
　●エゲル　Eger
　　　エゲル城アート・ギャラリー　　Egri-var（Eger Castle）
−大平原地方
　●デブレツェン　Debrecen
　　　デーリ博物館　　Deri Muzeum（Deri Museum）
　●セゲド　Szeged
　　　教育文化会館　　Kozmuvelodesi palota（Palace of Education）
　●ケチケメート　Kecskemet
　　　ケチケメート・ギャラリー　　Kecskemet Galeria（Kecskemet Gallery）

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■ルーマニア　Romania■
ワラキア平原地方　Wallachia (Tara Romanescea)
　●ブカレスト　Bucharest
　　　ルーマニア国立美術館　　Muzeul national de Arta
　　　ブカレスト国立美術館　　
　　　ルーマニア・コレクション美術館　　Muzeul Colectiilor de Arta
トランシルヴァニア地方　Transilvania
　●ブラショフ　Brasov
　　　ブラショフ美術館　　Brasov Museum
　●シビウ　Sibiu
　　　プルケンタール国立博物館　　
　●シナイア　Sinaia
　　　ペレシュ城　　Peles Castle
　●ティミショアラ　Timisoara
　　　ルーマニア正教会　　Roman Orthodox Cathedral
　●クルージ・ナポカ　Cluj-Napoca
　　　クルージ国立美術館　　Cluj National Art Museum
マラムレシュ地方　Maramures
　●バイア・マーレ　Baia Mare
　　　マラムレシュ県立美術館　　Muzel de Arta
モルドヴァ地方・ブゴヴィナ地方　Moldova, Bocovina
　●ヤシ　Lasi
　　　美術館（文化宮殿内）　Art Museum
　●スチャヴァ　Suceava
　　　聖ゲオルゲ・ノウ修道院　　New St. George Monastery
　　　五つの修道院　　Cinci Manastiri Bucovinene
ドブロジャ地方　Dobrogea
　●トゥルチャ　Tulcea
　　　ドナウデルタ美術館　　Art Museum
　●コンスタンツァ　Constanta
　　　コンスタンツァ美術館　　Museul de Arta

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■ブルガリア　Bulgaria■
バルカン山脈地方
　●ソフィア　Sofia
　　　国立美術館　　National Art Gallery
　　　国立海外アート美術館　　National Gallery of Foreign Art
　　　シティ・アート・ギャラリー　　City Art Gallery
　●カザンラク　Kazanlak
　　　イスクラ歴史博物館　　Iskra Museum & Art Gallery
ピリン山脈地方
　●リラ　Rila
　　　リラの僧院　　Rilski Manastir
トラキア平原地方
　●プロヴディフ　Plovdiv
　　　歴史博物館（ゲオルギアディ・ハウス）　　The Museum of History (Georgiadi House)
ドナウ平原地方
　●ルセ　Ryce Ruse
　　　ルセ・アート・ギャラリー　　Ruse Art Gallery
　●ヴェリコ・タルノヴォ　Veliko Tarnovo
　　　ヴェリコ・タルノヴォ美術館　　Veliko Tarnovo Art Museum
　●アルバナシ　Arbanassi
　　　聖誕教会　　The Nativity church
黒海沿岸地方
　●ブルガス　Burgas
　　　アート・ギャラリー　　Art Gallery
　●ソゾポル　Sozopol
　　　美術館　　

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バルカン諸国　Balkan
■スロヴェニア共和国　Republika Slovenija■
　●リュブリャナ　Ljubljana
　　　スロヴェニア国立美術館　　National Museum of Slovenia
　　　近代美術館　　Moderna galerija (Museum ot Modern Art)
　　　洞窟城　　predjamski grad (Predjama Castle)
■クロアチア共和国　Republika Hrvatska■
　●ザグレブ　Zagreb　（フルヴァツカ地方）
　　　近現代美術館　　Moderna galeriia
　　　ミマラ博物館　　Mimara muzej (Mimara Museum)
　　　ストロスマエル美術館　　Strossmayerova galerija starih majstora　The Strossmayer Gallery of Old Masters 　●ザダル　Zadar　（ダルマチア地方）
　　　聖マリヤ教会・修道院　　crkva i samostan sv. Marije
　●フヴァル　Hvar　（ダルマチア地方）
　　　フランシスコ会修道院　　sv.Franjo monastar
　●ドブロヴニク　Dubrovnik　（ダルマチア地方）
　　　総督邸（文化歴史博物館）　　Knezev dvor　Rector's Palace
　　　ドミニコ会修道院　　Dominikanski samostan　(Dominican Monastery)
　　　大聖堂　　katedrala Riznica (Cathedral)
■ボスニア・ヘルツェゴヴィナ　Bosnia-Herzegovina■
　●ヴィシェグラード　Visegrad　（ボスニア地方）
　　　ヴィシェグラード市立美術館　　Visegrad
■セルビア　Serbia■
　●ベオグラード　Belgrade
　　　ベオグラード国立美術館　　National Museum
　●ザイェチャル　Zajecar
　　　ラドゥル・ベゴヴ・コナック　　
　●ノヴィ・サド　Novi Sad　（ヴォイヴォディナ自治州）　
　　　ペトロヴァラディン要塞　　
■モンテネグロ　Montenegro■
　●ポドゴリツァ　Podgorica
　　　ポドゴリツァ博物館・美術館　　muzej i galerija grada Podgorice
　　　モンテネグロ現代美術センター　　Centar savremene umjetnosti Crne Gore
　●ツェティニェ　Cetihje
　　　モンテネグロ国立博物館　　Narodni muzej Crne Gore (Montenegro National Museum)
■マケドニア共和国　Macedonia■
　●スコピエ　Skopje
　　　アート・ギャラリー　　Art Gallery
　　　マケドニア博物館　　Museum of Macedonia
　●オフリド　Ohrid
　　　国立博物館　　National Museum
　　　イコン博物館　　The Gallery of Ohrid Icons
■アルバニア共和国　Republika e Shqiperise■
　●ティラナ　Tirana
　　　アルバニア国立美術館　　Gateria Kombetare e Arteve (The National Gallery of Arts)
　　　国立歴史博物館　　Muzeu Historik Kombetar (National Historical Museum)
　　　ジャーミア・エトヘム・ベウト　Xhamia Et'hem Beut (Et'hem Bey Mosque)

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■ギリシア　Greece■
ドギリシア中央部
−アッティカ地方
　●アテネ　
　　　国立考古博物館　　National Archaeological Museum
　　　アクロポリス美術館　　Acropolis Museum
　　　国立美術館　　National Gallery and Alexandros Soutzos Museum
　　　国立歴史博物館　　National Historical Museum
　　　ビザンチン博物館　　Byzantine Museum
−中央ギリシア（ステレア・エラス）（中央ギリシア、西ギリシア）　Sterea Ellas
　●デルフォイ　Delphi
　　　デルフォイ考古博物館　　Archaeological Museum
−(北)スポラデス諸島　Voriai Sporadhes
　　　考古学博物館（スキロス島）　　Skyros
−サロニコス諸島（アルゴリス地方）　Saronikos
ドペロポネソス半島（ギリシア南部）　Peloponnese
　●コリントス　Korinthos
　　　考古学博物館　　　Archaeological Museum
　●ナフプリオン　Nafplion
　　　考古学博物館　　　Archaeological Museum
　●スパルタ　Sparti
　　　ミストラ遺跡　　Mistra
　●オリンピア　Olimpia
　　　考古博物館　　Archaeological Museum, Olimpia Museum
ドギリシア中部　Central Greece
−テッサリア地方
　●カランバカ　Kalambaka
　　　メテオラ岩上修道院群　　Meteora
−イピロス地方
　●イオアニナ　Ioannia
　　　考古学博物館　　Archaeological Museum, Ioannia
−イオニア諸島　Ionioi Nosoi
　●ケルキラ（ケルキラ（コルフ）島）　Kerkira(Corfu)
　　　考古学博物館　　Archaeological Museum, Kerkira
ドギリシア北部　Northern Greece
−マケドニア地方
　●テッサロニキ　Thessaloniki
　　　ビザンティン文化博物館　　Museum of Byzantine Culture
　　　ヴェルギナ考古学博物館　　Archaeological Museum, Vergina
　●ペラ　Pella
　　　ペラ博物館　　Archaeological Museum of Pella
　●アトス半島　Athos
　　　アトス山ギリシア正教修道院群　　
−トラキア地方
　●アレキサンドゥルポリ　Alexandroupoli
　　　アレキサンドゥルポリ教会美術博物館　　
ドエーゲ海諸島
−クレタ島　Crete
　●イラクリオン　Iraklion
　　　クノッソス宮殿跡　　Knossos
　　　考古学博物館　　Archaeological Museum
−キクラデス諸島　Kikladhes
　●フィラ（サントリーニ（ティラ）島）　Fira (Santorini)
　　　ティラ考古学博物館　　Thira
　●アピラドス（ナクソス島）　Apirados (Naxos)
　　　ミハエル・バルダーニ美術館　　Michael Bardani Museum
−ドデカニサ諸島　Dodecanissa
−東エーゲ海諸島
　●サモス・タウン（サモス島）Samos
　　　考古学博物館　　Archaeological Museum, Samos
　●ミティリニ　Mitilini　（レスヴォス島 Lesvos）
　　　セオフィロス博物館　　Theophilos Museum
　　　ネア・モニ修道院博物館　　Nea Moni Monastery

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■キプロス共和国　Cyprus■
　●レフコシア（ニコシア）　Lefkosia (Nicosia)
　　　キプロス考古学博物館　　Cyprus Archaeological Museum
　　　ビザンティン美術館　　Byzantine Museum and Art Gallery
　●レメソス（リマソール）　Lemesos (Limassol)
　　　レメソス考古学博物館　　Lemesos District Archaeological Museum
　●パフォス 　Pafos
　　　ビザンティン博物館　　Byzantine Museum
　●トロードス　Troodos
　　　壁画の教会群　　Painted Churches in the Troodos Region

　資料

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■ポーランド　Poland■

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マゾフシェ・ルベルシチズナ地方

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●ワルシャワ　Warsaw　（マゾフシェ地方）

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ワルシャワ国立美術館　　Muzeum Narodowe (National Museum)

ごあいさつ
　ルネッサンス以降、ヨーロッパ文化の中で台頭して来たバロック文化は、16世紀後半、ローマで発祥し、オーストリア、フランス、ドイツ、オランダといったカトリック圏に広がり、18世紀まで続きました。
　本展では、バロック最盛期を中心にイタリアのカラヴァッジョ派、オランダのレンブラント派とリアリズム派、フランスの古典主義、そしてバロックを代表する装飾派、と５つの流派の要素を採り入れ、17世紀の最も偉大な画家の一人に数えられるルーベンス、風景画家として著名な作品を数多く残したロイスダール、肖像画では定評のあるヴァン・ダイクの作品等が注目されます。
　それぞれの特色を持った作品を一堂に集め、後期ルネッサンスからバロック、ロココ時代の芸術の大きな流れを感じさせるものであることを確信いたしております。
　本展は、1989年、オランダ・ユトレヒト市立美術館、ドイツ・ケルン市立美術館、ミュンへン国立美術館、1990年、イタリア・フィレンツェと巡回し、この度、日本で初公開できる運びとなりました。
　開催にあたりまして、多大なるご支援をいただきましたワルシャワ国立美術館、ご後援いただきました外務省、文化庁、ポーランド大使館、ご協力いただきました日本航空、そして関係各位に対し、心より感謝の意を表します。
　　　主催者

序
　このたびワルシャワ国立美術館所蔵の作品による展覧会が日本において初めて開催されることとなり、私たちにとってこれに過ぎる名誉と喜びはありません。
　本展は、ヨーロッパ・バロックの油彩画および素描から選りすぐったものにより構成されており、1610年代から18世紀末に至る美術の世界が豊富で変化に満ちていたことを明らかにしてくれることでしょう。カラヴァッジョ派とレンブラント派、ルーベンスの英雄的な理想主義とオランダのリアリズム、装飾的な流れと古典的な流れといったふうに、バロック絵画は多彩な領域を含んでおり、それらは時に互いに大きく異なっていますが、そうした様式上の相違は当時のヨーロッパにおけるさまざまな社会や国家や宗教の違いによってさらに大きなものとなりました。したがって当然のことながらバロック絵画に描かれた内容も多種多様にわたっていますが、その多くはキリスト教の教義を伝えようとするものか世界を寓意的に解釈したものです。この図録に収められた三つのテキストは、バロック美術について全体的にまた個別に解説しています。それらをお読みいただければ、本展に出品された作品を歴史的な視点と批判的な精神をもってご理解いただけることと思います。バロックの画家たちは、17世紀の芸術理論に従って「人に喜びを与え、教え、感動させる」ことを第一の目標としましたが、彼らの驚くほどの才能と妙技は日本のみなさまにとりましても喜びと瞑想と思考の源になることでしょう。
　ワルシャワ国立美術館は1862年に設立され、その収蔵品の核となったのは、美術館設立とともに館長に任命されたユスティニアン・カルニッキがケルンのヴァイヤーのオークションとブラッスール古美術店で購入した43点のすぐれたヨーロッパ絵画です。当時入手したもののうちコルネリス・デ・マン、アントーニオ・マリーニ、ヤーコプ・トーレンフリートの作品は今回の出品作に含まれており日本を巡回します。美術館開設後間もなくワルシャワ美術学校のコクレションが当館の収蔵品となりました。さらに多くの人々の社会的な努力と熱心な活動とによって、収蔵品はさらにふえていきました。祖国が再び独立を獲得した後の1920年代は当美術館にとってめざましい発展の時代となり、また1938年には新しい美術館の建物が開館するという栄誉を得ました。1935年から1982年まで館長を務めたスタニスワフ・ローレンツは歴史に残る非凡な人物で、芸術への愛情と熱意に満ちた、彼のかつてない勇気ある行為のおかげで、当美術館は第二次世界大戦間の困難な時代を生き延びることができ、その後もさまざまな問題に直面したにもかかわらず発展を続けています。
　ワルシャワ国立美術館の中心になる建物には、中世美術館、17−19世紀ポーランド絵画館、ヨーロッパ館、版画・素描室、古代美術局、装飾美術部門などのセクションが含まれています。また、ヴィラヌフにあるヤン３世ソビエスキ王のバロック時代の宮殿やニエボルフにあるワジエンキ宮やラズィヴィウ家の宮殿もまた1945年、ワルシャワ国立美術館の一部となりました。
　本展覧会は初期ネーデルラント・フランドル絵画部門の学芸員であるハンナ・ベネシの構想によって生まれたもので、ヨーロッパ美術部門の学芸員の協力によって組織され、展開されました。本点が実現するに至ったのは、展覧会開催の費用をご負担いただいた東京の株式会社ホワイトPRをはじめとする関係各位の寛大で過分なご尽力によるものであることに、心より感謝申し上げるとともに、ワルシャワ国立美術館の日本における最初の展覧会が当館と貴国の諸美術館・機関との今後の長く実り豊かな関係の端緒となりますよう祈っております。
　　　ワルシャワ国立美術館館長　W．ゴドゥレフスキ

　　　［図録『華麗なるバロック絵画　ワルシャワ国立美術館展』(同展実行委員会、1992)から］

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ワジェンキ宮殿　　paIac Lazienkowski

　ヨーロッパで最も美しい公園のひとつに数えられ、ワルシャワ市民の自慢の種でもあろ。
　この公園は、18世紀にポーランド最後の王となったスタニスワフ・アウグスト・ポニャトフスキ Stanislaw August Poniatowski の命によって、1766年から30年もの歳月を費やして造営された。公園内の池の脇に建ち、水面にその優美な姿を投げかけているワジェンキ宮殿（水上宮殿）paIac Lazienkowski は、王の夏の離宮として建てられたものだ。
　ワジェンキとは“浴場”の意味で、公園内に散在する各離宮にすばらしい浴場がたくさんあったことからこう呼ばれるようになったという。
　ポニャトフスキ王の在位中にポーランドはロシア・オーストリア・プロイセンに分割され（３国分割）、地図の上からその姿を消してしまうことになる。この公園自体も歴史の波に翻弄された。王の死後はロシアに売却され、1918年のポーランド独立時には国家の所有となる。その後第２次世界大戦でナチス・ドイツに占領された際、ワジェンキ宮殿の美術品はあらかたドイツに持ち去られ、挙げ句の果てに1944年には放火されて内部は完全に破壊されてしまった。　しかし現在では見事に修復され、宮殿では国立博物館の分館として17〜18世紀の美術品を展示している。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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旧王宮　　Zamek Krolewski（Royal Castle）

　王宮広場の中央、見上げるように高い石柱の上で十字架を手にして建っているのは、1596年にポーランドの首都をクラクフからワルシャワへ移したジグムント３世の碑だ。右側奥にあるのが現在博物館になっているl日王宮。
　王宮の歴史はワルシャワの歴史でもあるといわれる。ここはかつて王の住居だっただけでなく、国会や大統領執務室として、また士官学校や国立劇場がおかれるなど、文化、政治、経済の舞台でもあった。ワルシャワに遷都したジグムント３世の居城だった頃は「ヨーロッパで最も美しい宮殿のひとつ」といわれていたという。ここも第２次世界大戦で破壊されたが、「王の広間」にあった最も価値の高い調度品は美術史家、復元専門家などの手で国外に持ち出されていたために難を逃れた。復元作業が完成したのは1988年のことで、バロック様式の建物の内部はジグムント３世が暮らしていた当時のままに再元されている。
　館内見学は、中世のコインや14〜16世紀の絵画などの常設展、議会に使われていた部屋を巡るルート�T、王の部屋を見られるルート�Uに分かれている。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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美術アカデミー　Akademia

　（美術アカデミーそのもについて記述なし）

チャプスキ宮殿　Palac Czapskich（Czapski Palacel）
　ワルシャワ大学の正面、聖十字架教会の隣にある、かつてのタラシンスキ宮殿、現美術アカデミー Akademia Sztuk Pieknych の左側３階は、ショパン一家が1827年からワルシャワで３番目の住居として使ったところだ。ショパンにとっては、1830年に国を離れるまでのポーランドで最後の家となる。現在は「ショパン家のサロン Salonik Chopinow」として公開されているこの部屋で、ポロネーズやいくつかのエチュードが作曲された。残念ながら、この部屋もワルシャワ蜂起の戦闘で破壊され、戦後再建されたものだ。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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ヴィラヌフ宮殿　PaIac Wilanowski（Wilanow Palace）

　17世紀末（1677〜96）に当時のポーランド王ヤン３世ソビエスキが建てた夏の離宮。ワルシャワ市の南郊外ヴィラヌ。
　フレンチガーデンに囲まれた宮殿は、美しいバロック様式。入場制限をしているため、午後になると開館時閣内でも入場を断られることがあるので、できれば午前中に訪れたほうがいい。さすがに王の離宮だっただけあり、内部の壮麗な装飾と家具、調度品の豪華さには目を見張るばかりだ。何度かの増改築で、複雑な構造の建物になったという。貴族のポトツキ一家をはじめとする歴代の所有者が収集したコレクションや肖像画が加わり、博物館としても見ごたえがある。展示には英語の解説が付いている。
　博物館内だけでもたっぷり１時間はかかるが、美しい庭園もぜひ鑑賞したい。水鳥が遊ぶ池やバラ園など、のんびり歩くだけでも気持ちがいい。また、秀逸な現代デザインを展示するポスター美術館 Muzeum Plakatu もある。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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●ルブリン　Lublin　（ルベルシチズナ地方）

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ルブリン城博物館　　Zamek（Castle）, Lublin

ルブリン城　Zamek（Castle）
　旧市街に入ると、16〜17世紀の建物がぎっしりと並んでいる。14世紀にゴシック様式で建てられ、後にルネッサンス風に少し手が加えられたドミニカン教会とその付属修道院を境目で見ながらなおも直進すると、向こうの丘にそびえるルプリン城が望見できる。
　14世紀にすでに城としての形が築かれたが、変遷の末17世紀に今の形となった。広い中庭が美しい。第２次世界大戦中は、ナチスに反抗した政治犯たちを収容する牢獄に使用された苦い過去ももっている。
　ルプリン城内の博物館は、17〜19世紀のポーランド絵画、銀製の食器や燭台、美しい民族衣装など見ごたえがある。ヤン・マテイコによる絵画『1569年ルプリンの合同』が代表的作品だ。ほとんどに英語の解説が付いていてわかりやすい。また、城内にある聖三位一体礼拝堂は必見。1418年に描かれたロシア・ビザンチン様式のフレスコ画が圧倒的な迫力をもって迫ってくる。

ルブリン　Lublin
　バルト海と黒海を結ぶ交易路の上にある都市で、10世紀頃にはすでに繁栄が始まり、特に11世紀に入って黒海やロシア方面との交易が盛んになるにつれてますます発展したのがルプリンだ。交通の要衝にあったのがかえって災いし、古くから何度となくドイツ、オーストリア、ロシア、遠くはモンゴル人などの外敵に荒らされた苦い経験をもっている。1569年にポーランドとリトアニアの連合がこの地で調印されると（いわゆるルプリンの合同）、当時のヨーロッパで最大の王国が出現することとなり、ポーランド分割の憂き目にあうまで栄光の時代がしばらく続くこととなる。
　第２次世界大戦が勃発した1939年9月、早くもナチス・ドイツ空軍の猛爆撃を受けて大きな被害を出し、その後数カ月もしないうちに占領されてしまった。ルプリンが解放されたのは1944年7月22日、ソ連軍とドイツ軍の激しい攻防戦の末、４年半に及ぶナチスの占領は終止符をうった。第２次世界大戦後のポーランド政府の母体となった「ポーランド国民解放委員会」は、ここルプリンに本拠地を置いていた。
　町なかにはルプリン城や教会など、往時の繁栄を偲ばせる建物が残っており、見どころも多い。カトリック大学やマリー・キュリー大学のほか、多くの専門学校などのある学園都市でもある。郊外には、ナチス・ドイツによって第２次世界大戦中に開設されたマイダネク強制収容所跡が残っており、訪れるものに悲劇を訴え続けている。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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マウォポルスカ地方

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●クラクフ　Cracow

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クラクフ国立美術館　　Galeria w Sukiennicach

織物会館（織物取引所）　Rynek Glowny, Sukiennice（Main Market Square, Cloth Hall）。
　クラクフ旧市街の中心にある稔面積４万m2の広場。中世からそのまま残っている広場としては、ヨーロッパ最大を誇る。広場に面して商店やレストラン、カフェなどが軒を連ね、地元の人々や観光客でにぎわっている。
　広場の中央に建っているルネッサンス様式の堂々たる建物は、織物会館（織物取引所）と呼ばれている。長さが100mもあり、クリーム色の外観が壮麗だ。14世紀に建てられたものだが、その当時は衣服や布地の交易所だったことからこの名が付いた。現在１階の内部はみやげ物街になっており、中央通路の両側には木彫りの民芸品やアクセサリー、あろいは刺繍などを売る小さな店がぎっしりと並んでいる。２階は国立美術館 Galeria w Sukiennicach で、マテイコ Matejko、ロダコフスキ Rodakowski など18〜19世紀のポーランド絵画ギャラリーになっている。また、織物会館の東側に建つのは、ポーランドの国民的詩人アダム・ミッキエヴィッチ Adam Mickiewicz の銅像だ。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

ごあいさつ
　ポーランドは、東ヨーロッパにおいて独特な芸術を育んだ文化国家であり、なかでも古都クラクフは、中世の雰囲気と佇まいを残す美しい街として有名です。またここには、日本美術の収集家フェリクス・ヤシェンスキーの浮世絵コレクション約５千点が収蔵されるクラクフ国立博物館があり、本年で開館120周年を迎えます。
　本展は、この120周年記念行事の一環として、多数の初公開作品を含めた浮世絵約310点を展覧するものです。このコレクションの一部は、過去に日本においても公開されていますが、今回は春信・歌麿・写楽・北斎・広重ら著名絵師の名品のほか、団扇絵や摺物など稀少な作品も多くみられ、質量ともこれまでにない優れた内容となっております。
　大切に保存されてきたこのヤシェンスキー・コレクションの公開が、ポーランドと日本との文化交流の促進、および友好親善の一助となれば幸いです。
　本展開催にあたり、貴重な作品を快くご出品賜りましたクラクフ国立博物館をはじめ、ご後援賜りましたポーランド共和国文化芸術省、ポーランド共和国大使館、およびご協力いただきました関係各位に深甚の謝意を表します。
　　　平成11年10月9日　福岡市博物館　西日本新聞社　テレビ西日本

ごあいさつ
　1920年、ポーランドの有名なコレクターであり、優れた美術鑑定家でもあったフェリクス・ヤシェンスキーは、自分のすばらしいコレクションをクラクフ国立博物館に寄贈しました。その中でも特別に高い価値を備えていたのが、古い日本美術のコレクションで、それはこの博物館の中に、ポーランド国内で最も充実し、中央ヨーロッパにおいて最も高い価値あるものの一つである、多彩な日本美術のコレクションを組織するための土台となったのです。このコレクションは他のコレクターや日本美術愛好家たちからの寄贈品によってますます豊かなものとなりました。これら寄贈品の中で特に重要なのは、エドヴァルト・ゴルトシュタイン、オットー・コヴァルスキー、レオン・コスッカから贈られた品々です。
　絵画、根付・印龍など小型の工芸品、織物、衣装、武具などに加えて、4,600作品に及ぶ多色摺の木版画は、このコレクションの中で最も貴重な部分となっております。東京の太田記念美術館と同館の副館長、永田生慈氏の要請に応じて、互いの協力のもとに準備され、選ばれたこれら木版画の数々は、現在、日本の展覧会場に展示されております。
　ここでクラクフ国立博物館と同館の極東美術部の学芸員たちを代表して、私どもが遠いポーランドからその母国日本に送った、きわめて興味深く、時にはまさに稀少品となってしまった多くの作品を、皆さまにお見せする機会を持ち得たことに対する、私どもの喜びと満足の意を表したいと思います。また併せて、太田記念美術館の私どものパートナーと友人たち、日本における展覧会の実現のために多大の協力、配慮、尽力を与えて下さった全ての方々に衷心より御礼申し上げます。
　この展覧会が日本の皆さまの心に響くものでありますことを望んでやみません。
　　　1998年11月1日　　クラクフ国立博物館館長　タデウシ・フルシチキ

　　　［図録『ポーランド クラクフ国立博物館　浮世絵名品展』(同展実行委員会、1999)から］

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チャルトリスキ美術館　　Muzeum Czartoryskich (Czartoryski Museum)

　以下「図録『レオナルド・ダ・ヴィンチ≪白貂を抱く貴婦人≫　チャルトリスキ・コレクション展』(ブレーントラスト、2001)」から

ごあいさつ
　このたび、京都、名古屋、横浜の三都市において、「レオナルド・ダ・ヴインチ《白貂を抱く貴婦人》チャルトリスキ・コレクション展」が開催の運びとなりました。
　本展は、レオナルド・ダ・ヴインチの傑作《白貂を抱く貴婦人》を中心として、ポーランドのチャルトリスキ美術館所蔵のヨーロッパ絵画、版画、装飾美術品など109点により構成されます。
　チャルトリスキ美術館は、ポーランド貴族イザベラ・チャルトリスカ公爵夫人によって1801年プワーヴィに設立され、1876年にクラクフに移されて現在に至るポーランド最古の美術館です。代々にわたりコレクションが続けられ、現在では、古代から近代までのヨーロッパやアジアの優れた美術・工芸作品などを所蔵し、卓越した水準を誇る美術館として知られています。
　ポーランドの激動の歴史をくぐりながら、《白貂を抱く貴婦人≫は同美術館を代表する名画として人々を魅了し続けてきました。きわめて数少ないレオナルド・ダ・ヴインチの絵画のうち、このように美しく完成度の高い最高傑作が日本で公開されることは、たいへん意義深いことです。
　日本とポーランドは19世紀末以来、親密な文化交流を続けてきました。このたび≪白貂を抱く貴婦人≫が日本に貸し出された後のチャルトリスキ美術館の展示室には、フェリクス・ヤシェンスキ・コレクションの日本の美術品が展示される予定です。
　21世紀の文化交流の門出となる本展開催にあたり、貴重なコレクションの出品をご承諾いただいたチャルトリスキ財団創立者であるプリンス・アダム・カロル・チャルトリスキ、同財団理事長であるクラクフ国立美術館ゾフィア・ゴウゥビエフ館長をはじめとして、展覧会実現のために惜しみないご支援を賜りました国内外の関係各位に深く感謝いたします。また、ご後援いただきました外務省、ポーランド大使館、イタリア大使館、ご協賛・ご協力いただきました諸機関の皆様に心より御礼申し上げます。
　　　主催者

メッセージ
　このたび、クラクフのチャルトリスキ・コレクションを代表するレオナルド・ダ・ヴインチ≪白貂を抱く貴婦人≫をはじめとする数々の作品を、京都、名古屋、そして横浜で皆様にご鑑賞いただけることは、私にとって大きな喜びです。
　チャルトリスキ・コレクションは、18世紀末に私の先祖、芸術愛好家であり熱烈な愛国者であったイザベラ・チャルトリスカ公爵夫人により収集が始められました。ロシアの占領に至る政治的動乱の最中にあった当時、国情を憂いたイザベラ公爵夫人は、美術品や歴史的に貴重な品々を収集することにより、ポーランドのかつての栄光の歴史、例えば1683年ウィーンを包囲したオスマン・トルコ軍に対抗しヨーロッパを東方世界の圧力から守った勝利などを、人々に思い起こさせることを願ったのです。
　所蔵品の数が増えるに従い、コレクションはより芸術的な性格が強くなりました。19世紀に、イザベラの孫にあたるヴワディスワフ・チャルトリスキ公爵がコレクションの規模を現在ある姿にまで拡大し、1876年クラクフに設立した新しい美術館に収蔵しました。
　私個人としても、展覧会を機会に再び日本を訪れることができ、たいへんうれしく思っています。私の祖父はこの素晴らしい国を賞賛し、明治時代に旅してまわったという思い出があるからです。また、日本は私には第二の祖国のような国でもあります。文化、礼節の心、そして精神性すべてを、武道を心得る者として敬愛し、日本の刀剣や鍔、工芸品なども収集しています。
　皆様がこの展覧会を楽しんでくださることを望んでやみません。そして、栄えある開会の場に立ち会えることを楽しみにしております。
　　　チャルトリスキ財団創立者　プリンス・アダム・カロル・チャルトリスキ

序
　ポーランドと日本は、両国を隔てる地理的距離の大きさにもかかわらず、19世紀、20世紀と既に二つの世紀の変わり目を経て、芸術・文化の幅広い分野において豊かな交流の長い歴史を築いてきました。
　とりわけ、展覧会・博覧会の活動は、両国の相互理解に大きな役割を果たしてきました。クラクフ国立美術館は、過去30年間、日本の多くの研究機関と協力しつつ、所蔵するポーランドと日本の芸術作品を、日本各地の展覧会に出品しています。長きにわたるこのような相互交流の取り組みの中で、近年の最も大きな成果は、クリスティナとアンジェイ・ワイダ夫妻の呼びかけにより、同美術館のいちばん新しい分館として1994年に開館した日本美術技術センター（通称「マンガ」）です。この「マンガ」・センターでは、フェリクス・ヤシェンスキの収集した日本美術の貴重なコレクションが常設展示され、日本の伝統文化・芸術をポーランドの人々に紹介しています。
　しかしながら、ポーランドの伝統文化・芸術をより広く日本の皆様に紹介する機会はこれまでなかなかありませんでした。このたび、プリンス・アダム・カロル・チャルトリスキによって1991年にクラクフ国立美術館の一機関として設立されたチャルトリスキ財団のコレクションによる展覧会が実現されるのは、とても素晴らしいことです。 　本展は、多様なポーランド文化を展観するために、いくつかの明確なテーマのもと、チャルトリスキ美術館のコレクションの中から代表作品を選んで構成されています。これらの作品をご覧いただくことで、今年創立200周年を迎えたポーランド最古の美術館であるチャルトリスキ美術館の歴史に親しんでいただけることと思います。
　チャルトリスキ美術館をはじめとして、ポーランドの美術館の多くは個人コレクションの寄贈をもとに設立されています。その中でも、19世紀初頭に始められたチャルトリスキ家のコレクションは最も貴重なものです。同コレクションはポーランドの人々に、芸術的教養の高さだけでなく、国家の歴史と愛国心について感慨を抱かせるものとしても、重要な役割を果たしているといえるでしょう。
　本展のためにポーランドのこの重要なコレクションから、その至宝であるレオナルド・ダ・ヴインチ≪白貂を抱く貴婦人≫とともに数多くの名作が選ばれ、日本の三都市において多くの皆様にご覧いただけることは、私たちにとって大きな喜びです。
　本展が、ポーランドと日本の豊かな文化交流の未来に向かって、より深い相互理解のための新しい大きな一歩となることを祈念しております。
　この場をお借りして、本展の実現のためにご尽力いただいた京都、名古屋、横浜の主催者ならびに関係者各位に、心より感謝し深くお礼申し上げます。
　　　クラクフ国立美術館館長・チャルトリスキ財団理事長　ゾフィア・ゴウゥビエフ

チャルトリスキ美術館のあゆみとレオナルド・ダ・ヴインチ≪白貂を抱く貴婦人≫
　　　ヤメシュ・ヴァウェク　チャルトリスキ美術館絵画部長
　今日クラクフのチャルトリスキ美術館を訪れ、決して広くはないその展示室や通路をめぐるうちに、古代メソポタミア、エジプトから近代に至る世界史の流れをたどっているように感じられることに、驚く人は少なくない。この美術館にはやや古めかしいところもある。たとえば、絵画、武具・甲胃、タペストリー、貴石を用いた工芸品やガラス器といった多種多様な収蔵品は一緒に展示されていることが多く、金・銀、ダマスク織、琥珀、ラピスラズリといった異素材どうしが、光と色彩のきらめく魅力的な構成を織りなしている。
　地元ポーランドの来館者にとって美術館は、祖国の要人や君主たちの姿を生き生きと蘇らせ、遺された品々によって多くの歴史上の出来事を伝える教育的な役割も果たしている。
　しかし、この美術館で最も人々を魅了するのは、なんといってもレオナルド・ダ・ヴインチの作品《白貂を抱く貴婦人≫であろう。ポーランドに所蔵されている唯一のレオナルド作品であり、この巨匠の作品が極めて希少（世界中でも10点前後にすぎない）でもあるため、クラクフを訪れる人は決まってこの名高い作品を観にチャルトリスキ美術館に足を運ぶのである。
　美術館を創設したチャルトリスキ家に関して、よく質問が寄せられる。チャルトリスキという名が、ポーランドで最も古い名門の家柄のひとつとして、初めて歴史上に登場するのは14世紀である。その姓の語源については明確になっていないが、名前の最初の部分がポーランド語で「悪魔」を意味する「チャルト」という言葉と類似していることは、注目に値するであろう。
　歴代のチャルトリスキ家の人々は、勇敢な軍の指揮官として、政治家として、また芸術・科学分野における第一人者として、ポーランド史に足跡を残している。そのような意味では、この魅力溢れる美術館が彼らによって築かれたという事実は、驚きに値しないのかもしれない。
　ポーランドで最も古い美術館であるチャルトリスキ美術館が開館した200年前、ポーランドは非常に困難で悲劇的な政治状況にあった。美術館はポーランド最後の国王スタニスワフ・アウグスト・ポニャトフスキが近隣の三強国ロシア、プロイセン、オーストリアによって廃位させられた1795年から６年後に設立された。分割によりポーランドはその後123年間にわたってヨーロッパ地図から姿を消すこととなり、ようやく独立を取り戻すのは第一次世界大戦後の1918年11月になってからである。その長い年月の間、19世紀初頭の強い愛国的気運を背景に生まれたチャルトリスキ美術館は、ポーランドの人々がその国民としての誇りと独自性を再確認することのできるポーランド固有の文化の拠り所として、中心的な役割を果たすこととなった。チャルトリスキ美術館はその出発点から、まさにポーランド国民の美術館だったといえる。
　美術館は1801年イザベラ・チャルトリスカ公爵夫人によってプワーヴィに開設された。イザベラ公爵夫人は啓蒙主義時代を代表する知的で教養の高い女性のひとりであった。夫のアダム・カジミェシュ・チャルトリスキ公爵はポーランドで最も由緒ある名門一族の出身で、王位継承候補にも挙がった有力な政治家であると同時に、劇作家としても広く知られた人物であった。愛書家、蔵書家でもあり、プワーヴィとシェニアヴァにチャルトリスキ公爵家図書館を設立している。図書館は現在クラクフに移転し、ポーランド国内で最も重要な古文書、書籍、文献のコレクションのひとつとなっている。
　たいへん裕福な女性であったイザベラ公爵夫人は、ヨーロッパ諸国（一度も行かなかったイタリアを除き）をめぐり、ドイツ、スイス、フランスやオランダを訪問している。そうした旅の中で哲学者ジャン＝ジャック・ルソー、スイスの詩人ジャン＝パティスト・ルイ・グレッセ、パリで芸術サロンを主宰したジョフラン夫人などヨーロッパの著名人と交流した。また、イザベラ公爵夫人は多くの美術館や個人コレクションにも足繁く通い、その成果は後年プワーヴィに美術館を開設するに至って存分に生かされることとなった。なかでも特に重要な意味を持ったのは、1790年から91年にかけて息子アダム・イェジと赴しいたイングランドとスコットランドへの旅であった。彼女はそこで当時大流行していた文学・芸術におけるロマン主義と初めて出会い、ストーンヘンジの巨石群やシェイクスピアの生地ストラットフォード＝アポン＝エイヴォンを見学し、この国の湖や山々の連なる風景に感銘を受けた。とりわけスコットランドの湖水に魅了された。自然な風景を思わせる英国ロマン主義風の庭園を作るという発想は、おそらくこの旅行中に芽生えたもので、プワーヴィの屋敷や美術館の建物の周囲に整備された極めて美しい庭園の中にその体験が生かされている。
　イザベラ公爵夫人はこの英国旅行の際、いくつかの絵画、またアレグザンダー・ポープやウイリアム・シェイクスピアといった著名人に所縁の品々をポーランドに持ち帰っている。シェイクスピアの所有と伝えられる木製の腰掛の一部は、後にプワーヴイの美術館で最も人気の高い展示物のひとつとなった。
　イザベラ公爵夫人はプワーヴィの美術館建設地としてポーランドの主要河川のひとつ、ヴィスワ川を眼下にのぞむ急斜面を選び、そこにポーランドの美術館としては初めて、古代ローマのティブール（ローマ郊外ティヴォリ）のウェスタ神殿の正確な複製を建設することを指示した。このようにして完成した建物に彼女は国王、将軍、科学者、詩人やその他の歴史上のポーランド人たちの遺した、いわばポーランド国民の貴重な財産を収蔵したのである。数々のポーランドの名家や1683年ウィーンにおける大勝利の立役者である国王ヤン３世ソビエスキといった国民的英雄の紋章付きの盾なども展示された。この戦いの勝利は、トルコの異教徒の侵攻からの西欧キリスト教世界の救済であるととらえられた。神殿の地下室に置かれた小さな石棺には、それぞれの墓地から集められた天文学者コペルニクスや詩人ヤン・コハノフスキといった著名人の遺骨や遺灰が収められた。
　外周を18本の円柱が囲み、ガラスの天蓋に被われた円形の堂々たる建物は（ロシア皇帝アレクサンドル１世によってその天蓋が贈られたことは、後のロシアによる没収と矛盾するようだが）、シビュラ神殿、あるいは記憶の神殿と名付けられ、国家の偉人を祭るパンテオンとしての性格を持つこととなった。シビュラ（巫女）という名称は偶然採用されたものではない。クマエの巫女、と呼ばれた古代ローマの女予言者は、数々の予言を記した神秘的な書物を遺したが、後のローマの為政者たちは帝国が危機に直面するたびに、この書物をひもといて解決法を求めた。当時のポーランドが置かれていた政治状況を思えば、この名称の持つ象徴的意味合いは明白であろう。プワーヴイの神殿の門扉に刻まれた「過去は未来のために」という銘が、この美術館の主旨でありスローガンだといえよう。つまり、ポーランドの過去から最良のものを集め、（イザベラ公爵夫人が信じたように）必ずや再び独立国家の国民となるであろう次世代のポーランド人に伝えようとするものなのである。プワーヴィの美術館ではヨーロッパの過去−つまり10世紀（966年）にローマからキリスト教がもたらされて以来、ポーランドがその一員となった西欧世界共通の歴史的・文化的伝統−に対しても大きな比重が置かれている。このように、記憶という概念はこのポーランド初の美術館にとって非常に重要な意味を持っていた。ギリシア神話のヘルメス神の持物である蛇の巻き付いた杖をかたどったシビュラ神殿の鍵には、二つの言語−ポーランド語とギリシア語−で次のような銘文が刻まれている。「私が記憶の神殿の扉を開く」。
　1809年にイザベラ公爵夫人はプワーヴィの美術館に「ゴシック・ハウス」と呼ばれる新たな建物を追加した。シビュラ神殿を設計したピョートル・フリステイアン・アイグネルによるこの建物は、先の神殿とはうってかわって中世のモティーフを取り入れた様式で、ロマン主義の流行を先取りするものであった。この建物は主に外国の絵画、武具・甲田、工芸品、素描、銅版画、書籍などの展示にあてられ、その多くは歴史上の人物に所縁の品々であった。これらは外国で購入され、ヨーロッパ中からプワーヴィに集められたのだが、なかにはジョージ・ワシントン関連の収蔵品のようにアメリカ合衆国からもたらされる場合もあった。また、ナポレオン・ボナパルトの遠征軍に参加したポーランド人兵士たちによって、多くの記念品がゴシック・ハウスに寄贈された。
　ゴシック・ハウスのなかの「録の間」と呼ばれる展示室には、今回出品されるレオナルド・ダ・ヴインチ作品が展示され、「小展示室」という部屋には当時は≪自画像≫とされていたラファエッロの作品が掛けられていた。二つの作品は共にアダム・イェジ・チャルトリスキ公爵がイタリアで購入した。レオナルド作品は1800年頃の購入とされるが、どこで、誰から購入されたのかは判っていない。ラファエッロ作品は、1808年にヴェネツィアのジュスティニアーニ・コレクションから購入された。イザベラ公爵夫人は当初、レオナルド作品に描かれている人物にも動物にも特定の認識は持っていなかったと思われるが、後には作品のモデルがフランス国王フランソワ１世の伝説的愛妾「ラ・ベル・フェロニエール」であるという説を受け入れている。作品の左上に現在も読み取れる「LA BELE FERONIERE LEONARD D'AWINCI」という書き込みは、彼女の指示によってなされた。ちなみに、「ヴインチ」のつづりに「�X」ではなく「W」が用いられている。このとき、もともとは青みがかった灰色だった背景が黒色で加筆されたと考えられている。このことがあってから数年後に、この作品に次ぐ重要な収蔵品で、非常に芸術的価値の高い作品がゴシック・ハウスの絵画コレクションに加わることとなる。レンブラントの《嵐の光景》と呼ばれた作品で、チャルトリスキ家に仕えて30年余りをポーランドで過ごしたフランス人画家ジャン・ピエール・ノルブランによって持ち込まれた。彼はポーランドに来る直前にこの作品をパリで購入した。
　ゴシック・ハウスには肖像画を中心に多数の絵画が展示されたが、ベトラルカ、ダンテ、シェイクスピア、神聖ローマ皇帝カール５世、フランス国王フランソワ１世やイギリス国王ヘンリー８世、ヴォルテール、ジャン＝ジャック・ルソー、ジェイムズ・クック、ジョージ・ワシントンやナポレオン・ボナパルトといった各国の歴史、文学、芸術を彩る著名人に関連する様々な記念品も多く展示された。
　全ての展示物には金色の札にそれぞれの解説が書かれた。作品の解説は手書きで作成された蔵品目録（ポーランド初の美術館目録）にも、ポーランド語とフランス語で掲載された。1828年には印刷されたものがワルシャワで発行された。
　ゴシック・ハウスの外壁にはポーランド国内の歴史的建造物からとられた石の部材や彫像がはめ込まれ、石細工を施してあるかのような様相を呈していた。
　美術館は1830年までプワーヴィに置かれていた。ロシアに対し国民が立ち上がった十一月蜂起が起きると、臨時政権である国民政府の主席だったアダム・イェジ・チャルトリスキ公爵は、ロシア皇帝から死刑の判決を受け、チャルトリスキ家の財産は没収されることとなった。しかし、ロシア兵がプワーヴィ入りするまさに直前、既に84歳を迎えていたイザベラ公爵夫人の手によって貴重な美術コレクションと蔵書は難を逃れることができた。その際、彼女を支援したのはプワーヴィやその近郊に住む農民やユダヤ人たちであった。美術館の収蔵品は安全な場所、主としてポーランド南部のシェニアヴァに移され、レオナルドやラファエッロの絵画を含む最も価値の高い収蔵品は、しばらくの間この地にかくまわれることとなった。後にコレクションは十一月蜂起の失敗後多くのポーランド人が移り住んだフランスに移された。アダム・イェジ公爵はパリに壮麗な館オテル・ランベールを購入し、館は間もなく亡命ポーランド人の政治活動の中心拠点となったばかりでなく、30年以上にわたってチャルトリスキ家の美術コレクションが保管された。館では優雅な夜会が毎年開催され、その見事な楽曲を披露したフレデリック・ショパンをはじめ、各界の著名人でにぎわった。パリの上流階級の間でたいへんな人気を博したこの夜会の収益金は、ポーランドの政治活動への支援やポーランドからの貧しい移民の救済にあてられた。
　絵画をはじめとする収蔵品はオテル・ランベールでは公開されなかったが、パリで行われる展覧会、例えば万国博覧会などには時折出品された。1865年にそのような展覧会のひとつを訪れたヨハン・シュトラウスは、『ポーランドからの宝物』と題するワルツを作曲している。ワルツは次のように唄いかけた。「ポーランドを思い出そう、ポーランドは生き続ける、その芸術のなかに、その文化のなかに、その独立のために戦う人々のなかに」。
　パリ時代、美術館の収蔵品はイザベラ公爵夫人（1835年に亡くなっている）の孫でアダム・イェジ公爵の息子、ヴワディスワフ・チャルトリスキ公爵の保護の元にあった。ヴワディスワフは美術収集家としての才能に恵まれていたとみえ、当時の最も有力な古美術商を通じてフランス、イタリア、エジプトといった国々で、チャルトリスキ・コレクションに堂々とした新たな一面を付け加えるような新鮮な収蔵品を増やしていった。古代エジプト、ギリシア、ローマの美術品、後期ゴシックから初期ルネサンスにかけてのイタリアやネーデルラントの見事な板絵のコレクション、七宝細工、象牙細工、タペストリー、彩飾写本など中世、ルネサンス、バロック期の工芸品がコレクションに加わった。購入された品は必ず専門家によってその真贋が鑑定された。
　いくぶん現実逃避的で、良い意味でやや素人くさかったプワーヴィ時代の美術館は、このようにして最高の芸術的価値を誇るコレクションへと成長をとげた。1870年の普仏戦争、1871年のパリ・コミューンといった危機が迫ると、コレクションは再びポーランドに移されることになった。ヴワディスワフ公爵はコレクションを移転し美術館を再開する土地として、ポーランドのかつての都クラクフを選んだ。ワルシャワに首都が移される16世紀末まで、クラクフがポーランドの都であった。当時クラクフはオーストリア領（ガリツィアと呼ばれた）に属しており、分割後ロシア領、プロイセン領となった地域よりは規制がゆるやかであった。クラクフは1364年開関学した東ヨーロッパ最古の大学のひとつ、ヤギェウォ大学のはか、ヤギェウォ図書館、ポーランドの科学・歴史分野の研究が行われる科学アカデミーを擁していた。ロシア領、プロイセン領では禁止されていたポーランド語も、ここでは公用語としてその使用が許されていた。
　クラクフ市はかつて町の兵器庫だった建物を美術館と図書館のために提供し、ヴワディスワフ公爵は加えて旧市街の中心部に数件の古い借家とピアル会修道院の一部を購入した。フランスから招かれた優れた建築家ガブリエル・ドゥラドゥ（著名なヴィオレ・ル・デュックの弟子のひとり）が、これら既存の建物群を使ってネオ・ゴシック様式、ネオ・ルネサンス様式を取り混ぜた優雅な建造物の集合体を造り上げた。いくつかある建物は道路をまたぐ美しい連絡橋で互いに結ばれた。このようにして1876年に再開したチャルトリスキ美術館は、現在もこの場所に開館している。
　美術館には19世紀の間多くの来館者があったが、当然その大部分はポーランドの歴史や文化を吸収し、レオナルドやラファエッロ作品のような最高峰の芸術を観賞しようと訪れるポーランドの人々であった。ポーランド最大の歴史画家で当時最も人気の高いポーランド人画家のひとりだったヤン・マテイコは、しばしば美術館から武具・甲冑をはじめとする品々を借り、ポーランド史の一場面を扱った大きな作品のモデルとして使った。1879年にヴワディスワフ公爵はマテイコから初期の作品《ポーランドの寓意》を購入した。作品にはポーランドの擬人像である黒衣の若い女性ポロニアが、1863年のいわゆる一月蜂起の失敗後ロシア官憲によって捕らえられている様子が描かれている。特筆すべきはこのマテイコ作品が未完成であることで、未完成作品を展示することは、19世紀当時の美術展示の常識を逸脱する行為であった。
　ポーランド内外の美術史家がレオナルドとラファエッロの作品について、主にその確実な帰属とモデルの正体をめぐって議論しはじめたのも、ちょうどその頃である。ドイツの研究者たちはクラクフの肖像画の作者としてレオナルドの弟子アンプロージオ・デ・プレディスとボルトラッフィオの名を挙げた。しかしまもなくこの説は他の研究者たちによって却下され、同時にラファえ７ッロ作品がその追随者によるものであるとする説も否定された。ただし、この作品が画家の自画像であるとはもはや考えられておらず、モデルの候補としてウルピーノ公フランチェスコ・デッラ・ローヴェレやマントヴァ侯フェデリコ・ゴンザーガといった人物の名が挙がった。モデルが女性であるとする説も唱えられた。現在では、第二次世界大戦中に失われたこの作品からは、むしろルネサンス期の理想の男性像、つまり当時流行した新プラトン主義の考え方にのっとった両性具有的な人物像を読み取ることができる、と考えられている。
　レンブラントの作品≪嵐の光景≫の本当の主題が新約聖書の「善きサマリア人」のエピソードであることが判明したのも同じころであった。この説は後に広く認知され、作品は現在では≪善きサマリア人のいる風景≫の題名で知られている。1900年に、ポーランド人美術史家ボウォス＝アントニェヴィッチは、レオナルドの肖像画のモデルがラ・ベル・フェロニエールであるとする説に異を唱え、15世紀後半に「イル・モーロ」と呼ばれたルドヴィコ・スフォルツァの宮廷で活躍していたレオナルドによって措かれたのはチェチリア・ガッレラーニである可能性が高い、とする説を初めて提唱した。その後、イギリスの美術誌編集者が、若い女性が抱く白い動物を白貂と解釈するならば、ガッレラーニという姓を暗示するものともなっていることを発見した。なぜなら白貂を表すギリシア語（当時のイタリアでは広く知られていた）の「（ガレー）」という言葉の音が、ガッレラーニという姓の最初の音節に似ているからである。レオナルドがチェチリア・ガッレラーニの肖像を手がけた事実は宮廷詩人ベルナルド・ベッリンチョーニのソネットによって知られていたとはいえ、ボウォス＝アントニェヴイツチの提唱した説は、当然のように受け入れる研究者がいた一方で否定された場合もあったが、今日に至っては完全な合意をみている。
　19世紀末頃のチャルトリスキ美術館の内部は、ウィーンやクラクフで制作されたオーク材とガラスを用いた陳列ケースが配置され、レオナルドとラファエッロの作品にはネオ・ルネサンス様式の額装がはどこされた。19世紀当時の美術館の什器が現在もなお良好な状態で使われている例はポーランド国内では他に例がなく、ヨーロッパ諸国の美術館でも非常に稀である。チャルトリスキ美術館は優雅で伝統的な美術館のたたずまいを現代に伝える貴重な存在となっている。
　第一次世界大戦のさなか、レオナルド、ラファエッロ、レンブラントの作品は、ドイツのドレスデン絵画館に依託され、有名なツヴィンガー館で展示された。ドレスデン絵画館の当時の館長ハンス・ポッセ博士は1918年の戦争終息後もチャルトリスキ作品の返還を渋り、３作品がようやくクラクフに返還されたのは停戦から20ケ月もたってからのことであった。第二次世界大戦中の1939年当時ナチスのために働いていた同じハンス・ポッセは、クラクフを訪れた際「ドイツ国内の美術コレクションを充実させることのできる」価値の高い絵画作品は、主としてチャルトリスキ美術館にある、と上司のマルティン・ボルマンに報告している。レオナルドを含む３点の絵画は1939年8月にシェニアヴァに避難させられたが、ほどなくしてナチスの知るところとなり、ヒットラーの生地オーストリアのリンツに計画されたアドルフ・ヒットラー美術館に入るべくベルリンへと送られた。これらの作品がどのような経緯でハンス・フランクの手に渡ったのかは不明だが、ナチス政権によって設けられたクラクフを首都とする属領の総督に任命されたフランクは、作品を再びクラクフに持ち返った。当時フランクは元王宮のヴァヴェル城を住まいとしており、手許に置いていたチャルトリスキの絵画は、大戦末期に「戦利品」としてバイエルン地方にある自分の所有する邸宅に移すよう手配した。恐らくはこの時にチャルトリスキ作品のひとつ、ラファエッロによる≪若き男の肖像≫が行方不明となり、現在も発見されていない。これは大戦がポーランドにもたらした最大の文化的損失のひとつであるととらえられている。レオナルドとレンブラントの作品はバイエルンにあったハンス・フランクの別荘で発見され、1946年にクラクフの美術館に返還された。作品を積んだ列車がクラクフ駅に到着した際には町のヒロインとして市民の歓迎を受けたレオナルドの「貴婦人」は、やがてクラクフを象徴し、その文化水準の高さを示すものとして、不動の地位を築いていった。
　戦争が終わり、新しい政治体制のなかでソヴイエト連邦に忠実な共産党政権による「人民共和国」となったポーランドにおいて私立美術館として存続するわけにいかなくなったチャルトリスキ美術館は、1950年に国立美術館の組織に組み込まれることとなった。同時にそれまでの「チャルトリスキ公爵家美術館」という名称は、「公爵家」という言葉が共産主義者には受け入れがたいものであるため、「チャルトリスキ・コレクション」へと変更された。
　美術館の内装も一変した。古風な木製の什器は取りはらわれ、金属製の醜い現代風の展示ケースにとって代わられた。時代時代を象徴するものとして絵画、甲胃や工芸品を組み合わせるこの美術館独特の展示方法の代わりに、ガラス、陶磁器、タペストリー、甲胃といった具合に、素材や製法によって区別した展示方法が採られた。
　幸いなことにこの間も研究者たちは重要な収蔵品、とりわけ絵画に関する研究を継続していた。レオナルドの作品は1950年代に初めて紫外線、赤外線、�]線を使用した検査を受けている。ポーランド人修復家ルドルフ・コズウォフスキは、19世紀に塗られた黒色の絵具層の下にオリジナルの背景が残っている可能性に初めて着目し、同じくポーランド人修復家カジミェシュ・クフィアトコフスキは、そこに建築構造物、例えば窓のようなものの痕跡を認めることができるのではないかと提言した。1960年代に「貴婦人」の衣装を調査した美術史家ズジスワフ・ゼグルスキは、それがスペイン風のもので、ミラノの宮廷に登場したのは1490年頃であることを指摘した。レオナルド作品の制作年代をもっと早い1483年頃と推定した当時の多くの研究者たちにとってこの説は受け入れがたいものであった。更に、1490年頃の制作であるとすれば、チェチリア・ガッレラーニはレオナルドの肖像画に措かれている若い女性よりも年齢が高いはずであり、モデルに関しても疑問が生じることとなる。しかしごく近年の調査、例えば1991−92年にアメリカのワシントン・ナショナル・ギャラリーの修復家デイヴィッド・ブルが行った調査や、ジャニス・シェルとグラツィオーソ・シローニらによってチェチリア・ガッレラーニの生涯におけるいくつかの出来事の年代が明らかになったことなどを総合して、ゼグルスキが衣装を分析した結果提唱したように、1490年頃の制作であること、またチェチリア・ガッレラーニを描いたものにほぼ間違いないことが現在確認されている。
　現在では≪白貂を抱く貴婦人≫がチェチリア・ガッレラーニの寓意を含んだ肖像であり、彼女の抱く白い小動物は彼女の姓を連想させると同時に彼女の愛人ルドヴィコ・スフォルツァを暗示する白貂である、と解釈するのが一般的となっている。ルドヴィコ・スフォルツァはナポリ王フェルディナンド１世から自ら創設した「白貂（エルメリーノ）」なる勲位を授与されていることから、「エルメリーノ」というあだ名を持っていたことが知られている。白貂は汚れを嫌う動物として考えられていて、西洋美術では古くから肉体的純潔、精神的な清純を寓意的に表すシンボルとして登場する。レオナルドはその手稿のなかで、白貂について「身を汚すより死を欲する」(Ｈ手稿、48v)、「節制だから、一日に一食しかしない。そして泥まみれの穴に逃げ込むより、猟師に捉えられるにまかす−その純潔を汚さないために」（Ｈ手稿、12r．）と書き記している。また、レオナルドが描いた素描に狩人が白貂を追うもの（≪白貂のアレゴリー≫、ケンブリッジ、フィッツウィリアム美術館）があるが、その白貂は穴に逃げずにいることから寓意的に純潔を示し、ルドヴィコのメダルを作るためのスケッチではないかと考えられている。さらに、片方の前足を上げている白貂の姿は、「貞潔の凱旋」を主題とした作品に描かれる、女性が掲げる旗の紋章に類似が見られる。このような主題は特に15世紀フィレンツェの絵画や婚礼用衣装長持（カッソーネ）に見られ、ベトラルカの詩編『凱旋』から着想を得ている（例えば、ヤコポ・デル・セッライオ《貞潔の凱旋》、フィエーゾレ、バンディーニ美術館やルーカ・シニョレッリ≪貞潔の凱旋≫、ロンドン、ナショナル・ギャラリー）。レオナルドの白貂のポーズはこれらと偶然に一致しているのではなく、意識的に貞潔の紋章を表現していると推察できる。
　しかし、肖像画のもつ象徴的な意味や魅力的な逸話よりも我々にとつて重要なのは、この作品が同時代の芸術の到達点のひとつを明示していることである。作品に明らかな人間や動物に対する解剖学的知識、理にかなった自然な陰影による形体の表現は、この肖像画がまぎれもなくレオナルド・ダ・ヴインチの手になるものであることを証明している。
　1980年代に美術館は改装され、19世紀のエレガントな什器を用いたかつての展示スタイルが復活した。絵画、工芸品、甲冑といった異種の品々は再び一緒に公開され、美術館のもつ愛国的な性格が強調された。
　1989年にポーランドの共産主義政権が崩壊し、政治情勢は激変した。２年後の1991年には、1940年に生まれて以来国外で暮らしてきたアダム・カロル・チャルトリスキ公爵が、クラクフ国立美術館にチャルトリスキ財団を創設した。公爵は1970年代にただ一度だけクラクフを訪れているが、自分の先祖たちが築いた美術館はその外観を眺めることしかできなかった。美術館はチャルトリスキ家が共産主義国家に寄贈したものである、という説明が当時なされたが、それはもちろん真実ではなかった。財団の創設によって、チャルトリスキ美術館と図書館の正当な立場が、ようやく正式に規定されることとなった。
　1991年にレオナルド・ダ・ヴインチの≪白貂を抱く貴婦人≫はアメリカのワシントンに貸し出され、ナショナル・ギャラリーで開催された『1492年頃−大航海時代の芸術』と題する展覧会の目玉のひとつとなった。この見事な展覧会はアメリカ大陸発見500周年に関連して企画されたもので、世界中から1490年代に制作された芸術作品が集められた。同時代の日本の美術も展示され、西欧文明の至高ともいうべきレオナルドの作品が、洗練度ではひけをとらない極東の文化が生んだ芸術作品と、初めて出会うこととなったのである。レオナルド作品にとって第二次世界大戦後２度目の外国行きであり、モスクワのプーシキン美術館で開催された西洋美術における肖像芸術の展覧会に出品された1972年以来の国外への旅であった。
　1993年から94年にかけて≪白貂を抱く貴婦人≫は再び国外で公開された。スウェーデンのマルメとストックホルムで開催された『レオナルド・ダ・ヴインチ』展という興味深い催しで、レオナルドの周辺画家の作品や、レオナルドの手稿から再現された潜水艦や橋といった機械や発明品が展示された。
　≪白貂を抱く貴婦人≫が最後に外国で公開された1998年から99年にかけてのイタリア巡回展は、非常な人気を博した。数世紀を経て里帰りしたチェチリア・ガッレラーニはローマのクィリナーレ宮殿（イタリア共和国大統領官邸）、ミラノのプレラ絵画館、フィレンツェのピッティ宮殿で展示された。とりわけ感慨深いのは、500年前にルドヴィコ・スフォルツァの宮廷でレオナルドが肖像画を手がけたミラノでの展覧会であろう。作品を待ち受けていたのはイタリアの人々のたいへんな熱意で、がらんとした広い会場に展示されたたったひとつの作品を観るために、根気強く順番を待つ人々の長い列が築かれた。
　チャルトリスキ美術館は21世紀を迎えた今年創立200周年を迎えた。ポーランド文化にとって非常に意義深いこの記念日を祝う公式行事のひとつが、6月4日に行われた。『時代、人々とその作品−イザベラ・チャルトリスカ公爵夫人の絵画の劇場』と題する企画展が開幕したのである。この展覧会では、収蔵品がプワーヴィを離れた1830年以来初めて、シビュラ神殿やゴシック・ハウスに収められていた絵画やミニアチュールが全て展示された。その中にはもちろん≪自貂を抱く貴婦人≫も含まれていた。秋には更に二つの展覧会がひかえている。ひとつは美術館のパリ時代を特集したもの、もうひとつはイザベラ・チャルトリスカ公爵夫人がプワーヴィで収集した中世の彩飾写本の展覧会である。これらの展覧会が美術館の歩んだ歴史に関する講演などと共に始まる頃には、レオナルドの名高い作品≪白貂を抱く貴婦人≫は、チャルトリスキ美術館の多くの所蔵品と共に日本で公開されるために、再び旅に出る。その間、いつもは≪白貂を抱く貴婦人≫が展示されている部屋では、フェリクス・ヤシエンスキ（雅号「マンガ」）・コレクションを代表する日本美術が、人々の眼を楽しませることとなるだろう。
（訳：門田牧子）

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ヴァヴェル城旧王宮　　Zamek　Krolewski na Wawelu（Wawel RoyalCastle）

　ヴェヴェル城内、中庭から大聖堂に沿って奥へ入ると、旧王宮の人口だ。周囲を取り巻く建物は、16世紀初頭にジグムント王が建てたゴシックとルネッサンスの複合様式のもの。現在内部は博物館となっており、いくつかの展示に分かれている。
　王宮の展示 Komnaty Krolewskie では、16〜17世紀の頃を再現した豪華な部屋や、王家の肖像画などを見ることができる。なかでも「Szczerbiec」という1320年以来ポーランド王の戴冠式に用いられてきた剣や、ジグムント・アウグスト王が収集した16世紀のフランドル産のタペストリーなどは必見だ。そのほか、王族の私室、宝物・武具博物館 Skarbiec i Zbrojownia、オリエンタル・アート Sztuka Wachodu などの展示がある。

ヴァヴェル城
　旧市街の南の外れ、ヴィスワ川が「く」の字形に屈曲した、ちょうど角のところにそびえている。歴代ポーランド王の居城として名高い。
　城門の脇には、18世紀末、３国分割に対して反乱を起こしたポーランドの英雄タデウシ・コシチュシコの像が建っている。あるとき何者かに突然持ち去られてしまったが、1976年に再建された。

ヴァヴェル城大聖堂　Zamek　Krolewski na Wawelu（Wawel Royal Castle）
　城門をくぐるとすぐ左側にあるのが３つの礼拝堂をもつ大聖堂だ。1320年にゴシック様式で着工されてから、数世紀にわたってルネッサンス様式やバロック様式が加えられ建設されたもの。ワルシャワ遷都後も18世紀まではここで歴代ポーランド王の戴冠式が行われた。
　この大聖堂の外観で印象的なアクセントとなっているのは、広場に面した南側にある金色のドーム、ジグムント・チャペルだ。ポーランドにおけるルネッサンス建築の傑作といわれている。ジグムント王の要請でイタリアから招いた建築家によって1519〜33年に建てられた。また、北側のジグムント塔にはポーランド最大の鐘がつるされている。1520年に鋳造されたこの鐘は、宗教上および国の特別な行事の際にしか鳴らされない。周囲８mの鐘を支える台は、釘を一切使用せずに木だけを使って組み立てられている。鐘は塔の最上階にあり、そこからの眺めもまた格別だ。大聖堂の地下には墓所が設けられており、歴代の王や英雄が永遠の眠りについている。

クラクフ　Krakow
　クラクフがポーランド王国の首都として栄えた時代は、王国の全盛期と重なる。すなわち1386年から1572年まで続いたヤギェウォ王朝の時代である。当時のクラクフは、神聖ローマ帝国の一部であるボヘミアのプラハ、オーストリアのウィーンと並ぶ中央ヨーロッパの文化の中心であった。旧市街の南、ヴィスワ河畔の丘にその華麗な姿を見せるヴァヴェル城には、歴代ポーランド王が住んでいた。
　ポーランドのほかの都市が第２次世界大戦で壊滅的な打撃を受けたなか、クラクフが戦災を免れたのはここにドイツ軍の司令部がおかれていたためだという。「ワルシャワが東京とすればクラクフは京都」とも例えられる歴史的な町並みは、1978年にユネスコの世界遺産に登録されている。ヴァヴェル城や旧市街をはじめ町全体が中世のたたずまいを残し、しっとりした古都の趣が薫りたっている。　また、ナチスの強制収容所跡であるオシフィエンチム（アウシュヴィッツ）や、700年もの間掘り続けられた岩塩坑ヴィエリチカなどを訪れる拠点でもある。

ヤギェウォ大学　Uniwersytet Jagiellonski（Jagiellonian University）
　クラクフにあるヤギェウォ大学は1364年にポーランドで最初に創立され、中央ヨーロッパではプラハのカレル大学に次ぐ歴史をもつ。コペルニクスや、前ローマ法王ヨハネ・パウロ２世もここで学んだ。
　中央市場広場の西側緑地帯に沿って大学の建物が並んでいるが、なかでもコレギウム・マイウス Collegium Maius は15世紀のゴシック様式を今に伝える貴重な建物だ。中庭は、いろいろなセレモニーや野外劇などの催しにも使われ、アーケードの施された回廊に囲まれている。また、大学内には６つの博物館があり、自然科学や歴史に関する展示を見ることができる。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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日本美術・技術センター“マンガ”館　　Centrum Sztuki i Techniki Japonskiej"Manggha"（Manggha Centre of Japanese Art＆Technology）

　ヴァヴェル城のヴィスワ川対岸に、磯崎新氏設計のモダンな建物が1994年にオープンした。ここは“日本美術マニア”だったポーランドの著名なコレクター、故フェリクス・マンガ・ヤシェンスキ氏が収集した7000点に及ぶ日本美術コレクションの常設展示を主眼において設立された施設。ヤシェンスキ氏から国立博物館に寄贈された後お蔵人りしていた膨大なコレクションは、ヨーロッパ全体の水準で見てもレベルが高く、その公開が長く待ち望まれていたという。
　コレクションの中心は4600点にものぼる浮世絵で、2000点を超える安藤広重の作品ほか、師宣、重政、歌麿、写楽、北斎など浮世絵史上で重要視される作家の作品はほとんど揃っているといっていい（ただし展示の内容は入れ替えられるので、時期によっては見られないこともある）。このほか、日本画、木彫、鎧甲や日本刀などの武具、漆器、着物が収められている。施設全体では日本語や書道などのカルチャースクールや、日本文化や武道の講義、盆栽同好会の活動の場としての役割も果たしている。ドラ焼きやあんパンが食べられる喫茶室「寿」もある。

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●チェンストホーヴァ　Czestochowa

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ヤスナ・グラ（光の丘）僧院　　Jasna Gora（Jasna Gona（Bright Hill）Monastery）

　この僧院は、1382年にウワディスワフ・オポルチク公によって、聖パウロ修道会のために建てられたものだ。有名な聖母の画『黒いマドンナ Cudowny Obraz Matki Bozej』は、1384年に寄進されたものという。
　僧院内には博物館がある。ここは宝物館のようになっていて、キリスト教関係の装飾品の数々やヨハネ・パウロ２世の肖像、ワレサ元大統領に贈られたノーベル平和賞のメダル、昔の楽器などが展示されている。

チェンストホーヴァ　Czestochowa
　国民の95％以上がカトリックの信者で、前ローマ法王ヨハネ・パウロ２世の出身地でもあるポーランド。この国に住む人々の宗教的聖地、精神的なよりどころとなっているのがここチェンストホーヴァだ。1655年にスウェーデン軍がポーランドを侵略した際、ワルシャワはおろかクラクフまでもが占領されてしまったが、ここチェンストホーヴァのヤスナ・グラ僧院は最後までスウェーデン軍の攻勢に屈しなかった。これは僧院にある聖画『黒いマドンナ』がもたらした奇跡だとされ、それ以来この聖画は国難からの守り神としてポーランド国民の篤い信仰を集めている。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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シロンスク地方（シレジア地方）

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●ヴロツワフ　Wroclaw

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パノラマ・ラツワヴィツカ民族博物館　　Panorama Raclawicka（Panorama of Raclawice）

　1794年、帝政ロシアに対して蜂起したコシチュシコ将軍と農民兵たちが、ロシア軍と戦って勝利を収めたラツワヴィツェの戦いを描いた全長120m、幅15mの大パノラマ。見物する場所を取り巻くように展示されている。19世紀にふたりの歴史画家によって制作された。

ヴロツワフ　Wroclaw
　オドラ川に臨むこの地は、古くからシロンスタ Slask（シレジア）地方の中心地であった。６世紀にはすでにスラヴ人の集落がここにできていたという記録がある。その後13世紀にはモンゴル人、14世紀はボヘミア侯に支配され、やがてハブスプルク帝国の一部に組み込まれた後、1945年まではドイツの一部だった。
　複雑な歴史をもつ町だが、それだけに文化遺産も豊富だ。2000年には、郊外にある百年記念会館がユネスコの世界遺産に登録された。いたるところにある教会のさまざまなスタイルも見るものを飽きさせない。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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ヴィエルコポルスカ地方

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●ポズナン　Poznan

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ポズナン国立美術館　　Muzeum Narodowe（National Museum）

　ヴォルノシチ広場の東端に建つ大きな建物が国立美術館だ。ポーランド絵画はもちろんのこと、オランダやスペイン絵画のコレクションでは、ポーランド随一を誇る。内部はいくつもの小部屋に仕切られていて、ひと部屋ごとにその部屋に飾ってある絵の解説を数カ国語で書いたものが人口に掲示してあり、わかりやすい。

ポズナン　Poznan
ポズナンは、古くからワルシャワとベルリンを結ぶ東西交易の中継地として栄えた。ポーランドの初代国王ミェシコ１世によってポーランド王国が起こされたのもここであり、建国の968年から1039年にかけて、王国の首都であった。
　現在では商業都市として発展を遂げ、ポーランド第３の都市として、国内最大のメッセ（国際産業見本市）が毎年開催されている。町なかには中世の歴史的な建造物が数多く残されており、それらを見て回るだけでも興味は尽きない。国立美術館の美術品コレクションは、普段絵画にあまりなじみのない人をも魅了することだろう。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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ポズナン大聖堂　　Katedra Poznanska（Cathedral of Poznan）

　ポーランド最古のキリスト教会で、その起源は10世紀にさかのぼる。第２次世界大戦で大部分が焼失し、現在の建物は14〜15世紀当時のスタイルで建て直されたものだ。
　大聖堂の中には、14〜20世紀の司教や王族の墓碑、宗教絵画、彫刻などがあるほか、金の礼拝堂が置かれている。地下には、10世紀に創設された当時の土台や装飾、ポーランド初期の支配者の墓などが一部残っている。
　すぐそばにある聖マリア教会は、965年に礼拝堂として造られ、15世紀に正式な教会として建設された、保存状態のよいゴシック建築だ。

文化宮殿　Palac Kultury（Palace of Culture）
　プロイセン皇帝ヴィルヘルム２世の居城として、1905〜1909年にドイツ・ロマネスク様式で建設されたもので、現在はポズナン文化センターの所有となっており、さまざまな企画展が行われている。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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アートギャラリー（ロガリン）　

（ポズナンからバスで35分、ロガリン Rogalin）この町の中心にある公園の中に、18世紀のロココ式宮殿がある。またその裏のアートギャラリーには、19世紀のドイツ、ポーランド絵画のコレクションが展示されている。公園には、直径9m、樹齢1000年を超える樫の木が生えていて、濃い線の影を地上に落としている。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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●ウッチ　Lodz

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モダンアート美術館　　Muzeum Sztuki

　（美術館そのものの記述なし）

ウッチ　Lodz
　ポーランド第２の都市ウッチは、19世紀に入ってから織物産業で栄え大きくなった。現在もいたるところに赤レンガの工場や、豪奢な工場主たちの建物が残り、いささか殺風景な町並みに彩りを添えている。
　映画『約束の土地』に描かれたようにウッチには、ポーランド人はもとより、ヨーロッパ各地からドイツ人、ユダヤ人、ロシア人らが移り住み、それぞれが学校や教会、墓地、劇場などを造った。よってさまざまな文化が混じり合い、多様性に富むという特徴ができ上がったのだ。第２次世界大戦中には、おびただしい数のユダヤ人がゲットーへ送られた悲しい歴史も秘めている。
　ウッチ映画大学があることも忘れてはならない。世界に名だたる映画監督アンジェイ・ワイダ、ロマン・ポランスキー、クシシュトフ・キェシロフスキらを輩出しており、ホテル・グランド前の路上にその名が刻まれている。

市歴史博物館　Muzeum Historii Miasta Lodzi（City Historical Museum）
　ウッチ市の歴史にまつわる品々が収蔵されている威風常々とした建物は、かつて紡績業で成功を収めたポズナンスキ家の邸宅であった。西隣にある巨大なレンガ造りの建物は、現在も稼働しているポズナンスキ工場だ。
　この博物館には、ポズナンスキー族の写真や系図、往時の栄華が偲ばれる豪華な生活用品や広間、町の古い写真などのほか、ウッチ出身のピアニストであるアルトゥール・ルビンシュタイン（1887-1982）の展示室がある。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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クヤーヴィ・ポモージェ地方

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●トルン　Torun　（クヤーヴィ地方）

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旧市庁舎　　Ratusz Staromiejski（Old Town Hall）

　1391年に着工された、旧市街広場に毅然としてそそり建つゴシック建築。威風堂々という言葉がぴったりだ。
　しかし、きらびやかな室内装飾などは幾たびかの戦火にさらされ、特色ある塔と屋根も、18世紀初頭のスウェーデン軍の砲火の犠牲となった。現在旧市庁舎の中は博物館になっていて、ステンドグラスのコレクションや、14世紀に作られたキリスト像、宗教絵画などが展示されている。また、高さ40mの塔に登ることもできる。急な階段で少し疲れるが、上からの眺めはとてもすばらしい。
　この旧市庁舎の南東の隅にはコペルニクスの像 Pomnik M.Kopernika が建ち、いい目印になっている。

トルン　Torun
　ヴィスワ川の流れに中世の面影を映す、風雅な香り漂う町トルン。地動説を唱えた偉大な天文学者コペルニクスが生まれた町として、つとに知られている。
　北のバルト海沿岸で産する琥珀をワルシャワやクラクフに輸送する街道の途中に位置し、古くから琥珀の町として栄えたこともあって、さまざまな歴史の変遷の渦中にあった。またドイツ騎士団の根拠地のひとつだったので、町並みはどことなくドイツ風の雰囲気が漂っている。

聖母マリア教会　Koscicol pw.Najswietszej Marii Panny（St.Mary's Church）
　旧市街広場から北西に１ブロック行った所。旧市庁舎よりもさらに大きく荘厳な偉容を誇っており、14世紀後半の創建という古さ。側廊にはさまざまな記念碑が並び、全体的な造りは典型的なゴシック様式の建築だ。この教会で最も価値のあるものといえば、会堂内にズラリと並んだ14世紀のゴシック風壁画。その歴史の長さからにじみでる華麗さには目を見張る。ステンドグラスも見事。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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●グダンスク　Gdansk　（ポモージェ地方）

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グダンスク歴史博物館　　Muzeum Historyczne Miasta Gdafnska

市庁舎　Ratusz Glownego Miasta（Main Town Hall）
　1379年の着工。1561年には現在見られるような高さ82mの尖塔が完成した。
　尖塔の上には、ジグムント・アウグスト王の黄金の像が建っている。火事や戦争などで３度大きなダメージを受けたものの、その堂々としたゴシック様式の塔はドゥウーギ広場の風景をより魅力的にしている。
　現在、市庁舎の内部はグダンスク歴史博物館 Muzeum Historyczne Miasta Gdafnska として公開されており、芸術的なインテリアを見ることができる。特に赤の広間 Sala Czerwona と呼ばれる評議会室は必見。ポーランドはもとよりヨーロッパで最も美しい部屋のひとつとして有名だ。壁にはフランドルの画家 Jan Vredmman de Veries が1596年以降に描いた７枚の見事な絵が飾られている。天井の絵は画家 Isaac Van den Block の作（1608〜1609）で、当時のポーランド、プロイセン、グダンスク、リトアニアの４つの軍隊の様子などが描かれている。壁面の暖炉、宝箱などの装飾品はすべて16世紀のもの。

大武器庫　Wielka Zbrojownia（Great Armoury）
　黄金の門をくぐってすぐの小道を左折した先にある。フランドル・ルネッサンス様式の見事な建物で、この屋根を、グダンスクの家々が真似をしたという。第２次世界大戦で、４つの壁と天井の一部以外は破壊されてしまい、1945年に再建された。現在では、１階はスーパーマーケット、上階は美術アカデミーとして利用されている。

グダンスク　Gdansk
　バルト海沿岸の港湾都市グダンスクは、ポーランドで最も美しい町のひとつ。クラクフと並び、ポーランドが世界に誇る文化・歴史・観光の一大拠点だ。
　中世から抜け出たような古色蒼然たる旧市街にたたずむと、歴史の重さがひしひしと伝わってくる。997年にはすでにポーランド領としてその名が記されており、1997年でちょうど1000周年を迎えた。昔から、琥珀の産地としても有名だ。13〜14世紀頃には、ハンザ同盟の一員として早くも繁栄を誇っていた。
　その後ドイツ騎士団に踏みにじられたりもしたが、20世紀に入ると、バルト海の要衝として栄えたその恵まれた地理的条件が災いし、グダンスクはヒトラー率いるナチス・ドイツの標的となる。1939年9月1日、ドイツ軍がヴェステルプラッテに奇襲をかけ、結果的にこれが第２次世界大戦の勃発につながった。独ソの激戦地となったグダンスクは、市街地の90％が焦土と化してしまった。
　戦後、町の姿をすべて復元して後世に残そうという市民の熱意と努力が見事に実を結び、今日では訪れるものを中世の面影のなかへと誘う。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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ヴァルミア・マズリー地方

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■チェコ　Czech Republic■

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ボヘミア地方

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−中央ボヘミア地方

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●プラハ　Praha

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プラハ国立美術館　Narodni galerie (National Gallery)

　　　図録『プラハ国立美術館展』(毎日新聞社、1980) 抄
　　　図録『プラハ国立美術館秘蔵名画展�U』(毎日新聞社、1982) 抄
　　　図録『プラハ国立美術館秘蔵名画展�V』(毎日新聞社、1984) 抄
　　　図録『プラハ国立美術館コレクション　ヨーロッパ絵画の500年』(東京新聞、1987) 抄
　　　図録『プラハ国立美術館所蔵　ブリューゲルとネーデルランド風景画』(朝日新聞社、1990) 抄
　　　図録『プラハ国立美術館展　ルーベンスとブリューゲルの時代』(ホワイトインターナショナル、2007) 抄

　聖イジー教会に隣接する聖イジー修道院は、国立美術館の16〜18世紀ボヘミア美術部門となっている。16世紀のルドルフ２世の時代に盛んだったマニエリスムから、壮麗なバロック絵画や彫刻まで、こぢんまりとしたギャラリーだが見ごたえがある。
　フラッチャニ広場から少し奥まった場所にあるシュテルンポルク宮殿 Stembersky palac は、国立美術館の古典〜バロック時代ヨーロッパ絵画部門。エル・グレコ、ゴヤ、ルーペンス、レンブラントなど名だたる巨匠の作品が見られる。なかでも、1506年にデューラーがヴェネツィアで描き上げルドルフ２世によって購入された『ロザリオの祝祭』が有名だ。

ヴェレトゥルジュニー宮殿　Veletrzni palac (Veletrzni Palace)
　国立美術館の一部門で、19〜21世紀の近・現代美術が収蔵されている。展示は19世紀のアート、1900〜1930年のアート、1930年〜現代のアート、そして外国のアートという４フロアに分けられていて見やすい。チェコの巨匠たちによる作品だけでなく、ピカソやゴッホ、セザンヌなどのフランス絵画、クリムトやシーレなどのウィーン分離派の作品も展示される。この宮殿は1925〜29年に建てられ、1951年までは見本市に使われていたものだ。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］


以下「図録『プラハ国立美術館展』(毎日新聞社、1980)」から

あいさつ
　このたび，チェコスロバキア社会主義共和国政府のご協力のもとに，プラハ国立美術館との共催で「プラハ国立美術館展」を行うことになりました。
　日本人の芸術に対する関心の深さと，日本・チェコスロバキア両国の友好をねがう気持が高く評価され，両国の専門家によって厳選された69点が，はじめて，日本で公開されることになったものです。
　プラハは，中世から近世にかけて，東ヨーロッパの政治と文化の中心地でした。中世ゴシックからルネサンスを経て，18世紀のバロック，ロココに至る数々の名作が，ヨーロッパ各地から，ここへ集められました。その後，幾たびかの戦火にさらされましたが，多くの作品は芸術を愛するチェコスロバキアの人たちの熱情に支えられて，今日まで，大切に守り抜かれてきたのです。従って，プラハ国立美術館そのものが，ヨーロッパ絵画史の主流を温存しているといって差支えありません。
　今回出品される作品には，ルーベンス，ヴァン・ダイクからゴヤへ，ヨーロッパ絵画を代表する名作のほか，チェコスロバキアの誇るボヘミア絵画の代表作が加えられました。日本の美術愛好家の夢を，はじめて実現した，またとない展覧会といえましょう。
　最後に，本展開催にあたり，ご後援いただきました外務省，文化庁，チェコスロバキア文化省，在日チェコスロバキア大使館，ご協力をいただいたジャパン・アーツなどの関係者に，心から感謝の意を表する次第です。
　　　昭和55年7月
　栃木県立美術館　福岡市美術館　奈良県立美術館　毎日新聞社

序文　プラハ国立美術館館長　イジー・コタリーク
　プラハ国立美術館は，チェコスロバキア国民の美術館であり，長い伝統に支えられています。その伝統はチェコ，すなわちボヘミアの歴史と，その文化生活の発展に密接な関係をもっております。当館は，1796年に創立され，当初，愛国主義的芸術愛好家協会絵画館，略して芸術愛好家協会絵画館と呼ばれていました。19世紀中は，コレクションを保管する適当な場所がなかったので，プラハの幾つかの宮殿内の部屋を転々と移動しなければなりませんでした。1885年から1928年にかけて，当館はプラハにある「芸術家の家」に置かれました。第二次大戦後，すなわちチェコスロバキアが解放された1945年になって，社会制度が一変し，社会主義国家が建設され始めると，当館はその豊かなコレクションを安全に保管するために，中世やバロックの歴史的建造物を修復して，そこに保管することにしました。 すなわち，イジュスキー修道院，アネジュスキー修道院，シュテルンベルク宮殿，ズプラスラフ城などがこれに当たります。このように，当館の使命は原則として文化財の保護および，それに関わる文化財の復元にあります。
　当館を構成する重要な一部として，東洋美術のコレクションがありますが，このコレクションの中には，日本の美術作品を見出すこともできます（それは当館の東洋部だけでなく，プラハ国民博物館やナープルステク博物館にも見受けられ，そうしたコレクションからは，日本の芸術文化の粋を充分に汲み取ることができます。それらは決して幅の広いコレクションではありませんが，少なからず重要な作品をも含んでいます。その事は，19世紀後半からのボヘミアの収集家たちの日本美術に対する関心の深さ，またその歴史の長さを物語っています。現在，チェコスロバキアの国民は，これらのコレクションから，日本の古美術や近・現代美術を鑑賞することができます。我が国においてもヨーロッパ各国と同様に，19世紀から今世紀にかけて，日本美術に対する関心が急激に高まってきました。そして日本美術は高い評価を受けるようになりました。そうした関心を如実に示しているものが，数多い論文であります。例えばチェコスロバキアの美術史家，F・S．イジークや画家アルノシュト・ホフバウエルなどが，日本美術に関して論文を発表しており，また日本文化の愛好家たちの中には，チェコスロバキアの代表的な画家で美術評論家でもあるミロシュ・イラーネクも数えられます。また日本美術がかつてどの程度の関心をもたれたかは，今世紀初期の作家たちの作品に強く窺い知ることができるでしょう。例えば，アルフォンス・ミュシャの場合，彼は日本美術から霊感を得たことで，アール・ヌーヴォーのヨーロッパ的水準をもつポスター，およびその装飾的表現を生み出すことができたのです。そして，ミュシャだけでなく，ヴォイチェフ・プライシグやその他の今世紀初期の多くのチェコスロバキアの画家や版画家をも，この関係において取り上げることができるのです。また今世紀の20〜30年代のチェコスロバキア前衛建築における代表的建築家ベドゥジフ・フォイェルシュタインは，古い日本の建築に感動し，日本建築の独自の価値についての多くの論文を書いています。つまり，その価値とは，表現における明解さ，合理的な機能性，素材の尊重および，きわめて純粋な形の使用という事であり，フォイェルシュタインは，世界的な視野から，日本の伝統的建築を近代建築が学ぶべき模範としたほどです。それはフォイェルシュタインだけでなく，近代建築の創始者の一人であるバウハウスのワルター・グロピウスもまた同種の意見を述べています。
　また，我が国では東洋学の研究も非常に進んでおり，早くから日本の言語や文学，さらに生活文化のそれぞれの領域を追求し，また日本に対する一般的な関心をもその研究によって高めております。とりわけ，プラハのカレル大学で長年教鞭をとられたヴラスタ・ヒルスカー教授によって，日本の文学，演劇，美術その他の分野の優秀な専門家達が数多く育てられました。日本の現代美術もまたチェコスロバキアにおいて高く評価されています。今日，日本の現代建築の冒険を恐れぬ高い創造性は，世界の知るところとなり，さらに現代絵画，彫刻，版画における個性豊かな表現も広く注目されております。その意味で日本の現代美術は，古い伝統と現代的表現との総合として，チェコスロバキアでも，その独特の世界が高く評価されております。
　近年，プラハでは日本の伝統的なものから現代美術までのいくつかの展覧会が催され，プラハの人々の非常な好評を博しました。逆に，プラハ国立美術館や，他のチェコスロバキアの博物館や美術館は，そのコレクショ　ンの中から重要な作品を，1970年の大阪での日本万国博覧会に出品しました。また，最近日本で行なわれたチェコスロバキアの美術展，例えばアルフォンス・ミュシャ展は好評を得ていると聞いております。日本とチェコスロバキア，相互の友好関係を広めるため，すなわち両国の文化財を積極的に交換していくため，プラハ国立美術館は，日本でそのコレクションを紹介するという意図を歓迎し，数多くのコレクションの中から，古いヨーロッパやチェコスロバキアのすぐれた絵画を精選して日本に送ります。
　最後に，日本およびチェコスロバキアのそれぞれの側からこの展覧会の準備に携わり，また実現を可能にされた多くの方々に対し，心からお礼を申し上げたいと存じます。

序文　プラハ国立美術館副館長　イジー・マシーン
　プラハ国立美術館における古美術コレクションの伝統は，この美術館の歴史それ自体と密接に結びついています。 　その歴史は，1796年にさかのぼり，その頃ボヘミアでは，芸術愛好家協会が創設され，その最初のプロジュグトとして，美術館の建設を推進しておりました。その主な目的は，チェコすなわちボヘミアとモラヴィアから美術品が国外へ流出することを防止することにありました。
　この美術館の後身がプラハ国立美術館であり，ここに収蔵されている作品は中央ヨーロッパにおける最も重要な美術品コレクションと申せましょう。
　ところで，チェコスロバキアにおけるコレクションの伝統は，かなり昔から連綿と続いています。
　たとえば，プラハ城の有名なルドルフ２世のコレクションを思い出してもらうとよいでしょう。そのコレクションは，三十年戦争が終った1648年，スウェーデン軍によって国外に運び出されてしまいました。熱心な芸術愛好家であったといわれるルドルフ２世は，ヨーロッパ美術の至宝を収集いたしました。そのコレクションの当時の高い水準を裏づけているのは，現在国立美術館に保管されている，アルブレヒト・デューラーの「ロザリオの祝祭」という作品であります。
　しかし，このルドルフ２世の有名なコレクションだけでなく，その後のプラハ城のコレクションも大変充実したものであり，その他ボヘミアやモラヴィアの貴族たちや聖職者たちのコレクションも，また同様に豊富なものでありました。
　現在，プラハ国立美術館の古美術コレクションは，二つの重要な歴史的建築物に常設されております。
　その一つは，プラハ城の中にある，ロマネスグ風のパジリカ，およびゴシック風の聖ヴィートス教会の隣にあるイジュスキー修道院のボヘミアの古美術を含むコレクションであります。
　もう一つは，このイジュスキー修道院からほど遠からぬフラドチャニ城の近くにあるバロック風のシュテルンベルク宮殿に収められたヨーロッパ古美術のコレクションであります。
　今回，日本での展覧会に出品される作品は，いずれもプラハ国立美術館のコレクションを代表するものであります。そして例外的な場合にのみ，他のチェコスロバキアのコレクションから選ばれ，我が国を代表するような美術展となるようにとの配慮がなされております。展覧会自体は，日本側，チェコスロバキア側，そして多くの専門家たちが加わって仕立てられました。チェコスロバキアの歴史において初めて，このような優れた作品群がチェコスロバキアを離れ，遠い異国の地において，チェコスロバキアの美術コレクションの質の高さを示すことになりましょう。
　事実，このたびの展覧会の目的は，ヨーロッパ美術の発展に対する展望を形づくることであり，また，その中でチェコの美術がどのように発展してきたかを，日本の皆様にお見せすることであります。
　チェコの美術は，中世において，完壁なまでの表現を達成し，またバロック時代には大変ユニークな方法でヨーロッパ美術に貢献しました。
　今回の展覧会は四つの部門に分かれております。最初の部門は，チェコのゴシック美術とバロック美術によって構成されております。第二の部門は，より広範に中央ヨーロッパ，なかんずくドイツとオーストリアの美術によって代表されます。第三のグループは，ラテン系のイタリア，フランス，スペインの美術によって代表されます。そして最後に第四の部門は，ネーデルラント，オランダ，フランドルによって代表されています。この第四の領域は，プラハ国立美術館のコレクションにおいて，外国美術としては最も充実したものであります。
　また，14世紀，そして15世紀初頭に最盛期を迎えた中世ボヘミアの美術は，イタリアや西ヨーロッパからの多くの刺激を受け，それらを国内の伝統にユニークな方法で結びつけたものと言えます。そのことにより，中世ボヘミア美術は，かけがえのない独自の表現力を生み出すことができたのです。チェコのボヘミア絵画は，ゴシック風の様式の普遍的規範の中で，その基礎を形づくっております。
　時代的に一番古いものは，ヴィシェブロドスキー祭壇画の画家です。次いでカレル４世の宮廷画家であった画家テオドリック，さらにトジェボニユ祭壇画の画家が続きます。この画家は，非常に才能豊かな芸術家であり力強い精神を感じさせ，14世紀末の説教者たちにつきものの激情的な雰囲気を反映しています。さらに彼の作品は，時代の精神に止まらず，種々の社会的問題や矛盾までをも内包しているのです。これらの要素は，よく知られたフス派の宗教改革の主張を先取りしていたとも申せましょう。1400年頃のいわゆる「ビューティフル・スタイル」，すなわち「美しい様式」を如実に示す優れた作品もまた，本展覧会に出品されております。正にボヘミア美術の至宝と言うべきインドジフーフ・フラデツの「玉座の聖母」がそれです。その後チェコ美術の発展史に大きな変化が生じます。それは端的に言えば，作品の内容面での一層の深化ということであります。例えば，ライフラド祭壇画の画家の作品はその典型でありましょう。それは，フス戦争の勃発以前に完成されたものです。
　本展覧会には，チェコ美術史の各発展段階を代表するような作品が出品されています。そして出品作家はいずれも様式的にあるいは内容の面で興味をそそるような独自な様相を示しているのです。15世紀後半の後期ゴシック美術は，プフネル祭壇画の画家の作品によって代表されます。
　そして最後に，中世の秋と言われる時代，そしてルネサンスの新たな完成に移り変ろうとする時代を代表するのが，16世紀初めのリトミェジツェ祭壇画の画家の作品であります。
　チェコのバロッグ美術には，いわゆるルドルフ２世時代のマニエリスム期が先行しています。それは国際マニエリスム様式と呼ばれ，1600年頃，プラハのルドルフ２世の宮廷で隆盛をきわめました。この芸術にほ，16世紀美術の技巧的な表現のあらゆる特徴が認められます。この展覧会では，バルトロメウス・シュプランゲルの作品がそれを代表しています。しかし，チェコのバロック絵画の伝統を形づくったのは，むしろカレル・シュクレータであります。彼は1620年，いわゆるピラー・ホラ（白い山）の戦の後に宗教亡命者として，ボヘミアを離れ，一時イタリアに滞在し，再びボヘミアに戻りました。ボヘミアではイタリアでの学習の成果を活かしつつ，一方で，チェコの伝統を思い起させるような優れた作品を制作しました。
　他のバロック芸術家たちは，むしろ西ヨーロッパ美術の影響をボヘミアにもたらしました。
　まず，18世紀絵画において，ペトル・ブランドルの名が燦然と輝いています。彼は，非常に優秀で，個性豊かな芸術家であり，その作品の中にはバロック芸術のすべての特徴が巧みに統合されています。彼の作品は，バロック芸術特有の幻想的パトスを保っております。肖像画において彼の良きライバルであったのは，ヤン・クペツキーです。またタブロー作品においては，彼らよりやや若年のヴァーツラフ・ワヴジネツ・ライネルの存在も忘れることはできません。さらに今回の展覧会にほ，画家として驚くほどの熟練を示したアントニーン・ケルンも含まれております。 　これらの画家たちによる偉大なバロックの伝統は，チェコの国内において次第に時代的変化を示し始め，ロココ風の表現内容に転換していく一方で，民衆芸術の中にもいきいきとした表現力を長い期間にわたって植えつけました。 　ドイツおよびオーストリア絵画の部門では，この展覧会にプラハ国立美術館の最も貴重な作品の一つ，すなわちデューラーの「ロザリオの祝祭」を紹介することができなかったにもかかわらず，出品作のレベルはきわめて質の高いものです。
　この小論においては，全ての出品作に言及する余地はありませんが，少なくともグロスグマイン祭壇画の画家の特殊な作品や，ルカス・クラナッハ父子の特徴的な作品にも注目して頂きたいと思います。あるいは，ハンス・パルドゥング・グリーンの優れた絵画もまた忘れることはできません。
　さらに，時代は下りますが，18世紀のオーストリア芸術の重要な画家の一人フランツ・アントン・マウルベルチュの作品にも触れてみたいと思います。彼は光に満ちた色彩と巧みな構図を特色とする画家であります。彼は，その作品によって，ボヘミアやモラヴィアにも大きな影響を及ぼしました。
　またイタリア絵画の部門では，何人かのいわゆるイタリアのプリミティーフ画家の作品が出品されています。即ちベルナルド・ダッディ工房やビエトロ・ロレンツェッティ派の作品でありますが，それらを出発点としてバスクァリーノ・ヴェネトの貴重な絵画，さらには16世紀から18世紀にかけてパオロ・ヴェロネーゼ，パルマ・イル・ヴェッキオ，ホセ・デ・リベラ，フランチェスコ・グァルディ，ジョヴァンニ・パティスタ・ティエポロ，セバスティアーノ・リッチなどの画家たちの作品を見ることができます。
　フランス美術は，今回は例外的にしか出品されませんが，シモン・ヴーエの「ルクレティア」がその代表的作品と言えます。この作品は，プラハ国立美術館に新たに収蔵されたものであり，今回初めて公開されるものであります。そしてラテン系の画家の出品作の主眼となるのは，プラハ国立美術館にとっても最も貴重な作品の一つである，フランシスコ・ゴヤの「ドン・ミゲル・デ・ラルディサバルの肖像」です。1815年に年代づけられるこの作品は，その伝統から解放された自由な表現力ゆえに，ゴヤの最良の作品に数えられます。それは，近代ヨーロッパ絵画の序章と考えられます。そうした近代絵画を代表する画家として，例えばマネを挙げることもできましょう。
　次に，古いヨーロッパ美術の最も貴重で，最も範囲の広いコレクションとして，プラハ国立美術館には，ネーデルラント　オランダ，フランドル美術のコレクションがあります。ネーデルラント美術は，16世紀末から17世紀初めにかけて，急速に二つに分裂して発展して行きます。それは，北部ネーデルラントのプロテスタントの領土が独立してからであり，それらの地域における絵画表現は鋭い洞察力によって特徴づけられ，一方，カトリックの支配する南部ネーデルラントはバロック風のパトスの展開を示しています。
　プラハ国立美術館のコレクションの頂点を成すネーデルラント美術の傑作は，ピーテル・ブリューゲル（父）の「刈り入れ」でありますが，この展覧会では，ディルク・バウツの弟子の「哀悼」や，聖なる血の画家の「ルクレティア」によって代表されます。しかし，同じく特徴的な作品に，ヨース・ファン・グレーフェの「聖母子」があり，また抒情性豊かなコルネリウス・マサイスの「十字架を担うキリスト」，ピーテル・ブリューゲル（子）の「冬景色」があります。
　オランダ美術は，その豊かなカテゴリーやジャンルが，それぞれに特徴的な作品によって紹介されます。それは風景画であり，静物画であり，肖像画であります。作家には，サロモンおよびヤコブ・ファン・ロイスダール，ヤン・ファン・ホイエン，ヤン・ヤンスゾーン・ファン・デン・アイル，ヤン・ダヴィッツゾーン・デ・ヘーム，アドリアーン・ファン・オスターデ，ヤン・アントノスゾーン・ファン・ラフェスティンなどが挙げられますが，彼らは広範囲にわたるオランダ美術特有のテーマの中で奥深い絵画表現を追求しております。オランダ最大の画家であるレンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レインの作品は，ここではその派の作品と考えられる「受胎告知」によってしのばれます。この作品はつい最近まで，　レンブラントのオリジナルとみなされていましたが，現在は周辺作家のものとされています。
　それに対してフランドル美術は，ベーテル・パウル・ルーベンスの絵によって示されますが，それは「ハイジーア」の激情的かつ官能的な主題を描いた作品と「聖アウグスティヌス」の独特の構図をもつ作品であります（後者の作品は，プラハによって発注され，プラハにおける聖トマス教会（アウグスティヌス派教会に属する）に，「聖トマスの拷問」と超するモニュメンタルな構図をもつ作品とともに送り届けられたものです。今回，出品する２点は，国立美術館における数多いルーベンスの作品中，最もよく画家の力を示すものでもあります。フランドル美術の輪郭を形づくる者として，ルーベンス以外にアントーニス・ヴァン・ダイグを挙げることができます。
　この小論において，全出品作を取り上げることは，不可能であります。私は，ここで単に今回の展覧会の性格を輪郭づけることだけを心掛けました。
　この展覧会は，チェコスロバキアの美術品コレクションの豊かな質を物語り，多くのユニークな作品を紹介することになるでしょう。


以下「図録『プラハ国立美術館秘蔵名画展�U』(毎日新聞社、1982)」から

あいさつ
　２年前の「プラハ国立美術館展」では，14世紀のボヘミアのゴシック絵画をはじめとし，18世紀に至るヨーロッパ絵画の大体の流れがたどれるように配慮されていました。出品作は，いずれもプラハ国立美術館所蔵の名品ぞろいで，私たち日本国民に深い感銘を与えたことは，まだ記憶に新しいところです。今回はまた，チェコスロバキア政府の格別のご好意により，前回にひきつづき，19世紀から20世紀に至るヨーロッパ絵画の流れがたどれるよう，やはり同館秘蔵の名品による展覧会が開催できる運びとなりました。当時ヨーロッパ絵画界に指導的役割を果してきたフランス絵画を中心に，ヨーロッパ各地の絵画，及びチェコスロバキアの絵画を加えた三部構成の展覧会になっております。第一部フランス絵画では，ドラクロワに始まり，ドーミエ，コロー，クールベ，マネ，ドガ，モネ，ピサロ，セザンヌ，ゴーギャン，ロートレック，スーラ，マチス，プラック，ピカソなどいわゆる巨匠たちの名品が文字通り綺羅星のごとく並び，第二部のフランス以外のヨーロッパ絵画では，ムンク，ココシュカ，クリムトなど，フランスの影響下に独自の展開を示した名品のかずかず，第三部は，チェコスロバキアの誇る大画家ムハ（ミュシャ），クプカなどの作品がふくまれていて，前回に劣らぬ深い感銘を与えるものと確信いたしております。
　今回のこの催しが前回同様チェコスロバキア国民と日本国民との間に，友好促進が大いに益することを深く念願いたしております。
　最後に，本展の開催にご後援たまわりました外務省，文化庁，チェコスロバキア大使館，ご協力いただいたジャパン・アーツなどの関係者に，心から感謝の意を表する次第です。
　　　昭和57年7月
　　　栃木県立美術館　奈良県立美術館　北九州市立美術館　毎日新聞社

プラハ国立美術館のコレクションにおける19世紀と20世紀の絵画
　　　プラハ国立美術館館長　イジー・コタリーク
１．歴史と現在〜４．ヨーロッパの絵画　省略
５．チェコ美術のプロフィール
　19世紀および20世紀におけるチェコ美術の発展は，幾人かの重要な作家たちの仕事から始まる。ロマン派のマーネスの詩的なヴィジョンからナヴラーチルのデリケートな色彩の追求を経て，プルキニュの伸びやかなレアリスム表現に到達している。彼らの功績を継承したのは，歴史をロマンとしてとらえたアレシュと，風景を情緒的に親しみやすく描いたヒトュスィである。
　19世紀末から20世紀初頭にかけてのチェコ美術は，パリでアール・ヌーヴォ一様式をすばらしい線描表現によって我がものとしたムハ（ミュシャ），チェコの印象主義を代表するスラヴィーチェク，そして象徴主義に傾倒し，当時の詩的なノスタルジーへの趣向を表現しようとしたプライズレルという３人の画家によって概観される。
　そして1895−96年以降，生涯の大半をパリで過ごしたクプカの作品は，ヨーロッパとチェコの美術において特殊な位置を占めている。彼の芸術の出発点は，印象派，象徴主義，そしてアール・ヌーヴォーの影響が交叉する地点に置かれている。このような形態上の実験の多くは，第一次大戦前の絵画に反映され視覚の革命，すなわち形態と色彩の自立的表現へのドラマティッグな探求にあるように見受けられる。クプカは抽象絵画の先駆者である。特に彼の絵画「ピアノの鍵盤−湖」と「創造」とは，その芸術上の重要な転換期を意味し，また「総合」は1920年代から30年代にかけての，純粋な形態の追求に基づく幾何学的抽象への展開を示している。
　第一次大戦前においてチェコの美術活動は，地方主義の閉鎖性から解放され，創造的な雰囲気の中でヨーロッパ美術の刺激を受容しつつ行なわれていた。フォーヴィスムと表現主義から出発した若い芸術家たちは，やがてセザンヌやキュビスムに影響され　キュビスムの独自な解釈を通じて，新世代の美学を樹立した。しかし，チェコにおけるキュビスムは，表現主義と結びつき，バロック的なチェコ文化の伝統に根ざしたものだったため，大胆にデフォルメされ，しばしば工芸や建築にも適用されたこともあって，きわめて装飾的な表現を特色とする。
　例えば，クビシュタの形態と色彩の両面で禁欲的に構成された画面は，表現主義的内容を有し，時にそれは心理的意味をも包含する（「聖セバスティアヌス」1912年）。また，フィラの作品では，種々の物質の異なる構造を，内容ゆたかな色面が表わしている（「絨鍛と女」1921年）。また，プロハースカの純粋な形態の追求は，哲学的な瞑想に従わされている（「ハムレット」1912年）。構成的要素と表現主義的要素の結合は，1910年代の作家に共通する一つの特色であり，民族的形態のうちに潜むリズムをキュビスムの画面に取り入れたチャアペクの作品（「アコーディオンを弾く男」1913年）にもその影響は明らかである。同様に，明瞭な色面と堅固な形態とで構成されシュパーラの作品（「嵐の前のオタワ川」1929年）は，客観的な事物の描写であると同時に，個性的な芸術家自身の表現でもある。 　一方，ズルザヴィーに代表されるような絵画は，チェコ美術の，特に1920年代における詩的イマジネーションを強調する傾向を表わしている。非常に主観的な想像に基づく彼の作品（「眠っている船」1935年）は，あたかも時間と空間を超越したかのような瞑想的な静けさの中に立ち現われてくる。
　またチェコ美術におけるレアリスム的傾向は、感覚的魅力に富むクレムリチェカの風絵画や、ボヘミア中部の特徴的な風景を描くラバスの作品によって代表される。それに対し、シーマの作品は非情に詩的で、1921年以来、パリの芸術家たちの活動と深い結びつきを保ちながら、チェコ文化の瞑想的性格を失っていない。
６．国際的地平〜７．日本との関わり合い　省略


以下「図録『プラハ国立美術館秘蔵名画展�V』(毎日新聞社、1984)」から

あいさつ
　チェコスロバキア社会主義共和国政府の特別のご好意により，「プラハ国立美術館展」を初めて日本で開催しましたのが，昭和55年，いまから４年前のことでした。続いて，その第２回展が開かれましたのが昭和57年で，今回はその第３回目に当ります。その間，一貫して日本国民に示され続けました同共和国政府のご好意に対しまして，改めて厚くお礼を申し上げる次第です。
　第１回展におきましては，14世紀ボヘミアのゴシック絵画をはじめとし，18世紀に至るヨーロッパ絵画の流れがたどれるように配慮され，さらに第２回展におきましては，それに連続するものとして，19世紀から20世紀に至る同じヨーロッパ絵画の流れが概観できるように構成されていました。そうした流れの中にあって，いかにチェコスロバキア国民が過去何世紀にもわたって秀れた美術品を収集し守ってきたかが知れると同時に，民族独自の美術をも創造してきたかということについて深く教えられてまいりました。
　今回の第３回におきましても，同様な趣旨にそって企画されていますが，特に現代のチェコスロバキア美術の状況を理解するうえに有効な作品を，という見地から展覧会の構成が考えられています。年代的には前回と重複するところもありますが，いくぶん時代を下げて，印象派から20世紀前半に至るヨーロッパ絵画史の展望を主軸とし，それとチェコスロバキア美術がどうかかわって現在に及んでいるかを示そうとしたものです。前回と合わせてご観覧いただけますと，同国美術の民族的特質および優秀性が，充分ご理解いただけるものと信じております。
　最後に，本展の開催にご後援たまわりました外務省，文化庁，チェコスロバキア大使館，ご協力いただきましたジャパン・アーツその他の関係者のみなさまに，心から深く感謝の意を表する次第です。
　　　昭和59年3月　　山口県立美術館　栃木県立美術館　毎日新聞社

序文　イジー・コタリーク
　プラハ国立美術館は，そのコレクションから傑作を精選した二つの展覧会を日本に提供して来た。1980年に開かれた最初の展覧会は，中世からバロックまでの古典絵画を，ヨーロッパのさまざまな画派の名作によって数多く紹介する一方，ゴシック時代の偉大な成果から18世紀の傑出した画家達に到るチェコ美術発展の概観をも示すものだった。1982年に開かれた第２回展は，プラハ国立美術館のコレクションの内容とその広がりとを日本に紹介するという前回と同じ理念に従って，近代絵画の起源と展開に作品の選択をしぼっている。それは，ロマン主義から写実主義を経て印象主義に到る19世紀フランス絵画の連続性を証明する重要な作品をはじめとして，これらの影響が20世紀の諸傾向，とりわけフォーヴィスムやキュビスムに波及する様子をキュビスムの出品作を通してよく示している。これに続く絵画の選品は，フランス以外のヨーロッパ諸国においても，フランスと共通した流れがあることを示し，また，19世紀および20世紀のチェコ絵画の特性をも明らかにしたのである。
　そして，プラハ国立美術館が日本の国民，とりわけ広い美術愛好者層に提供する第３回展は，ヨーロッパ近代美術史を絵画によって示そうとするものであるが，今回は，時代的に後期の諸傾向に重点を置いて，19世紀と20世紀の転換点に生まれた作品を中心としている。近代の試みの根源は，当然のこととしてフランス印象主義に見ることができる。本展では，クロード・モネ，カミーユ・ピサロ，そしてアルフレツド・シスレーの作品が，印象派運動の直接的な先駆者ウジェーヌ・ブーダンの作品とともに，そのことを証明する。そして，小品ながら極めて重要な作品がポール・セザンヌの絵画である。彼の作品は，後に展開される諸傾向の支柱と考えられよう。また，後期印象派からはポール・シニャックの作品が出品される。フォーヴィスム時代のフランス絵画は，色彩や色面，筆使いといった表現の方法を殊更に意味づけようとして激しい展開を見せた運動の先導的な作家達の作品によって説明される。このことは，アンドレ・ドランやモーリス・ド・ヴラマンクの絵画によって明らかであり，ジョルジュ・ルオーの作品における深い精神性を求める傾向，更に，アルベール・マルケの水面に映し出された風景，キース・ヴァン・ドンゲンの絵画空間における大胆な配色，そしてラウル・デュフィの絵に示された織物のような線のリズムなどからも明らかである。この時代に見られた他の創造的な成果は，モーリス・ユトリロとマリー・ローランサンの実生活に目を向けた絵画によって美しく示される。フランス絵画の流れは，立体派の作品によって頂点に達すると言えるが，それは，プラハ国立美術館のコレクションにとりわけよく示される。このことはヴィンツェンツ・クラマージュ博士の先見性ある研究の功績によるところが大きい。彼は，早くも1911年から13年の間に，パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックの作品の重要性と後に与える影響の大きさを見抜き，彼らの若々しい作品を自分自身のコレクションのために購入し，1960年にはそれらを国家に寄贈したのである。さらに彼は，1919年から1938年まで，絵画館−第二次世界大戦以前のわが国立美術館の前身−の館長として，近代美術館運営の諸原則を取り入れるのに多大の労をとっている。この時期の美術史の成果は，キュビスムの影響が強いアンドレ・ロートとレオポール・シュルヴァージュ，そして，シュルレアリスムの幻想的な概念の世界に属するイヴ・タンギーの絵画などによって示される。
　フランス絵画に続く第二の作品群は，他のヨーロッパ諸国の絵画にあらわれた傑出した個性に担われる。それらの主要な部分を占めるのはドイツおよびオーストリア美術の作品であり，その美術史的な展開は，マックス・リーバーマンとオットー・モーダーゾーンの作品が示す印象主義と象徴主義に始まり，ロヴィス・コリントや，知名度こそ低いが極めて個性的なマックス・オッペンハイマーやアントン・コーリグらの表現主義的傾向へと続くことで跡づけられる。そして，本展で特別の位置を占めるのがオスカー・ココシュカである。彼の運命は一時期ながらプラハヘと結びつけられる。ココシュカはその時期をプラハに過ごし，作品を制作したのである。今回出品される２点のうち１点がそのことを物語っている。1920年代および30年代の新たな展開は，表現主義をほのめかすマックス・エルンストの２点の初期作品とオットー・ディックスによって描かれた現実への熱情的な洞察とによって先んじられる。また，近代イタリア絵画を形づくるのは，ジョルジョ・デ・キリコの想像力あふれる世界であり，カルロ・カルラに特徴的な空間の中の彫刻のような重量感，そしてジーノ・セヴュリーニの強い律動感である。一方，ロシア絵画の独自の歩みは，イリヤ・J・レーピンの確固とした志向性を持った作品によって示されるが，20世紀の近代的な諸傾向のたかまりは，色彩の使用にとりわけ重要な意味を与えたロベルト・R・ファルクとアリスタッヒ・�X・レンツ一ロフの絵画によって明らかである。
　フランス絵画，そしてフランス以外のヨーロッパ絵画に続く三番目の絵画群は，チェコ絵画である。その今世紀の歩みが，厳選された作品に現われた数人の傑出した個性によってわずかながら示される。先ず，今世紀の新たな潮流への予感は，ヤクブ・シカネーデルによってもたらされる。彼はロマン主義的な歴史画の最後の影響を受けながらも，1900年頃の美術に見られる詩的雰囲気を好んで表現しようとする世代に属していた。そして，印象主義と象徴主義の時代は，アントニーン・スラヴィーチェク，アントニーン・フデチェク，そしてヤン・プライズレルの作品によって示される。それらの作品に共通する叙情的な陰影深い描写はチェコ絵画の特質を物語っていると言えよう。しかし，当然ながら，最大の注目はフランチシュク（フランク）・クプカに向けられる。彼はアール・ヌーヴォーの美学を生んだ象徴主義の時代に出発しながら，すぐにその殻を破り捨て，第一次世界大戦前に，音楽的な概念との深い関わりを示す強い抽象的傾向を持った絵画の中に自己の認識と表現の新たな方法を見出した画家達と合流するのである。 　チェコのキュビスムの画家達は一つの世代を形成するが，彼らは，それぞれに異なった方向に拡散していく。このことは，画面の隅々まで強い構成力を示すボフミル・クビシュタ，そして，キュビスムの基本的な概念が新古典主義的な画面構成と詩的雰囲気の強調へと転換していったアントニーン・プロハースカによって示される。また，その想像に限定された世界が彫刻的な存在感を持つ透明なまでに純化された造形の中に表現されることで，ヤン・ズルザヴィーは絵画の詩人と呼ばれている。ヨゼフ・シーマもまた，自然を独自の知覚によってとらえることで，知識と概念，現実と夢とを調和的に描いている。これに続くのは，潜在意識を重視し，同じ方向性を持つ詩人たちと連動する歩みを見せたシュルレアリスムであり，インドジフ・シュティルスキーとトワイヤンの名で知られるマリエ・チェルミーノヴァーの作品に示される。近年，パリ国立近代美術館で開かれた彼らの回顧展は，あらゆる正当な評価によって，彼らの名前を国際的な文脈のなかに組み込んでいる。
　本展の四番目の部門は選りすぐられた素描群である。そして，これらの素描が日本でのプラハ国立美術館展にまとめて出品されるのは初めてのことである。本展では，正当な注目を得るためにいささか時間を要したこの芸術表現のすぐれた特質を強調したい。つまり，芸術家の経験と意匠をとりわけ直裁に表現し得るのが素描であり，素描の直裁性が持つ緊張感の中にこそ作者の知的認識の広さと深さをとらえ得るのである。このことは，特にポール・セザンヌの素描に明らかである。彼の素描は自然とその構造的秩序に対する独自の認識をこの上なく高めた産物であり，更に，特徴的なのが，その際立った繊細さである。また，動勢の詩的表現にすぐれた感覚を見せるのがオーギュスト・ロダンの素描である。それは量塊性と構築性の強さが彫刻家の素描であることを隠さない。キュビスムの時代になると，素描は特に重要性を帯びてくる。つまり，古典的な素描の技法においても，また，コラージュという新たに生み出された技法においても，素描の線による構成と余白の強調とが，パブロ・ピカソの作品に見られる独創的で衝撃的な力を生み出しているのである。キュビスムの美学を宣言した時期のアンドレ・ドランの多数の素描もまた，美術の世界に置き換えることで，物質と自然との一致もしくは融合を示している。こうした一方で，その伸びやかな想像世界をしばしば詩に取材し，色彩の変奏の中に見事に表現したマルク・シャガールのような画家もいる。このようにパリで活躍した画家達の他に，素描においても，ドイツやオーストリアの画家達の作品が紹介される。すなわち，グスタフ・クリムトの優美で繊細な素描，エゴン・シーレによる内的苦悩に満ちた表現力あふれる素描，そしてオスカー・ココシュカの不安な世界があり，前衛的な素描として，クルト・シュヴィッタースの作品が加えられる。
　本展は，19世紀から20世紀へと移るヨーロッパおよびチェコ美術の発展と諸傾向の全てを紹介するのが目的ではない。それよりむしろ，近代の総合的な展望を形成するために，それぞれの方向性が互いに分化し，且つ補い合うさまざまな創造的傾向に現われた広範で多様な思想を示すことに，より多くの努力が注がれている。さらに，本展が作品の構図や主題，表現などについての視点を調和させようとしているのと同様に，近代美術の本質は，多岐に渡った概念と行為を意味するのである。そして，その幅広さは，叙事詩的な作品の構成要素がしばしば抒情性に満ち，時には劇的なまでに情念と結びつく地点に到達するほどである。この意味において，現代絵画の古典的時代に獲得された価値は，今日の創造行為にとっても変わることのない指針であり続けている。こうした概念を示そうとする本展は，同時に，その遺品にょって，先に日本で開かれた二度の展覧会と等しく，中世から現代に到るヨーロッパおよびチェコ美術の絵画，彫刻，版画，そして，日本の画家達をも含む東洋美術のコレクションから成るプラハ国立美術館の広範囲に渡った豊かなコレクションをわずかながら垣間見せようとしている。プラハ国立美術館における再建された歴史的建築物での常設展示，そして，現在その準備にかかっている20世紀視覚芸術展などは，今日の美術のみならず過去の美術のすぐれた価値の発展や，大衆への公開を社会主義国家が幅広く保障してきたように，今日のチェコスロバキアにおいても優れた美術が広く享受されていることを証明する。そして，この時代を限定した展覧会を以って，プラハ国立美術館は，コレクションからの傑作を再び美術を愛する日本国民に紹介し，本展の実現に向けて熱情を惜しまなかった日本およびチェコスロバキアの関係者への感謝に代えたい。　　（プラハ国立美術館長）


以下「図録『プラハ国立美術館コレクション　ヨーロッパ絵画の500年』(東京新聞、1987)」から

　チェコスロバキア社会主義共和国が誇るプラハ国立美術館は，中世より現代にいたるヨーロッパ美術の一大宝庫として，その名は世界中に知れわたっています．さまぎまな苦難を乗り越えて収集された，この膨大なコレクションの中から，ヨーロッパ絵画500年の歴史をたどる80点の秀抜な作品を選りすぐって，「ヨーロッパ絵画の500年」展を開催いたします．
　今回の展覧会に出品される，中世ボヘミア地方で華麗に花開いた14世紀チェコ・ゴシックの祭壇画，そしてティントレット，ヴェロネーゼなどを含む中世末期から18世紀にいたるイタリア絵画，またスペイン・バロックを代表するエル・グレコ，加えて，中世の秋と謳われた初期ネーデルラントの宗教絵画から，ヴァン・ダイク，ルーベンス，ロイスダールらにいたる17世紀フランドル・オランダ絵画，さらにドイツ・ルネサンス屈指のクラーナハなど，そのほとんどが日本初公開のきわめて質の高い作品群です．　これらに加えて，ヨーロッパの近代絵画の傑出した画家，たとえばフランス絵画史上の高峰というべきドラクロワ，コロー，クールベ，モネ，ピサロ，セザンヌら，ロマン主義から印象派にいたる作品，ウィーン世紀末を彩るクリムト，シーレ，さらにドラン，ヴラマンク，ピカソらの20世紀絵画，そしてチェコスロバキアが誇る卓越した画家クプカらのチェコ近代絵画を展観します．
　これらプラハ国立美術館の至宝を通じて，本展がヨーロッパ美術史の流れを振り返る絶好の機会となることを確信いたしております．
　最後に，本展実現に際して尽力賜りました，チェコスロバキア社会主義共和国文化省，またご後援いただきました外務省，文化庁，チェコスロバキア大使館および関係各位に心から感謝の意を表します．
　　　1987年　　主催者

序　　プラハ国立美術館館長　イージー・コタリーク
　チェコスロバキアは長い文化の伝統を誇る国で，建築と美術の豊かな遺産が残っています．その幅は，中世からルネサンス期，高度な発達を見せたバロック期，そしてまだ充分に真価が認められていない19世紀，さらに20世紀の前衛的な建築へと広がっています．こうした歴史上の各時代は，我が国の多くの町や村が，周囲の風土と一致した生き生きした関係を保ちながら，統一のとれた生命体となっていくうえで大きな役割を果たしました．1945年以降は，この広汎な文化遺産の管理は，我が社会主義国家の仕事と切っても切れない一部となっています．古い記念碑的な作品を保護するにあたって，国は当初から，多方面からのアプローチを行なうという原則を採りました．やがて，個々の重要な建物を復原するほかに，過去の基本的な都市計画を保存する目的で政府が歴史的市街保存地域と指定したいくつもの町の歴史の中心となる場所を全域復原する努力も始まりました．
　その際，理論上の興味と実際の作業の両面から浮上してきたのが，残っている建物を最もうまく利用するにはどうするか，そしてそれらに新しい生命を与える方法は何かという問題でした．これは，多くの城館の場合は問題になりませんでした．過去のそれぞれの時代の小博物館という形で，基本的な利用法が考えられたからです．新たに復原された教会や小さな村の教会も過去の重要な記念物であることが多いのですが，これらはずっと礼拝に使われています．ですが他の多くの場合，社会での新しい機能を探す必要が出てきました．城館のいくつかは，研究所や文化機関に管理が任され，民衆の芸術や工芸，産業考古学などの分野の作品や実例に焦点があてられています．あるものは，その地方や町や村の生活のニーズに合わせて利用されています．
　なかでも重要なのが，古い記念物の保護という原則を，美術品の専門的な管理と組み合わせることが可能になっている場合でしょう．この考え方は，プラハの国立美術館を造りあげるにあたって適用され，国立美術館は国際的に見ても非常に優れた数多くの活動を誇っています．
　博物館や美術館の設立は，ある程度一般的な原則に従ってはいますが，同時に国や町の個性の基になるその土地独特の条件や伝統にも根ざしているのです．目標とすべきなのは，一般的な原則とその土地の伝統を統一することです．この点については，プラハの国立美術館の今日に至るまでの経験をお話ししましょう．国立美術館は1796年にまず貴族の個人的な絵画のコレクションとして始まりました．19世紀には，一時期は貴族のいくつかの邸宅を仮の宿とし，1885年から暫くの間は，新築の「芸術家の家」（ルドルフィヌム）に収められていました．チェコスロバキア共和国が出来ると，この建物は国会議事堂となり，コレクションはいくつもの仮の場所に移されました．新しくコレクション向きの建物を建てる方法を巡って，多くの努力がなされましたが，実を結びませんでした．1945年になってやっと，国立美術館の設立とその収蔵品の一般公開を目指して作業が始まりました．その作業は，プラハという都市の性格と都市計画を考慮に入れて進められました．豊富な数の美術作品を一つ屋根の下に全部収めるのでなく，新しく復原された由緒ある建物に分けて収め，プラハという，それ自体がゴシックとバロック時代の美術館である生きた都市の一部としようというわけです．
　その結果，例えばヨーロッパの古典美術と19世紀，20世紀の美術は，プラハのアラドチャニー地区にある，17世紀から18世紀の変わりめに建設され，新たに復原されたシュテルンベルク宮殿に収められています．そこからほど近く，プラハ城のまん中にあたる所にある，復原された聖ゲオルグ修道院には，1976年以来，チェコの古典美術コレクションが収められています．この元修道院は当初973年に設立され，13世紀から15世紀にかけてゴシック様式の建物が増築され，後にはルネサンス様式とバロック様式の建物も造られました．1784年に修道院が廃止になると，建物は荒れましたが，この20年間の復原作業によって，ゴシック時代からバロック時代のチェコ美術の展示に理想的な場所に生まれ変りました．
　チェコの19世紀絵画も，プラハの旧市街の中心にある復原された聖アグネス修道院に，同じように収められました．この修道院はプラハに建った最初のゴシック建築物の一つで，13世紀の初頭のものです．この建物も1784年の修道会の廃止によって荒廃し，あぶなく取り壊されるところでした．しかし近年になって建物を救い，絵画館というふさわしい用途にあてるため復原することが可能になり，絵画館は1980年に開館しました．同時に19世紀の応用美術の作品も展示されることになりました．
　1952年には，プラハに近いズブラスラフにあるバロック様式の城館に，19世紀と20世紀のチェコの彫刻を収める場所が出来，青銅や石，石膏，粘土などあらゆる種類の彫刻が，城の外の庭園にも効果的に野外展示できるようになりました．
　しかし，20世紀絵画の非常に広汎な収蔵品のほうは，市立図書館の３階にある誠に不適当な場所に展示され，一般の人々は長い間充分に鑑賞できませんでした．二，三年前になってようやく解決法が見つかりました．もと通商見本市に使われていた宮殿（ヴェレトルジュニー・パラーツ）がこの展示用に使われることになったのです．この建物は1924年から29年にかけて建築された，中央ヨーロッパの機能主義の見事な作例です．数年前に火事により損傷されましたが，建物の構造自体は被害を受けませんでした．改築作業は現在も進行中で，1990年には完成する予定です． 　これで，長い間我が国の文化の重荷となっていた問題が解決することになるでしょう．20世紀チェコ絵画は，ふさわしい展示・収納の場を得て，全般的な展示も行なわれるでしょう．それと同時に，豊富にありながらまだ人々に知られていない19世紀と20世紀のヨーロッパ美術を展示し，収蔵品を増やすことも可能になります．現在の収蔵品には，ドラクロワからピカソにわたる世界的に有名なフランス美術のコレクションも含まれています．　
　また「見本市宮殿（ヴュレトルジュニー・パラーツ）」には，グラフィック・アートのコレクションを収蔵したり，収蔵庫や事務所，ワークショップ，教育活動のための部屋（映写室や講演会場など）を設けるスペースもできるでしょう。
　1．「見本市宮殿では．現在収蔵されている20世紀美術のほかに，多種多様な現代美術や，絵画と彫刻と建築の相互作用，現代建築の発展状況，何種かの装飾美術も展示することが可能になります．このコンセプトは，分野の間の境界線を消滅させたり超越したりして統合へと進む20世紀芸術に特有のものです．
　2．新しくなった「見本市宮殿」は，特別展や講演会，映画会などによる文化活動や教育活動のセンターになります．青少年を対象とした活動や青少年の総合的な美術教育に特別な力点がおかれます．これも現在必要とされている活動です．今，重要な建築作品が復原・改造されているわけですが，この建物は世界における現代建築の発展史上ユニークな作例です．記念碑的な建物や美術館・博物館の保護管理という観点から見て，ここで取られた方法は重要な業績といえるでしょう．我が国は中世紀の修道院やバロック宮殿といった由緒ある記念碑的な建物を改築し，博物館や美術館の収蔵品を収めて新しい生命を吹きこんでいますが，それと同様に，現代建築の最も重要な作品の一つである建物も改造し，新しい生命を与えているのです．
　これで，複雑な都市計画の一端として構想され，プラハという生命体に芸術の息吹きを吹きこみ，中世から現代までの美術の発展を示すという目的を持った，プラハ国立美術館は完成するわけです．
　今回の展覧会は，プラハ国立美術館収蔵品の特色を示すことを目指しており，選びぬいた作品がその幅の広さを見せています．カタログには，昔の巨匠たちの作品やヨーロッパの諸派，ゴシックからバロックにかけての古いボヘミアの美術に関する全般的な説明が掲載されることでしょう．
　今回のプラハ国立美術館所蔵品の展覧会は，規模は限られているとはいえ，収蔵されている作品の豊かさを示しています．収蔵品はそのまま過去の伝統や現在の進んだ文化生活の証拠となるものです．この展覧会はまた，ヨーロッパ美術の諸価値とチェコ作家の作品の有機的な関わりを時代を追って映し出しています．チェコの作家は常に幅広い国際的な協力関係を目指してきたのです．
　プラハ国立美術館は，今回それと同じ気持で展示品を日本へ送り出します．日本の力強い伝統や現代の高度に発達した建築作品や美術作品は，我が国でもよく知られ，真価が認められています．
　私たちは，日本で開かれる展覧会が，親善とニカ国の友好的な協力関係を望む気持の表われとして受取っていただけることを願っております．　（翻訳・垣ケ原美枝）


以下「図録『プラハ国立美術館所蔵　ブリューゲルとネーデルランド風景画』(朝日新聞社、1990)」から

あいさつ
　16世紀フランドル絵画を代表するピーテル・ブリューゲルは，日本でも最も親しまれている画家のひとりです。農民の生活や風俗に取材し，フランドルの民衆的エネルギーを視覚化したブリューゲルは，他方，風景画家としても極めて重要な位置を占めています。ウィーン，ニューヨーク，そしてプラハに分散して収蔵されるいわゆる「月暦画」連作は，ブリューゲルの代表作であると同時に，近世北方風景画の頂点に立つ傑作といえましょう。それぞれの季節の営みを大自然の中に描写したこの連作において，ブリューゲルはボッスやパティニールによって創始された「世界風景」と呼ばれるパノラマ的俯瞰構図をもつ独特な風景画の伝統を完成させると同時に，ヤン・ファン・エイクに始まる初期ネーデルラント絵画の風景表現を総合したのです。
　この度の展覧会は，この月暦画連作中の一点であるブリューゲルの代表作≪干草の収穫≫を中心に据え，風景描写が画面の中で重要な比重を占めるようになる1500年頃から，オランダに写実的風景画が生まれ，フランドルの風景画との相違が明確なものとなる1650年頃までのネーデルラント風景画の諸相を紹介しようとするものです。≪干草の収穫≫をはじめ，出品される58点の油彩画はすべてプラハ国立美術館に所蔵される作品です。ネーデルラント風景画展という主旨を尊重され，貴重な作品を多数出品下さったプラハ国立美術館に対し深く感謝いたすと共に，この企画に対し，全面的なご支援を賜わりましたチェコ文化省，駐日チェコスロヴァキア大使館に心よりの謝意を表します。 　　　国立西洋美術館　京都国立近代美術館　朝日新聞社

ピーテル・ブリューゲル（父）と16世紀フランドルの世界風景画　ウォルター・S. ギブソン
　（省略）
　もっとも早いフランドルの風景画家はヨアヒム・パティニールだったと思われる。彼は1515年にアントウェルペンで初めて記録に登場し，1524年に亡くなるまで当地で活動した。そして世界風景画の基本的定式を確立したのはおそらくパティニールだった。1515年までにアントウェルペンはヨーロッパの美術制作の中心地の一つに発展しつつあった。この都市のもっとも有名な美術家たちの工房では，この時期すでに，背景の風景や衣装など絵の各部を複数の画家が専門に描くという，仕事の分化が生じていたことが認められる。パティニールは，実際，祭壇画や祈念画の風景を描くことでその画家人生を始めたと考えてもよかろう。とはいうものの，カールスルーエの≪聖ヒエロニムス≫，アントウェルペンの≪エジプト逃避≫，≪聖カテリーナの殉教≫（ウィーン美術史美術館）のような，彼のもっとも初期の作品（おそらく1515年以前の制作）は，彼が新しい風景様式を発展させる速度がいかに緩慢なものだったかを示している。彼の成熟した様式が，マドリードの≪聖ヒエロニムス≫やベルリンの≪エジプト逃避途上の休息≫のような風景画に現れるのは，1515年から1519年という彼の中期になってからであった。
　厳密にいえば，パティニールの世界風景画様式を構成するどんな要素も彼の独創ではなかった。高い視点から見られた巨大なパノラマ的眺望は，幾つかの例を挙げれば，すでにヤン・ファン・エイクの≪ロランの聖母子≫，アントニオ・ポライウオーロの神話場面，アルブレヒト・デューラーやマルカントニオ・ライモンディの版画などに見いだすことができる。眼を近くに向ければ，パティニールの眺望の注目すべき先例は，ヒエロニムス・ボッスのベルリンにある≪聖ヨハネ≫トンドに生じている。また，パティニールの描く，塔のように聾える頂きや異国風の奇岩は，ビザンティン美術や中世美術に源を発する様式化された山岳表現の伝統に負っている。パティニールは，綿密に描写された細部に満ちた風景への趣味をフランドルの先人たちから獲得した。また，奥行への後退を示唆するための，前景に褐色あるいは黄褐色，続いて中景に緑色，最後に遠景に青色を配する三色層の使用も，同様に，フランドルの先輩画家たちに負っている。とはいうものの，二世代後のブリューゲルがやはりそうであるように，パティニールはこれらの多種多様な要素を彼独特の風景像へと融合したのである。
　（省略）
　これら六点の絵画はパティニール作品の最良のものを代表するが，その周囲には，他のきわめて多くの絵画が存在する。それらは，一般にはより小規模で，相当程度パティニール様式で描かれているが，彼自身の手には帰されえない。このことは，彼が，現在東京の国立西洋美術館にある見事な≪エジプト逃避途上の休息≫のような絵を制作した，相当大規模の，良く訓練された工房を経営していたということを示唆する。パティニールはまた同世代のフランドル画家にもかなりの影響を及ぼした。というのは，彼の様式が，ヨース・ファン・クレーフェ，クエンティン・マサイスなどアントウェルペンで活躍した画家たちの絵画の風景背景や，ブリュージュのアドリアン・イーゼンブラントやブリュッセルのベルナールト・ファン・オルレイの作品に，きわめて速やかに現れたことから分かる。パティニールが，他の芸術家による際限のない置き換えを可能にするような風景の定式を創造したのは明きらかである。彼の直接の後継者の中でもっとも卓越した画家は，しかしながら，多くの女性の半身人物像を描いたことから，女性半身像の画家として知られる仮名の芸術家である。彼もまた多数の風景画を制作した。彼はパティニールの助手として出発したのかもしれない。なぜなら彼の風景画は，彼自身の新しさを導入したとはいっても，ひじょうに密接にパティニールの風景画を反映しているからである。このことは，彼のウィーンにある≪エジプト逃避途上の休息≫に見ることができる。ここでは，風景はパティニールが好んだものほど劇的ではない。山々は圧迫感が弱く，人間活動に対してより開かれている。そして遠景全体をすみずみまで覆う気分に満ちた青色は，パティニールが探求しようとしたあの偉大な眺望を乗り越えようと作用する。
　それにもかかわらず，女性半身像の画家の絵には，パティニールの風景像が基本的にはそっくり残された。パティニールの様式に，重大な変更を加えることになるのは，より若い世代だった。それは16世紀の20年代，30年代に成熟期を迎えた画家たちであった。ルカス・ガッセル，コルネリス・マサイス，ヤン・ファン・アムステル，そしてヘリ・ブレスなどである。この世代の最年長者だったと思われるルカス・ガッセルは，多分アントウェルペンで修業し，生涯の大半をブリュッセルで過ごした。ウィーンにある1548年の大作≪ユダとタマル≫のような作品で，ガッセルは，風景中に詰め込むことのできる細部の量において，パティニールを凌駕しようと努めた。彼は，はるか遠方においてさえ人間が一杯群がった，いわば人口密度の高い世界を描く。ガッセルはまた，パティニールの用いた地形の直線的組織を避け，より曲線的な形態を好んだ。さらに，三色層による構成という伝統的なシステムは消滅し，彼の作品特有の休みなき活動感を高揚させるだけの変わりやすい色調となる。この騒々しい様式がガッセルの風景画の大半を特徴づけるが，より単純で，より集中的な構図の風景画も二三ある。その適切な例が現在プラハに所蔵される1550年の≪キリストとカナンの女のいる風景≫［である。樹々の目立った線が左手の背景を覆い隠し，中景と遠景は，空間の統一感を強化するために，圧縮されている。
　女性半身像の画家と同様，コルネリス・マサイスも，ヤン・ファン・アムステルも風景専門の画家ではなかった。クエンティン・マサイスの息子コルネリス・マサイスは，おもに銅版画家だったらしいが，彼に帰される比較的数少ない風景画の中には，彼がどれほどパティニールの伝統を変形したかを示す例がいくつかある。良い例はアントウェルペンにある1547年の≪聖ヒエロニムス≫で，大づかみの肉付けを施された柔軟な形態と穏やかな雰囲気の色彩で際立った風景画である。そこには一本の道とたまたま村落が見えるが，他にはほとんど何もない。奥行への進行は，丘の連なりによってきっぱりと遮断される。ガッセルの凝々しいパノラマ風景と対照的に，この≪聖ヒエロニムス≫　は孤独と瞑想の雰囲気を喚起する。
　性格的にまったく異なるのは，ブリュッセルとプラハにある二点の≪十字架を担うキリスト≫である。ここで風景は，ゴル
ゴタの丘での礫刑を見物するためにエルサレムから集まってきた群衆の舞台として役立っている。これら二点の受難場面は，おそらくヤン・ファン・エイクに遡及する構図の発展において一つの里程標を刻むものである。その発展の起源をなす構図は，ブダペスト美術館所蔵の板絵を含む，数点の作品に残っている。このタイプの受難場面は，パティニールやクエンティン・マサイスの周辺でもいくつか描かれた。そのもっとも独創的な作例は，ブラウンシュヴァイクのモノグラムの画家としても知られるヤン・ファン・アムステルの筆から生まれている。
　アムステルは，第二世代の風景画家中で，明きらかにもっとも人物表現にも優れた画家であった。彼は，精力的で表情豊かな人物たちが大勢集まった数点の居酒屋や売春宿の場面，そして少なくとも一点の≪この人を見よ≫　とキリスト伝の数場面を描いた。その主要な作品は，パリ，ルーヴル美術館の≪十字架を担うキリスト≫や，おそらく1537年作のシュトウツトガルト，州立美術館所蔵≪キリストのエルサレム入城≫である。両作品において，キリストの姿は，奥深い地形を越えて中景に押し寄せてくる見物人たちの大海の中に飲み込まれている。通常アムステルは，パティニールによく見られた絵画的な奇岩構成を避けている。彼はまた空間へのよりスムーズな後退を達成するために，風景の多様な層を融合することで，パティニールを超越した。そして彼の描く霞んだ青緑色の遠景は際限なく空気の存在を感じさせる。
　しかし第二世代でもっとも人気のある風景画家は，当時の人々がパティニールの真の後継者と考えた，ヘリ・ブレスであった。もし彼が，1535年に初めてアントウェルペン画家組合に登録されている「ヘリ・ド・パティニール（Herri de Patinir）」と同一人物であるなら，パティニールの甥（パティニールには男子はいなかった）だったということになろう。彼は人生の残りをアントウェルペンで過ごしたらしい。没年は知られていない。彼に関係づけられる絵画には，多くのコピーや同一構図のヴァリアントが含まれている。そして，他の様々な点からも，彼の作品は多忙な工房の型にはまった制作物であることが明きらかになる。今日通常彼に帰される風景画のあるものは，おそらく助手によるものだが，それにもかかわらず，ブレスとその工房が，質的に十分水準を保った風景画を生産したことは確かである。
　（省略）
　ヴァザーリは，フランドルの風景画は「その快い光景と空間の奥行きの作用」のゆえに賞賛された，と簡単に記述した。他方で，これらの絵画を購入した人が何故買ったかについて自ら記録したものはほとんど残っていない。しかしながら，理性的な推量をいくつかすることはできよう。一般に，世界風景画の大きな人気は二つの要素に負うところ大であった。一つは地図製作や地理学の発達であり，もう一つは当時流行した，世界に対するルネッサンス的な態度と世界に対する人間固有の関わり方である。
　第一の要素に関しては，偉大な探検者たちの航海により，既知の世界の境界があらゆる方向に拡大したことを思い出すだけでよい。これは，地図学の急激な興隆と結びついていたが，そこではネーデルラントの地理学者や印刷所が多大な貢献をしていた。フランドルの地図学者の中での主要人物はゲラルドゥス・メルカトールやアブラハム・オルテリウスで，後者はピーテル・ブリューゲルの友人であり，熱心な支持者でもあった。地図製作は，２世紀にクラウディオス・プトレマイオスが著した『地理書（Geographia）』や『世界図（Cosmographia）』が15世紀に再発見されたことにより，大きな刺激を受けた。プトレマイオスは，全世界を再現する地理学（geograpby）と，地表面の限定された部分に焦点を当てて，畑，港，村落等のような小さな要素を再現する地誌学（chorography）とを区別した。この相違は，1529年に初版が刊行され，1541年にアントウェルペンでフランス語版とフランドル語版が出版された，プトレマイオスの著作の翻案である，ベトルス・アピアヌスの『世界地理（Cosmographia）』の中で巧みに説明されている。プトレマイオスの主張によれば，地理学の地誌学に対する関係は，頭部の全体図の目や耳の個別図に対する関係と同じである。その要点は，アピアヌスの『世界地理』の木版画で明快に図示されている。プトレマイオスはさらに，地誌学には画家が必要であると主張した。画家でなければ，地誌を正確に表示することができないというのである。
　そうだとすれば，プトレマイオスの地誌学の定義に基づく地方地図がきわめて絵画的に見えるとしても不思議ではない。その好例として，1551年にヒエロニムス・コックにより出版されたピエモンテ地方の地図がある。その地図では，上方に海や山々が見え，観者は田園地方の上空を漂っているかのようである。この時代に地図と風景画がいかに密接に関係し合っていたかは，アルブレヒト・アルトドルファーの有名な1529年作≪イッソスの戦い≫でも理解できよう。この絵で画家は，ヨーロッパ人が地中海で接した旧世界の諸大陸を描いている。その風景を描く際，アルトドルファーは，1515年にアルブレヒト・デューラーにより刊行された世界地図に依存したという説が提出されている。1546年頃オランダの画家ヤン・フェルメイエンにより下絵が作られた，チュニスでの皇帝カール五世の勝利を表現したタピスリー連作では，前景シーンは通常の遠近法で描写されているが，後景の風景は徐々に地図のような海岸と海のパノラマに変化していく場合が少なからず見られる。
　複数の考え方が融合しあっている同様の現象は，パティニールやブリューゲルの世紀に使用されていた，風景という言葉自体の中にもおそらく見ることができる。風景という用語の近代的な意味でのもっとも早い使用例は，知られている限りでは，1490年頃に作成された祭壇画のためのオランダ語の契約書中にある。1521年にアルブレヒト・デューラーは，パティニールを「良き風景画家」と記した。これは，マルカントニオ・ミキエルがヴェネツィアで見た数点の「風景画（tavoletta da paesi）」のことを記述したのと同じ年である。1549年のフランス語辞典は「風景（paysage）」という言葉を画家たちの間で共通に使用されている語と記している。また1552年にアントウェルペンで作成された財産目録では，二点の絵画が，単に「風景」と記載されている。
　風景という語が，特定の種類の絵画あるいは画中の一部分を意味するような，今日通用している意味を徐々に受け入れて行く一方で，それにもかかわらず，その語が古い意味で使われている例をまだ見いだすことができる。つまりネーデルラント語，ドイツ語や他のヨーロッパ語では，風景は，地域，地方，あるいはより一般的には，広い範囲の土地を意味した。実際，アピアメスの『世界地理』で使われている「風景」は，まさにこの古い意味においてである。地上の比較的小さな区域の地誌学的表現を説明する章の中で，その小区域は繰り返し"lantschappen"すなわち「風景」と記されている。これらすべては，16世紀の精神にあっては，地図と風景画がいかに密接に連関し合っていたかを示唆する。
　地図への情熱が，厳密な意味での実用的あるいは科学的な機能をはるかに超えたこともまた明きらかである。16世紀を通じて，印刷された地図が室内の壁面に掛けられることが，しばしばあった。それらは，ときには，筆で彩色されたり，絵画のように額縁に入れられたりもした。地図が当時の観者に与えることができた喜びは，1531年に出版されたトーマス・エリオットの教育に関する著作の中でよく表現されている。エリオットは地図の魅力に惹きつけられて，次のように感嘆している。「もし長い人生を送れたとしても，一生の間に旅行することも，足を踏み入れることすらもできないような，それらの国々，都市，海，川，山などをたった一時間で見ることができるなんて，何たる喜びだろう。航海という冒険を犯さずに，また長い苦労に満ちた旅の危険もなしに，暖かい書斎や居間の中で，様々な民族，動物，鳥，魚，樹木，果物，草花…などを見ることは，何と信じ難い楽しみであろうことか。穏やかな才人にとって，自宅内で全世界の中に含まれたあらゆるものを見る以上の喜びがありえようとは，わたしにはとても言えない。」エリオットの最後の文句は「世界の中に含まれたあらゆるものを何ひとつ欠けることなく眼前に」呈示することのできるというマーリンの鏡についてのスペンサーの記述を思い出させる。アブラハム・オルテリウスが1570年の大地図書『世界の舞台（Theatrum obristerrarum）』を出版したとき，友人の一人は，祝辞として，次のように記した。「貴方は，陸と海から成る巨大な構築物をほんの小さな空間に圧縮し，多くの人々が不動であると主張している地球を，持ち運びできるものにしたのです。」パティニールやプレスの絵の観者もまた，同様の奇跡を前にしていると考えたのではないだろうか。
　地図と風景画の両方に現れている高い視点についても一言述べることができよう。観者は，世界の内側にいるのではなく，外側の優越した地点から世界を熟視する。このことは，ルネッサンスに散見される哲学的観点に対応する。例えば，フィレンツェの新プラトン主義者たちは，人間を，神により創造の中心に置かれたものと記述した。それゆえ，新プラトン主義者の一人，ピコ・デッラ・ミランドラは次のように表現する。「人間は，世界の内に在るあらゆるものを，より容易に観察できる」と。世界に対する人間の関係は，嘆賞する見物人のそれだという考えは，エラスムスの次のような感嘆の中にも含まれている。「この世界の光景以上に面白い見物はあろうか。」オルテリウスは，1579年版の地図書における世界地図上部の記銘にキケロを引用している。「馬の目的は物を運ぶこと，牡牛は耕すこと，犬は狩りと番。しかし人間は世界を観察するために生まれる。」）
　同じような観点は，人間性一般に関する，ある意味での哲学的超脱の立場，あるいは皮肉な見方を表現するのにも用いることができた。ルキアノスの『対話集』やキケロの『スキピオの夢』のような古代のモデルに従って，多くのルネッサンスの著述家は，月や他の高い場所への架空の上昇について記述した。その高い優越した場所から，彼らは人類の卑小さと人間行為の不合理を熟視したのである。このような態度は，ミシェル・ド・モンテーニュによっても表現されている。彼は『随想録』の中でこう語っている。「あたかも絵に描くように，われらの母なる自然の偉大な形態を十分荘厳な姿で心に描くことのできる人，…また自然の中では，自らも，また王国全土ですらも，極細の筆で画かれた点ほどの小さな存在たることを自ら観察する人，このような人のみが，正しい物差しで物事を計るのである。」地図がこのような哲学的瞑想の対象として機能しえたということは，オルテリウスが1579年版の地図書で世界地図に付け加えた第二の引用中に示されている。今度はセネカから採られている。「この多くの国々によって剣と火で分割された地上は，針の穴のごときものにすぎないのか。人間の作る境界とは何と愚かしいものなのか。」
　人類の愚かさであれ，自然の偉大さであれ，いずれにしても，ルネッサンス人は，それらを上方から熟視するのが一つの傾向であった。実際，このオリュンポス山の神々のごとき態度，彼方から世界を見下ろそうとする衝動が，ルネッサンス思想の多様な側面の底流をなしているといってもよかろう。そして，われわれがパティニールやプレスの絵の意味をもっとも良く認識できるのは，まさしくこの文脈においてなのである。世界風景画は，皮相な流行遅れの趣味に迎合する中世的アナクロニズムなどというものではけっしてなく，16世紀のもっとも典型的な表現の一つであった。
　これらの考察により，われわれは，16世紀の偉大な写実主義者たるブリューゲルが何故これほど熱心に世界風景画の伝統に帰りえたのかをも理解することができよう。事実ブリューゲルは，世界風景画のきわめて独創的な解釈の壮麗なシリーズを創造するために，パティニールの定式を，自分自身の直接的な自然体験に融合したのである。体験と伝統の融合は，ブリューゲルの画家人生のまさに出発点，すなわち1550−1551年のアルプス旅行の時期にすら観察することができる。彼はこの旅行を一連の素晴らしい素描に記録した。その素描群は，その時々の現地での写生スケッチから，以前の風景画家が用いた構図上の慣習をいくらか反映した素描にまで及んでいる。例えば，現在ロンドンにある1553年の≪アルプス風景≫では，伝統的要素が，左方の一本の樹による枠取りや空間に明快な対角線的運動を確立するための渓谷の採用などに現れている。
　アルプス素描で明白なことは，1550年代半ばにヒエロニムス・コックがブリューゲルの素描に基づいて出版した12枚一組の≪大風景≫版画で，より一層顕著なものになる。≪聖ヒエロニムス≫や≪ベルギー風荷馬車≫のような，そのシリーズ中の作品で，ブリューゲルは世界風景画様式に新たな生命を吹き込んだ。彼は，前景の高地から彼方の広大な平地へのスリリングな下降を導入することで，地形の垂直，水平，両方向の距離を劇的に拡大した。≪聖ヒエロニムス≫などの≪大風景≫版画シリーズ中の作品において，ブリューゲルはパティニールの叙事詩的な雄大さに肩を並べ，凌駕すらしたのである。この遠近および高低の対比の強調は，1557年のサン・ディェゴにある≪種蒔く人の誓え≫や1560年のエッチング≪兎狩りのいる風景≫のような，ブリューゲルの他の多くの風景画に見ることができる。ウィーンの≪サウロの回心≫において，山岳道と下界の平地との距離感は，本当に目を眩ませるほどのものである。二点の≪バベルの塔≫−一方には1563年の年記があり（ウィーン），他方はおそらく５年ほど後に制作された（ロッテルダム）−では，平地の上に誓えるのは山ではなく，人工の建築物である。しかしこの建築物は，ことにロッテルダム作品では，実に巨大な姿で，地表にヌッと立ち現れる。その影は遠く海にまで及び，その上階は雲を突き抜けている。
　≪月々の労働≫は古いテーマのブリューゲルによる焼き直しではあるものの，この英雄的な壮大さによって特徴づけられている。この作品は，1565年，裕福なアントウェルペンの税官吏ニコラース・ヨンゲリンクのために制作された。証拠は不明確だが，おそらく元来は12枚の絵があり，その内5点が現存している。それらは，ウィーンにある≪雪の狩人≫≪暗い日≫≪牛群の帰還≫，プラハの≪干草の収穫≫，ニューヨークの≪穀物の収穫≫からなる。ブリューゲルの時代まで，久しく，月々の労働は，時祷書の月暦の挿画であった。ブリューゲルはシモン・ベニングとその工房による美しい月暦画をよく知っていたかもしれないが，彼はその手本を視野の広さと彼独特の自然の扱い方によりまったく凌駕した。それぞれの板絵は，同シリーズの他の板絵とは地形が大きく異なっている。≪雪の狩人≫と≪暗い日≫（おそらく各々一月と二月）は，遠方に高い大山岳地帯のある険しい地形を示す。≪干草の収穫≫　と　≪穀物の収穫≫（おそらく七月と八月）はより穏やかな風景を見せる。例えば≪干草の収穫≫の断崖は，ブリューゲルが通常描くほどの恐ろしいような迫力はない。中景のなだらかな丘や野は，広大な河岸平野へと通じる。その平野の広大さや空気を感じさせるような色調は，パティニールの後期作品の最良のものを偲ばせる。≪牛群の帰還≫（おそらく十一月）で，ブリューゲルはより厳しい地形に戻った。渓谷は聾え立つアルプスの頂に囲まれている。これら五点の板絵は，天候状態の点でも相互に異なっている。≪雪の狩人≫に描かれた冬の寒々とした平穏な天候の次には，≪暗い日≫の荒れ狂う嵐が続く。≪牛群の帰還≫は，迫り来る嵐で晩秋を表している。以前の月暦画の風景は，夏の月にはきまって青空の下に置かれたが，ブリューゲルは，≪干草の収穫≫の陽光が降り注ぐ天候と≪穀物の収穫≫の蒸し暑く，もやのかかったような風景とを対比させた。パティニールの風景画よりも，またブリューゲルの初期風景画以上に，≪月々の労働≫は，地上の広大な領域を覆って演じている自然の偉大な力をわれわれの眼前に示すことで，真に宇宙的な視野をもっている。
　しかし≪月々の労働≫をもってすら，ブリューゲルはフランドルの世界風景画の可能性を汲み尽くしてしまったわけではなかった。まさしく　≪農夫と鳥の巣≫や≪人間嫌い≫のような故国の懐かしき記憶を呼び起こす絵を描いた年，1568年に，彼は，現在ダルムシュタットにある≪絞首台の上のかささぎ≫で世界風景画へ回帰した。絞首台−いまだにその意味は解釈を拒んでいる−という不吉な存在にもかかわらず，その絵はブリューゲルのもっとも抒情的な風景だが，多くの点で≪月々の労働≫より古風でもある。特に，前景の崖が，遠方へ霞み行く，幅の広い起伏ある渓谷へと下降する描法において，むしろそれは1550年代半ばの≪大風景≫版画シリーズ中の≪ベルギー風荷馬車≫を思い出させる。また同様に，幅が20インチにも満たないかなり小さなサイズと，細かな筆遣いでの葉群の描写は，クリーヴランドの≪聖ヨハネの説教≫のようなヘリ・プレスの風景画に立ち戻っている。多分意図的に古い様式を記憶から呼び戻すものとして，≪絞首台の上のかささぎ≫は，フランドルの世界風景画の伝統が，人生の最晩年に至るまで，いかにブリューゲルに霊感を与えたかを物語っている。
　しかしブリューゲルの生涯においてさえ，世界風景画はその支配を緩め始めていた。1560年以降，新しいタイプの風景画が出現した。それは，結局，世界風景画に取って替わることになった。ハンス・ボル，ヒリス・モスタールト，マルテンとルカスのファン・ファルケンボルフ兄弟などの若い画家たちは，農村，山岳風景，森の奥のシーンなどを描いた。ブリューゲルと同世代で，より長命だったヤーコプ・グリメルは，田園風景画を専門に制作した。ヨース・ド・モンペルは山岳光景で名声を得，ヒリス・ファン・コーニンクスローは，森の奥を描く風景画の代表者となった。
　これらの新しいタイプの風景画は，すべて16世紀前半のフランドル絵画や，殊にブリューゲル芸術に，重要な先例があった。しかしながら，1560年以降のそれらの人気の増大には，一部，ヒエロニムス・コックとその後継者らの努力が寄与したとみてよかろう。コックらは，版画出版の中に多くの風景版画を入れていた。ブリューゲルの≪大風景≫版画のように，風景版画が，8枚，12枚，あるいはそれ以上の枚数を組にして多数刊行された。したがって，風景画の複製制作は，初期のパティニールやプレスのような画家工房から，版画工房へと所を変えた。もちろん，版画は入手するのに絵画よりも安価で容易でもあった。まさにそのようにして風景版画が広く流布した結果，版画購買層の側に新しさへの渇望が生まれ，画家が新しい構図型式を実験するよう促す強い誘因が発生したに違いない。
　しかしこれらの変化のさなかでも，地形学的に描写された広大なパノラマ眺望への古くからの喜びは，すぐには消えなかった。パノラマ眺望は，どんどん周縁へ押しやられて行ったとはいうものの，17世紀半ばにほとんど完全に終鳶を迎えるまで，ほぼ70年間もさらに生き続けた。新形式の風景画の専門家も，ときには古様式の風景画を制作した。例えばコーニンクスローらが描いた森の奥深い光景に，葉や節くれだった枝の隙間から遠くの眺望が垣間見られることもある。しかし，世界風景画をもっとも独創的に変形したのは，ピーテル・ブリューゲルの下の子，ヤン・ブリューゲル（父）とペーテル・パウル・ルーベンスであった。
　例えばヤン・ブリューゲルの1598年作の《キリストの説教の見える港の光景≫は，殊に，パノラマ的な構成と高い視点という点で，多くを父の作品に負っている。しかしヤンの繊細な筆遣いと明るい色彩は，彼の風景画にほとんど宝石のような輝きを与えている。ルーベンスが以前の風景伝統を知っていたことは，性格的にずっと雄大なものではあるが，≪オデュッセウスとナウシカのいる風景≫（フィレンツェ，ピッティ宮）や≪聖パウロの難破≫（ベルリン）のような1620年代の絵画に明きらかである。ルーベンスの風景画家としての活動の頂点は，しかし，二つの後期作品，すなわち≪ステーン城のある風景≫と現在ロンドンのウォーレス・コレクションにある≪虹のある風景≫にある。晩年に，おそらく対をなすものとして制作されたこの２点の雄大な風景画には，ルーベンス特有の光と色彩が脈打っているが，その高い視点と，地平線を超えて彼方に続くような土地の広がりは，これらの作品をピーテル・ブリューゲル芸術の継承者たらしめる。パティニールの出現後，一世紀余を経て描かれたこれらのルーベンスによる壮麗な絵は，フランドル世界風景画の歴史における，華麗なる終章をなすものである。
（翻訳元木幸一／山形大学助教授）


以下「図録『プラハ国立美術館展　ルーベンスとブリューゲルの時代』(ホワイトインターナショナル、2007)」から

はじめに
　およそ現在のベルギーにあたるフランドル地方は、17世紀には芸術文化が円熟期を迎えていました。特に絵画はタピストリーと並び世界的名声を誇り、重要な輸出品目となっていました。当時フランドルは神聖ローマ帝国を統治する名門ハプスブルク家の支配下にありましたが、それらの品々は帝国の中心地のひとつボヘミアの首都、現在のチェコのプラハにも運ばれていきました。
　17世紀のフランドル絵画には、ルーベンスとブリューゲルという二大潮流がありました。ルーベンスはバロック芸術を代表する画家で、躍動感溢れる作風を特徴とした宗教画や王侯貴族、豪商の肖像画で知られます。アントワープの工房で量産された多くの作品は、凋落傾向にあったカトリック勢力を援護しました。一方の“ブリューゲル”とは、農民画で16世紀に一世を風靡したピーテル・ブリューゲルの子孫が形作る「ブリューゲル・ファミリー」を指します。田園の情景と共に、細密な描写による静物画の秀作を数多く残しています。その一人ヤン・ブリューゲル（父）は、1602年皇帝ルドルフニ世の招きでプラハを訪れています。そしてこの地においてフランドル絵画は、イタリア・ルネサンスの末裔たるマニエリスムの猟奇的な趣味と見事に融合しながら、独特の様式を形成していきました。
　近年ＥＵの新たな加盟国として、ヨーロッパという大きな枠の中で勢いづくチェコの人々にとって、その血統の証でもある国立美術館の由緒ある絵画コレクションはまさに誇りです。本展はその貴重な作品群を身近に観賞できる、またとない機会といえるでしょう。
　最後に、貴重な作品をお貸し頂いたプラハ国立美術館に深く感謝を申しあげるとともに、本展開催のためご尽力いただきました関係各位に心から御礼申し上げます。
　　　主催者

ごあいさつ
　2006年に創立210周年を祝うプラハ国立美術館は、チェコ共和国における最古にして最大の美術館です。そこに展示されている品々は、いにしえの時代から現代までの幅広い時間軸の中で生み出された数々の美術作品から選び抜かれた、質の高い代表作で構成されています。プラハ国立美術館にはチェコや他のヨーロッパ作品に加え、日本や中国といったヨーロッパ以外の美術作品も豊富に収蔵されています。
　ペーテル・パウル・ルーベンスとその同時代の画家たち、つまり16世紀から17世紀にかけてのフランドル美術の巨匠によって描かれた作品からなる他に類を見ないコレクションは、プラハ国立美術館の宝そのものであります。その起源は遠い過去に遡りす。ネーデルラントの画家の作品は、美術愛好家であったルドルフニ世の宮廷とボヘミア貴族の美術品陳列室において非常な人気を博していました。またルーベンスは晩年、プラハのために特別に、聖トマスの殉教と聖アウグスティヌスとを主題にした祭壇用のモニュメンタルなキャンバス画を２点制作しました。これらの作品は何世代にも渡って地元の画家たちの手本となり、発想の源となったのです。こうしてフランドル絵画は、プラハおよびボヘミアにおいてはけっして異国の要素とは見なされず、むしろ地元の作家が直接使える資源だったのです。 　プラハ国立美術館がフランドル絵画の名品を日本の名高い五つの美術館で紹介できる機会に恵まれたことは私の悦びとするところであります。わが国チェコにとって非常に重要な行事となるこの特記すべき展覧会の開催にご協力いただいた関係各位に対し、また特にこのプロジェクトの実現に尽力されたホワイトインターナショナルの野中肇氏に、感謝の意を表したいと思います。
　この巡回展に多くの方々が訪れることを期待するとともに、日本の美術ファンの方々にとってこの展覧会が、プラハを訪れるきっかけとなり、プラハ国立美術館をはじめ更なる至宝と出会う機会となることを願ってやみません。 　　　プラハ国立美術館　総裁ミラン・クニージャーク

ルーベンスとフランドル
　　　プラハ国立美術館／古典美術館／上級学芸員オルガ・コトコヴァー
　　　プラハ国立美術館／古典美術館／館長　ヴイート・ヴルナス
　ルーベンスとフランドル。このふたつは分かちがたく密接に繋がり合い、片方なしにもう片方を思い浮かべることはできないほどである。17世紀のフランドル美術は、この天才と次々と作品を送り出す彼の工房がなければ、まったく異なった様相を呈していたことだろう。ルーベンスとその工房及び追随者たちの絵画作品は、今日もアントワープの教会の祭壇を飾り、ベルギー各地にある何十という教会にも見出すことができるだろう。ルーベンスは南ネーデルラントの徹底的な再カトリック化の時代ならではの様式を生み出した。それと同時に、ルーベンスの精神と才能は、フランドルという刺激的で活気みなぎる、そして極めて知的な環境なしには、完全に開花することはなかっただろう。
　皮肉にもこのフランドルの巨匠が生まれたのは現在のドイツである。彼の父は宗教的・政治的理由でアントワープを離れ、ケルンに居を定め、そこでオラニエ家の王女で沈黙公ウイレム１世の２番目の妻であったザクセンのアンナの法律顧問となる。しかし王女との好ましからぬ関係が発覚し、ヤン・ルーベンスは投獄されてしまう。とはいうものの、妻マリア・ペイプリンクスは夫を許し、罰を免れるのである。その後ヤン・ルーベンスとその妻はヴェストファーレンのジーゲンに移り住む。ペーテル・パウル・ルーベンスが生まれたのはこの地で、1577年6月28日のことであった。将来画家となるこの子の父がなくなり、1587年になってようやく未亡人とその子どもたちはアントワープに戻った（カトリックへの改宗後ということだろう）。ペーテル・パウル・ルーベンスが諸言語とギリシア文学や世俗文学、そして哲学の教育を受けたのは、このアントワープにおいてであった。画家になる修行も積んだが（トビアス・ヴェルハーフト、アダム・ヴァン・ノールト、オットー・ヴァン・ヴェーンに師事）、その作品に決定的な影響を及ぼしたのは、長年に渡るイタリア滞在であった（1600−1608年）。ヴェネツィアではティツィアーノ、ティントレット、ヴェロネーゼの作品を研究し、マントヴァとローマではギリシアと盛期ルネサンスの美術（例えばミケランジェロやラファエロの作品）に関する詳細な知識を身につけ、自分と同時代の作家のことも学んだ。そしてアントワープに戻るとすぐに、アルブレヒト大公とイザベラ大公妃（スペイン王フェリペ二世の王女）の宮廷画家となる（1906年）。その技量、豊かな発想、幅広い教養、外交的センス、勤勉さ、多彩な才能−。祭壇画、神話主題の絵画、壁画、版画をこなし、肖像画や風景画にも秀でていた彼は、当時の最も有名なフランドルの画家となるべく運命付けられていた。この評判の画家は国際的名声も獲得し、イングランド国王チャールズ１世やスペイン王フィリペ四世、フランス女王マリー・ド・メディシスといったヨーロッパの主導的支配者のあいだでも人気を勝ち取り、彼らに仕えた。また1620年代からは外国の顧客の仕事もするようになり、アウクスブルクやケルン、マドリードの教会の仕事を手がけている。そして晩年には（1636−1638年）、アウグスティヌス派修道会がプラハの聖トマス教会の祭壇用の記念碑的なキャンバス画を二点注文することになるのである。
　ルーベンスは1624年貴族の地位を授けられ、大変な富を獲得し、1640年5月30日に亡くなるまで住まうアントワープ中心街の大邸宅を含む豊かな不動産を手に入れる（この家は今日「ルーベンスの家」としてルーベンスとその同時代の画家の作品が展示されている）。
　ルーベンスは当然のことながら自らの工房と共同でこなした注文もあったが、それはイタリア滞在から帰ってきてから（1608年）行われるようになったものである。制作現場の弟子たちとは別に（言及すべき名前としては本図録で取り上げられているアントーン・ヴァン・デイク、エラスムス・クエリヌス（子）、フランス・ライクスがいた）、ルーベンスは多くの有名な画家たちと共同制作をしており、その中にはフランス・スネイデルス、イエズス会士ダニエル・セーヘルス、ヤン・ブリューゲル（父）、ヤン・ブリューゲル（子）、ヤーコプ・ヨルダーンス、テオドール・ロンバウツ、アルトゥス・ウォルフォールトがいた。ルーベンスは同時代のフランドル絵画に直接的な影響を及ぼしただけでなく、ヨーロッパの17世紀から18世紀という更に広い範囲に威光を放った。彼の生み出した図案はヨーロッパ中で雛形として版画やタビストリー、本の挿絵に用いられ、また彼の考え出した新しい構図や図像は、最初の雛形から起こした版画を通じて広まっていった。ルーベンスの「足跡」はこうしてオランダやフランス、ドイツで見ることができるのだが、ボヘミアにおいては画家ミハエル・レオボルト・ヴィルマンこそが、間違いなくルーベンスの絵の一番の賞賛者であった。
＜歴史的・地理的背景＞
　ブルゴーニュ公国の領土は、その最盛期には現在の北フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクー帯に及び、そこは中世末期において最も豊かで繁栄を極めた地域であった。ブルゴーニュ家が跡継ぎの男子に恵まれずに途絶えると（1477年）、その領土はハプスブルク家の統治下に入った。そしてスペイン王にして、神聖ローマ帝国の皇帝となったカール五世（1500−1558年）は、経済や宗教におけるスペインとの密接な結びつきを強化した。しかハプスブルク家の政策は、地域住民からの増大する反発に直面し、一連の暴動や戦争、宗教紛争、偶像破壊運動が引き起こされるのである。民衆の反乱は、結果としてネーデルラント北部を切り離し、北部にはホラントを中心とするネーデルラント連邦共和国と呼ばれる新しい国家（ほぼ今日のオランダに含まれる地域）が設立された（1581年）。このプロテスタントが支配的な共和国は、スペインによって事実上1609年に、法的には1648年に承認された。一方南部のカトリック圏（主に今日のベルギーに相当する）はスペイン系ハプスブルク家の統治下に留まった。そこではカトリックの対抗宗教改革に伴い、多数の主要な画家たちもまたしばしば外へと逃れ、故郷を後にした。
「17世紀のフランドル美術」という言葉は、南ネーデルラントのカトリック圏で制作された美術を指す。南部はオランダ独立戦争（三十年戦争）後もハプスブルク家の下に残り続けたのである。スペイン国王フェリペ二世は、自らの最期に際し、娘のイザベラ（1598−1633年）とその夫であるオーストリアのアルブレヒト大公（1598−1621年）にこの地域の統治を委ねることを決めた。結果として何十年もの間、南ネーデルラントはスペイン王国の下で自治的な政府を設立した。芸術家の主要なパトロンであったアルブレヒトとイザベラ大公夫妻は宮廷をブリュッセルに構えたが、ペーテル・パウル・ルーベンスや本展に出品している主要な画家たちの多くが住み、制作していたのは商業都市アントワープで、そこは重要な芸術の都であり続けていた。
＜プラハ国立美術館コレクションにおけるルーベンスとその時代の画家たち＞
　プラハ国立美術館のフランドル美術のコレクションの始まりは、チェコにおける美術収集の伝統の中に位置づけられる。1630年代からチェコの聖トマス教会の祭壇を飾り、1896年以降プラハ国立美術館の最も卓越した作品群の中に加えられたルーベンスの二点の記念碑的な絵画は、そのまさに象徴的な存在である。かつての皇帝ルドルフ２世の有名なコレクションは1648年のスウェーデン軍の略奪による混乱を蒙ったものの、その記憶はボヘミアの地に残り続けた。1650年以降ほどなくして、ハプスブルク家のレオポルト・ヴィルヘルム大公は、プラハ城の新しい美術品陳列室の建設に着手し、一方ボヘミアの貴族たちは個人の美術コレクションの形成に乗り出した。実際17世紀末には、収集という行為がバロック期の貴族像とは切り離せない要素となっていた。当時のボヘミアの邸宅における美術品陳列室では、幅広いジャンルにわたるフランドルやオランダの絵画が多数を占めていた。かつての財産目録は、ルーベンスやヴァン・デイク、テニールス、ヨルダーンスの名前を留めている。しかしそれらの多くがオリジナルの作品ではなく、巨匠の弟子や追随者の作品であることは明らかである。
　この状況は18世紀後半に大きく変化した。たくさんの美術作品が国外に流出したのである。画家や彫刻家は注文を得るのに次第に困難さを覚えるようになった。プラハには一般の人々が精神的に啓発され、また芸術家たちが過去の巨匠の作品から学ぼうとする場である近代的な美術学校や公共の美術館がなかった。この状態を改善しようと、芸術に精通していた貴族や聖職者、知識人たちが集まり、1796年にはボヘミア初の絵画館が設立された。これが、現在のプラハ国立美術館の前身である。
　そのコレクションには、伝統的な貴族たちの美術陳列室に遡る特徴が綿々と維持された。オランダ絵画やフランドル絵画のコレクションが数の上でも質の上でもイタリア絵画のコレクションを凌駕しているのである。さらに、当時絵画館を訪れた人々は、ルーベンスの有名な≪楽園追放≫の素描に感嘆したであろう。19世紀をとおして、絵画館は場所を転々とし、そのコレクションは少しずつ拡大されていった。画期的な展開は、独立国家チェコスロヴァキア共和国の誕生する1918年以降に訪れる。コレクションはダーフィット・テニールス（子）による貴重な作品群を得て、より充実したものとなった。第二次世界大戦後、絵画館はプラハ国立美術館として、その歴史的な所在地、プラハのフラッチャニ地区にあるシュテルンベルク城に再び戻ってくる。そして17世紀に遡るノステイズ伯爵家の由緒あるコレクションが、戦後の所有権譲渡の過程で美術館の手に渡るのである。その中にはルーベンスの≪アンプロージオ・スピノーラ侯の肖像≫、≪顎鬚のある男の横顔≫とともに、ルーベンスがエラスムス・クエリヌス（子）と共同制作した≪カエサルの凱旋≫が含まれていた。
　今日、シュテルンベルク城にあるプラハ国立美術館を訪れる人々は、最盛期のフランドル美術における代表的な作例を紹介し、著名な芸術家の作品のみならず、主要なジャンルやテーマを網羅する良質のコレクションを享受することになるだろう。本展覧会は、ヨーロッパの古典美術を愛する日本の人々に、プラハ国立美術館の何世紀にもわたって収集された至上の美術作品の数々を提供するものである。　　（共訳：宮澤政男／馴暁生）

［補随］
　フランドルとは旧フランドル伯の領地（今日のベルギー西部、及びオランダ西南部とフランス最北部）を指すが、14世紀末に婚姻を通じてブルゴーニュ公国の一部となる。15世紀には毛織物業と貿易で繁栄を謳歌したブリュージュを中心に、油彩技法による精緻な細密描写を特色とする初期フランドル美術が花開いた。当時フランドルの各都市の経済的、文化的優位が圧倒的であったことから、次第に南ネーデルラント全体（およそ今日のベルギー）がフランドルと総称されるようになる。かつてのフランドル伯領であるフランスのリール、オランダのゼーラントもしばしばフランドル文化圏と呼ばれた。1477年、ブルゴーニュ公シャルル豪胆公の死によりネーデルラントの統治権はハプスブルク家に移り、続く16世紀にはハプスブルク家の分割支配によりスペインが宗主国となる。同じ頃、土砂の堆積で港が埋まって衰退したブリュージュに代わり、新たな国際貿易港として繁栄したアントワープに芸術活動の中心も移っていった。ネーデルラントでは16世紀後半にスペインの圧制と厳格なカトリック政策に反発して反乱が勃発、北部だけがオランダ共和国として独立を果たす結果となった。スペインの支配下に留まった南ネーデルラント（フランドル）では、カトリック勢力が都市の復興と美術を通じた民衆教化に乗り出し、アントワープはそのひとっの本拠地となった。18世紀に再びオーストリア・ハプスブルク家領になった後、フランス、そしてオランダに併合されるフランドルが、ベルギー王国として悲願の独立を果たすのは1830年のことである。今日ではベルギー北部のオランダ語を公用語とする地域をフランドル（英語ではフランダース）と呼んでいる。

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王宮美術館　Obrazarna Prazskeho hradu（Prague Castle Picture Gallery）

　もと厩舎を改造した美術館。16〜18世紀のチェコおよびヨーロッパの作品が収蔵されている。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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プラハ市ギャラリー　　

金の指輪の家　Dum U Zlateho prstenu（House of the Golden Ring）
　プラハ市ギャラリーの常設展示。シュールレアリストとして知られるトワイエン（1902〜1980）ほか、20世紀のチェコを代表する芸術家たちの作品が所蔵されている。

市民会館　Obecni dum（Municipal House）
　ツェレトゥナー通りを火薬塔を右側に見ながらそのまま通り過ぎると、すぐ左に大きくて豪華な装飾が施された建物が現れる。これが市民会館だ。この場所にはかつて歴代の王の宮廷があったが、17世紀後半の大火事で焼け、その後紆余曲折を経て1911年に現在の市民会館が完成した。公共サービスや文化的な催しができるものを、という目的どおり、内部には音楽祭「プラハの春 Prazske Jaro」の会場となるスメタナ・ホールがある。その他、小ホールやサロン、カフェやレストランなどが入っている。
　内部は、アルフォンス・ムハ（ミュシヤ）などチェコの芸術家たちによるアールヌーヴォーの華麗な装飾が施されている。ガイドツアーに参加すると、ムハによる内装が感動的な「市長の間」をはじめとする、数々の美しい部屋を見て回ることができる。壁を埋め尽くす絵や大きなパイプオルガンに、ステンドグラスの採光窓から光が降り注ぐスメタナ・ホールも一見の価値あり。

トロヤ城　Trojsk zameku（Troja Chateau）
　プラハ市の北郊外にある貴族の居城跡。城というよりは巨大な館といった趣だ。典型的なバロック様式の建物で、茶色を基調にした建物が庭園とともに見事な様式美をつむぎだしている。現在館内はプラハ市ギャラリーのひとつとして開放されており、19世紀美術のコレクションが常設展示されている。また、部屋ごとに描かれた天井画もすばらしいので注目したい。広い庭園は、花壇と歩道が美しい幾何学模様を措いている。

　プラハ：“百塔の町”“建築博物館の町”“ヨーロッパの魔法の都”“北のローマ”。
　プラハは、ヴルタヴァ川の東西両岸に発達した町で、それほど大きくはない。そのうえ主要な見どころは集中しており、ほとんどは歩いて回れる。
　プラハ市は大きく10区画に分けられている。１区が町の中心であり、基本的には番号が大きくなるほど中心から遠くなるといえる。
　プラハのおもな見どころは１区（Praha 1）に集中している。１区とは、ヴルタヴァ川にかかるカレル橋を中心に、東西両岸にかけて広がる地区だ。（東岸：旧市街、新市街、ユダヤ人地区　西岸：フラッチャニ、マラー・ストラナ（小地区））
　東岸は極めて平坦だが西岸は小高い丘になっており、西岸から東岸を見下ろすような形になる。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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チェコ・キュビスム博物館　Muzeum Ceskeho Kubismu

黒い聖母の家　Dum U Cerne Matky （House of the Black Madonna）
　ヨゼフ・ゴチャール Josef Gocar（1880〜1945）の設計による、代表的なキュビスム建築。建物角に飾られている黒い聖母像が名前の由来だ。内部はチェコ・キュビスム博物館 Muzeum Ceskeho Kubismu となっており、1910−19年にチェコで独自の発展をとげたキュビスム絵画、彫刻、家具などが常設展示されている。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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ムハ美術館　Muchovo muzeum（MuCha Museum）

　アールヌーヴォーを代表する画家として日本でも人気のあるアルフォンス・ムハは、パリ時代の作品で有名だが出身はチェコ。ミュシャという呼び名のほうがなじみ深いかもしれない。1998年にオープンしたこの美術館では、今までムハの家族によって保管され一般公開されていなかった多くの作品を鑑賞できる。
　展示はふたつのセクションに分かれており、ムハの生涯と作品に関するビデオ上映（25分）を含めて、１時間程度もあれば全体を回れる。聖サィート大聖堂のステンドグラスの下絵、スケッチ、油絵など、あまり知られていないものも多い。絵のモデルや家族の写真もある。特に印象的なのが、パリやアメリカで華々しく活躍したあと、1910年にチェコに戻ってきてから手がけた作品群だ。地方展示会のポスターや、オーストリア＝ハンガリー二重帝国時代にチェコ語教育資金を集めるためのポスターなど、故郷を愛したムハの魂にふれることができるだろう。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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●クトナー・ホラ　Kutna Hora

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石の家　Kamenny dum（Stone House）

　ファサードの精巧なレリーフが印象的な石の家は、もともとフス戦争前に建てられたもの。1489年に現在見られるような後期ゴシック様式に改築された。内部は博物館になっており、クトナー・ホラの美術や工芸品が展示されている。

クトナー・ホラ　Kutna Hora　（人口約２万１千人）
　プラハから東へ65km、中部ボヘミアに位置する小さな都市クトナー・ホラ。この地がかつてプラハに次ぐほどの繁栄を謳歌したことを、現在の静かな町並みから想像することができるだろうか？ 13世紀後半に良質の銀が発見されてから町は急速に発展し、国王もしばしば滞在するほどだった。王立造幣局が設立され、ここで製造されたグロシュ銀貨は当時中央ヨーロッパに広く流通し、町は大きく発展したのである。しかし16世紀に銀が枯渇するとともに衰退し、三十年戦争を経て、1726年に造幣局は閉鎖された。
　聖パルバラ大聖堂の建つ旧市街、セドレツの聖母マリア教会など、中世の栄光の記憶を残す建造物がユネスコの世界遺産に登録されている。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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−東ボヘミア地方

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●リトミシェル　Litomysl

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ポルトモネウム　Portmoneum（Portmoneum）

　グラフィック画家であり作家でもあったヨゼフ・ヴァーハル Josef Vachal の私設美術館。天井や壁は神秘的な色彩の絵で覆い尽くされ、独特の絵が施された彫刻家具なども展示されている。何とも不思議な感覚にさせてくれる空間だ。

スメタナの生家
　かつて宮殿のビール製造所だった場所を利用して、音楽家スメタナの生家を再現した記念館。狭いが、楽譜やベッドなどが置かれている。日本語の説明書も貸してもらえる。

リトミシェル　Litomysl　人口約１万人
　ボヘミアとモラヴイアを結ぶ交易路上にあるリトミシェルは、ロウチュナー川沿いの肥沃な土地に人が集まり町として発展してきた。1344年には司教座が置かれ、中世ボヘミア王国において重要な位置にあったことがうかがえる。1567年にベルンシュティ　ン家が領主になると、荒廃した城を14年の歳月をかけてルネッサンス様式の宮殿に建て替えた。この美しい建築は、ユネスコの世界遺産に登録されている。芸術や学問の分野で優秀な人材を輩出したことでも知られ、有名な作曲家スメタナもこの町の出身。毎年7月には、彼の名を冠したオペラフェスティバルが開催される。

リトミシュル城
　1582年にふたりのイタリア人建築家によって建てられた宮殿は、当時流行していたスグラフィット装飾で飾られている。外壁のほか内部の壁にも手の込んだスグラフィット画が措かれており、その数は8000以上といわれる。また、城内には18世紀に造られたバロック様式の劇場がそのまま残っている。
　地下にはプラハ生まれの彫刻家オルブラム・ゾウベク 0lbram Zoubek の彫刻が展示されている。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

東ボヘミア地方
　ボヘミアン・パラダイスとよばれる自然美が広がり、雄大なボヘミアの自然がたのしめるエリア。
　　［『ワールドガイド　チェコ・ハンガリー・ポーランド』(JTBパブリッシング)から］

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−北ボヘミア地方

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●テレジーン　Terezin

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テレジーン・ゲットー資料館　

　テレジーン Terezin は、プラハの北方、バスで１時問ほどの所にある小さな町。プロイセンからボヘミアを守るため1780年にチェス盤を模して建造された後期バロック様式の大要塞と、川を越えた東側の小要塞がある。小要塞はオーストリア＝ハンガリー二重帝国の時代から牢獄として使用され、オーストリアの皇太子を暗殺したサラエヴォ事件の主犯プリンツィプも収容されていた。しかし、テレジーンの名が世界中に知れ渡ったのは、第２次世界大戦終結後のことだった。
　1940年、ナチス・ドイツはここに当時のチェコスロヴァキア国内最大の強制収容所を造り、16万人以上のユダヤ人やチェコ人、スロヴァキア人のレジスタンスたちが各地から送り込まれ、そのうち3万6000人がアウシュヴィッツやビルケナウヘ送られて殺されたという。この収容所でも、1943年からの約２年間に7000人に上るチェコ人やスロヴァキア人が、処刑や看守の虐待、劣悪な環境からくる病気などで死亡した。
　収容者には14歳未満の子供が1万5000人も含まれ、そのうち生還できたのはわずか100人余りだった。小要塞の跡は一般に公開されており、その正面にはナチスによる2万9172人の犠牲者を葬った国民墓地が設けられている。
　1945年5月7日、ソ連軍によってこのテレジーン収容所は解放されたが、その際に撤退するドイツ軍が処理しきれなかった荷物の中から、子供たちが描いた4000点もの絵が発見された。それらの絵は、現在テレジーン・ゲットー資料館 Muzeum ghetta や、プラハのユダヤ人地区にあるピンカスシナゴーグで公開されている。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

北ボヘミア地方
　ドイツとの国境付近に広がる山岳地帯。この地方はチェコ・ガーネットの産地として知られている。
　　［『ワールドガイド　チェコ・ハンガリー・ポーランド』(JTBパブリッシング)から］

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−西ボヘミア地方

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●マリアーンスケー・ラーズニェ　Marianski Lazne

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地域博物館　Marianske Lazne mestske muzeum（Munincipal Museum）

　ラーゼニュスカー・コロナーダの上方、ゲーテ広場に面した小さな博物館。この建物は、かつて“金のブドウ”と呼ばれており、1820年代の初めに文豪ゲーテがここに滞在したことで知られる。そのため館内にはゲーテに関する資料もあるが、現在はおもにマリアーンスケー・ラーズニュの歴史や温泉に関する絵画や資料などが展示された博物館になっている。毎正時には、町の歴史がわかるフイルムも上映されている（英語、ドイツ語あり）。

マリアーンスケー・ラーズニェ　Marianski Lazne
　カルロヴィ・ヴァリに次いでチェコ第二の規模を誇る温泉保養地がここ、マリアーンスケー・ラーズニェだ。ドイツ名はマリエンバートといい、実際にここで撮影されてはいないがフランス映画『去年マリエンバートで』のモデルになった町でもある。
　ボヘミアの森に抱かれたなだらかな斜面に広がるこの町は、別名“緑の海に囲まれた町”とも呼ばれている。高台から見下ろすと、その表現が的を射ていることがよくわかる。一つひとつの建物が、緑の大海に浮かぶ船のようだ。 　ここに温泉が発見されたのは16世紀頃のこと。しかし温泉リゾートとしての開発が急速に進んだのは、19世紀の後半に入ってからである。建物は中世風の美しいものがたくさんあるが、それらもほとんどが19世紀に入ってから建てられたものだ。しかしそれ以前から、カルロヴィ・ヴァリと同様に多くの有名人がこの地を訪れていた。ゲーテ、マーク・トウェイン、イプセン、フランツ・リスト、ショパン、ワグナー、エディソンなどなど挙げていくときりがない。
　現在では140ほどの温泉、鉱泉が発見されており、そのうち40あまりが飲用や浴用、はたまた温泉泥を利用しての腎臓・皮膚病・泌尿器系の医療などに利用されている。ここを訪れる人たちのなかには観光客もいるが、やはり湯治に訪れる人が多い。カルロヴイ・ヴァリ同様、独特の焼物で作ったカッフから温泉水を飲みながら歩いているお年寄りを大勢見かける。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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●ヘプ　Cheb

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ファインアート美術館　Galerie Vytvarneho Umeni（Gallery of Fine Arts）

　広場に面して建つ、バロック様式の新市庁舎内にある美術館。モダン絵画、キュビスム、彫刻、グラフィックアートなど、チェコの20世紀美術が展示されている。

ヘプ博物館
　1874年に、ボヘミア地方最初の地域博物館として開設された。ヘプの歴史についての展示が主。ハブスプルク家ゆかりのヴァレンシュタイン家の所有物や肖像画は見ごたえがある。

ヘプ　Cheb
　チェコの西端、ドイツ国境までほんの数kmの所に位置する町ヘプ。カルロヴィ・ヴァリやマリアーンスケー・ラーズニェにも近く、三十年戦争（1618〜48）にゆかりの深い土地柄である。ドイツのニュルンベルク方面からプラハへ向かう鉄道の経由地なので、こちらの方面からチェコ入りする人が必ず通る町でもある。
　見事に保存された旧市街の美しさは特筆もので、この町並みを眺めながらゆっくりと散歩するだけでも、ヘプを訪れてよかったとしみじみ思うことだろう。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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−南ボヘミア地方

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●チェスキー・クルムロフ　Cesky Krumlov

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エゴン・シーレ文化センター　Egon Schiele centrum（Egon Schiele Art Center）

　古いビール醸造所の建物を利用した、20世紀初頭の絵画の巨匠、エゴン・シーレの名を冠した文化センター。ルネッサンス様式のホールに、80余りの彼の作品が常設展示されている。作品のほかにも写真や直筆の手紙、彼が使用した家具などが展示されていて興味深い。彼のデスマスクもある。シーレはチェスキー・クルムロフを第二の故郷として愛し、恋人とともに住んでいたこともある。

地域博物館　Okresni Vlastivedne Muzeum（District Museum of National History in Cesky Krumlov） 　チェスキー・クルムロフおよび南ボヘミア地方の考古学的な資料から歴史、民俗、芸術や工芸にいたるまで網羅した展示を行っている。内容はときどき変わるが、展示方法や展示品の質が高く、しかも非常に理解しやすい。

ヴァーツラフの地下室　Vaclavske Sklepy（Wenceslas'Cellars）
　城の奥、プラーシュティ橋手前にある第４の中庭の下には、古えより残された地下室が広がっている。1394年および1402年、ボヘミア王ヴァーツラフ４世の牢獄として使われたといわれていろため、“ヴァーツラフの地下室”と呼ばれているのだ。現在では、広々としたスペースを利用してセラミックアートが展示されている。薄暗くひんやりとした地下ギャラリーは、外の喧喚から外れてぼっかりと浮かんだ異空間のよう。チェコをはじめポーランドやハンガリーなどの周辺諸国、また世界各国の現代美術が興味深い。

チェスキー・クルムロフ　Cesky Krumlov
　1992年にユネスコの世界遺産に加えられた、世界でも最も美しい町のひとつである。13世紀に南ボヘミアの貴族ヴィートコフ家によって城が建設されたのが、チェスキー・クルムロフの歴史の始まりだ。14世紀初頭にはロジュンベルク家に支配が移り、町は華々しく発展した。16世紀になると、ルネッサンス都市として現在の姿がほぼできあがり、繁栄は頂点に達する。しかしその後、エッゲンベルク家、シュヴァルツェンベルク家へと支配が移り変わるうち、次第に近代化から取り残され寂れていったという。そのおかげで、最も繁栄した時代の風景が損なわれることなく現代まで保存されたのだ。
　大きく屈曲して流れるヴルタヴァ川に抱かれて、チェスキー・クルムロフは世界中から訪れる旅行者を優しく受け入れる。谷の向こうに城を中心とする中世そのままの町並みが広がる光景には、誰もが感動を覚えるだろう。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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モラヴィア地方

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−南モラヴィア地方

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●ブルノ　Brno

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ブルノ市博物館　Muzeum mesta Bma

シュビルベルク城　Hrad Spilberk（Spilberk Castle）
　旧市街の西、丘の上に建つ13世紀の城跡。17世紀には一部が監獄に使われ、19世紀にはイタリア、ハンガリー、ポーランドなどの革命家が収容された。また第２次世界大戦中には、その施設をそのままナチス・ドイツに利用された。地下室や拷問室などもあり、一般に公開されている。監獄内の様子や拷問に使われた道具などには背筋が寒くなる。対照的に周囲の公園は緑が深く、散歩をしていてとても気持ちがいい。
　２階は歴史に関するものや、ルネッサンス期から現代までの美術品などを展示したブルノ市博物館 Muzeum mesta Bma、３階はカフェとギャラリーになってる。

ブルノ　Brno
　チェコ共和国は、ボヘミアとモラヴィアのふたつの地域に大きく分けることができる。東半分にあたるモラヴィア地方の中心が、チェコ第２の都市でもあるプルノだ。毎年2・4月と9月には大規模な国際見本市が開かれる商工業の中心であり、郊外のサーキットでは、二輪、四輪のグランプリレースも開催される。
　9〜10世紀にモラヴイア王国の主要な都市として栄え、その後造られたシュピルベルク城や教会などの文化遺産が数多く残されている。また古くからこの地方の文化・学問の中心であり、多くの美術館、博物館や図書館、大学がこの地に居を構えている。遺伝学のメンデルが、司祭としての生活のかたわらエンドウの交配実験を行ったのも、プルノ旧市街の西外れにあった修道院だ。
　モラヴィアン・ギャラリー：プラジャーク宮殿、手工芸美術館、ミーストドルジテルスキー宮殿。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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●クロムニェジーシュ　Kromeriz

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クロムニェジーシュ美術館　Muzeum Kromerizska（Kromeriz Museum）

　ルネッサンス様式の建物で、１階は2〜3カ月ごとに変わる企画展、２階ではクロムニェジーシュ生まれの画家マックス・シュヴァビンスキー Max Svabinsky の常設展が催されている。３階にはこの土地の歴史や生態系を学べる展示がある。

クロムニェジーシュ　Kromeriz
　クロムニェジーシュの歴史をひも解くと、まさに地の利を活かして発展してきた都市といえる。モラヴァ川が流れる平野に位置し、東には農業に適した肥沃な大地が広がる一方、周辺を囲む険しい丘が天然の要塞の役割を果たした。また、丘の間を縫って走る谷にはいくつかの道が造られ、早い時期から交易の要衝として栄えてきた。そのうえ、各地から集まってきた商人が物品だけでなく芸術や文化もこの地に持ち込んだため、モラヴィア地方の文化の中心地という顔ももつことになったのである。
　12世紀からオロモウツの大司教がこの地に居を構えていたことも、町の発展をうながした。しかし、フス戦争（1419〜1434）や三十年戦争で、町と城は少なからぬ被害を受けてしまう。
　その後修復され、きれいに手入れされたバロック様式の城とふたつの庭園は、ユネスコの世界遺産に登録されている。これらの場所は、映画『アマデウス』の撮影が行われたことでも有名だ。小さな町だが、華やかなりし時代に建てられたさまざまな様式の建造物や美しい町並みなど、見どころは多い。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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大司教の城内絵画ギャラリー　Zameocka obrazarna

　大司教の城は、12世紀にゴシック様式で建てられた城は、16世紀の初めにルネッサンス様式に改築された。その後三十年戦争で大きな被害を受けたが、17世紀後半に12年の歳月をかけて再建された。現在の建物はほぼ、その当時の姿を保っている。ただし場内に置かれた家具や装飾品は1752年の大火で傷ついてしまったため、18世紀後半に新しくしたものだ。
　ヒストリカルルームのツアーに参加すると、1848〜49年にオーストリア帝国の憲法制定会議が開催された会議室をはじめ、図書室や狩猟部屋などを見学することができる。城内はバロックおよびロココ調の家具、多くの絵画、銅像などで装飾され、華やかな雰囲気に満ちている。また城内絵画ギャラリー Zameocka obrazarna には、ティツィアーノやタラナーハ、ブリューゲルなど15〜19世紀のヨーロッパの絵画が展示されており、英語のガイドブックも貸してもらえる。
　この城を象徴するといってもいい塔はゴシックとルネッサンス様式を取り入れた建築物で、最上階まで上るとクロムニェジーシュの町を見渡す絶景が広がっている。さらに池や動物園のある広い庭園には、観光客だけでなく市民の姿も多い。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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−北モラヴィア地方

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●オロモウツ　Olomouc

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オロモウツ美術館　Muzeum Umeni Olomouc

　（美術館そのものの記述なし。共和国広場の北側にオロモウツ博物館と並ぶ。）

オロモウツ　Olomouc　人口約10万人
　ブルノの北東約60kmに位置するオロモウツ。あまり知られていないことだが、この町の文化財保有数はプラハに次いでチェコ第２位。地味ではあるが明るくて喧噪もない、雰囲気のとてもいい町だ。
　オロモウツは中世を通じてモラヴィア随一の町として栄えたが、三十年戦争（1618〜1648）の後期にスウェーデン軍に占領され、大きな被害を受けた。やがて18世紀に入って復旧が開始され、現在見られるような婆になったのである。
　旧市街には、ロマネスク、ゴシック、ルネッサンス、バロック、ロココなどあらゆる様式の建物が並んでおり、それぞれが見事に溶け込んで美しい景観を作っている。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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大司教区博物館　Archideicezni Museum (Archdiocean Museum)

　聖ヴァーツラフ教会に隣接している。かつてプジェミスル宮殿と呼ばれていた館を利用しており、建築物としても見ごたえも充分。展示はモラヴィアのキリスト教芸術に関するもので、金銀細工や絵画、彫像など非常に広範なコレクションを誇っている。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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■スロヴァキア　Slovakia■

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●ブラチスラヴァ　Bratislava

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スロヴァキア国立ギャラリー　Slovenska rnarodna galeria（Slovak National Gallery）

　国立自然史博物飽から５分ほどブラチスラヴァ城のほうへ歩くと右側に建っている、18世紀の宮殿と共産主義時代の兵舎を連結させた、黒いファサードが印象的な巨大な建物。ゴシック美術のコレクションはスロヴァキア最大。そのほか、バロック期や現代の美術もある。

ブラチスラヴァ　Bratislava
　晴れて独立した主権国家となってから、10年あまりを経たスロヴァキア共和国。その首都がここプラチスラヴァだ。ドナウ川に面して発展したこの町は、長い間ハンガリーの国土の一部だった。1541年、当時のハンガリー王国の首都プダがオスマン帝国の手に落ちた際には、プラチスラヴァにハンガリーの首都が移された。その後1563年から1830年までの問は、プラチスラヴァ城の麓にある聖マルティン教会でハンガリー王の戴冠式が行われた。ここで即位したハンガリー王は11人、女王は7人にものぼり、そのなかにはかのマリア・テレジアも含まれる。
　現在ではスロヴァキア共和国の首都として、同国最大の町となっている。近郊には農地も多く、古くからブドウが栽培されワインの産地としても名高い。町の中心には旧市街が美しく保存され、町そのものが見どころといえよう。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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●コシツェ Kosice

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東スロヴァキア博物館　vychodoslovenske muzeum（East Slovak Museum）

　この博物館にはコシツェの黄金の財宝という展示がある。地下に銀行の金庫並みに厳重にロックされた一角があり、そこには1935年に工事現場から偶然発見された大量の中世の金貨がまばゆく輝いているほか、さまざまな宝石や装身具が展示されている。
　分館には、東部スロヴァキア地方に生息する動物のはく製や植物・鉱物の標本、遺跡からの発掘物などが整然と展示され、なかなか壮観。また、中世から20世紀にかけての芸術品、家具も見られる。

　コシツェ Kosice は1248年にはこの名前で文献に登場し、15世紀には当時この地方を支配していたハンガリー第３の都市にまで成長した歴史と由緒のある町だ。16〜18世紀にかけてはハブスプルク家の支配に対する反乱の中心地でもあった。第２次世界大戦でスロヴァキア共和国はナチス・ドイツの保護国扱いを受けたがいち早く解放され、コシツェにはチェコスロヴァキアの戦時内閣がおかれた。現在ではスロヴァキア共和国第２の規模をもつ大都市であり、鉄鋼業、機械工業、食品工業の中心を担う産業都市でもある。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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●パルデヨフ Bardejov

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イコン博物館　Muzeum ikony

　ポーランドとの国境近く、プレショフの30kmほど北にあるパルデヨフ Bardejov は、プレショフやコシツェ同様ハングリーとポーランドを結ぶ交易路の上にあり、古くから栄えてきた。旧市街を取り囲む、14世紀に創建された城壁と砦がよく残されている町として名高い。2000年には、中世の面影を伝える旧市街がユネスコの世界遺産に登録された。

　ラドニツネー広場の南端には、イコン博物館 Muzeum ikony がある。ここには東スロヴァキア各地から集められたイコン（聖画）のコレクションが展示されており圧巻だ。1970年の大阪万国博に出展した際の感謝状も飾られている。イコン博物館の向かいには歴史博物館もあり、見どころは多い。

　　［『地球の歩き方　チェコ　ポーランド　スロヴァキア』(ダイヤモンド社)から］

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■ハンガリー　Hungary■

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中央ドナウ地方

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●ブダペスト　Budapest

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ハンガリー国立絵画館　　Magyar Nemzeti Galeria (Hungarian National Gallery)

　　図録『ハンガリー絵画展』(朝日新聞社、1976)抄
　　図録『ハンガリー国立美術館名作展』(東京新聞・北海道新聞社・日本対外文化協会、1981)抄
　　図録『ハンガリー国立美術館所蔵　19世紀　ローロッパ・ハンガリー絵画展』(ＮＨＫ，1994)抄


　以下「図録『ハンガリー絵画展』(朝日新聞社、1976)」から

開催のことば
　ハンガリーと日本は、遠くて近い国です。それは、ハンガリー人の始祖であり、９世紀からハンガリーに住みついたマジャル人が、ウラル地方から移動して住みついたウラル・アルタイ語系の民族であり、人種的には日本人と関係があるからです。
　ハンガリーの歴史の初期には、11世紀初めから、しばしば戦争と動乱がありました。しかしその一方で、いろいろの芸術がおこり、めぎましい発展をとげています。絵画に関していうと、最盛期は19世紀になってからで、その第一人者は、いくつかの傑作を描いた画家、ムンカーチでした。彼は情熱的な題材のとらえ方やコントラスト豊かな色彩で、ハンガリー絵画史上、もっともすぐれた画家とされています。
　ムンカーチ後は、彼の影響をうけて続々とすぐれた画家が現れ、黄金時代を築いて今日に至りました。本展は、この絵画の最盛期に焦点を当て、ムンカーチを中心に、その同僚、後継者たちを網羅して、ハンガリー絵画の精華を紹介するため企画されました。
　このように大量にすぐれたハンガリー絵画が国外に出品された例は少なく、本展開催で、日本とハンガリー間に本格的な文化交流の幕が開かれることは、主催者一同のこの上ない喜びであります。
　ハンガリー大使館に絶大なご協力をいただきましたことと、ご後援をたまわりました外務省、文化庁、日本ハンガリー友好協会、その他、展覧会実現に尽くされた関係各位に心から感謝の意を表したいと思います。
　　　1976年3月　ハンガリー国立美術館　ハンガリー対外文化交流協会
　　　　　　　　 西武美術館　朝日新聞社

ハンガリー国立美術館について
　ハンガリーで国立博物館が設立されたのは、1802年である。これは、この年に、ハンガリー国内にある多数の博物館が、文化・科学のすぐれた遺産を収集し、保存、展示を始めたことを物語っている。19世紀のこの時期には、国の統治者と政府は、ウィーンに拠をかまえ、一方、博物館の活動を支持する人たちは、国家の独立とブルジョワジーの台頭を擁護していた。しかし、波乱にとむこの時点で、王家のコレクションを後世に伝えるため、一定の場所に集めることはなかなか実現しなかった。
　現在、国内にある博物館は、次第に収集品が多くなり、現在では、母体となった機関からはそれぞれ独立している。中でも、ハンガリー国立美術館は、他の博物館と比べ最も歴史が浅いが、ハンガリー国立博物館をそのまま継承したものではなく、1957年に、美術博物館と市立美術館が収集している美術関係品をうけついで大きくなったものである。
　ハンガリー国立美術館は、創設以来、コレクションを二倍に増やし、いまハンガリーで最も人々が訪れるところとなっている。また、その文化的な影響力も強く、最も活発に活動している美術館といえよう。創設当時の建物はたちまちせまくなり、このため、ブダペストにある初期王室の建物内に移転した。現在、美術館はブダ王宮の中にあり、ドナウ川に面した建物群の一つで、美術館用にいろいろ改築されている。1975年10月、ここで第１回の展覧会が開かれた。
　美術館の永久展示品は、今年に搬入が終わる予定で、アスファルトの床の上に、絵画展示用のエア・コンつきガラスケースがいま組み立てられている。以前、これらの絵画が置かれていたところでは、絵の具を保護する上で、湿度を常に摂氏18度と摂氏50度に保つため、いろいろ工夫がこらされていた。新しい装置が完成し、その安全性が確認されるまでの時期を利用して、ミハーイ・ムンカーチをはじめ他のハンガリー絵画の巨匠たちの作品が、初めて、地理的にはなれた日本に出品されたわけである。
　国立美術館には、12世紀の古い収集品や中世の彫像、両翼のある祭壇、祭壇の断片などを扱う部門があり、学問的な処理と修復作業を行うと同時に、その展示も行おうとしている。コレクションの中には、ロマネスク時代、ゴシック時代、ルネッサンス期の作品に次いで、肖像画、静物画、戦争画、風景画のような世俗的な主題をしばしば取り上げるバロックの作品群がある。
　この部門とは別個に、19世紀、20世紀のハンガリー絵画、彫刻、飾り板、グラフィック、その他現代画家の作品などを収集している二、三の部門がある。
　これらのコレクションには、参考文献を保存する図書室、文書部写真部をはじめ、修復作業を行う人たちのスタジオ、国内の立派な私有コレクションを登録したり、美術作品に関して助言を行うグループがある。また、補助的な面や技術的な面を受け持つさまぎまな作業所もある。また、これとは別に、訪問者の接待、講義の準備、案内者つきの館内見学を取り扱ったり、出版物の監督を行ったり、子ども、若者、その他さまぎまな人々に定期的に来てもらうために、異なった興味をよびおこす役目を担当している部門がある。
　本展覧会に出品された絵画は、すべてこのハンガリー国立美術館の所蔵品である。

ハンガリー絵画の歴史　イシュトバーン・ショイマール（ハンガリー国立美術館副館長）
　ハンガリーには「民族大移動」時代の遺跡が多い。大移動の波はドナウ川まで到達し、東方騎馬民族−フン族とアバール族−はこの地域に、短期間ではあったが、彼らの帝国の拠点を築いた。
　ハンガリー人がカルパテア山脈に囲まれた盆地を占拠したのは、西暦896年である。敗北を喫したブルガリア人やスラブ人の後に現れたのは、タタールやクン族、その他の小数民族であり、彼らも最後にはこの土地に定着した。ハンガリー人が生き残るのに欠かせなかった定住生活やキリスト教化、西洋文化の吸収は、彼らに根本的な変化をもたらした。初期の典型的なハンガリー芸術は、トーテム信仰に関するもの、道具及び武器類の装飾などに示されている。次いで新しい宗教や封建社会の芸術が国外からもたらされた。これに続く時代では、この国際的なスタイルが、建築、彫刻、壁画、祭壇画、彩色写本、僧侶の衣装、飲食器などに及んでいる。ハンガリーではロマネスクとゴシックの二つの時代のスタイルが西欧の文化の中心地よりも長く生き続けた。すなわち、ロマネスクのスタイルは、11、12世紀、さらに13世紀以後も存在していたし、ゴシックのスタイルは、ルネッサンス思想が15世紀の中ごろにハンガリーに導入された時でさえ、衰えなかった。ゴシック、ルネッサンスのスタイルがこのようにハンガリーで共存し、融合するまでに１世紀もかかっている。
　芸術に表れたハンガリーの特色は、西欧のものと比べて、シンプルで、簡潔かつ閉鎖的なものであった。同時に、極細部の尊重、豊かな装飾性、完成されたものに対する敬意もまた、しばしば見られた。ゴシック、ルネッサンスの両極端をさけるという傾向は、ハンガリー芸術のもう一つの顕著な特色であった。ハンガリーにおける芸術は、歴史と芸術の領域でより長い伝統をもつヨーロッパ諸大国のそれよりも、もっと地についており、現実に近いものであった。ゴシックとルネッサンスの共存は、ハンガリーに高度の芸術活動を起こす結果となった。しかし、150年間のトルコ侵略によってハンガリーはオーストリアの支配にゆだねられることとなり、その芸術は壊滅の憂き目にあった。かくして、ハンガリー国家の歴史は、絶えまない騒乱と、弾圧の犠牲者である貧しい民衆が起こした数々の独立戦争とで色どられることになった。
　17、18世紀のバロック時代のパトロンは、概してウィーンの宮廷に忠誠をささげた貴族であったが、彼らは通常、すぐれた作品をつくるために、外国から建築家、彫刻家、画家たちを招いた。同時にハンガリー人の画家は、国内での依頼がない時には、外国人のために仕事をした。
　それ以前の時代には、ハンガリー人芸術家の中には、国際的に重要な位置を占める数多くの巨匠がいた。彼らの多くは名前こそ知られていないが、彼らの傑作は芸術史の文献に記されている。16世紀の後半に活躍したコロジュバールの彫刻家、マールトンとジェルジェ、自分の主要作品の一つに「M・S・1506」と銘うった画家らがまず第一にあげられる。バロック時代はまた、アーダーム・マーニョキ（1673−1757）（18世紀独立戦争の指導者の肖像画の作者）、フェレンツ・ラーコーツィ（1708）、あるいは、ヤカブ・ボグダーニュ（1660−1724）（静物画と動物を描いた画家）のような傑出したハンガリー人巨匠を生んだ。
　18世紀に宗教と関係なく始まった肖像画制作は、19世紀になって広く普及した。この時代には人間の性格的な特徴に重きがおかれ、人間の位階とか、地位は余り重要視されなかった。しかし20世紀に入ると、社会的タイプを明白に表した肖像画の制作が、画家自身が表現したいことを表現する手段となった。 　19世紀の前半、いわゆる「改革期」時代には、ブルジョワジーの興隆がハンガリーに顕著な変化をもたらし、芸術の分野でも、それが国家の自信とともにあらわされた。
　画家たちは、国内の風景を描くことに喜びを感じ、民族衣装をまとう自分自身の絵をかき、国家の歴史の劇的事件や国の大衆的な行事をしばしばテーマとして取りあげた。
　選択されたテーマと絵画によるその再現とは、必ずしも一致したものではなかった。ピーデルマイヤの新古典主義的スタイル、アカデミックなアプローチ、あるいは静的な面は、内在する情熱を表現す、優秀な個々の作品に、また国内で表現主義、構成主義、超現実主義の伝統を守り続けてきた人々に対して高い評価が与えられた。 　一般的な芸術活動の高揚、特に画家たちの活動の盛り上がりは、1950年代の初頭、いわゆる「個人崇拝」の時期に中断された。政治的、経済的な現実の変化が、芸術活動の上にも、不当に強制された。ある芸術家は、その変化を、弾圧によって受け入れ、また、ある芸術家は、自ら進んで受け入れた。この時代の最も重要ですぐれた作品は、芸術家のアトリエに蔵されていた。当時、いろいろな展覧会のために選ばれる絵画は、役人の狭量な見解により認められるものだけであった。
　若い世代の平面作家（画家）は、最初、仕事を委嘱する機関の厳格な要求に対する戦いに勝たねばならなかった。彼らのあとには、造型作家の代表者が続いた。画壇においては、現代的な、個性ある表現を求めることは、さらに複雑な、長い道程を必要とし、それは数多くの衝突を起こした。
　各々の世代に、傑出した現存画家がおり、傑作が生まれているが、画壇全体としては、評価についてまだ合意が成立していない。こういう状況に固有の危機現象は世界のどこででも見られるが、ハンガリーではこの国特有の様相を呈している。また、新しい芸術、創作活動を通じて戦いを挑むという利点を、ハンガリーは持っており、まき起こる論争を通じて、民衆の興味と関心を高めることができる。


　以下「図録『ハンガリー国立美術館名作展』(東京新聞・北海道新聞社・日本対外文化協会、1981)」から

あいさつ
　このたび，ハンガリー政府の全面的ご協力を得て「ハンガリー国立美術館名作展」を開催する運びとなりました。 　本展には，同国が誇るハンガリー・ナショナル・ギャラリーとブダペスト美術館から，それぞれの所蔵するハンガリー絵画とヨーロッパ絵画の名作64点が出陳されます。
　ハンガリー・ナショナル・ギャラリーはハンガリーの民族美術の収集，公開展示のために設立された美術館で，中世からルネサンスをへて19世紀及び20世紀にいたる作品を所蔵しています。本展にはムンカーチを中心とする19世紀後半のハンガリー絵画31点が展示されます。これらの作品はハンガリー近代美術の開花を示すものです。 　ブダペスト美術館はかつてのハンガリーの大貴族エステルハージィ家のコレクションを基礎として，ヨーロッパ絵画を中心に所蔵しており，その質の高さはひろく世界に知られています。先年そのコレクションの一部が日本でも初公開されました。本展には19世紀フランスの重要な画家の作品を中心に，ドイツ，オーストリアなどのヨーロッパ近代絵画33点が出品されます。
19世紀の西欧絵画とハンガリー絵画が併陳される本展は，ハンガリー美術がヨーロッパ絵画から受けた影響の深さ，それぞれの国の特質，伝統の果たす役割などを知るまたとない機会となりましょう。 　これら珠玉の名品はどれもわが国では初めて公開されるものばかりであり，ハンガリーと日本との文化交流を促進するものと信じます。
　本展開催にあたり，ご協力賜わったハンガリー国際交流協会，両国立美術館，またご後援いただいた外務省，文化庁，ハンガリー文化省，ハンガリー大使館ならびに関係各位に対し，心から感謝の意を表する次第です。
　　1981年　群馬県立近代美術館　日本対外文化協会
　　　　　　東京新聞　北海道新聞社

序文
　　　ハンガリー・ナショナル・ギャラリー館長　エーリ・ジュンジ
　観客の皆様および読者の皆様に，御挨拶の言葉を申し上げます。私どものハンガリー・ナショナル・ギャラリーは，来年，創立25周年を迎えます。しかし私達の収蔵品は，すでに19世紀中葉から，いろいろな国有，私有の貴重なコレクションを基に，これを豊かなものにしてきました。ただ，独立した国民的な絵画館がハンガリーに創設されるには，それから約100年の歳月を要しました。
　私達のコレクションには，12世紀から今日に至るハンガリーにおける芸術的遺品，絵画，彫刻，三連祭壇画，石彫，メダル，版画，素描，ポスター，写真，記録類が保存されています。こうして，中世の石彫と当時最も装飾性豊かなジャンルであったゴシックの三連祭壇画を合わせ持った収集は，ヨーロッパでもきわめて注目すべきものになっています。ルネサンスとバロックの収集では，そのみごとな作品を通じて，ハンガリー芸術の発展の跡をたどることができます。国民芸術の形成は，恐らく19世紀ハンガリー最大の芸術的出来事であり，豊富な19世紀美術のコレクションはそれをよく示しています。世紀末および20世紀初頭にはすでにハンガリーの芸術は，芸術の分野で大きな位置を占めようとするヨーロッパ諸国民と歩を合わせて発展しています。ウィーン−ベルリン−パリ，そして帰国というハンガリーの画家たちの辿る道と，その仕事，体験，印象は，当時のハンガリーの作品の中に少なからず反映しています。歴史の流れの中で時代の趣味が，ハンガリーにおいて，いかに実際の芸術の発展を時には助け，時にはその足を引っばり，時には前進させ時には引き戻し，時には有利に働き時には押しとどめたかは，この美術館のコレクションを通じて，皆様にもお分かりになることでしょう。
　今や私達は，ハンガリーの絵画史の証人ともいえましょう。現代の絵画収集とその記録化も，ハンガリー・ナショナル・ギャラリーの課題であり，これは私達にとって大きな責務であります。しかし芸術家の数と，保存に価する作品数を増やすことは，より慎重な選定と厖大な予算を要します。
　ハンガリー・ナショナル・ギャラリーの館員は，本展のために喜んで出品の準備を致しました。ハンガリー美術史における他のいろいろな時代も，いずれ紹介する機会が訪れることを願ってやみません。


　以下「図録『ハンガリー国立美術館所蔵　19世紀　ローロッパ・ハンガリー絵画展』(ＮＨＫ，1994)」から

ごあいさつ
　このたびハンガリーの誇る二つの国立美術館であるブダペスト美術館とハンガリー・ナショナル・ギャラリーのコレクションによる「ハンガリー国立美術館所蔵　19世紀ヨーロッパ・ハンガリー絵画展」を開催することになりました。
　この展覧会の中心となるのは、19世紀後半の西ヨーロッパとハンガリーの絵画です。
　本展は、写実派から印象派を経て世紀末の象徴派に至る19世紀絵画の流れを、フランス、ドイツを中心とした西ヨーロッパ絵画で示しながら、ハンガリー絵画にその影響を見ていこうというものです。西ヨーロッパ絵画36点とハンガリー絵画44点をあわせての展示は、それぞれの魅力を探るうえでも、また比較するうえでも、あるいはハンガリーにいかにすぐれたコレクションがあるかを知るうえでも意義ある、興味深いものと言えるでしょう。
　とりわけ、これまで日本ではまだそのや実力��が十分に認識されているとはいえなかったハンガリーの近代絵画は、西ヨーロッパ絵画の影響を受けながらも一味違う独自の魅力にあふれたものとして、皆さまを魅了することでしょう。
　ここに、貴重な作品を快くご出品下さり全面的なご協力を頂きました両美術館の方々、ならびにご後援、ご協力いただきました関係各位に対し、深く感謝の意を表します。
　この展覧会が観覧者の皆さまに深い感銘を与えることを期待するとともに、これを機に、古くは同じアジアに起源を持つ日本・ハンガリー両国の文化交流が一層発展することを念願いたします。
　　　主催者

ハンガリー絵画　ハンガリー・ナショナル・ギャラリー
　モンゴル人の襲来（1241−42年）をうけた後の時代に、国王ベーラ�W世（在位1235−70年）は、主として防衛の目的で、プダの城丘の南西側の崖に強固な城壁と主塔を備えた城を築いた。このブダの丘の北側には、河を隔てて市民の町（ペスト）が接していた。
　アンジュー朝時代に開始された建造は、15世紀にルクセンブルク朝のジグモンド王（在位1387−1437年）のもとで再開された。「新宮（Fresh Palace）」と呼ばれる王宮と「不完全な塔」はともにジグモンド王が手がけたものである。マーチャーシュ・コルヴィン王（在位1458−90年）が建造を命じたその他の追加部分、すなわち礼拝堂ならびに図書館付きの新王宮は、二番目の中庭の周囲に配されている。
　モハーチュでの敗戦（1526年）の後、ブダ城は大きな損傷をこうむった。その再建はヨハン・ヘルプリングの手で行われ、彼は、中世に築かれた城壁をほとんどその基部まで壊してしまい、壕には粗石を埋めた。
　ハンガリー・ナショナル・ギャラリーの建物の歴史は、女帝マリア・テレジアの時代にさかのぽる。帝室首席建築家ジャン・ニコラ・ジャドーによる計画の実現は、1750年、オラチェク・イグナーツの監督のもとに開始された。最初は聖処女マリア会の修道女たちの一時的な避難所であった王宮は、1766年、ザクセン・テッシェン公にしてハンガリー摂政のアルベルトならびにその妻、オーストリア大公妃マリア・クリスティナの居館となった。
　1777年から84年にかけては、スロヴァキアのナジュソンバト（トルナヴァ）から移転された大学がこの一群の建物に置かれた。その後は、ウィーンの宮廷がこの王宮をパラティン伯に与え、その居館とした。これらの建物の再建は、1848年から翌49年にかけての独立戦争の時期には中座し、56年に完成する。「和約（アウスグライヒ）」の成立とフランツ・ヨーゼフのハンガリー王即位�鰍�経た後、王宮を王室の居館に改造するための、外観と内装を大々的に改装する拡張工事が開始される。イブル・ミクローシュが、西に面し、下のクリスティナ地区へと続く一群の建物を設計した（F棟。現、セーチェニ国立図書館）。この建設工事はイブルが亡くなったため中断され、1893年、ハウスマン・アラヨシュによって再開された。
　ハウスマンの計画は、屋根に統一的なデザインをほどこすことによって一連の建物を統合するというものであった。中央をゆるやかに突起させて円蓋を乗せることによって、また、外側に公式用の階段を配することによって、ドナウ河に面した建物の中央部分と、その背後にある「ハプスブルク・ルーム」と呼ばれる２階建ての部分は強調された。ファサードは、彫刻群と象徴的な図像や花瓶で装飾されている。ハウスマンによる拡張工事は、1905年に完了した。
　今なお建物に見られる浮彫と彫像は、この時期に加えられたものである。ジェルジ広場の囲い地のドナウ河側の柱の上には、ハンガリー神話に登場する鷲トゥルル（1903年、ドナートゥ・ジュラ作。1905年設置）が乗せられている。建物の東側正面の前には、セニェイ・カーロイ作の噴水像≪魚釣りをする童子たち≫（1912年）が見られる。ローナ・ヨージェフによるサヴォイ公オイゲンの像（1900年）は、もともとはゼンタ市のために作られたものであった。 　20世紀初めの数十年間に、王宮にはしだいに行政府が置かれるようになっていたが、第二次世界大戦で甚大な被害をうけた。火災によって損壊したのである。1950−51年に復興が始まる。ハンガリー・ナショナル・ギャラリーは、1975年、新たな建物一展覧会のために再建された王宮のB棟、C棟、D棟−で最初の展覧会を開催した。
　初期の時代以降のハンガリー美術の流れを包括的に収集・展覧する公共のコレクションが確立されたのは、19世紀初めの数十年間における中流階級の改革意欲によるところが大きい。1839年にはペスト美術協会が創設されるが、これは、美術を活性化しようとする最初の徴候であった。
　同協会に続いて、1845年には国民絵画館創設協会が設置された。その目的は、国内の美術と美術家を育成し、「この国に生まれあるいは帰化し、ハンガリー王の王冠のもとに同族として結束した、過去ならびに当代の画家たちの主要作品が、購入ないしその他の方法で取得されること」というものであった。名称からしても目的からしても国民的であったこの絵画館創設協会は、1846年3月19日、ナショナル・ミュージアムの建物で、エゲル大司教ピルケル・ラースローの収集品の一部を展示する第１回展を開いた。ここで展示された絵画からすれば、この国民絵画館こそが、現在のハンガリー・ナショナル・ギャラリーの前身であると言える。
　エステルハーズィ家の絵画コレクションを取得することによって（1870年）、国立の美術コレクションは一挙に拡充される。637点の絵画、3，535点のデッサン、51，301点の版画を含む、計り知れない価値の美術コレクションが、1871年、ナショナル・ギャラリーとしてハンガリー科学アカデミーの建物で一般公開された。その出品作のうちハンガリーに関わるものは、現在ハンガリー・ナショナル・ギャラリーに収蔵されている。
　1896年の法令第８条（通称「1000年法」）には、美術館が創設されなければならない旨、明記されている。ベトゥロヴィチュ・エレク（1906年に開設された美術館の当時の館長）は、コレクションの拡充に決定的な役割を演じた。ベトゥロヴィチュは、ハンガリー芸術家の作品を新ハンガリー絵画ギャラリーの名のもとに分離し、1928年、それらの作品をアンドラーシ通りの旧美術展示館（現、美術学校）で展示した。
　首都ブダペストによる芸術庇護活動も、見るべきものがある。同市は1880年以降、現代作家の作品を継続的に購入し、そのコレクションをもとに、1933年にはカーロイ宮に市立絵画ギャラリーと呼ばれる常設展示が開設された。1953年、市立絵画ギャラリーはブダペスト美術館と統合され、その結果生まれたハンガリー芸術家の作品のコレクションがハンガリー・ナショナル・ギャラリーの収蔵品の中核をなすことになった。
　ハンガリー・ナショナル・ギャラリーは、ハンガり−美術を収蔵する独立した国立美術館として、1957年、コシュートゥ広場の元の最高裁判所の建物に開設された。1975年には、最後の地であるブダの王宮に移転した。
　ハンガリー・ナショナル・ギャラリーが収蔵する絵画、彫刻、メダル、デッサン、版画などの美術品は、約７万点にのぽる（その点数は、コレクションが拡充するにつれて日々増大している）。これらの収蔵品を補うものとして資料部があり、そこにはハンガリーの美術家に関する文献資料約63，000点が保存されている。研究者のためには、約８万冊の蔵書を有する特別図書室もある。　　（訳田遵道彦／エディター）

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ブダペスト国立美術館　　

　　図録『ハンガリー国立美術館名作展』(東京新聞・北海道新聞社・日本対外文化協会、1981)抄
　　図録『ハンガリー国立美術館所蔵　19世紀　ローロッパ・ハンガリー絵画展』(ＮＨＫ，1994)抄


　以下「図録『ハンガリー国立美術館名作展』(東京新聞・北海道新聞社・日本対外文化協会、1981)」から

序文
　　　ブダペスト美術館館長　ガラシュ・クラーラ

　ブダペスト美術館は，今年で創立75周年を迎えます。しかし，ヨーロッパの美術コレクションの中でも高い位置を占めるこの美術館の起源と歴史は，それよりもずっと古い時期に遡ります。収蔵品の中心をなす貴重な諸コレクション，即ち1870年に購入したエステルハージィ絵画コレクションや，ヤンコヴィチ・コレクション，ピルケル大司教絵画コレクション，さらにイポイの遺贈品などは，18世紀末から19世紀にかけて生まれたものです。それらを統合し，各所に蓄積された名品を一つにして紹介するために，1896年の建国千年記念の立法によって新しい施設がつくられ，ブダペスト美術館の名称で，1906年に開館しました。
　過去75年間において，本館はたくましく発展しました。創立時の基礎収集品と慎重な購入，寄贈品などによって，その収蔵品は各部門において，古代から現代の芸術の流れに至るまで，ヨーロッパ芸術の発展に関する豊富にして広範な展望が得られるほどに充実しました。エジプトならびにギリシャ・ローマのコレクション，古・近代絵画，古・近代の彫刻グループ，見事な版画，素描のコレクション等は，さまざまな美術の流れを明らかにしてくれ，また一連の名作，ことにイタリアやスペイン，ドイツ，ネーデルランド，フランスの諸流派の作品はすばらしい成果を見せてくれます。本館は古絵画約2000点，近代絵画600点，古彫刻および近代彫刻数千点，さらに10万点にのぼる版画，素描等の作品を保存していますが，その最も重要な部分は内外の観客に常陳されており，そのほか特別展をハンガリーの内外でも定期的に開催しております。日本では，1979年にブダペスト美術館の古絵画作品から選んだ名作が紹介されました。そしてこのたび19世紀の巨匠たちに興味をもつ日本の観客の皆様に，それを紹介する機会が訪れたわけです。
　ピーダーマイヤー派，浪漫派，バルビゾン派，ついで印象派，その次次と変わる様式の変遷が，この33点の絵画からなる構成によって理解できるでしょう。肖像画，風景画，歴史画，風俗画，裸体画や習作などの変化に富んだ作品群は，主題の豊かさ，19世紀ヨーロッパ芸術の多様性・多面性も示しております。フリードリッヒ・フォン・アメリンクやヨーゼフ・ダンハウザー，フランツ・アイブル，ルドルフ・フォン・アルトといった当時最も重要なオーストリアの巨匠たちは，それぞれ秀作を携えて本展に登場しています。イタリアのフェリーチェ・スキアヴォーニ，ジャコモ・ファヴレット，ベルギーのアルフレッド・ステヴァンスは，その一つ一つの作品は余り知られていないにしても，重要な美術史上の流れを示しています。本展におけるドイツ絵画の分野は，数は少ないが，作品としては注目に価するものです。スイス生まれのアルノルト・ベックリンの名作，色鮮やかで生き生きとした≪村の鍛冶屋のケンタウルス≫は，ことに興味をそそるものです。19世紀ヨーロッパ絵画において，決定的な役割を演じたフランスの巨匠たちの，信じられないほど美しく，かつ広い眺望を示す作品も，ここに並んでいます。浪漫主義の大家ウジューヌ・ドラクロワは，そのテーマにおいても表現においても，≪モロッコ人と馬≫と超する作品によってみごとに代表されており，写実主義のギュスターヴ・クールベは２点の風景画によって知ることができ，ドーピーニーやコローなどの傑作である大気を感じさせる風景画は，バルビゾン派の新しい道を固めた芸術的成果を示しております。美術上のヴィジョン，美術上の表現を革新した印象主義の独自な評価は，クロード・モネの初期の作品であるトルゥヴィルの作品や，カミーユ・ピサロのパリの市街風景≪ボン・ヌフ≫，オーギュスト・ルノワールの≪少女≫等で分かりましょう。ゴーギャンの初期の珍しい冬の風景や，モーリス・ドニ，ピエール・ボナール，モーリス・ユトリロなど，その一つ一つの重要な絵は，印象派のあとを追って発展し，やがて現われる20世紀の新しいフォルムの世界と，不安なメッセージを観る人の前に呈示しています。
　今回の出品作品は，私達のコレクションの代表的な一部で，ヨーロッパ芸術の重要な一時期を，当時のハンガリーの画家たちの作品と対応させながら，日本の美術愛好家の皆様にお目にかけようとするものであります。


　以下「図録『ハンガリー国立美術館所蔵　19世紀　ローロッパ・ハンガリー絵画展』(ＮＨＫ，1994)」から

ヨーロッパ絵画　ブダペスト美術舘

　ブダペスト美術館はハンガリー屈指の公共コレクションを所有しており、その内容は、偉大な古代地中海文明の遺物をはじめとして、中世ヨーロッパの絵画・彫刻・版画から、現代美術にまで及んでいる。ブダペスト美術館は1896年に創設され、その10年後の1906年、一般公開された。
　この新設美術館の中心をなす収蔵品は、それ以前の二つの公共コレクションから形づくられた。一つは、ハンガリー・ナショナル・ミュージアム（1802年創設）であり、もう一つは、ハンガリー科学アカデミーに置かれていた国民絵画館（1861年創設）である。後者は、ウィーンにあったエステルハーズィ家のコレクションを取得することによって創設されたものだが、版画とデッサンのすばらしいコレクションも持っていた。次いでプロスキ・カーロイが国外で絵画と彫刻を購入し、その結果、これら二つの公共コレクションは初期の段階で拡充された。ブダペスト美術館の古代部門は、1906年以降形成されたが、これもやはり国外における購入品がもとになっている。先見の明があり博識であったペトゥロヴィチュ・エレクが館長をつとめた第一次世界大戦後の20年間に、ブダペスト美術館は大きな飛躍をとげた。ブダペスト美術館が海外の美術作品を購入することはますます困難になっていたものの、購入が中断されることは決してなかった。海外作品の購入と並行して、ハンガリーの個人コレクターが所有する重要な作品を入手すべく、たえず努力がはらわれた。こうして作品を継続的に購入する一方で、遺贈と寄贈によっても、ブダペスト美術館の収蔵品は豊かになっていった。1934年に制定された「美術館法」によって、ブダペスト美術館は、それが所有する様々な分野にわたる作品の「中央コレクション」と定められた。こうして、その後20年間に、ブダペスト美術館は、ハンガリー各地の美術館に収蔵されていた重要美術品を入手することが可能になったのである。それと同時に、ブダペスト美術館の収集活動は広がり、エジプト美術や古い時代のハンガリー美術にも及んだ。1953年、旧市立絵画ギャラリーがブダペスト美術館と統合され、その結果、とりわけハンガリー美術のコレクションがいっそう豊富になった。
　1957年、ブダペスト美術館の収蔵品のうち19、20世紀のハンガ
リー美術が分離されて、新設の独立した国立美術館ハンガリー・ナショナル・ギャラリーが誕生した。次いで1973年には、古い時代のハンガリー美術がハンガリー・ナショナル・ギャラリーに移管された。ブダペスト美術館は現在、６部門よりなり、約10万点の美術品を収蔵する。
　英雄広場に建つブダペスト美術館の建物は、２人の建築家、シケダンツ・アルベルトとヘルツォグ・フュレプが設計した。美術館の位置と正面デザインは、すでに完成していた古典主義様式の美術展示館ならびに、当時建造中であったハンガリー建国千周年記念碑（これら二つの建物はともに同じ２人の建築家の設計）と調和するように選ばれた。
　ブダペスト美術館は、19世紀末ブダペストの均衡のとれた印象的な街並み計画とよく調和するものであった。ポルティコ（前廊）と正面デザインはギリシア神殿に範をとり、それに隣接する１階建ての部分はルネサンス様式による。ポルティコのコリント式円柱の上にはタンパン（三角小間）が載り、そこにはゼウス神殿（オリュンピア）のペディメント（破風）の石膏複製が飾られ、古典時代ギリシア建築の要素がみごとに結び付けられている。　　　（訳田遵道彦／エディター）

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西洋美術館　　Szepmuveszeti Muzeum（Museum of Fine Arts)

　英雄広場の、向かって左側にある建物。建国1000年を記念して1896年に建設開始、1906年に完成した。８本の柱が建つ正面口はギリシア神殿を模したもので、シッケンダンツ・アルベルトとヘルツォーグ・フュレップの共同設計。向かいにある現代美術館も彼らの設計である。
　王宮にある国立美術館がハンガリー人画家の作品を集めてあるのに対し、こちらはおもに諸外国の画家たちの作品を集めている。数多い作品のなかには、ラファエロ、レンブラント、ルーベンス、ヴェラスケス、ゴヤなど名だたる世界の巨匠たちの作品も並ぶ。なかでもゴヤやエル・グレコなどの作品を含むスペイン絵画のコレクションは、スペイン国外では最大規模を誇る。
　地下１階には、ワニのミイラなどもあるエジプト美術、20世紀絵画の展示、企画展のほか、ミュージアムショップ、カフェ、クローク、トイレがある。１階（ハンガリーでは地上階）は、チケット売り場、古代ギリシア・ローマ美術、エジプト美術、19世紀絵画、素描とリトグラフ、企画展など。２階（ハンガリーでは１階）は、イタリア絵画、オランダ絵画、スペイン絵画、フランス絵画、イギリス絵画、フランドル絵画、ドイツ絵画に分かれて展示されている。
　どの部屋も壁一面に作品がぎっしりと並べられており見ごたえがある。作品の多くは貴族エステルハージ・ミクローシュが収集したものだが、1871年に政府が買い取り現在にいたっている。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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現代美術館　　（ミューチャルノク）　Mucsarnok（Mucsarnok Exhibition Hall）

　英雄広場の、向かって右側、西洋美術館の真向かいにある。英雄広場に華やかな雰囲気を与えているこの建物では、国内、国外問わず世界で活躍している現代アーティストたちの作品を定期的に展示、細介している。常設展はなく、そのときどきに応じてさまざまな分野の企画展が楽しめる。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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ルドヴィク美術館　　Ludwig Museum

　ルドヴィク財団が所有する現代美術のコレクションを展示しており、リキテンシュタインやペンクなど現代美術を代表する作家の作品が見られる。

　　　［『世界　美術館の旅』(小学館、2002)から］

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ルーテル派教会博物館　　Evangelikus templom es Evangelikus Orszagos (Lutheran Church and Museum)

　デアーク広場の一角にある教会に併設された博物館。こぢんまりとした館内には、宗教改革から現在までにいたるルーテル派教会（ルター派）の聖書や文献資料、聖杯、燭台、絵画などが展示されており、厳かな雰囲気が漂っている。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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ヴァザレリ美術館　　Vasarely Muzeum (Vasarely Museum)

　オプ・アートの筆頭として知られるヴィクトル・ヴァザレリ（1908〜97）は、ハンガリー南方の町ペーチに生まれ、パリを拠点に活躍した。作品は美しい幾何学模様で、キャンバス上でゆがんだり３次元に見えたりする不思議な雰囲気を作り出している。そのほか立体作品や、国外在住のハンガリー人画家たちの作品も展示されている。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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●センテンドレ　Szentendre

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セルビア正教会の美術館　　Szerb Ortodox Egyhazmuveszeti gyujtemeny (Serbian Ecclesiastical Art Museum）

　セルビア正教会の隣にある八角形の２階建ての建物には、セルビア正教会にまつわる貴重品が並ぶ。イコンや聖杯、司教の法衣など展示品のほとんどは18世紀のもので、いずれも保存状態がよく見ごたえがある。
　描かれたキリスト像には赤い法衣のものと青い法衣のものがあるが、これはかつては神を意味する赤で塗られていたものをキリスト＝人という考えから青く塗り直したためだという。

センテンドレ
　ブダペストから北へ約19km、毎年100万人以上の観光客が訪れるセンテンドレ。日帰りで気軽に訪れることができる、小さな美しい町だ。14世紀頃より交易商人でにぎわう商業都市として栄え、15世紀にはオスマン・トルコの支配から逃れてきたセルビア人が定住した。現在でもセルビア文化が色濃く感じられる。1920年代にはアーティストたちのコロニーが生まれ、現在15以上の美術館やギャラリーが集まっている。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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チョーベル・ベーラ美術館　　Czobel Bela Muzeum（Czobel Museum）

　世界の巨匠マチスやピカソと親交があったことでも知られるチョーベル・ベーラ（1883〜1976）の作品は、フランス印象派の影響が色濃い。がっしりとした筆致は生への賛美を力強く訴えている。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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クメッティ・ヤーノシュ美術館　　Kmetty Janos Muzeum（Kmetty Museum）

　クメッティは1889年にミシュコルツで生まれた。20代前半にパリに留学した後、フェレンツィ・カーロイに師事し、印象派の作風を学んだ。その後もキュビスムやアールヌーヴォーなど数々の様式を取り入れ、第２次世界大戦前に巻き起こった多くの芸術運動にも意欲的に参加した。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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バルチャイ・イェヌー美術館　　Barcsay Jeno Muzeum（Barcsay Museum）

　センテンドレ周辺の町並みや人々を、構成主義的な陰影で描いたパルチャイ・イェヌーは、構成主義と立体主義芸術の旗手。とりわけ若い男女の肉体美を立体的に素描したスタイリッシュな手法は、広く美術の教科書などで紹介された。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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フェレンツィ美術館　　Ferenczy Muzeum（Ferenczy Museum）

　1951年に開館した町で最も古い美術館。ハンガリー印象派の巨匠フェレンツィ・カーロイ Ferenczy Karoly（1862〜1917）の作品を中心に、フェレンツィ・ベーニ Ferenczy Beni やフェレンツィ・ノエミ Ferenczy Noemi の作品を展示。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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ヴァイダ・ラヨシュ美術館　　Vajda Lajos Muzeum（Vajda Lajos Museum）

　戦争や宗教など、尖鋭的なテーマを意味深長なコラージュで表現している。ペイントのみでなく、ジャーナリスティックな写真なども取り入れた作風は、ふと目を奪われる不思議な魅力をもつ。ヴァイダ・ラヨシュ（1908〜41）は、22歳でパリに留学し、ロシア・アヴァンギャルドの影響を強く受けたとされる。27歳でセンテンドレを創作の本拠としたが、肺の病気を患い、33歳で短い一生を終えた。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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●エステルゴム　Esztergom

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キリスト教博物館　　Kereszteny Museum (Christian Museum)

　ハンガリーにおけるキリスト教美術のコレクションが展示されている。展示は15世紀後半の宗教画や聖人の木彫像が中心で、相当数に上る。建物は大司教館の一部を移築したもので、展示品は19世紀の大司教シモル・ヤーノシュが収集していた貴重なものばかりだ。

大聖堂　Szent Adalbert Foszekesegyhaz（Cathedral）
　高さ100m、直径53.5mのドームを頂く壮大な新古典様式の大聖堂は、創建当初から現在にいたるまでハンガリー・カトリックの綜本山であり、国内最大の大聖堂である。建国の祖である聖イシュトヴァーンとともに1万Ft札の絵柄にもなっている。
　現在の聖堂は、オスマン・トルコの襲撃によって破壊された後、1822年から約50年をかけて再建されたもの。1856年の

エステルゴム　Esztergom
　ハンガリー・カトリックの総本山である大聖堂を有するエステルゴムは、キリスト教国家としてのハンガリー建国の地だ。西暦1000年、初代国王イシュトヴァーン１世は、ドナウ川を望むここエステルゴムの小高い丘に王宮と大聖堂を築いた。ここに西洋文明の一翼を担うキリスト教国として、ハンガリーはその歴史の幕を開けたのである。16世紀にはオスマン・トルコの侵攻によって占領されたものの、現在にいたるまでハンガリー・カトリックの中心地であり続けている。奉献儀式を兼ねたミサでは作曲家リスト・フェレンツが曲を提供したことでも知られている。内部では、窓から差し込む光が白壁に反射し、美しい装飾が明るく照らされている。なかでも圧巻なのは、祭壇上部を飾る絵画「聖母マリアの昇天」。イタリア人のグレゴレッティ作で、大きさは13.5mX6mにも及ぶ。１枚のキャンバスに描かれた絵画としては世界最大級。
　祭壇右側にある宝物館の人口には、ハンガリー史を飾る重要人物の肖像画が数十枚並んでいる。展示物は約350品にも及び、アールパード王朝（10世紀末）から伝わる金色の聖杯や十字架がまばゆい光を放つ。なかでも歴代のハンガリー国王が戴冠式で宣誓した十字架は、宝物館きっての貴重品だ。なお、地下には旧ソ連に反対していた大司教ミンドセンテイ・ヨージェフなどの墓石がある。

王宮博物館
　13世紀、ベーラ４世（在位1235-70）によってブダに遷都されるまで、歴代のハンガリー国王の居城だった建物。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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●ヴァーツ　Vac

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ヒンツ・ジュラ・コレクション　　Hincz Gyula Gyujtemeny（Hincz Gyula Coltection）

　１階部分にはヴァーツ周辺から出土した石器や土器、装飾品が並ぶ。２階は画家ヒンツ・ジュラによる絵画や彫刻などの作品が展示されている。

大聖堂　Szekeseguhaz（Cathedral）
　1775年、ミガジ司教の時代に創建され、ハンガリー新古典様式の建築物としては最古のひとつに数えられる。その特徴は左右に平行して突き出た塔と、正面に並ぶコリント様式の列柱だ。設計はフランス人イジドル・カネヴェル Isidore Canevaleで、内部にはフランツ・アントン・マウルベルチ Franz Anton Maulbertsch のフレスコ画「三位の勝利」が掲げられている。ところで、この大聖堂は町の規模と比べるとやや大き過ぎる感がある。ある意味では、当時ハブスブルク皇帝の寵愛を受けた司教が、いかに強大な権勢を誇ったかが推測できる建物だといえよう。

ヴァーツ　Vac
　センテンドレからドナウ川の対岸を北へ約15km、のんびりとした町並みのヴァーツは歴史の古い町だ。２世紀頃からドナウ川を渡る交易の中継地点となり、11世紀イシュトヴァーン１世の時代にキリスト教自治区として発展。16世紀にはオスマン・トルコの侵入によって全壊したが、18世紀以降ミガジ司教らが町の再建に着手した。1846年にペスト市との問に鉄道が敷設された最初の町でもある。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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ドナウ川以西地方

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−中央トランスダヌーヴィア地方

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●セーケシュフェヘールヴァール　Szekesfehervar

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チョーク・イシュトヴァーン・ギャラリー　　Csok Istvan Keptar

　イシュトヴァーン王博物館　lstvan Kiraly Muzeum（King Stephen Museum）は、考古学に関する展示が豊富で、特に東ケルトの陶器コレクションは質・量ともに国内最大級である。展示品は鎧や馬具の鉄片、装飾品など。当時の人々の姿や生活が、図画でわかりやすく説明されている。しかし、イシュトヴァーン王にまつわる展示品はほとんどない。
　なお、博物館から徒歩３分のところにはチョーク・イシュトヴァーン・ギャラリー Csok Istvan Keptar がある。ギャラリー内にはパリで活躍したハンガリー人画家チョーク・イシュトヴァーン（1865〜1961）の作品が展示されている。

聖イシュトヴァーン大聖堂
　２本の塔に挟まれた３体の聖者像が美しい。建物は1470年に完成したが、トルコ軍の攻撃で崩壊し18世紀中頃にバロック様式の聖堂として生まれ変わった。天井のフレスコ画はヨハン・シンバル Johannes Cymbal の作品。この大聖堂でひときわ目を引くのが、隣の聖アンナ礼拝堂向に向かって掲げられている木製のキリスト裸像だ。これは、1956年ハンガリー動乱の殉死者に捧げられたもの。漆黒の木片に刻まれたイエス・キリストの複雑な表情にじっと見入っていると、旧ソ連の支配にあえぎ、冬の時代を過ごしたカトリック信仰者たちの忍耐がひしひしと伝わってくるようだ。

セーケシュフェヘールヴァール　Szekesfehervar
　ブダペストとパラトン湖のほぼ中問点にあり、湖観光の玄関口にあたる。ハンガリー最古の町として見どころが多いうえ、ブダペストから日帰りで訪れることもできるとあって観光客に人気だ。町の歴史は９世紀末に始まる。ハンガリー最初の王朝を開いた大首長アールパードが陣地を構え、イシュトヴァーン１世がアルバ・レギアと呼ばれる聖堂を造成したことから、歴代ハンガリー国王の戴冠式が行われる地となった。セーケシェフェヘールヴァールとは“戴冠の白い城”という意味で、白はハンガリー王室を象徴する色である。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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ポリ城　　Bory var（Bory Castle）

　建築家ポリ・イェヌー Bory Jeno（1879〜1959）が造った城。20世紀初頭に建てられたものだが、独自の設計に基づいて中世風の装飾が施され、細部まで非常に凝っている。また、彼は画家・彫刻家でもあり、城内にはおびただしい数の作品が展示されている。伝説的な愛妻家としても知られており、妻をモデルとした作品からはその愛情が伝わってくるようだ。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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−西トランスダヌーヴィア地方

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●ショプロン　Sopron

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聖霊教会　　Szentlelek templom（Holy Spirit Church）

　創建は1406年で、1782年に改築された。建物には1782年当時の面影が残り、独特の風情がある。内部に見られる美しいフレスコ画は、18世紀の画家ドルフマイスター Dorfmeister によるものだ。教会隣の２階建ての建物は、ヒルド・ベンツェル設計の司祭館。ここには貴重な絵画コレクションが保存されているが、残念ながら見ることはできない。

中央広場
　もとは14世紀に起源をもつ市場であり、現在は三位一体像が建つショプロンの中心。火の見塔や山羊教会、市庁舎が広場を囲む。興味深いのが、広場の北側に建ち並ぶ14世紀に建設された３軒の家。向かって右よりシュトルノの家 Storno-haz、ラックネルの家 Lackner-haz、ファブリツィウシュの家 Fabricius-haz と並んでいる。シュトルノの家はマーチャーシュ王が1482〜83年に滞在したことで知られ、1872年にスイス出身の美術品収集家シュトルノが買収。現在では内部が公開され、ルイ16世様式のダイニングルームやシュトルノ家が収集した美術品が展示されている。ラックネルの家は、元市長ラックネル・クリシュトーフ（1571〜1631年）の邸宅。現在は雑居アパートになっている。ファブリツィウシュの家は博物館になっており、ローマ時代の彫刻や17世紀からの家具コレクションが見学できる。

ショプロン　Sopron
　オーストリア国境から約６km、中世都市ショプロンはオスマン・トルコ軍の襲撃を免れた、国内でも数少ない町のひとつ。旧市街はゴシック様式や初期バロック様式の歴史的建造物が軒を連ね、中世の面影を今に伝える美しい町並みを残している。また、フェルトゥード、ナジツェンクへの玄関口でもあり、ハンガリー西部を代表する観光地だ。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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●フェルトゥード　Fertod

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エステルハージ宮殿　　Esterhazy-kastely（Esterhazy Palace）

　1720年、エステルハージ・ヨージェフ伯爵が狩りの館を遣らせたのがこの宮殿の始まりとされる。エステルハージ家は16世紀頃より不動産の取引などで財を成した大富豪だが、とりわけ18世紀後半のエステルハージ・ミクローシュの時代には華麗なる絶頂期を迎えた。彼はハプスプルク家に仕え、「ハプスプルクが供するものはエステルハージも供するのだ」と豪語したという。現在みられる宮殿は、彼の命により1762〜66年にかけて建てられたもので、ウイーンのシェーンブルン宮殿を模したともいわれる。さらに18世紀にはオペラハウスや人形劇場も建設された。
　エステルハージ宮殿を語るうえで欠かせないのが、交響楽の父ヨゼフ・ハイドン（1732〜1809）だ。彼は宮廷音楽家として仕え、第45番嬰ヘ短調「告別」（1762）や第48番ハ長調「マリア・テレジア」（1768〜69）などをここで作曲した。宮殿内にある音楽ホールにはグランドピアノが置かれ、毎年5月末〜9月末にかけて彼の名を冠した宮殿コンサートが催されている。音楽ホールに隣接しているのが、コンサートの際に観客が入るセレモニーホールだ。高さ約10mの天井には、太陽神アポロンと４頭の馬がどこから見ても正面に向かって走ってくるよう描かれている。
　ハイドン生誕250年を記念して宮殿内に設置されたハイドン展示室には、リスト・フェレンツの実父をはじめとする数多くの宮廷音楽家たちの肖像画や譜面が並んでいる。また、この宮殿で奏でられた音の芸術を愛でたひとりにマリア・テレジアがいる。彼女は1773年に貴賓として迎えられ、仮面舞踏会にも参加した。彼女が滞在した部屋にはベッドが残され、サロンには肖像画が掲げられている。
　その華やかな宮廷文化は、館内の調度品や陶器コレクションなどからもうかがい知ることができる。フランス、イタリアをはじめ世界各地から集められた品々はどれもすばらしいものばかりで、中国風サロンまである。ほかに中国製の金魚鉢や1700年に作られた日本製のタンスも置かれている。また、１階の暖炉室から熱風を吹き上げる床下暖房設備まで整っていたというから驚きだ。
　このように栄華を誇ったエステルハージ家であったが、1790年ミクローシュの死後は没落の一途をたどり、両大戦後に宮殿はなかば廃墟と化した。現在の建物は1957年以降に修復されたもの。

フェルトゥード　Fertod
　ショプロンから約27km、多くの水鳥が集まる湿地帯にひっそりとたたずむ町。“ハンガリーのヴェルサイユ”と呼ばれるエステルハージ宮殿を擁するが、町自体は人口約3000人とバスで一瞬のうちにとおり過ぎてしまうほど小さい。それでもこの町唯一の見どころ、壮麗なバロック様式宮殿への見物客はひきもきらない。宮殿内は、からし色の壁面が手入れの行き届いた芝生と調和し、18世紀に権力を極めたエステルハージ家の栄華が再現されている。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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●ソンバトヘイ　Szomhathely

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ソンバトヘイ美術館　　Szombathely Keptar

　宝物も発見された。神殿の隣は現代美術作品が展示されているソンバトヘイ美術館 Szombathely Keptar。また、通りを挟んで反対側の角にはシナゴーグが見える。これはルドヴィク・ェューネ Ludwig Schone の設計により1880年に建築されたもの。1975年からはコンサートホールとして使用されており、ハンガリーの名作曲家の名前をとってバルトーク・ホールと呼ばれている。また、教会広にはハンガリーで３番目に大きいとされている大聖堂がある。建築家メニヘルト・ヘフェレ Menybert Hefele が中心となり1791年から23年もの月日をかけて完成。祭壇にはハンガリーの代表的画家マウルベルチのフレスコ画が飾られている。

ソンバトヘイ　Szomhathely
　ハンガリー西部、オーストリアとの国境近くにある歴史深き古都ソンバトへイ。紀元前43年ローマ皇帝クローディオによって築かれ、その昔はサヴァリアと呼ばれていた。107年にはローマ帝国パンノニア州の州都となる。その後町は衰退したが、1777年マリア・テレジアによって再興された。オスマン・トルコの支配を免れたため、今でも町なかには古代ローマや中世の遺跡が残る。現在はハンガリーにおける軽工業の中心地でもある。
　風格あふれる建物はサヴアリア博物館 Savaria Muzeum だ。館内にはローマ時代の石器類をはじめとしてソンバトヘイ付近で発掘された品々が多く展示されている。1848年の独立戦争時のコレクションもすばらしい。
近くにはローマ遺跡園がある。中央広場から徒歩約5分のところに、もとは１〜２世紀に造られたというアイシスの神殿がある６本の石柱をもつ荘厳な神殿跡で1950年代には地下から宝物も発見された。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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−バラトン湖

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●バダチョニ　Badacsony

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エグリ・ヨージェフ記念美術館　　Egry Jozsef Emlekmuzeum

　バラトン湖に生きる農夫や漁師を描いた作品が観られるエグリ・ヨージェフ記念美術館 Egry Jozsef Emlekmuzeum へ足を運ぼう。

バダチョニ　Badacsony
　数あるバラトン湖の眺望のなかで、最も雄大かつ美しいといわれるのが、バダチョニ山　Badacsony　hegy　からの眺めだ。ハンガリー国内でも有数のワイン産地。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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−南トランスダヌーヴィア地方

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●ペーチ　Pecs

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カープタラン通りの美術館　　Kaptalan u.

　ジョルナイ（陶芸家）博物館の脇にある建物には、1890〜1950年のアートが数多く展示されている現代ハンガリー絵画館 Modern Magyar Keptar と、20世紀後半にベーチで活躍したマルティン・フェレンツ（1899-1986）による絵画、彫刻などが展示されているマルティン美術館 Martyn Museum が入っている。
　ジョルナイ博物館の向かいに位置するのはヴァザレリ美術館 Vasarely Muzeum。ペーチ生まれのヴィクトル・ヴァザレリ（1908−1997）は、幾何学模様や目の錯覚を利用したモダンアートの旗手であった。
　ネメシュ・エンドレ美術舘 Nemes Endre Muzeum は、ペーチで生まれストックホルムで過ごしたあと1978年に帰国した、ネメシュ・エンドレ（1909〜1985）により創設された。モザイク状にデフォルメされた奇怪な人物像などが描かれている。
　ドーム広場近くにあるチョントヴァーリ美術館 Csontary Muzeum は、１階のカフェをとおり抜けて階段を上った２階が展示室となっている。チョントヴァーリ・コストカ・ティヴァダル CsontvaryKosztka Tivadar（1853〜1919）は、もともと薬剤師だったが、27歳のときに「偉大な画家になる」との啓示を受け、ヨーロッパ各地を放浪しつつ絵を描いた。力強い独特のスタイルの絵画が強い印象を残す。

ペーチ　Pecs
　ハンガリー第４の都市ペーチは活気にあふれた学生の町だ。ローマ時代にはソピアネと呼ばれ、すでにキリスト教の中心地のうちのひとつであった。14世紀に国内最初の大学が創立され、学問文化や商業の中心地として発展した。また1543年から150年にわたってオスマン・トルコに占領された時代に受けたビザンチン文化の影響も色濃く残っている。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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ドナウ川以東地方

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−北ハンガリー地方

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●エゲル　Eger

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エゲル城アート・ギャラリー　　Egri-var（Eger Castle）

　旧市街を望む丘の上に13世紀に建てられた城。1552年、すでにブダを制したトルコ人がエゲルを襲撃したが、城主ドポー・イシュトヴァーンの下、この城に立てこもったハンガリー軍はついにトルコ軍を追い返してしまった。最終的には1596年の２度目の戦いでドボー率いる軍は敗れてしまうが、それまで町を守った彼は、エゲルだけでなくハンガリーの国民的ヒーローとして今も語り継がれている。

エゲル　Eger
　ハンガリー北東に位置する、マートラとビュックの山々に囲まれた高原の町。ハンガリーの子供たちの遠足地としても人気があり、毎年120万人もの人が訪れる。
　エゲルには、数々の武勇伝が残るエゲル城をはじめ古い建物が多く、重要文化財の数はブダペスト、ショプロンに次いで国内第３位。近代化の波に取り残されたのがかえって幸いし、町そのものが生きた博物館と称されている。
　そしてエゲルといえばハンガリー有数のワインの産地。エゲル産の“雄牛の血”を意味するエグリ・ビカヴェールは、ハンガリーを代表する赤ワインのひとつだ。
　現在、城壁の内側には13世紀の聖堂の跡と15世紀のゴシック様式の司教館があるが、城館は残っていない。司教館には、16〜18世紀の各国絵画を収めたアートギャラリー、囚人博物館、歴史展示といった施設があり、ドポー・イシュトヴァーン博物館 Dobo lstvan Mzeum と総称されている。昔の兜や鎧などを使い、トルコとの問で繰り広げられたさまざまな歴史的なできごとを再現した展示は見ごたえがある。迷路のような地下要塞部分もおもしろい。

ガールドニ記念館　Gardoninyi Emlekmuzeum (Gardonyi Memorial Museum）
　エゲル城の裏側の門からすぐ、通りを隔てた向かい側にある。トルコとの戦いを題材にした小説『エゲルの星』を書いた作家、ガールドニ・ゲーザが暮らしていた家をそのまま記念館にしたもの。入って左側が寝室、右側が書斎兼客間だった部屋だ。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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−大平原地方

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●デブレツェン　Debrecen

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デーリ博物館　　Deri Muzeum（Deri Museum）

　おもに考古学と民族学に関するもの、また19〜20世紀の芸術作品が展示されている。最大の見どころは、19世紀のハンガリーの巨匠ムンカーチ・ミハーイ Munkacsy Mihaly（1844〜1900）によるキリストをテーマにした３部作「稔督ピラトの前のキリスト」「ゴルゴダ」、「この人を見よ！」だ。どれも4mX6m以上の大作で、館内でも別格扱いで展示されている。デブレツェンに来たならまずは観ておきたい傑作だ。
　なお、博物館の前にある４つの像は彫刻家メッジェシ・フェレンツの作で、科学、芸術、考古学、民族学を象徴している。

メッジェシ記念博物館　Medgyessy Emlekmuzeum（Medgyessy Memorial Museum）
　デブレツェン出身の彫刻家メッジュシ・フェレンツ（1881〜1958）の生家を博物館にしたもの。作品のほか、彼の生い立ちなどを解説する展示物がある。

デブレツェン　Debrecen
　ハンガリー第２の都市で、３つの総合大学と３つのアカデミーがある学園都市としても知られる。14世紀に起こった宗教改革でカトリック教会は閉鎖され、“カルヴァン派のローマ”としてカルヴァン派信者のみ居住が許されていたという。1848〜49年に起こった独立戦争では、短い期問ではあったがこの地が首都となった。また、第２次世界大戦末期には、ソ連軍の支援によりナチス・ドイツに抗する拠点となるなど、政治の表舞台にたびたび登場している。
　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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●セゲド　Szeged

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教育文化会館　　Kozmuvelodesi palota（Palace of Education）

　おもに19世紀後半から20世紀前半にかけてのハンガリー出身アーティストの作品を展示。セゲド出身の作家モーラ・フェレンツの愛用した机や家具、肉筆の書簡などが展示されているモーラ・フェレンツ博物館 Mora Ferenc Muzeum もこの中にある。重厚な雰囲気の建物の前には美しい庭園があり、中央には噴水が水しぶきをあげ、人々はベンチに座ってくつろいでいる。また、この建物の裏側から川沿いに緑量かな公園が広がっている。

ドーム広場
　誓約教会のある大きな広場。毎年夏にはここでオペラやミュージカルの上演を中心としたオープンエア・フェスティバルが行われる。ドーム広場の裏側にあるバロック様式の教会はセルビア正教会で、1778年に建てられた。中には貴重なイコンが納められている。

セゲド　Szeged
　セルビアおよびルーマニアとの国境に近い、ティサ川とマロシュ川が合流するハンガリー南部の中心地。11〜12世紀には地の利を活かした塩貿易で発展し、トランシルヴァニア地方から塩を積んだ船が絶えず行き来していた。しかしその後、戦争や洪水で町は幾度となく破壊された。現在の町は、20世紀に入って各国の援助で整えられたもの。ビジネスマンや留学生、ルーマニアやセルビアなどから働きに来ている人など外国人の姿も多く、インターナショナルな雰囲気がある。また、夏には大規模なフェスティバルが開かれ、コンサートやミュージカルなどが連日開催される。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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●ケチケメート　Kecskemet

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ケチケメート・ギャラリー　Kecskemet Galeria（Kecskemet Gallery）

　ピンクの外壁が印象的な美術館。１階は現代、２階は19世紀半ば頃の作家の油彩画を中心に展示。３階にはセゲド出身の画家トート・メニヘルト Toth Menyhert の作品が並ぶ。柔らかい色彩の人物画がすばらしい。これら展示ももちろん見事だが、注目すべきは建物だ。マールクシュ・ゲーザの設計で1914年に完成したもの。マールクシュは市庁舎（1896年完成）を設計したレヒネルの影響を受けている。個性的な装飾に彩られ、地元の人には“装飾宮殿 Cifrapalota”の名で親しまれている。

コダーイ音楽研究所　Kodaly Zenepedagogiai Intezet（kodaly Institute of Music Education）
　ケチケメート出身の音楽家コダーイは「コダーイ・システム」といわれる独特の音楽教育方法を編み出した。そのシステムに従って指導が行われるこの音楽学枚では、コダーイの人生や仕事について、小規模のパネル展示が見られる。

ケチケメート　Kecskemet
　作曲家コダーイや劇作家カトナを生んだ町。19−20世紀に若い建築家がここケチケメートで活躍し、今でも彼らの残したユニークなフォルムの建物が数多く残されている。周囲は中世から農業が栄えた農耕地で、現在でもアンズやプラムなどの果実栽培が盛ん。ハンガリー特産の蒸留酒パーリンカのなかでも、ケチケメート名産のアンズを使ったバラック・パーリンカは特に有名だ。
　自由広場の中心には17世紀に建てられたカルヴァン派教会が、市庁舎の向かいには聖ミクローシュ教会が、そして市庁舎の隣には古い教会がある。コッシュート広場から歩いて10分くらいの所には、身近な題材を素朴な力強さで描くナイーヴアートを集めたナイーヴ美術館 Naiv Muzeum と、20世紀初頭の玩具を展示するおもちゃ博物館がある。

　　　［『地球の歩き方　ハンガリー』(ダイヤモンド社)から］

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■ルーマニア　Romania■

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ワラキア平原地方　Wallachia (Tara Romanescea)

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●ブカレスト　Bucharest

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ルーマニア国立美術館　　Muzeul national de Arta

　　　図録『ルーマニア国立美術館展』(毎日新聞社、1979) 抄
　　　図録『東欧の光　ルーマニア近代絵画の巨匠たち展』(朝日新聞社、1995) 抄
　　　図録『ルーマニア国立美術館所蔵　16-18世紀ヨーロッパ絵画展』(毎日新聞社、1995) 抄


　以下「図録『ルーマニア国立美術館展』(毎日新聞社、1979)」から

あいさつ
　このたび毎日新聞社では，ルーマニア社会主義共和国政府の全面的なご協力のもとに「ルーマニア国立美術館展」を開催できる運びとなりました。
　日本人の芸術への関心の高さに対し，チャウシェスグ大統領は，深い理解を示し，初の大規模な作品が国外に出品されることになりましたのは，まさに異例なことでありました。本展には，はるばるルーマニアの首都にあるブカレスト国立美術館およびシビウ市のプルケンタール博物館など５美術館に所蔵されている作品約８万点のなかから，同国の美術学者によって国宝級の名画が厳選されました。
　中世以降近世ヨーロッパ絵画の源流が，各国へヘどのようなかたちで受入れられ，発展したかの“美の軌跡”をたどる構成とし，栄えたフランドルからヨーロッパ全体に影響を与えたピーター・ブリューゲルの息子（ピーターとヤン）やルーベンス，ドイツの有名な肖像画家グラナッハなどのほか，オランダ，オーストリア，イタリア，スペインなどルネッサンスから18世紀のヨーロッパ絵画が網羅されています。それとの対比で，ルーマニアの美しい風土，そこに生きる人々の営みを描いたルーマニア絵画の色彩美が躍動しており，併せて70点の展観は壮大な実のドラマであると信じる次第です。 　最後に本展開催にあたり，ルーマニア国立美術館をはじめとし，日本ルーマニア友好協会，またご後援いただきました外務省，文化庁，ルーマニア社会主義文化教育評議会，ルーマニア駐日大使館，並びに関係者各位に対して，心から感謝の意を表する次第です。
　　　1979年10月　毎日新聞社

　今回の「ルーマニア国立美術館展」のため，貴重な作品を出品してくださったルーマニア国立美術館，プルケンタール博物館，美術コレクション美術館（K．H．ザンバクチアン・コレクション，エレナ，�T．N．ドナ博士コレクション，ガラベット・アヴァキアン教授コレクション，アナスタセ・シム・コレクション，エリザベタ，モイセ・ヴェンベルグ・コレクション），ヤシ一美術館，クライオヴァ美術館，コンスタンツァ，トパラのディヌ，セヴァストラ・ヴィンテイラ美術館の厚意ある御協力に感謝の意を表します。
　　　毎日新聞社

序文
　　　ルーマニア国立美術館長　アレクサンドル・チェブック
　現代はイメージの時代です。イメージは文化伝達の直接的な手段のひとつです。イメージとして芸術が誕生し，その展開や役割について科学的な思考が進んだ結果，美術館の組織についても，単に芸術的遺産を保存し，展示するだけでなく，教育的にも重要な意味をもつだけに，これまでのやり方に大きな影響を与えるようになりました。
　ルーマニアで美術館に対する関心が高まったのは，愛国主義的，進歩主義的気運が高まった1848年頃でした。しかし重要な，価値ある美術コレクションはすでに18世紀に，一般の人もこれになじめるという考え方がおこり始めた時に形成されてきました。サムエル・フォン・プルケンタールのコレクションはその一例で，これはトランシルヴァニアでは最古の，また最も重要な博物館であるシビウのプルケンタール博物館のもととなりました。
　ルーマニアの美術館の始まりは，国内各地での一連の真剣な試みを別にすれば，若干の重要な年代にしぼられます。つまり1834年にはブカレストに国立美術館が組織され，1850年にはこれに絵画館が加えられました。1864年にはアレクサンドル・イオアン・クーザ公がルーマニアの首都に国立絵画館を設立しました。
　20世紀の最初の20〜30年間に，ブカレストにルーマニアの文化人，科学者，コレクターが美術館の門戸を一般に開きました。これはアナスタセ・シム（1910年），イオアンおよびニコラエ・カリンデル（1915年），それにトマ・ステリアン（1926年）といったルーマニア文化の重要な担い手たちがイニシアチブをとってくれたお陰です。1947年の共和国宣言の後は，ブカレストの個人美術館のコレクションは，旧王室コレクションと合併されて，我が国最大の美術館であるルーマニア社会主義共和国国立美術館の中核となりました。
　この美術館のコレクションは，国内の他の美術館のそれと同じく過去30年間に政府予算で買ったものや寄贈などにより飛躍的に充実しましたが，その際重点は過去の巨匠たちの作品におかれました。 　ルーマニア社会主義共和国における美術館のめざましい発展に際し，それ相応の重要な役割を演じたのがシビウのプルケンタール博物館，ヤシー，グライオヴァ，コンスタンツァの各美術館でした。今回の出品作は，ルーマニアおよび諸外国の作品を総体的に日本の皆様に見て頂くため，これらの豊富なコレクションから選ばれています。
　私たちは，近代および現代のルーマニアの画家たちの今回の出品作の中に，ルーマニア国民の生活や精神，芸術的感受性や才能などが映し出されていることを願っております。
　今日までのルーマニア美術が，いつの時代をとっても，ヒューマニスティックな諸価値や，ルーマニア社会の理想を推進し，またその高揚した精神をうたい上げてきたことはよく知られております。
　地理的に見たルーマニア国民の枠内では，ある共通のヴィジョンが過去数世紀にわたってルーマニアの芸術家たちを結びつけ，また時の試練をへて人間的な芸術の定着を可能ならしめる風土が形成されました。
　本展には様々に異なる表現様式をもつ芸術家の作品が出品されていますが，しかしそこにはヒューマニスティックな内容や，抒情的な感受性と構成能力の総合，独特の思考と感情のパターンという，我がルーマニア国民の特質が共通項となって現われています。
　ルーマニア美術の統一性は，人種的，心理的な構造，人生の理想，また個々の芸術家の似たような形成過程などによって支えられていますが，それは単に作品の様式や内容の類似性という点ばかりでなく，その共通の哲学的背景の中にも現われています。
　中世のルーマニア美術の伝統に基礎をおき，美術学校やアカデミーと常に接触を保ち，またミュンへン，ウィーン，ローマ，パリのアトリエとも接触を保っていたルーマニア絵画は，1848年の革命の波や，1859年のルーマニア公国の統一，またとりわけ1877〜78年にかけての戦争によって得たルーマニアの独立により大きな刺激をえました。
　これらの出来事に直接関与することにより，ルーマニアの芸術家はその作品の幅と厚みをまし，そこに新しい意味を与え，また力強い愛国的な精神を吹き込みました。こうした状況下に，芸術の社会的，教育的意義や，前向きの思想や自由，進歩などを推進する上での芸術の役割を十分に認識した市民芸術家が育ってきたのです。
　ニコラエ・グリゴレスグとイオアン・アンドレエスクは19世紀のルーマニアを代表する画家に数えられています。
　彼らはその作品を通じてルーマニアの風景の美しさとその特質をうたい上げ，また愛情と理解をこめてルーマニアの農民の婆を描き出しました。
　彼らはその作品の内容がすぐれて国民的であることにより，またその表現様式によりルーマニア美術の先駆者の１人に数えられています。
　シュテファン・ルキアンについても同じことが言えます。
　20世紀初めのこの偉大な革新的な画家は，都会や農村の素朴な人々の生活振りや，息苦しいスラム街などを描いてルーマニア絵画に新しい次元を開きました。ルキアンは特に，ルーマニアの古い民衆芸術の精神的背景や色彩感覚を特に重視しながら描いています。
　両世界大戦間におけるルーマニア芸術の展開は，その前の時代に比べればはるかに複雑です。
　かなりの数の重要な芸術家が登場し，様々なジャンルの作品を生み，ルーマニア芸術全体の，また当時の芸術の発展に寄与しました。
　こうした動きはルーマニア国民画派の伝統，つまりそのヒューマニスティックな内容や抒情的で繊細な色彩感覚の再評価の動きに関連しています。芸術家はまたその霊感源を次第に都会の種々相に，抑圧された人人の生活に求め始めました。
　ギョルゲ・ベトラシュク，テオドール・パラディ，ニコラエ・トニッツァ，ヨシフ・イゼール，ルキアン・グリゴレスク，ディミトル・ギァツァ，フランシスコ・シラト，カミール・ルス，アレクサンドル・チュグレンク，コルネリウ・パパその他の主要な画家たちが登場してきたのもこの頃です。
　1944年以後の大きな社会的改革は，ルーマニア美術の発展にも大きな，好ましい影響を及ぼしました。これ以前にはなかった芸術活動に対する物質的な援助が可能となったため，当然のことながら芸術にその生活のすべてを捧げる人々の数は大幅に増えました。
　ルーマニア共産党の指導下に，新しい社会の建設に積極的に参加した画家たちはその能力を社会主義のために，その理想のために活かしました。彼らはそれぞれの様式でそのメッセージを描き表わしましたが，そこには人生を，普遍的な生活の種々相を余すところなく描いた芸術をルーマニア国民に捧げたいという気概があふれています。
　一方，ルーマニア絵画がルーマニア社会主義共和国の社会主義社会の発展に尽すルーマニア国民の生活振りや生きがいを反映していることはいうまでもありません。
　これらルーマニアの近代および現代の絵画と並んで，ルネッサンスから現代に至る様々な時代の華やかなヨーロッパ絵画を選抜して日本の皆様にお見せできることは私たちの喜びとするところです。これらの出品作はブカレストにあるルーマニア国立美術館とシビウのプルケンタール博物館のコレクションから選ばれました。というのもこれら両館にはルーマニアにおける西欧絵画の最大，最良のコレクションがあるからです。
　これら有名な画家たちの作品，疑うべくもない芸術的価値をもった彼らの作品，またそれらがそれぞれの様式およびジャンルの発展に対してもつ意義などは，これら両コレクションのレベルの高さを物語っています。
　ブルケンタール博物館ではオランダ派とフランドル派が中心をなしているとすれば（これはその創立者の好みを反映しているようです），一方ブカレストの美術館にはフランドル，オランダ，ドイツ，オーストリアおよびロシアなど各国の絵画が陳列されています。
　これらの絵がこの美術館に入る前の古い経歴を調べてみるのも面白いことです。その出所はたとえばルイ・フィリップ，アグアド・デ・ラ・マリスマ侯爵，スエルト元帥，ホセ・デ・サランカ侯，オルレアン公，コロン選帝侯，ナポレオン公爵，ジョルジュ・ド・ベィヨーノ公，ベレイル伯，フェリックス・バンベルグ領事など，ヨーロッパの有名なコレクションに求められるのです。これらにゲオルゲ・マヌ，ミハイル・コガルニチァヌ，イオアン・モヴィラ，アナスタセ・シム，それにゲオルゲ・オブレスクなどルーマニアのコレクターの名も加えなければなりません。
　これまで巨匠たちの名や有名な作品，有名な両派をあげることで，ブカレスト美術館のヨーロッパ絵画コレクションの大まかな輪郭を描くことに努力してきましたが，美術館には他に各時代の彫刻，工芸，装飾美術も含まれています。 　このコレクションをさらに完全なものとしているのは中近東の陶磁器，ミニアチュア，カーペット，武器，織物，それに宝飾品などです。
　現在ブカレストとシビウの美術館にあるコレクションの優秀性は，それが過去数十年間の国際的な大展覧会に出品されていることからも明らかです。たとえば1961年にポーランドのクラコフで開かれた14〜15世紀のイタリア絵画展には，アントロ・ダ・メシナの「礫刑」とエルコレ・デ・ロベルティの２点の寓意画「幸運」と「悪運」が出品され評判を呼びました。
　エル・グレコの大作「三王礼拝」と「マリアの婚約」および「聖マウリティウス」または「10，000人のテーベ人の殉教」は，パリ（1937年）とロンドン（1938年）の展覧会に出品され，またポズナニ（1967年）でのスペイン絵画大展覧会にはホセ・アントリネスの「聖女マグラのマリアの法悦」とルイス・トリスタンの「聖霊降臨」が出品され，それぞれ大いに注目を集めました。
1971年にドレスデンで開かれた大規模なデューラー時代のドイツ美術展には，バルトロメ・ツァイトブロームの祭壇画とハンス・ウェルティンガーの２点の肖像画がその質的な高さによって選ばれ，またフランドル派，オランダ派の作品も人々に感銘を与えました。たとえばメムリングの「寄進者像」とヤン・ファン・ダイクの「青い帽子の男」はブリュージュ（1902年）とロンドン（1906年）での大展覧会に出品され，またレンブラントの大作「エステラの許しを請うアマン」は，ケルン，アントワープ，アムステルダム，ロンドンなど各地の展覧会に出品されました。最後に，ブカレスト美術館所蔵のヨルダーンスの作品は，1968〜69年にかけカナダのオッタワで開かれた彼の大展覧会に出品されました。私たちは，今回の日本での展覧会がこれまでと同様成功を収めることを祈ってやみません。
　この展覧会は単に日本の皆様に，ルーマニアの大美術館にあるルーマニアおよびヨーロッパ各国の名画の一部に親しんで頂く機会を提供するだけでなく，私たちの平和と友好のメッセージを，より良く，より幸せな生活に向いつつある国民のメッセージをお伝えする手段でもあるのです。


　以下「図録『東欧の光　ルーマニア近代絵画の巨匠たち展』(朝日新聞社、1995)」から

あいさつ
　近代芸術の分野で多くの優れた作家を育てた東欧の国ルーマニア。1989年の民主革命で独裁政治が崩壊し、新しい時代の波が全土に広がっています。こうした背景のもとで、今まで絵画などが本格的に公開されることはほとんどありませんでした。今回、同国政府と同国立美術館の協力を得て、ルーマニアが生んだ近代絵画の巨匠たちの作品を初めて一堂に紹介いたします。
　ルーマニアが近代絵画の道で花開いたのは19世紀後半で、フランス印象主義から強い影響を受けながら、ルーマニア絵画独自の世界を築き上げ多くの天才画家を育みました。
　1874年パリで印象派の第１回目の展覧会が開催され、その２年後ニコラエ・グリゴレスクはフランスに出かけています。彼は、その光と色の主観的視覚表現をルーマニアに持ち込み、爽やかで軽快なタッチはルーマニア絵画に新境地を築くものとなりました。光と陰への鋭いまなざしで詩情豊かな風景を描いたイオアン・アンドレエスクや色彩の自由な構成を求めたシュテフアン・ルキアンなども加わり、ルーマニアの近代美術が大きく動きだしました。
　本展は、ブカレストの美術学校初代校長を務めたテオドール・アマンの≪舞踏会から帰って≫やニコラエ・グリゴレスクの≪浜辺にて≫などルーマニアを代表する６人の作家の作品92点を展覧しています。東欧ルーマニアの近代絵画の美術を心ゆくまでご鑑賞下さい。
　本展開催にあたりルーマニア国立美術館、ご後援を賜りました外務省、文化庁、ルーマニア文化省、ルーマニア大使館、またご協力いただきました日本航空並びに関係各位に対して心より厚くお礼を申し上げます。
　　　主催者

あいさつ
　20世紀の終わりに起きた大きな政治的出来事は、とりわけ中欧と東欧にその刻印を残し、さまざまな障害や政治的国境もいつかは乗り越えられる、という新たな希望を我々すべてに与えてくれました。文化はいつの世にも、人々がそれを通じてお互いについてより多くのことを学び、精神的連携を築く手だてとなって、諸国民、個人の争いをなだめてきたのであり、現に存在するギャップに橋を架けわたす最も安全で最も堅固な手段であることを証明してきました。
　この意味において、日本とルーマニアという、数千マイルも離れ、非常に異なる背景をもつ両国の間の恵まれた文化的関係は、一つの高貴な実例を示しています。
　このたびの展覧会の斬新さと意義は、それがルーマニア絵画だけを取り上げていることにあります。これまではブリューゲル、ルーベンス、レンブラント、あるいはエル・グレコのような芸術家が、入場者をひきつける芸術家でしたが、本展で展観される絵画の質が日本の美術愛好者を納得させて、ルーマニアの芸術家にそれにふさわしい地位を与えることになるものと、我々は期待しています。
　この計画に精神的・財政的支援をお寄せくださり、素晴らしい条件でそれを実現してくださったすべての方々に、厚くお礼を申し上げます。そのご尽力はあらゆる賛辞に値するものであり、心より感謝いたします。１年という短い期間に、日本の美術館はルーマニアのために２回の大きな美術展を主催してくださいました。ルーマニア国立美術館の同僚にとっても私にとっても、この上ない喜びであり、ありがたいことであります。会場を訪れた日本の皆様が、本展を鑑賞されて、私どもと同じように幸福を味わわれることを願うばかりです。
　　　ルーマニア国立美術館館長　ロクサーナ・テオドレスク


　以下「図録『ルーマニア国立美術館所蔵　16-18世紀ヨーロッパ絵画展』(毎日新聞社、1995)」から

あいさつ
　このたび，ルーマニア国立美術館・プルケンタール国立博物館所蔵「16−18世紀ヨーロッパ絵画展」を開催する運びとなりました。
　首都ブカレスト市のルーマニア国立美術館が所蔵するヨーロッパ絵画の質の高さについては，すでに広く知られておりますが，この展覧会にはその中からえりすぐった51点の作品が出品されています。また，トランシルヴァニア地方の由緒ある都市シビウのプルケンタール国立博物館から，これもきわめてすぐれた作品30点がおくられてきました。ヤーコポ・バッサーノ，マニャスコ，ピーテル・ブリューゲル（子），ルーベンス，ヴァン・ダイク，レンブラント，エル・グレコ，スルバラン，ルーカス・クラーナハ（父）などの作を含む81点は，文字どおり16世紀から18世紀にわたるヨーロッパ絵画の精髄を伝えて余りあるものであり，わが国の鑑賞者層を充分に満足させるであろうことは疑いありません。
　この催しの実現にあたって，ルーマニア文化省は深い配慮を示されました。そして，ルーマニア国立美術館のヴィオレル・マルジアヌ館長とプルケンタール国立博物館のアレクサンドル・C．ルング館長が私どもに示された理解，両館のスタッフ諸氏が準備の細部にわたって注がれた努力には，きわめて印象深いものがありました。ここに，ルーマニア側の関係各位にたいして，心から謝意を表する次第です。また併せて，ご後援をいただいた日本国外務省，文化庁，在日ルーマニア大使館および関係の各位に，厚くお礼を申しあげます。
　　　主催者

メッセージ
　ルーマニア国立美術館の所蔵するヨーロッパ絵画作品から，新たに精選した作品を日本の美術愛好家のみなさまのご覧にいれることは大きな喜びです。1979年に第１回展が開催された一連の展覧会の第３回目にあたるこのたびの展覧会は，これまでどおり今日では伝統となっている毎日新聞社の協力を得て日本各地の６つの美術館に巡回されることになっています。こうしていま私たちは日本のみなさまとともに，16世紀から18世紀にいたるイタリア，フランドル，オランダ，フランス，スペインそしてドイツの巨匠たちの手による51点の絵画作品を共有することができるのです。これらの精選された作品は，シビウのプルケンタール国立博物館の所蔵品から選ばれた同じく重要な作品と組み合わされ調和がとられています。
　このたびの展覧会でみなさまは，国立美術館の所蔵する至宝の作品からとくにレンブラント，ルーベンス，エル・グレコ，スルバラン，ヤーコポ・バッサーノ，ルーカス・クラーナハ（父）などの国際的な評価を得ている作品を目になさるでしょう。今回展示される作品の何点かは，ごく最近に国立美術館の修復スタジオで修復され，もとのすばらしさを取り戻した作品です。ヤン・ブリューゲル（父）≪木桶の花≫，アブラハム・ブルーマールト≪ヴィーナスとキューピッド》，ガスパール・デュゲ≪イタリア風景≫，ドメニキーノ≪幼児イエス≫，ヤーコポ・アミゴーニ≪歌手ファリネッリの肖像≫は，そうした作品のほんの一部分にすぎません。そのほかの最も貴重な絵画作品は，国外の定評あるスタジオで修復されました。このようなケースとしては，レンブラントのカンヴァス作品≪エステルの許しを乞うハマン≫（リンプルク修復スタジオ，オランダ1990年），ルーカ・ジョルダーノ≪制札》（ノンファルマーレ・スタジオ，ボローニヤ，イタリア，1991年），ジェンティレスキ≪若い母親≫（J．P．ゲッティ美術館，マリブ，カリフォルニア，1990−1991年）があります。
　ルーマニア国立美術館とプルケンタール国立博物館の専門家は，展覧会とこれに付随するカタログの準備について称賛に値しますし，カタログは作品の作者，制作年および図像についての最新の情報を提供しています。カタログの図版ならびにそのほかの付随する発行物，複製印刷物の品質に関する毎日新聞社の熱意に対しまして謝意を表します。
　また，この展覧会を主催する平塚市美術館，三越美術館・新宿，奈良そごう美術館，高松市美術館，茨城県近代美術館，千葉そごう美術館ならびにこれらの美術館のスタッフの貢献に対しまして感謝の意を表します。
　共同の努力の結果として，この展覧会はたんに大規模な文化事業であるばかりでなく，日本と日本のみなさまへの敬意を表するものでも　あります。
　　　ルーマニア国立美術館館長　ヴィオレル・マルジアヌ

ルーマニア国立美術館のヨーロッパ絵画コレクション
　　　美術史家・前ルーマニア国立美術館長　テオドール・エネスク
　1948年の国立美術館の開設について歴史的に述べると，一つあるいはそれ以上の王侯のコレクションを基礎として旧王宮の建物に置かれるという，ヨーロッパの多くの美術館の伝統の最後に連なるものであった。当時発布された政令は，これによってブカレストの旧王宮を共和国美術館の建物とし，国王の絵画館と王家の美術品のコレクションを新たに設立された機関の核とする法規を作り出した。これらにはさらに複数の小規模な美術館，例えば州立絵画館，シム美術館，カリンデル美術館，トマ・ステリアン美術館とその他の美術館の作品が加えられることとなった。おそらく1948年の政令を作った人々は，国家の最も重要な美術館を，海外作品ばかりでなくルーマニア固有の美術についても，その全体像を表すことができるほど広範なコレクションにしようとする野心をもっていたようだ。かつての個別のコレクションは，それ自体ではあるいはあまりめざましいものではないが，それでもなおその歴史と独自性は国立美術館のヨーロッパ絵画コレクションの全体的な輪郭を明らかにしている。
　例えば，1864年にブカレストに設置された州立絵画館は，版画と絵画の小規模なコレクションを基礎としていた。少数の（あまり重要でない）ヨーロッパ美術の寄贈品は，後年になって取得されたものであり，実際上，発展の要因とは見なし難いものであるが，それらは現存のルーマニア美術家からの取得品であり，明らかに教育目的を意図して要望に応じて購入もしくは，名作を型取ったものか模写であった。
　富裕で，情熱的で気前のよいコレクターであったアナスタシエ・シムは，1910年に自らの名を冠した美術館を設立している。絵画，彫刻，版画，素描からなる彼の豊富なコレクションは、価値の大きく異なる作品を含んでいた。しかし，マネ，ルノワール，ピサロ，シスレー，シニャックらの印象派の絵画の筋のとおった作品群が存在したこと（現在はヨーロッパ絵画部門に所蔵）は，シムのフランス美術との特別な関係ばかりでなくコレクターとしての鋭い直観力を証明している。
　かなり気まぐれで，きわめて偶然に寄せ集められたイアンク・カリンデル・コレクション（後のカリンデル美術館）ではあるが，これもまた数点の西ヨーロッパの重要な美術作品で貢献しており，そこにはアッローリの作品が含まれていることを挙げないわけにはいかない。
　前述の２つのコレクションと異なって，トマ・ステリアン美術館は，イオン・カンタクジノのような鑑定家によって啓発され，美術館の設立に貢献した複数のコレクターからの寄贈品を基礎とし、数点の購入品がつけ加えられた。ダーフィット・テニールス（子）≪ケルメス（農民の祭り）≫，パドヴァニーノ≪スザンナと長老たち≫，ラルジリエールの肖像作品などがこの美術館の旧蔵作品である。
　個別の特徴と得意とする分野をまったく別にすると，前述の美術館は共通の特性を有している。それは，今世紀初頭の10年間にルーマニア社会で広く行われた，一貫性を相当に欠いた折衷的な趣味と場当たり的な収集の習慣を示しているのに加えて，作品を国際的な美術市場に求めようとしたときに地方のコレクターが直面せざるを得なかった経済力の限界といったものをも示しているのである。
　したがって，これらと旧カロル国王の絵画館の作品を比較するのは，相当に厳しいものがある。
　1898年のバシュランのカタログは，時に作者の問題で誤りを犯していることが明らかになっているが，それにもかかわらず旧国王の絵画館に所蔵されていた主な名作の点数には，今日からみても印象深いものがある。今日，美術館のコレクションに含まれる130点を超える絵画作品によって，カロル�T世が教育を受けた鑑識能力をもっていたということばかりでなく，正しい交渉や一貫した収集方針についての専門家の助言の恩恵を被っていたことが明らかである。カロル�T世のコレクションの大半の作品は，パリとメッシーナのプロシア領事を務めたフェリックス・バンベルクから10年余の期間（1879−1889）の３段階にわたって購入されたものだが，そのフェリックス・バンベルクも同様に専門家の助言を得て収集したのであった。
　国王カロル�T世が彼の絵画館のために選び出した作品には，やや時代遅れのロマン主義的な，時には保守的な感覚が認められるが，それにしても，ヤーコポ・バッサーノ，エル・グレコ，レンブレント，ジェンティレスキなどの画家の作品は，すべてのコレクションの中の至宝であろう。
　啓発された君主であったカロル�T世はかつて「美術と国政は国王である余の胸中で優位を占めようとつねに争っていた」と書いているが，彼は絵画館をルーマニア王国に遺言により贈り，すべての作品が国外に流出することがないよう規定を設けた。
　ヨーロッパ美術の全体像を映し出していると主張するにはほど遠いが，美術館のオープンによって確立されたコレクションは，ヨーロッパ大陸の15世紀から19世紀あるいは20世紀初頭にいたる時代の主要な画派を明るく照らし出している。 　この点で，ドメニコ・ヴェネツィアーノ≪聖母子≫，マイネリ≪善い兆しと悪い兆し≫（以前はエルコール・ド・ロベルティの作とされていた），ティントレットの初期作品≪受胎告知≫，ルーベンスの≪婦人の肖像≫，ヴィジェ・ルブランの≪ダゲソー夫人の肖像≫などが記されるべき作品であろう。また，フランス彫刻のほぼ全体にわたって焦点を合わせているため，美術館の所蔵品にはロダン，プールデル，カミーユ・クローデルなどの作品が含まれている。
　1948年の美術館の創設と1950−1951年の公開以降，明確な収集方針が公式に確立された。ヨーロッパ絵画部門のための購入によって，ユテワールの≪スザンナと長老たち≫やピエトロ・ダ・コルトーナ≪聖フランチェスコの前に現われる聖母≫などのような重要な作品が時につけ加えられたが，とくに手当てできる費用が厳しく制限されたことおよび購入が地方の美術市場に限られていたために，これらは美術史家が夢見るような華々しい交流をほとんどもたらすことがでなかった。
　2000点を超える絵画作品と500点以上の彫刻作品を蔵する国立美術館のヨーロッパ美術のコレクションは，ヨーロッパ東南地域の同種のレクションとしては最も重要でかつ最も輝かしいものであり，これに出し得るのは唯一シビウのプルケンタール国立博物館のコレクションのみである。

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ブカレスト国立美術館　　

　以下「図録『ブカレスト国立美術館所蔵絵画展』(毎日新聞社、1991)」から

ごあいさつ
　このたび，念願の「ブカレスト国立美術館所蔵絵画展」を開催することになりました。
　ルーマニアの美術品収集の歴史は古く，幾多の社会変革を経ながらも，独自の調査の下で優れた芸術品を収集してきました（1948年には首都・ブカレストに国立美術館が創設され，各地方に分散されていたコレクションが一堂に会し，世界でも有数の美術館として現在に至っています。所蔵作品は，古代から今世紀に至る西欧，ルーマニア，東洋の絵画，彫刻，工芸品と多岐にわたり，特に西欧絵画には見るべきものが多くあります。
　周知の通り，1989年には東欧に民主化の波が押し寄せ，一番最後にルーマニアでも革命が起きました。ブカレスト，特に国立美術館と建物を共有する国家評議会が激しい銃撃戦の舞台となり，美術館にも戦禍が及びました。混乱の中，火が廻り，多くの作品が銃弾を浴びるなどその被害は200点以上にものぼるものとなりました。
　それでも幸い，心ある市民や兵士によって残りの作品は安全な場所に運ばれて難を免れ，その中から16世紀から20世紀に至るヨーロッパの名画およびルーマニア作家による絵画が，今回日本で初公開されることになりました。作品は，それを取り巻く種々の状況からは完全に自律しており，私達はその美的価値を変わらずに享受することができます。この展覧会を機に，人類の遺産ともいうべき芸術作品が，同じ人間の手によって破壊されるという悼むべき出来事が今後起こらないことを願ってやみません。
　展覧会開催にあたって貴重な作品を遥か日本まで送り出すことをご承諾下さいました文化省をはじめとするルーマニア側の関係各位に深甚なる謝意を表しますとともに，ご後援を戴きました日本国外務省，文化庁，在日ルーマニア大使館および関係各位に心より御礼を申し上げます。
　　　主催者

ブカレスト国立美術館とそのコレクション
　　　ブカレスト国立美術館長　テオドール・エネスク
　ブカレスト国立美術館は1948年に創立され，ルーマニア人民共和国美術館としてスタートした。当時の政府の決定により，ブカレストにあるいくつかの小さな美術館のコレクションから優品を集めたが，その核となり内容的にも充実していたのは王家の絵画コレクションであった。このようにブカレスト国立美術館は，王家のコレクションを基礎に，王宮の建物に作られた点では他のヨーロッパの美術館と同様の出発であったといえる（現在，国立美術館には10万点を超える作品が所蔵されているが，それらは６つの大きなコレクションによって成り立ち，ヨーロッパ美術，ルーマニア中世美術，ルーマニア近代美術，東洋美術（中国美術，日本美術，イスラム美術），素描・版画，装飾美術の６部門に分類構成されている。
　ヨーロッパ美術は，旧王家コレクションを核とし，これに購入および寄贈により取得した作品を加えている。ルーマニア近代美術は，19世紀初頭より1980年代までのルーマニア作家の作品を収集したもので，質，量ともにルーマニア国内最大かつ最も重要なコレクションとなっている。これらはブカレストにあった３つの美術館の所蔵品を統合したもので，さらに，優れた価値判断によって選択された寄贈作品や系統的，組織的な購入作品によって価値あるものとなったのである。このコレクションだけでルーマニア近代美術史を語ることが可能だといってもけっして過言ではない。ルーマニアを代表する美術家で，広くヨーロッパに名声を博したアマン，グリゴレスク，アンドレエスク，ルキアン，ペトラシュク，パラディ，パチュレアなどの作品は，広範な年代の，しかも多様な作品が数多く所蔵され，それぞれの作風の変遷を辿ることができる。しかし，残念なことにブランクーシ（ルーマニア語ではブランクーシュ）はこの例外と言わざるをえない。1904年にパリに出て1920年以後同地に定住したブランクーシの作品は，世界中に分散されてしまったため，ブカレスト国立美術館には第一次世界大戦以前の作品しか所蔵されていない。ただ，作風の確立される以前の傑作「祈り」，「地の静」といった，新しい作風を獲得し近代彫刻のアヴァンギャルドとして彼が登場する契機となった重要な作品が所蔵されている。この他に，別館の別部門になるが，民間の蒐集家が国立美術館に寄贈した美術品を所蔵する蒐集館がある。この館の所蔵品には，各々の時代の蒐集家が選定した優れた美術品からなる価値の高いコレクションが多く含まれている。（蒐集館の所蔵するさまざまな美術作品の中には，東洋美術の豊富なコレクションがあり，民間の蒐集家がその噂好と優れた感覚，知識をもとに永い年月をかけてそれらを蒐集したことが理解される。）
　ルーマニア中世美術の所蔵品は，14世紀から18世紀にわたるルーマニアの美術作品を所蔵する国内最大のコレクションである。ルーマニア中世美術は，その起源を直接ビザンティンに求められ，しかも，その初期にはビザンティンの美術家がルーマニアを訪れて制作したために，４世紀もの間ルーマニアの美術家はビザンティン美術の様式の強い影響下での制作を余儀なくされた。したがって，視覚的にはビザンティン美術の影響下に形成されながらも独自の芸術的創造を見ることができる。ルーマニア中世美術は建築，絵画，装飾美術において独自性を発揮するとともに，ビザンティンの美術的，精神的伝統を長期間にわたり継承しているのである。この部門にはビザンティン美術に係わるさまざまな分野の美術作品，フレスコ画の断片やイコン，石製彫刻（墓石），木製彫刻（祭壇画），銀細工などの金属工芸品，刺繍や教会関係の衣装などの染織工芸品，ミニアチュールその他が所蔵されている。これらはいずれもルーマニアの５世紀間にわたる芸術文化の水準の高さを印象深く明らかにするものである。
　2000点の絵画作品と400点の彫刻作品からなるヨーロッパ美術部門の主要な部分は旧王家のコレクションであり，1914年に国王カロル�T世の遺言により，それらが王立コレクションとされたため，ルーマニアの国家財産となっている。この旧王家コレクションにブカレストにあったいくつかの美術品の所蔵品とシビウのブルケンタール博物館の所蔵品，さらには新規の購入作品などが加えられている。旧王家コレクションは，ホーエンツォレルン・ジクマリンゲン家の旧友であり，美術品の熱心な蒐集家でもあったフェリックス・バンベルクが，パリ，ジェノヴァ，メッシナの領事としてフランス，イタリアに滞在した時期に蒐集した美術作品を，1879年にルーマニア国王カロル�T世が購入したものである。このコレクションは，1850年代のロマンティックな噂好を色濃く反映しながら，それ以前のさまざまなコレクションが併合され形成されている。それらには19世紀初頭の教会や修道院の旧蔵品，あるいはペレイレ，ラス・マリスマス侯爵，スルト元帥，サラマンカ侯爵など18世紀の著名な蒐集家のコレクションが含まれ，とりわけ国王ルイ・フィリップのコレクションは，1838年と1848年の２度にわたりルーヴルで展示され後にロンドンで売却された来歴をもつコレクションである。国王カロル�T世は，このバンベルク・コレクションを購入するにあたり，すでに永い年月にわたる書簡の往復によりその内容と個々の作品についてのさまざまな美術的情報を得て十分に理解していた。彼は文化を理解する精神と文化的教養を身につけていたのである。（彼の父カール・アントンは，その居城ジクマリンゲンに膨大な美術コレクションを有していた。）国際的な教育を受けたカロル�T世は，19世紀の偉大な美術史家で優れた〈鑑識家〉であり，「美術史ハンドブック」（1855年初版，ドイツで最もポピュラーな美術史の書籍であり重版も数回におよんでいる）の著者でもあるアントン・シュプリンガ一教授（1825−1891年）にボンで師事している。このシュプリンガ一教授は，中世美術のイコノグラフィーに関する基礎研究に貢献し，ルーマニアに招待されるなどカロル�T世とその後長い間親しい交際を続け，王のコレクション形成にあたっては，教授の精神，知識が基礎となるとともに，個人的にも王の芸術への関心を高め，また，カロル�T世の〈芸術と政治における統治の記念〉にも心を配った。その大部分がカロル�T世のコレクションより成るこのヨーロッパ美術部門は，おもに15−17世紀のイタリア美術，スペイン美術，16−17世紀のドイツ美術，17世紀のフランドル美術，オランダ美術17−19世紀初頭のフランス美術などの作品によって所蔵品の基礎が形成されている。
　国立美術館は，1950年にルーマニア近代美術の部門から公開を開始し，その後数年のうちに前述のさまざまなコレクションおよび旧王家の家具類と装飾美術作品の公開がすみやかに開始された。1959年までは旧王宮の建物全体を使って展示が行われていたが，この年に大統領の国家評議会がこの旧王宮を使用し始めたため建物の半分が国家評議会に占められることになった。この不幸な隣人関係は，美術館の展示，保管スぺ−スの削減をもたらしたばかりでなく，1989年12月のルーマニア革命の際に美術館の所蔵品が損傷を被る原因にもなったのである。秘密警察員の一部が美術館に侵入し，一連の放火を行ったため，これに対抗して国軍が進出した。この戦闘と混乱により多くの美術作品が破壊され，損傷を受けた。館内の修復アトリエは全焼し，20点以上の絵画が破壊され，120点以上の絵画が重大な損傷を被ったが，一部の美術館員の勇敢な努力により多くの美術作品が救われたのである。館内すべてが損傷を受け，すべての設備が破損されたため，公開の再開には永い年月（およそ２年間）を要するとともに，全館公開を目指す新しい展示の実現には基本的なところでの努力（膨大な点数の美術作品が修復処置を必要としている）が不可欠である。全職員が美術館の再建に向けて，作品の修復などに全力をつくし，新しい美術館を世界的なレヴェルのものにすべく努力を続けている。そのためには，こうした再建の努力とともに美術館の評価を高める努力も怠ることはできない。その具体的な一歩として，毎日新聞社，日本国内の美術館および日本の美術ファンの方々の協力により，この度の展覧会が実現されたのである。

　以下『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から

ブカレスト
　ルーマニアの首都ブカレスト（現地発音はブクレシュティ）は、カルパチア山脈の南に広がるワラキア地方の南東部に位置する。人口は、現在約235万人。
　20世紀初頭には、「バルカンの小パリ」と称されるほど美しい町並みを誇っていた。が、現在その面影をかろうじてとどめているのは、旧市街のごく一部と凱旋門に続く通り沿いのみであろうか。古い教会や歴史的な建築物は、独裁を続けた共産党の手によって、ことごとく破壊されてしまった。そのため、この町には歴史的な見どころが驚くはど少ない分、通りを歩いていると、とてつもなく巨大な建物群が目にとまる。まるで故チャウシェスク大統領の野望を有形化したかのような、旧共産党本部や国民の舘…。
　1989年12月、一般市民の虐殺と大統領の処刑という流血革命から15年以上が経った。街の風景は移り変わり、あの惨劇を思い起こさせるものはめっきり少なくなった。2007年から欧州連合の新メンバーとなったルーマニアの顔、ブカレスト。これからこの街はどこへ行くのか。

ワラキア地方
　ドナウ川の北に広がる大平原が、ワラキア地方だ。ルーマニアは大きくトランシルヴァニア、モルドヴァ、ワラキアの３つの地方からできている。なかでもワラキア地方はルーマニア語で「ルーマニア人の土地」を意味する「ツァラ・ロムネスケア」と呼ばれ、ルーマニアにとっていかに大切な場所だと考えられているかがわかる。
　ワラキア地方の元となったのは、中世に生まれたワラキア公国だ。ワラキア公国は南のオスマン朝、北のポーランド王国やハンガリー王国、のちにはハプスブルク帝国やロシア帝国など、数々の強大な国家に翻弄されながらも、独自の文化を守り続け、いまのルーマニアの礎となった。その厳しい歴史の中にはドラキュラのモデルともなった串刺し公ヴラド・ツェペシュもいた。
　第２次世界大戦後はチャウシェスク独裁の舞台ともなり、共産化や都市計画の名のもとに歴史的な建築物が破壊された。特に首都のブカレストは巨大な建造物やモニュメントが残され、当時の記憶をいまに伝えている。
　ブカレストがどうしても出入国の際の経由地として捉えられがちなので、ワラキアの大地は通り過ぎてしまう人が多いかもしれない。それでも観光客が少ない分、飾らないルーマニアの人々が見られるのがワラキアの魅力でもある。

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ルーマニア・コレクション美術館　　Muzeul Colectiilor de Arta

　ルーマニア国内はもとより、世界各国の美術工芸品を一堂に集めた美術館で、日本の墨絵や壺もある。家具、調度品など、西洋・東洋のアンティークが充実。国内最大規模ともいわれるルーマニア正教のイコン・コレクションも一見の価値がある。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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トランシルヴァニア地方　Transilvania

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●ブラショフ　Brasov

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ブラショフ美術館　Brasov Museum

　Muzeul de Arta Brasov　ムゼウル・デ・アルタ・ブラショフ。
　ルーマニアの近代から現代にいたる、幅広い作品を展示した美術館。１階は、絵画や最近の写真を集めた現代美術が中心で、２階には、19世紀の彫刻、絵画、そして銀製のイコンなどが展示されている。常設展以外にも、新しい切り口の企画展を主催するなど、ブラショフ芸術の発信地的存在にもなっている。

ブラショフ　Brasov
　ルーマニア第２の都市ブラショフは、中世の町並みを残した美しい古都である。トウンパ山とポスタヴァルル山の麓にあり、澄んだ空気が印象的だ。
　町は12世紀にドイツ商人が建設し、ルーマニア人、ハンガリー人の３民族によって発展してきた。町を歩いてみると、ドイツの香りが強く感じられ、ルーマニアのほかの都市とは異なった独特の雰囲気がある。ブラショフは、小説『吸血鬼ドラキュラ』ゆかりのブラン城への拠点でもある。
　さらに、ポイアナ・ブラショフなどの人気リゾートも、ブラショフが拠点になる。夏は落ち着いた雰囲気の避暑地として、冬はスキーリゾートとして、国内はもとより近隣諸国からの観光客で１年中にぎわっている。

トランシルヴァニア地方
　ルーマニア中央を南北に走るカルパチア山脈。南のワラキア平原で向きを西に変え、トランシルヴァニア・アルプスを形成している。スロヴァキアから始まるこの大山脈に北、東、南の三方を囲まれた地方がトランシルヴァニアだ。「森の彼方の国」という意味のとおり、町を離れると鬱蒼とした森が広がっている。
　ドラキュラ城のモデルとなったブラン城や、中世の面影を残すシギショアラなど、トランシルヴァニア地方の見どころは多いが、この地域を特異なものにしているのはマジャル（ハンガリー）、ザクセン（ドイツ）、セクイ人との民族構成とその共存の歴史である。
　各民族とも9〜12世紀に植民してきたといわれ、19世紀後半までの長い間、少数ながらルーマニア人を抑えて特権階級を占めてきた。15〜16世紀に商業都市として発展したブラショフ、シビウなどはザクセン人が建設した町。各都市にドイツ語学校やエヴァンゲリカ教会があり、周辺に小さなハンガリー村などが点在するのはこうした理由だ。 　1989年の民主革命の口火を切ったティミショアラでの抗議運動も、住民であるハンガリー人への抑圧が強まったことに端を発していた。ルーマニア全体の歴史を理解するうえでも、非常に重要な地域なのだ。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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●シビウ　Sibiu

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プルケンタール国立博物館　　

メッセージ−美術の後援者と普遍性
　展覧会をつうじて，シビウと日本の都市を結び，ブルケンタール国立博物館と日本の６つのすばらしい美術館を結ぶというアイデアは，20世紀の末となった今日ではもはやまったくの新しい着想とすることはできませんが，毎日新聞社の精力的な運営とともにスタッフの忍耐強い努力によって，このアイデアを実現するための基礎が整えられました。
　啓蒙主義者，博識家であったザミュエル・フォン・ブルケンタール男爵は，彼のヨーロッパ絵画コレクションに対する人々の理解がおおいに広がりをもち，普遍的なものとなるよう望みました。日本の展覧会のあとに，地球上の他の地域もこれに続くことでしょう。その結果，ブルケンタール男爵のコレクションは全世界に知れ渡ることになるかもしれません。国と国とを隔てる境界を取り払おうとするばかりでなく，無慈悲でことあるごとに罰をくだし私たちを挫折させようとする時間の流れをも消し去ろうと，ブルケンタール国立博物館の専門家たちは一丸となって努力していまもこうしてブルケンタール男爵の遺言は法律上もその精神においても遂行されています。
　この展覧会で彼らが，「一期一会」（「生涯にただ一度の出会い」−日本の茶の湯に特有のもの）を，つまり，無常の解消するほんの一瞬を申し分なく選ぶことを成し遂げているとあえて申し上げたいのです。
　したがいまして，このような理念の実現にご尽力下さいましたすべての人々に対しましてかさねて感謝の意を表します。
　　　ブルケンタール国立博物館館長　アレクサンドル・C．ルング

ブルケンタール国立博物館の美術部門−その歴史的な概要
　　　ブルケンタール国立博物館副館長　ドイナ・ウドゥレスク
　ヨーロッパの名門機関として，また，ルーマニアで最も優れた博物館の一つとしてよく知られているブルケンタール国立博物館は，その所蔵するヨーロッパの絵画や版画の重要作品によっても有名である。それらはヨーロッパの主要な画派，すなわち，16世紀から18世紀にわたるフランドル，オランダ，イタリア，ドイツ，オーストリア，フランス，スペインの画派に属している。さらに美術部門には1800点のルーマニア絵画がのちに所蔵品に加えられている。
　ヨーロッパ絵画コレクションは，1777年から1787年までトランシルヴァニアの統治者であったザミュエル・フォン・プルケンタール男爵（1721−1803）によって形成された。博識で空想的な精神の持ち主であった彼は，ドイツならびにトランシルヴァニアの精神文化の興隆に貢献した。彼はおもに大コレクターとして広く知られているが，ブルケンタールの宮廷に関する文献には，1770年に絵画と版画の最初の購入がなされたことが記録されている。そして1773年の『ウィーン年鑑』では，リヒテンシュタイン王国の王子のコレクションの次に，「閣下の閣僚，王室のトランシルヴァニア大臣ブルケンタール男爵」のコレクションを他の３つのコレクションと比べて「最も貴重な美術品コレクション。ならびにそれほど意味のないその他の品々の多数の蒐集品がある」と評価して紹介している。
　1790年には，シビウの大広場に建てられた穏健で簡素なバロック様式の新宮殿の３階に美術ギャラリーが設けられた。この建物で注目すべきいくつかの点は，アーチ形天井，ブルケンタール家の紋章，花づな，円花飾り，花束飾りなどがすべて彫刻家シモン・ホフメイヤーと石工アントン・ヘルツムによって作られていることである。美術的な木部の工事は，ウィーン宮廷の大工職ルートヴィヒ・クリスティアン・ヘルツェルがこれにあたった。ブルケンタール宮殿は，その後，長い年月にわたりシビウの社会的，文化的生活の中心であった。おなじく1790年に−これはルーブル美術館の開館の３年前だが−ブルケンタール男爵は自らの美術コレクションを公開している。彼のコレクションには，ヨーロッパ絵画とともにフランドルの15世紀から16世紀の祈祈祷書，400点を超える版画，コイン，鉱物，岩石学と考古学資料，ならびにユークリッド，ディドロ，ヴォルテール，カント，ヘルダーの著作を含む1万3千冊を超える膨大な図書が含まれている。 　ブルケンタールの最晩年に最初の所蔵品目録が作成され，そこにはブルケンタールの美術コレクションの主要部分をなす1090点の絵画と895点の版画が記されている。1802年のブルケンタールの遺言書で，男爵は彼のコレクションをシビウの団体に貸し与え，宮殿をブルケンタールがこの目的のために充てた基金によってこの団体の運営する公共の美術館とするように定めた。美術館の公式の開館は，1817年の2月25日に，福音派の学校で大勢の客を迎えたパーティーをもって行われた。このようにしてわが国最初の美術館の運営が開始され，今日に到るまで継続して機能し続け，今日なお機能している。
　ウィーンの新聞『歴史，統計，文学，芸術一文献』は，1826年にブルケンタール・コレクションについての複数の記事を掲載し，その一つに「作品の点数と価値を考慮するならば，このコレクションはハンガリーとトランシルヴァニアで最も重要なコレクションの一つである…」と記している。そのほかにもシビウとブルケンタール・コレクションを訪れた外国人旅行者の多くの証言がある。
　コレクションをまとめて，体系的に分類しようとする初めての企ては，画家フランツ・ノイハウザーが所蔵品目録（手書きによる最初のカタログ）を作成した1813年の時点でなされたと考えられる。２番目のカタログは1830年に次いで1836年に，いずれも画家ヨハン・ルートヴィヒ・ノイゲボーレンによって作成されている。印刷された最初のカタログは1844年にシビウで出版された。続いて1884年のカタログ，絵画ギャラリーの価値を指摘したミカエル・クサキによって作成された1901年，1906年，1909年のカタログが存在する。
　ブルケンタール・コレクションの科学的な調査は，1871年に開始された修復活動によって容易となり，19世紀末に始められた。それらの作業は，ウィーンのベルヴェデーレ宮の修復学校の主席教師だったカール・シェラインが指導した。ブルケンタール・ギャラリーには，テオドール・フリンメル−バイエルンのショーンボルン・ヴィーゼンバルト宮廷の美術ギャラリーの館長−も訪れて調査している。彼は作品を調査してそれらに関する複数の重要な論文を書いた最初の専門家であり，これによってブルケンタール・ギャラリーはヨーロッパの美術界に迎え入れられることとなった。
　そのほかにも調査に訪れた専門家として，ハーグ美術館の主席管理官アブラハム・プレディウス，ミュンへンのアルテ・ピナコテークの修復家カール・フォル，アムステルダム版画キャビネットの管理官ホフステーデ・デ・フロートなどが挙げられる。1909年の目録は，ヨーロッパおよびトランシルヴァニア画派の1294点の絵画を数えている（後者は数が増えている）。美術品の保存に要する収蔵庫の建設とともに，ルーマニアで初めてのガイドブックが1928年から1930年の間に出版され，さらに絵画作品は，それぞれの画派ごとに年代順に分類されて，科学的，美学的基準にそって陳列された。
　1950年にはシビウのASTRA博物館に所蔵されていた464点のルーマニア絵画が追加され，これによってブルケンタール博物館のルーマニア美術コレクションの主要部分が形成された。
　1956年にギャラリーは再認識され，ヨーロッパおよびルーマニア絵画コレクションはブルケンタール宮殿の２階に置かれ，その後も何回かの配置場所の変更がなされた。
　数十年間にわたり，ヨーロッパ絵画コレクションはルーマニアおよび国外の専門家の強い関心を集めてきた。これらの作品は数多くの展覧会に出品されており，その最も興味深いものは次のようなものである。「フランドルの素朴派」展（ブリュージュ，1902年），「ヨーロッパ絵画におけるナポリ」展（1962年），「フランドル美術展」（ブリュッセル，1965年），「ヤーコプ・ヨルダーンス」展（オタワ，1968年），「ルーマニア国立美術館展」（日本，1979年），1993年にハンガリーで開催された「バロック様式の国際年」展などである。
　1993年以来，ヨーロッパとルーマニアの作品は，宮殿の２階と３階に据えられている。それらは，様々な美術様式を説明する科学的なコンセプトに基づいて，来館者に対して公開されている。高度に専門的なレベルの興味深い複数のテーマ展が，しばしば管弦楽のコンサートとともに実施されている。
　このように，その伝統を維持しながらブルケンタール美術ギャラリーは，これまでも，そして現在も国民と文化生活の情報センターとなっている。

　　　「図録『ルーマニア国立美術館所蔵　16-18世紀ヨーロッパ絵画展』(毎日新聞社、1995)」から


ブルケンタール博物館（美術館）Brukenthal Museum
　Muzeul Brukenthal　ムゼウル・ブルケンタール。
　民俗博物館が庶民の生活用品を集めているなら、こちらは上流階級の家具調度品が展示されている。銀の食器や燭台など、貴族生活の一端をかいま見ることのできる博物館で、民俗博物館のあとにこちらに行くと近代ヨーロッパの階級社会を肌で感じることになる。大広場西側に建つオーストリア・バロック様式の立派な建造物で、オーストリア帝国のトランシルヴァニア総督であったサミュエル・ブルケンタール男爵の邸宅を、1817年に開放したもの。ルーマニア最古の博物館でもある。収蔵品も男爵のプライベートコレクションが中心だ。ハブスブルク家の女帝マリア・テレジアの顧問でもあった男爵のコレクションは充分に見る価値がある。
　絵画棟には、フランドル派やオーストリア派を中心に、ルーマニア３大画家のグレゴリスク、ルチアン、アンドレスクの作品などが展示されている。

シビウ　Sibiu
　トランシルヴァニア高原の南端に位置する古都、シビウ。カルパチア山脈から流れるオルト渓谷に臨み、東西の交通の要衝として栄えた、中世ヨーロッパ辺境の商業都市である。シビウの発祥は、ハンガリー王の要請を受けてザクセン人（ドイツ人）が植民してきた12世掛こさかのぽる。農業中心のこの地方にザクセン人は商工業を持ち込み、ここシビウをはじめクルージ・ナポカやブラショフなどを発展させた。なかでもシビウは中央ヨーロッパとバルカン半島を結ぷ最短ルート上にあったため、15世紀には多くの商人が集まり、商業都市として発展した。19世紀にはこの地方の首都となったこともあり、現在も残る美しい町並みが完成する。そんな歴史をもつシビウは、ドイツ名をヘルマンシュタットという。
　ザクセン人が建設した旧市街は、丘の上にある大広場を中心に石畳の道と、丘からは急な石段がいくつも延びている。両脇には赤い瓦屋根の民家が並び、中世の面影を残している。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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●シナイア　Sinaia

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ペレシュ城　　Peles Castle

　Castelul Peles　カステルル・ペレシュ
　1875年にカロル１世がルーマニア王室の夏の離宮として、８年の歳月をかけて建てた宮殿。ルーマニアで最も壮麗な城と称えられるほど美しい。
　ペレシュ城はルネッサンス、バロック、ロココの各様式を取り入れたドイツ・ルネッサンス様式で建てられており、いくつもの彫刻、噴水、バラが配された庭園からは、シナイアの渓谷が一望。宮殿内の部屋数は160はあるといわれ、各部屋には、カロル１世の集めた絵画、彫刻などの美術品、陶磁器、金銀、宝飾品や中世の武器などが飾られている。内部の見学はツアー形式で行われる。

シナイア僧院　sinaia Mnastery
　Manastirea Sinaia　マナスティレア・シナイア。
　17世紀にワラキア公カンタクジノ Cantacuzino がこの地を訪れたのを記念して建立された僧院。この町の名前の由来にもなっている。門を入って正面の大教会 Biserica Mare は、19世紀にドイツから招かれてルーマニア王国の皇帝になったカロル１世が建立したものだが、左側の門をくぐった所にある古い教会 Biserica Veche は17世紀末にカンタクジノの跡を継いだブルンコヴェアヌ公がポーチを増築した以外、当時のまま保存されている。教会の人口に描かれたフレスコ画は必見だ。

シナイア　Sinaia
　ルーマニアの中央を"つ"の字型に走るカルパチア山脈は、標高2000m級の山々が緩やかに連なり、その麓から山肌を覆う樹海は四季折々の自然美を見せてくれる。シナイアは、この山脈の中でも奇岩怪石で知られるプチェジ山の中腹に位置し、トレッキングルートの出発点でもある標高800mの景勝地である。
　町の歴史は、17世紀にシナイア僧院が建立されたときに始まり、18世紀にはブカレストの王侯貴族たちの別荘地として繁栄した。そのため、宮殿鳳の小さな館がところどころに建ち並び、ルーマニアのはかの都市にはない町並みが見られる。現在は宿泊客用のヴィラとして使われている。
　「カルパチアの真珠」の愛称をもち、ブカレストからも近いので夏は避暑地、冬はスキーリゾートとしてたくさんの観光客を引きつける。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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●ティミショアラ　Timisoara

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ルーマニア正教会　　Roman Orthodox Cathedral

　Biserica Ortodoxa Romania　ピセリカ・オルトドクサ・ロマーナ。
　1936年から10年間の歳月をかけて建設されたルーマニア正教の教会。ネオ・ビザンチンとモルダヴィア様式の混じり合った建物で、地下には中世のイコンやステンドグラスのコレクションがある。
　1989年の革命時には、この教会に逃げ込もうとして遅れた子供たちが、背後から治安部隊の銃弾を受けた。教会前の階段はたちまち血に染まったという。人口正面には、革命の犠牲者を弔う十字架が立てられている。

バナト民俗工芸博物館　Banat Ethnographic Museum
　Muzeul de Etnografie Banat ムゼウル・デ・エトウノーグラフィア・バナート
　古い石造りの建物で、18世紀後半に、ここに住むトルコ人によって建てられたものだといわれている。館内には、ティミショアラを中心とするバナト地方の民族衣装、農具、生活用品などが展示されている。また、各村ごとに特色のある機織り機械や仮面など祭りの道具も所狭しと並べられている。

ティミショアラ　Timisoara
　ハンガリーとセルビア・モンテネグロの国境に近い、ルーマニア西部最大の町、ティミショアラ。約33万人の人口は、国内でも第４番目になる。
　ティミショアラの名を世界的に知らしめたのは、民主革命への口火を切ったチャウシェスク政権への抗議運動であった。1989年12月、ハンガリー人牧師テケーシュ・ラースローの退去命令に反発した市民はデモを行うが、治安警察軍によって武力鎮圧され、多数の犠牲者を出してしまう。だが、結果的にこの惨劇がブカレスト市民を蜂起させる引き金になり、流血民主革命へと発展していった。
　トランシルヴァニアの各都市同様、第一次世界大戦まではオーストリア・ハンガリー帝国の支配下にあり、住民にもハンガリー、ドイツ、セルビア系の住民が多い。そのため町に残るバロック様式の建築物も見どころのひとつだ。
　Primul 0rat Liber（ルーマニア最初の自由都市）と人々が誇る町、ティミショアラ。はや15年以上前になるその過去をこの場所で振り返ってほしい。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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●クルージ・ナポカ　Cluj-Napoca

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クルージ国立美術館　　Cluj National Art Museum

　Muzeul National de Arta Cluj　ムゼウル・ナティオナル・デ・アルタ・クルージュ。
　ハンガリー人の富豪バーンフイー族が1785年に建てたバロック様式の宮殿が、現在は美術館として公開されている。おもに近代から現代にかけてのトランシルヴァニアの作家の作品が展示されている。ルーマニアの人々の生活の息づかいが伝わってくるような情景画もあれば、抽象的な作品もあり、多様な作家活動の様子がうかがえる。

クルージ・ナポカ　Cluj-Napoca
　トランシルヴァニアのはぼ中央に位置する町。文献に初めて登場するのは、紀元前２世紀にローマ帝国の植民都市ナポカとして。その後、東西交通の要衝という恵まれた条件をもったナポカは、この地方の中心地として繁栄した。11世紀にはザクセン人がやってきて商工ギルド（職人組合）を結成し、ハンガリー王の庇護のもと発展を続けるこの町をクラウゼンブルクと呼んだ。これがクルージである。1970年代になってクルージとナポカが合併し、クルージ・ナポカとなった。 　町の人口は約33万人。そのうち約２割はハンガリー人だ。「はい」を意味するルーマニア語は「ダー」だが、マジャル語（ハンガリー語）の「イゲン」もよく耳にするだろう。オーストリア・ハンガリー帝国時代の面影を残すこの町は、ハンガリー名はコロジュヴァールといい、ドイツ名と合わせて合計３つの名前をもつ。この都市だけに限ったことではないが、多民族が混住するトランシルヴァニアを象徴しているといえる。
　周辺にはシクをはじめとして、ハンガリー人が伝統を守りつつ暮らしている町や村が点在している。クルージ・ナポカを拠点に、ゆっくりとそれらを見て回るのもいいだろう。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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マラムレシュ地方　Maramures

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●バイア・マーレ　Baia Mare

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マラムレシュ県立美術館　　Muzel de Arta

バイア・マーレ　Baia Mare
　マラムレシュの観光の拠点となるシゲット・マルマツィエイやサツ・マーレへの中継点となる町。マラムレシュ県の県庁所在地でもある近代的な都市である。
　マジャル語（ハンガリー語）では Nagybaya（Large Mine 大鉱山）と呼ばれるこの町は、金銀などの鉱山の町として繁栄した。15世紀になると、旧市街は現在の形になったという。
　旅行者は通過してしまうことが多い町だが、博物館の数や種類も豊富なうえ、宿も簡単に見つかる。マラムレシュ観光の休憩地点として途中下車してはどうだろうか。
　町はホテルやショッビングセンターなどがある新市街と、18世紀の町並みの中に見どころが点在するl日市街とに分けられる。
　新市街は駅からブカレスト通りを東へ臭っすぐ1．5kmほど行った所にあるマクドナルド周辺。ホテルや銀行、郵便局などはこのあたりに集中している。また、鉱山とともに発展した工業都市らしく、新市街を南へ行った所には鉱物博物があり、町の歴史の側面を知ることができる。
　旧市街は、マクドナルドから革命広場を通り過ぎ、さらに東へ行った自由広場周辺。ここから南側に、大きな時計塔シュテファン塔と、18世紀の木製イコンなどが見られる県立美術館 Muzel de Arta がある。広場から北へ歩くと、サザール川を越えて民俗博物館がある。
　その奥にはマラムレシュの村を再現した野外村落博物館 Muzeul Satului Maramuresanがあり、この地域伝統の家屋や教会などを展示しており、内部の見学も可能。

マラムレシュ地方　
　ブカレストからマラムレシュ県の県庁所在地、バイア・マーレまで特急で約10時間、約450km。ウクライナと国境を接するルーマニア北部の奥地という印象が強いエリアだが、民俗学的にも注目される昔ながらの生活と伝統が息づいている。チャウシェスク政権時代に進められた近代化政策もこの地方までははとんど届かなかった。冬は深い雪に閉ざされる。 　世界中のどの地域とも同じく、ここにも近代化は迫ってきているが、マラムレシュ奥深くの小さな村の人々は、民族衣装をまとい、農林業と羊を主体とした牧畜をする、地域に根付いた生活を今でも続けている。独特の民族舞踊や音楽も興味深い。
　周囲をニレの木の森に囲まれ、伝統的な装飾豊かな木造建築の家屋が建つ風景を見るだけでも、マラムレシュを訪れる価値があるといえるだろう。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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モルドヴァ地方・ブゴヴィナ地方　Moldova, Bocovina

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●ヤシ　Lasi

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美術館（文化宮殿内）　Art Museum

　Muzeul de Arta　ムゼウル・デ・アルトウ。
　ルーマニア最大級の美術館で、開館は1860年にさかのぼる。ルーマーニア三大画家や、ルーマニア美術に影響を与えたフランス印象派の作品など、収蔵品が充実。古いものでは16世紀に描かれた肖像画などがある。また、現代美術の間にはルーマニア近現代の作家の作品が紹介されている。展示品の数は少ないが、ルーマニア美術史上において重要な作品ばかりだ。

文化宮殿　Palace of Culture
　Palatul Culturii　パラトゥル・クリトゥール
　シュテフアン・チェル・マーレ通りを南東へ下っていくと、正面にネオ・ゴシック様式の巨大な宮殿が現れる。17世紀に建てられたモルドヴァ公国皇太子邸を1906〜25年に博物館に改装したもの。中には４つの博物館が入っており、また入口ホールはイベントなどの会場としても利用されている。

歴史博物館（文化宮殿内）History Museum
　Muzeul de lstorie　ムゼウル・デ・イストリィエ
　紀元前3000年頃にルーマニアで興ったククテニ Cucuteni 文明の彩色土器や装身具など、おもにモルドヴァー帯で発掘された遺跡とその関連資料が展示されている。15世紀の鎖かたびらなどがある。

ヤシ　Lasi
　モスクワとブカレストを結ぷ国際列車の走る路線上に位置する、人口約34万人の文教都市。モルドヴァ公園の首都が1565年にスチャヴァからヤシに遷都されて以来、近代ルーマニアを代表する都として発展を遂げた。そして1859年、モルドヴァ公国はワラキア公国と統合し、オスマン朝主権下の自治公国としてではあったが、ルーマニア公国が成立した。そのときに首都はブカレストと定められる。しかし、1860年にはルーマニア最初の大学がヤシに開かれるなど、高等教育機関や劇場の拡充はほかの都市を圧倒していた。 　CISのモルドヴァ共和国との国境までは北へわずかに8km。
それというのも、モルドヴァ共和国はルーマニア語でベッサラビア地方といい、もともとはモルドヴァ公国の東半分だった地域。住民もはとんどがルーマニア人だ。ロシア人の南下政策によって1861年にロシア帝国に併合されて以来の、ルーマニア人にとっては不本意な国境なのである。
　ヤシの町は、歩けば文学関係の記念碑や博物館にあたるといわれているくらい文化の拠点であるところ。ヤシ大学のあるコポウ公園では、古今を通じてルーマニアで最も評価の高い詩人ミハイ・エミネスクが詩作に興じていたともいう。ルーマニア人の間でも「ルーマニアらしい町」として人気がある。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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●スチャヴァ　Suceava

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聖ゲオルゲ・ノウ修道院　　New St. George Monastery

　Manastrirea Sf．Gheorghe Nou　モナストリア・スフント・ゲオルゲ・ノウ。
　敷地は広くいくつかの建物がある。印象深いのは、ボグダン３世がセルビアとハンガリー軍を退けた記念にと、1521年に完成させた聖ゲオルゲ・ノウ教会堂。内壁には見事なフレスコ画が施され、訪れる者に感動を与える。外壁にもフレスコ画があった。風化が進んでいるが、東壁と南壁で確認できる。

スチャヴァ　Suceava
　スチャヴアがモルドヴァ公国の首都に定められたのは1388年。公国の文化・行政の中心地として、1565年にヤシに遷都されるまでに大きく発展した古都だ。
　ワラキア公国と並んで、現在のルーマニアの母体となったモルドヴァ公国。一時オスマン朝の支配下に入るもののシュテファン大公（在位1457〜1504）がこれを撃退し、後継のボグダン３世（在位1504〜17）とベトル・ラレシュ公（在位1527〜38、1541〜46）の治世下、モルドヴァ公国は黄金期を迎える。ルーマニア最大の見どころ「五つの修道院」の建設も、この時代である。スチャヴァを中心とした北モルドヴァ一帯をブコヴィナ地方と呼ぶが、独特の美しい修道院がブコヴィナに次々と建てられたのも、歴代の名君の安定した統治によるところが大きい。
　現在、スチャヴァは修道院巡りの拠点として旅行者を迎える地方都市。小さい町だが教会や博物館は充実している。

モルドヴァ地方 Moldova、その北部ブゴヴィナ地方 Bocovina
　旧ソ連の構成国だったウクライナ、モルドヴァ共和国に国境を接する、モルドヴァ地方（モルダヴィア Moldavia はスラヴ語、ルーマニア人にとっては外国語にあたる）。カルパチア山脈の東側に広がる、緑豊かな丘陵と平原の土地だ。現在はモルドヴァ共和国との国境近くの文教都市ヤシを中心に、やや南方までの地域を指す。
　15世紀には、拡張するオスマン朝を何度も撃退したシュテファン大公の治世下、中世ルーマニア文化が発展した。シュテファン大公は各地に教会を建て、ルーマニア正教の庇護と民衆の啓蒙に努めた。スチャヴァ周辺のブコヴィナ地方（北モルドヴァ）には、外壁の隅々にフレスコ画が描かれた「五つの修道院」が残る。世界遺産にも登韓されたルーマニア観光のハイライトだ。

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五つの修道院　　Cinci Manastiri Bucovinene

　モルドヴァ公国が輝く黄金期を迎えたのは、16世紀初頭。しかしこの時代は、オスマン朝が最盛期を迎えていた時代でもあった。オスマン朝軍は1526年にモハーチの戦いでハンガリー軍を破り、ハンガリーとトランシルヴァニアを支配下に置くと、さらにウィーンに軍を進め、1529年にはウィーン攻略戦を敢行するなど、急激にその領土を拡大していた。
　この時期に、オスマン朝の宗主権下で自治を許されたモルドヴァ公国は、シュテファン大公〜ボグダン３世〜ペトゥル・ラレシュ公の歴代名君の治世下、ルーマニア中世文化の華を咲かせていた。北モルドヴァ、ブコヴィナ地方にあるこれらの修道院群は、1993年にユネスコの世界文化遺産に登録されている（スチェヴィツァ修道院を除く）。そのなかの主要な５つが以下で紹介しているものだ。
　修道院それぞれの見どころはその外壁を埋め尽くす鮮やかなフレスコ画だ。オスマン朝との戦闘や聖書の一場面が描かれ、彩色されている。カトリックなどキリスト教の聖堂には聖人の肖像などの宗教画が内壁にびっしりと描かれているが、建物外壁にまで描かれることはない。明るい太陽のもとで見るフレスコ画は、美しさと経てきた長い年月を見せつけてくれるだろう。
　丘陵や森林の続く中、緑の中にいきなり現れる修道院の美しさ。しかしながら外壁のフレスコ画は傷みが激しく修復が進められている。

　スチェヴィツァ修道院、モルドヴィツァ修道院、アルボーレ修道院、フモール修道院、ヴォロネツ修道院、プトナ修道院など。

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ドブロジャ地方　Dobrogea

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●トゥルチャ　Tulcea

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ドナウデルタ美術館　　Art Museum

　Muzeul Delta Dunarii Sectia Arta　ムゼウル・デルタ・ドゥナリ・セクツィア・アルタ
　１階は期間特別展示室になっており、彫刻、絵画など学生の作品も展示されたりする。２階は19世紀半ばから現代にいたるまでの、トゥルチャの風景画や人物画、抽象画、そしてルーマニアの三大画家のひとり、ニコラエ・グリゴリスク Nicolae Gregorescu の作品もある。

トゥルチャ　Tulcea
　ドナウデルタの玄関口となる町、トゥルチャ。古くからドナウ川と黒海を結ぶ貿易港として栄えた所で、紀元前１世紀にはギリシアの植民都市がすでにここにあったという。その後ローマに統治され、近代にはオスマン朝の主要貿易港となるなど支配者の変遷は続いた。位置的にトゥルチャが陸路、海路ともに貿易の大切な中継地だったからだ。町の名トルジュが文献に登場するのが15世紀後半。オスマン朝からの解放後、「トゥルチャ」としての歴史が始まった。
　現在は工業都市として発展し、人口約10万人を擁するドナウデルタの中核都市。

ドブロジャ地方 Dobrogea
　ドイツに源を発するドナウ川は、中央ヨーロッパ、バルカン半島の国々計８カ国の長旅を終えた後、黒海へ出る。全長2857kmのドナウ川と黒海に挟まれた一帯をドブロジャ地方 Dobrogea（ブルガリア語ではドブルジャ）と呼ぶ。
　この地域はヨーロッパ最後の秘境と呼ばれ、ユネスコの自然遺産にも登錦されているドナウデルタ（デルタ・ドゥナリ Delta Dunarii）が最大の見どころだ。広大な湿原は野生動物の宝庫といわれ、ペリカンなどの野鳥が見られる。また、ビーチリゾートと泥治療で人気のマンガリア、エフォリエなどの黒海沿岸地域もドブロジャ地方である。このあたりは少しだけ地中海性気候の影響も受けている。そのはか、港町コンスタンツァや紀元前の古代追跡があるヒストリアなどがある。
　歴史的にこの地方は民族博物館といわれるほど、複数の民族で構成されている。特にロシア、ブルガリア、トルコ系住民が多い。第２次世界大戦中、ブルガリアヘ南ドブロジャを割譲した問題がいまだにくすぶり続けている場所でもある。

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●コンスタンツァ　Constanta

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コンスタンツァ美術館　　Museul de Arta

　（美術館そのものの記述なし）

民俗博物館　Folk Art Museum
　Muzeul Arta Populara　ムゼウル・アルタ・ポプラーラ
　ルーマニア各地の手織物製品や民族衣装、イコンなどさまざまなものを展示している博物館。展示品のなかには、モルドヴァでは今でも実際に使われているものも多い。

考古学博物館　Archaeological Museum
　Muzeul de Arheologie　ムゼウム・デ・アルヘオロジィエ
　オヴィディウ広場の中央に位置する重厚な建物が印象的。ルーマニアで最高水準の質を誇る博物館だ。ここの優れた収蔵品は必見だ。特にギリシア・ローマ時代の豊富なコレクションはすばらしい。
　なかでも羊の頭に人間の目と髪を持つ２世紀の彫像「グルコンの大蛇」はぜひ観たい展示物のひとつ。周辺地域からの出土品にはギリシア文字が書かれ、ここがギリシアの植民都市であったことを再認識させられる。また、金細工の精密さも特筆もの。そのほか、パイプや貨幣のコレクションも見ごたえがある。

ローマのモザイク博物館　Roman Mosaic Museum
　Edificiul Roman cu Mozaic　エディフィチュル・ロマン・ク・モザイク。
　1959年にこの地区の工事をしていた職人たちが発見した、ローマ時代の大規模な浴場跡。そこからの出土品が展示されている。内部はガラス張りで明るく、繊細なモザイク模様が敷き詰められた広間は、その技術力の高さと相まって見る者を感動させる。

コンスタンツア　Constanta
　ドブロジャ地方最大の都市コンスタンツァは、ルーマニアの貨物輸出入の半分以上を担う、黒海でも有数の港湾都市。各国の旗を付けた船が港につながれ、沖には大型船が行き交っている。ここは世界に向かって開かれたルーマニアの海のゲートだ。
　町の歴史は、紀元前６世紀にギリシア人がこの地に要塞を築きトミス Tomis と呼んだことに始まる。当時から黒海とエーゲ海を結ぷ良港として繁栄し、その規模は次第に拡張されていった。４世紀にはローマのコンスタンティヌス帝の治下でますます発展し、住宅地も整備され、町の名称は皇帝の名前を受けてコンスタンティアナとなった。以後、長くローマの港湾都市として栄え、その支配はビザンツ帝国（東口ーマ帝国）滅亡まで続く。その後はオスマン朝の支配下に入り直轄地となつた。19世紀後半以降、さまぎまな勢力が領有を主張したが、霧土戦争の結果ルーマニアに編入されることとなった。
　市内にはギリシア、ローマ、ビザンツ、オスマン朝と、長い歴史を物語る痕跡が残っている。彩りある歴史をもつこの町は、1905年に反乱を起こした帝政ロシアの戦鑑ポチョムキン号が避難した港としても、近代史にその名をとどめている。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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■ブルガリア　Bulgaria■

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バルカン山脈地方

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●ソフィア　Sofia

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国立美術館　　National Art Gallery

　以下「図録『ブカレスト国立美術館所蔵絵画展』(毎日新聞社、1991)」から

ごあいさつ
　このたび，念願の「ブカレスト国立美術館所蔵絵画展」を開催することになりました。
　ルーマニアの美術品収集の歴史は古く，幾多の社会変革を経ながらも，独自の調査の下で優れた芸術品を収集してきました（1948年には首都・ブカレストに国立美術館が創設され，各地方に分散されていたコレクションが一堂に会し，世界でも有数の美術館として現在に至っています。所蔵作品は，古代から今世紀に至る西欧，ルーマニア，東洋の絵画，彫刻，工芸品と多岐にわたり，特に西欧絵画には見るべきものが多くあります。
　周知の通り，1989年には東欧に民主化の波が押し寄せ，一番最後にルーマニアでも革命が起きました。ブカレスト，特に国立美術館と建物を共有する国家評議会が激しい銃撃戦の舞台となり，美術館にも戦禍が及びました。混乱の中，火が廻り，多くの作品が銃弾を浴びるなどその被害は200点以上にものぼるものとなりました。
　それでも幸い，心ある市民や兵士によって残りの作品は安全な場所に運ばれて難を免れ，その中から16世紀から20世紀に至るヨーロッパの名画およびルーマニア作家による絵画が，今回日本で初公開されることになりました。作品は，それを取り巻く種々の状況からは完全に自律しており，私達はその美的価値を変わらずに享受することができます。この展覧会を機に，人類の遺産ともいうべき芸術作品が，同じ人間の手によって破壊されるという悼むべき出来事が今後起こらないことを願ってやみません。
　展覧会開催にあたって貴重な作品を遥か日本まで送り出すことをご承諾下さいました文化省をはじめとするルーマニア側の関係各位に深甚なる謝意を表しますとともに，ご後援を戴きました日本国外務省，文化庁，在日ルーマニア大使館および関係各位に心より御礼を申し上げます。
　　　主催者

ブカレスト国立美術館とそのコレクション
　　　ブカレスト国立美術館長　テオドール・エネスク
　ブカレスト国立美術館は1948年に創立され，ルーマニア人民共和国美術館としてスタートした。当時の政府の決定により，ブカレストにあるいくつかの小さな美術館のコレクションから優品を集めたが，その核となり内容的にも充実していたのは王家の絵画コレクションであった。このようにブカレスト国立美術館は，王家のコレクションを基礎に，王宮の建物に作られた点では他のヨーロッパの美術館と同様の出発であったといえる（現在，国立美術館には10万点を超える作品が所蔵されているが，それらは６つの大きなコレクションによって成り立ち，ヨーロッパ美術，ルーマニア中世美術，ルーマニア近代美術，東洋美術（中国美術，日本美術，イスラム美術），素描・版画，装飾美術の６部門に分類構成されている。
　ヨーロッパ美術は，旧王家コレクションを核とし，これに購入および寄贈により取得した作品を加えている。ルーマニア近代美術は，19世紀初頭より1980年代までのルーマニア作家の作品を収集したもので，質，量ともにルーマニア国内最大かつ最も重要なコレクションとなっている。これらはブカレストにあった３つの美術館の所蔵品を統合したもので，さらに，優れた価値判断によって選択された寄贈作品や系統的，組織的な購入作品によって価値あるものとなったのである。このコレクションだけでルーマニア近代美術史を語ることが可能だといってもけっして過言ではない。ルーマニアを代表する美術家で，広くヨーロッパに名声を博したアマン，グリゴレスク，アンドレエスク，ルキアン，ペトラシュク，パラディ，パチュレアなどの作品は，広範な年代の，しかも多様な作品が数多く所蔵され，それぞれの作風の変遷を辿ることができる。しかし，残念なことにブランクーシ（ルーマニア語ではブランクーシュ）はこの例外と言わざるをえない。1904年にパリに出て1920年以後同地に定住したブランクーシの作品は，世界中に分散されてしまったため，ブカレスト国立美術館には第一次世界大戦以前の作品しか所蔵されていない。ただ，作風の確立される以前の傑作「祈り」，「地の静」といった，新しい作風を獲得し近代彫刻のアヴァンギャルドとして彼が登場する契機となった重要な作品が所蔵されている。この他に，別館の別部門になるが，民間の蒐集家が国立美術館に寄贈した美術品を所蔵する蒐集館がある。この館の所蔵品には，各々の時代の蒐集家が選定した優れた美術品からなる価値の高いコレクションが多く含まれている。（蒐集館の所蔵するさまざまな美術作品の中には，東洋美術の豊富なコレクションがあり，民間の蒐集家がその噂好と優れた感覚，知識をもとに永い年月をかけてそれらを蒐集したことが理解される。）
　ルーマニア中世美術の所蔵品は，14世紀から18世紀にわたるルーマニアの美術作品を所蔵する国内最大のコレクションである。ルーマニア中世美術は，その起源を直接ビザンティンに求められ，しかも，その初期にはビザンティンの美術家がルーマニアを訪れて制作したために，４世紀もの間ルーマニアの美術家はビザンティン美術の様式の強い影響下での制作を余儀なくされた。したがって，視覚的にはビザンティン美術の影響下に形成されながらも独自の芸術的創造を見ることができる。ルーマニア中世美術は建築，絵画，装飾美術において独自性を発揮するとともに，ビザンティンの美術的，精神的伝統を長期間にわたり継承しているのである。この部門にはビザンティン美術に係わるさまざまな分野の美術作品，フレスコ画の断片やイコン，石製彫刻（墓石），木製彫刻（祭壇画），銀細工などの金属工芸品，刺繍や教会関係の衣装などの染織工芸品，ミニアチュールその他が所蔵されている。これらはいずれもルーマニアの５世紀間にわたる芸術文化の水準の高さを印象深く明らかにするものである。
　2000点の絵画作品と400点の彫刻作品からなるヨーロッパ美術部門の主要な部分は旧王家のコレクションであり，1914年に国王カロル�T世の遺言により，それらが王立コレクションとされたため，ルーマニアの国家財産となっている。この旧王家コレクションにブカレストにあったいくつかの美術品の所蔵品とシビウのブルケンタール博物館の所蔵品，さらには新規の購入作品などが加えられている。旧王家コレクションは，ホーエンツォレルン・ジクマリンゲン家の旧友であり，美術品の熱心な蒐集家でもあったフェリックス・バンベルクが，パリ，ジェノヴァ，メッシナの領事としてフランス，イタリアに滞在した時期に蒐集した美術作品を，1879年にルーマニア国王カロル�T世が購入したものである。このコレクションは，1850年代のロマンティックな噂好を色濃く反映しながら，それ以前のさまざまなコレクションが併合され形成されている。それらには19世紀初頭の教会や修道院の旧蔵品，あるいはペレイレ，ラス・マリスマス侯爵，スルト元帥，サラマンカ侯爵など18世紀の著名な蒐集家のコレクションが含まれ，とりわけ国王ルイ・フィリップのコレクションは，1838年と1848年の２度にわたりルーヴルで展示され後にロンドンで売却された来歴をもつコレクションである。国王カロル�T世は，このバンベルク・コレクションを購入するにあたり，すでに永い年月にわたる書簡の往復によりその内容と個々の作品についてのさまざまな美術的情報を得て十分に理解していた。彼は文化を理解する精神と文化的教養を身につけていたのである。（彼の父カール・アントンは，その居城ジクマリンゲンに膨大な美術コレクションを有していた。）国際的な教育を受けたカロル�T世は，19世紀の偉大な美術史家で優れた〈鑑識家〉であり，「美術史ハンドブック」（1855年初版，ドイツで最もポピュラーな美術史の書籍であり重版も数回におよんでいる）の著者でもあるアントン・シュプリンガ一教授（1825−1891年）にボンで師事している。このシュプリンガ一教授は，中世美術のイコノグラフィーに関する基礎研究に貢献し，ルーマニアに招待されるなどカロル�T世とその後長い間親しい交際を続け，王のコレクション形成にあたっては，教授の精神，知識が基礎となるとともに，個人的にも王の芸術への関心を高め，また，カロル�T世の〈芸術と政治における統治の記念〉にも心を配った。その大部分がカロル�T世のコレクションより成るこのヨーロッパ美術部門は，おもに15−17世紀のイタリア美術，スペイン美術，16−17世紀のドイツ美術，17世紀のフランドル美術，オランダ美術17−19世紀初頭のフランス美術などの作品によって所蔵品の基礎が形成されている。
　国立美術館は，1950年にルーマニア近代美術の部門から公開を開始し，その後数年のうちに前述のさまざまなコレクションおよび旧王家の家具類と装飾美術作品の公開がすみやかに開始された。1959年までは旧王宮の建物全体を使って展示が行われていたが，この年に大統領の国家評議会がこの旧王宮を使用し始めたため建物の半分が国家評議会に占められることになった。この不幸な隣人関係は，美術館の展示，保管スぺ−スの削減をもたらしたばかりでなく，1989年12月のルーマニア革命の際に美術館の所蔵品が損傷を被る原因にもなったのである。秘密警察員の一部が美術館に侵入し，一連の放火を行ったため，これに対抗して国軍が進出した。この戦闘と混乱により多くの美術作品が破壊され，損傷を受けた。館内の修復アトリエは全焼し，20点以上の絵画が破壊され，120点以上の絵画が重大な損傷を被ったが，一部の美術館員の勇敢な努力により多くの美術作品が救われたのである。館内すべてが損傷を受け，すべての設備が破損されたため，公開の再開には永い年月（およそ２年間）を要するとともに，全館公開を目指す新しい展示の実現には基本的なところでの努力（膨大な点数の美術作品が修復処置を必要としている）が不可欠である。全職員が美術館の再建に向けて，作品の修復などに全力をつくし，新しい美術館を世界的なレヴェルのものにすべく努力を続けている。そのためには，こうした再建の努力とともに美術館の評価を高める努力も怠ることはできない。その具体的な一歩として，毎日新聞社，日本国内の美術館および日本の美術ファンの方々の協力により，この度の展覧会が実現されたのである。

　以下『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から

ブカレスト
　ルーマニアの首都ブカレスト（現地発音はブクレシュティ）は、カルパチア山脈の南に広がるワラキア地方の南東部に位置する。人口は、現在約235万人。
　20世紀初頭には、「バルカンの小パリ」と称されるほど美しい町並みを誇っていた。が、現在その面影をかろうじてとどめているのは、旧市街のごく一部と凱旋門に続く通り沿いのみであろうか。古い教会や歴史的な建築物は、独裁を続けた共産党の手によって、ことごとく破壊されてしまった。そのため、この町には歴史的な見どころが驚くはど少ない分、通りを歩いていると、とてつもなく巨大な建物群が目にとまる。まるで故チャウシェスク大統領の野望を有形化したかのような、旧共産党本部や国民の舘…。
　1989年12月、一般市民の虐殺と大統領の処刑という流血革命から15年以上が経った。街の風景は移り変わり、あの惨劇を思い起こさせるものはめっきり少なくなった。2007年から欧州連合の新メンバーとなったルーマニアの顔、ブカレスト。これからこの街はどこへ行くのか。

ワラキア地方
　ドナウ川の北に広がる大平原が、ワラキア地方だ。ルーマニアは大きくトランシルヴァニア、モルドヴァ、ワラキアの３つの地方からできている。なかでもワラキア地方はルーマニア語で「ルーマニア人の土地」を意味する「ツァラ・ロムネスケア」と呼ばれ、ルーマニアにとっていかに大切な場所だと考えられているかがわかる。
　ワラキア地方の元となったのは、中世に生まれたワラキア公国だ。ワラキア公国は南のオスマン朝、北のポーランド王国やハンガリー王国、のちにはハプスブルク帝国やロシア帝国など、数々の強大な国家に翻弄されながらも、独自の文化を守り続け、いまのルーマニアの礎となった。その厳しい歴史の中にはドラキュラのモデルともなった串刺し公ヴラド・ツェペシュもいた。
　第２次世界大戦後はチャウシェスク独裁の舞台ともなり、共産化や都市計画の名のもとに歴史的な建築物が破壊された。特に首都のブカレストは巨大な建造物やモニュメントが残され、当時の記憶をいまに伝えている。
　ブカレストがどうしても出入国の際の経由地として捉えられがちなので、ワラキアの大地は通り過ぎてしまう人が多いかもしれない。それでも観光客が少ない分、飾らないルーマニアの人々が見られるのがワラキアの魅力でもある。

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国立海外アート美術館　　National Gallery of Foreign Art

　ヨーロッパ絵画専門の美術館。広大な敷地内には、コレッジョの『聖母子』を始め、レンブラントのエッチングなど約3000点の作品を所蔵している。
　　　［『世界　美術館の旅』(小学館、2002)から］

ナツィオナルナ・ガレリヤ・ザ・チュジュデストランノ・イズクストヴォ
　外国に住む裕福なブルガリア人たちの基金によってオープンした白亜の宮殿のような美術館。インディヘナの工芸品や日本の浮世絵など、世界各地から集められた美術品を展示。
　ドラクロアのような巨匠の作品や、日本の三里塚陶争を描いた巨大な絵には驚かされる。
　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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シティ・アート・ギャラリー　　City Art Gallery

　フドジェストヴェナ・ガレリヤ。
　市民庭園の南端にある小さな美術館。ブルガリア人アーティストを中心とした絵画や彫刻を展示している。現代美術から古典まで幅広い企画展示が行われるが、重点は現代美術におかれる。パンフレット（ブルガリア語のみ）の販売もある。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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●カザンラク　Kazanlak

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イスクラ歴史博物館　　Iskra Museum & Art Gallery

　イストリチェスキ・ムゼイ・イスクラ。
　白い建物の人口には馬車に乗って走る兵士の姿が浮き彫りにされている。１階は考古学博物館でカザンラク周辺から出土した土器や装身具が展示されている。特にトラキア人の金細工コレクションは必見。２階は現代アートギャラリーになっている。

トラキア人の基　Thracian Tomb
　町の北東、トュルベト公園内にあるユネスコの世界文化遺産。1944年、防空壕建設中に偶然発見された。保存小屋のそばには精巧なレプリカがある。忠実に再現された、紀元前４世紀後半から紀元前３世紀頃のものとされるトラキア人のフレスコ画で、戦闘場面や葬送儀礼の様子が数種類の色使いで描かれている。また、発見から1979年の世界遺産登録までの過程が、写真とともに年代を追って説明されている。英語パンフレットあり。

カザンラク
　ソフィア〜ヴァルナ間の幹線上に位置する、バラの谷で一番大きな町。カザンラクとはバラを加工する際に使う「銅の釜」を意味し、パラ産業の中心地だ。ここで催されるバラ祭り（プラズニク・ナ・ロザタ）の日にはヨーロッパ、そして日本からもたくさんの観光客が訪れる。
　祭りの主役はバラだが、音楽祭としても充分楽しめる。イタリア、セルビア、マケドニア、トルコ、ギリシアなど周辺諸国の舞踊団が集い、きらびやかな衣装と民族舞踊を競って演じるさまは圧巻だ。はかにもフリークライミングや子供バレエ大会など、カザンラク周辺でさまざまな催しが同時進行される。閉会式では世界各国の人々が入り乱れて手をつないで踊る、まさに「大団円」で祭りの幕は閉じられる。
　祭り以外の時期は静かな町だが、世界遺産にも登録されているトラキア人の基や、近郊には1878年の露土戦争でロシア・ブルガリア連合軍が歴史的勝利を飾ったシプカ峠などの見どころもある。

バラの谷　Valley of Roses
　あまり知られていないが、香水などに使われるバラの香料は、ブルガリア産のものが世界市場の８割を占めている。そのほとんどはバルカン山脈とスレドナ・ゴラ山脈に挟まれた、ここ“バラの谷”で摘まれたバラから精製されたものだ。ブルガリアの中心に位置し、温暖で乾燥した気候がバラ栽培に適していて、春になるとあたり一面バラ園となる。
　バラ園は、カザンラク、カロフェル、カルロヴォなどの町を中心に広がり、６月の収穫期には夜明け前から摘み取りが始まる。民族衣装をまとった女性たちが歌と踊りで豊作を祝う「パラの祭典」もこの頃に催される。予約がないとホテルの確保は難しいが、バラの谷が美しく輝くこの季節をぜひ楽しんではしい。毎年６月第１週の週末を中心に開催される。 　集められたバラは香料に加工され、おもにフランスに輸出される。そこでブランド物の香水に姿を変え、日本のデパートにも並ぷ。変わったところでは印刷用のインクにも使用されるという。
「ブルガリアの金」とまでいわれるパラの産地のこの地方は、19世紀には民族復興運動の舞台ともなった。オスマン朝の圧政に対して立ち上がった革命の志士たちが、山間の村を転々としながらブルガリアの独立への足場を固めていったのだ。そして独立を決定づけたのも、この地方で行われたシプカ峠での激戦による勝利だった。
　バラの祭りの時期以外のパラの谷はとても静かな地域。ブルガリアの平均的な地方都市を知りたい人は足を延ばしてみよう。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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ピリン山脈地方

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●リラ　Rila

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リラの僧院　　Rilski Manastir

　ソフィアの南約65km。リラ山の奥深くにひっそりと、リラの僧院はある。ブルガリア正教の総本山ともいうべき僧院である。バスに乗って、鬱蒼とした緑深き１本道の山道を揺られて行くと、曲がりくねった道の先に突然現れる、色彩豊かな僧院の門。このような場所に、いったい誰がどんな想いで、僧院を建てたのだろうか…。
　僧院の歴史は10世紀にさかのぽる。イヴァン・リルスキという僧が、隠遁の地としてこの場所を選んだ。そして小さな寺院を建立。それがやがて中世の宗教と文化の中心になっていったのである。
　現在の形になったのは14世紀。時の王の庇護の下で僧院文化は華開いた。その後、ブルガリアは約500年にわたってオスマン朝の支配下に入ることになる。この間、キリスト教の信仰はもちろん、ブルガリア語の書物を読むことにも制限が加えられていたのだが、この僧院だけは、それらが黙認されていた。往時には約360の房に、全国から僧が集い、寝起きしていたという。
　僧院の建物は、1833年の大火事でおおかた燃えてしまったが、その後復旧され、1983年にはユネスコの世界文化遺産に登録された。

聖母誕生教会　Holy Virgin Church
　ツァルクヴァ・スヴェタ・ポコロディツァ。
　４階建ての外陣に、まるでガードされるかのように囲まれて建っているのが、聖母誕生教会だ。自と黒の横縞模様が印象的なアーチをくぐると、外壁の壁面いっぱいに、そして天井にも、フレスコ画。そこには、36の聖書の場面やこの地方のそれぞれの時代の生活の様子が、色彩豊かに措かれている。
　教会内部のイコン（聖人の図像）は幅が10mもある立派なもの。また、聖壇所の中央やや上には、大きな目が描かれている。これは聖人の目を意味していて、教会内部のどの位置からも見えるようになっているそうだ。教会の建物自体は、1833年の火事のあとに再建されたもの。修復の指揮には、バンスコ出身のネオフィト・リルスキがあたり、壁画は巨匠ザハリ・ゾグラフらが無償で描いたという。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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トラキア平原地方

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●プロヴディフ　Plovdiv

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歴史博物館（ゲオルギアディ・ハウス）　　The Museum of History (Georgiadi House)

　イストリチェスキ・ムゼイ（カシュタ・ナ・ゲオルギアディ）。
　1848年に富豪のトルコ人によって建てられた屋敷で、9月6日通りにある歴史博物館の分館。１階がギャラリー、２階が民族復興期の資料館となっている。1876年の四月蜂起の際に使われた武器もあって、大砲なども展示されている。四月蜂起の鎮圧後、オスマン朝政府によって埋葬されることを禁じられた死体が町にあふれていたという。

聖処女教会　Church of The Virgin
　ツアルクヴァ・スヴェタ・ポゴロディツァ。
　ジュマヤ広場から坂を上っていくと、敷地の広い聖処女教会が見えてくる。教会堂の隣にはスタニスラフ・ドスペフスキのイコンの傑作があり、また堂内の壁画も美しい。３層の鐘楼が目印。

バラバノフ・ハウス　Balabanov Hause
　かつては民族復興期の富豪ルカ・バラバノフの屋敷で、現在は、現代美術の作品を集めたギャラリー。中庭や屋敷自体も美しい。

プロヴディフ　Plovdiv
　バルカン山脈とロドピ山脈に挟まれたトラキア平原は、比較的温暖で農業に適した所。そのはぼ真ん中にある町がプロヴディフ。ソフィアから南東へ125km。人口は約35万人でソフィアに次ぐ国内第２の都市だ。
　プロヴディフの歴史は古く、紀元前19世紀にはすでに、トラキア人の集落が造られていたという。交通の要衝に位置していたので当時から商業が栄え、紀元前４世紀にはマケドニアの主要都市のひとつとなった。この町を愛したマケドニア王フィリップの名を取って、町はフィリッポポリスと呼ばれ、その後ローマ帝国がこの地を征服すると、地形からトリモンティウム（３つの丘）と改称される。ローマの支配下にトリモンティウムは大発展し、議事堂や競技場が建設され、それらは町のあちこちに姿を残している。
　第一次、二次ブルガリア帝国の時代を経て、14世紀になると町はオスマン朝に支配されるようになり、フィリベと呼ばれるようになった。人口が増えるごとに新しく区画が拡張され、そのたびに新しい建築様式や装飾が町を彩った。一方、古い時代の建物も保存され、ローマの円形劇場から民族復興期の屋敷まで、新旧が見事に同居する美しい町並みができあがる。
　プロヴディフの商業の伝統は現代にも受け継がれていて、毎年５月と９月に開かれる国際見本市には世界中からバイヤーやプレスが詰めかける。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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ドナウ平原地方

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●ルセ　Ryce Ruse

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ルセ・アート・ギャラリー　　Ruse Art Gallery

　ガレリイ。
　ブルガリア人アーティストの作品だけを集めたギャラリーで、ボリソヴァ通り沿いの集合住宅の１階にある。日常の生活をモチーフにした作品など、身近なテーマが多く、それらのほとんどは現代の画家によるもの。ブルガリア人の生活や精神文化をかいま見ることができるだろう。

　ドナウ川を挟んでルーマニアと国境を接するルセは、人口約20万を抱えるブルガリア第４の都市。ドナウ平原の行政、商工業の中心地でもある。
　ルセの歴史は、１世紀のローマ皇帝ヴェスパシアヌス Vespasianus の時代に、セクサギンタ・プリスタ Sehaginta Prista（60隻の船）という要塞が建設された頃から発展していく。14世紀から始まるオスマン朝の支配時代には商工業都市として繁栄。19世紀後半にはヴァルナとの間にブルガリア初の鉄道が開通し、町並みも近代的になっていく。現在はソフィア、ヴァルナをはじめ、ルーマニア、ロシア、ハンガリー方面への国際列車の発着駅ともなっている。
　旅行者は国境の町として通過してしまうことが多いが、「バルカンではなくヨーロッパに属する町」と呼ばれる雰辣気に、途中下車して浸ってみるのもいいだろう。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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●ヴェリコ・タルノヴォ　Veliko Tarnovo

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ヴェリコ・タルノヴォ美術館　　Veliko Tarnovo Art Museum

　フドジェストヴェナ・ガレリヤ・ヴェリコ・タルノヴォ。
　蛇行するヤントラ川に挟まれた中洲のような場所にある美術館。現代画家たちが措いたブルガリアの歴史が展示されている。19世紀後半から20世紀にいたるまでの独立運動を題材した作品も多い。そばにはアッセン王のモニュメントもある。

教会　Churches
　ツァルクヴィ。
　チャルシヤ（市場）からさほど遠くない住宅街には、町とともに歴史を積み重ねてきた教会がいくつかある。聖キリル・メトディー通り周辺には聖ニコラ教会がある。まだオスマン朝支配下にあった、民族復興期の1836年に完成した教会で、外見は地味だが、内装はとても荘厳だ。教会堂の玉座には、ブルガリアのシンボルであるヘビとライオンの彫刻がある。さらに坂を上っていくと、聖キリル・メトディー教会がある。キリル文字のもとになったグレゴール文字を考案した高僧の兄弟の名を取った教会で、鐘楼は巨匠フィチェフの手によるもの。
　メインストリートのニコラ・ピコロ通りに面して建つ、３つの丘からもよく見える鮮やかな碧色の屋根を持つのは、聖処女降誕聖堂。イヴァン・ヴァゾフ通りの側から入ることができる。
　また、ヴェリコ・タルノヴォの古い教会は、アセノヴァ地区周辺に集中している。第二次ブルガリア帝国のアッセン王がビザンツ帝国を撃破したことを記念して建てられた聖ディミタル教会は、そのなかでも最も美しい教会だ。現在は博物館になっている。川を挟んでその向かいには、やはり現在は博物館となっている13世紀に建てられた教会、聖ペテロ・パウロ教会がある。

民族復興期博物館　Exhibition of the National Revival Period and the Constueut Assembly
　ムゼイ・ナ・ヴァズラジュダネト。
　オスマン朝のヴェリコ・タルノヴォ総督邸だった屋敷が、ブルガリア独立運動を中心とする19世紀の社会情勢に関連した資料を展示する博物館として公開されている。ここではそれらをわかりやすく紹介している。例えば展示されている19世紀のヴェリコ・タルノヴォの全景写真を見れば、当時は巨大なイスラム寺院がこの町にあったことがわかるし、豊富な収蔵品からは近代ブルガリアの様子がリアルに伝わってくる。歴史を勉強するにはもってこいだ。ほかに、独立を達成したブルガリアの最初の国会が1879年、この建物内で開かれたことから、その模様を写した写真などもある。美術が好きな人には、地下階のイコンのコレクションは必見だ。
　建物は、1872年に巨匠フィチェフによって設計された、堂々たる３階建ての木造建築。イヴァン・ヴァゾフ通りに面している。

ヴェリコ・タルノヴォ　Vetiko Tarnovo
　国土の東西に横たわるブルガリア最大の山脈、バルカン山脈の東部にある、人口、７万弱の地方都市。ブルガリア人にも人気の観光地だ。森に包まれたいくつもの丘と、周囲を蛇行するヤントラ川の切り立った崖の独特の美しさは、中央ヨーロッパでも際立ったものだ。
　どこを歩いても違う表情を見せてくれ、地図を見ているだけでは想像もできないはど立体的。自然と中世の町並みが鮮やかに溶け合っている。
　かつては「タルノヴォ」と呼ばれ、1187〜1393年に第二次ブルガリア帝国の首都として栄えた古都でもある。イヴァン・アッセン王治下の最盛期にはビザンツ帝国（東口ーマ帝国）をも圧倒し、バルカン半島のはぼ全域を支配したこともあった。文化的にもこの時代は周囲を押さえ、タルノヴォで勉学を修めるためにルーマニアや遠くモスクワからも留学生がやってきた。
　しかし、その帝国もアッセン王死後に衰退を始め、やがて宿敵ビザンツ帝国に屈服、1398年にはオスマン朝との３カ月にわたる首都攻防戦の後、ついに滅亡する。タルノヴォが再び脚光を浴びるのは、500年にわたるトルコ支配からの独立を達成した1879年から。新生ブルガリア王国の最初の国会がこの町で開かれたのだ。

ツァレヴェッツの丘　Museum Tsarevets
　旧市街のメインストリートを歩いていくと、頂上に教会の建つ丘が見えてくる。ツァレヴェッツの丘だ。第二次ブルガリア帝国の時代にはこの丘全体が宮殿だったのだが、オスマン朝の猛攻によってすべて瓦礫の山と化してしまった。頂上の教会は大主教区教会。内装の壁画はブルガリア現代絵画の巨匠の手によるものだが、硬直した筆遣いで、社会主義があらゆるところに影響力をもっていたことがわかる。ここからの旧市街の眺めは抜群。

スヴェタ・ゴラの丘　sveta Gora
　旧市街とヤントラ川を挟んで対面にあるスヴェタ・ゴラの丘は、第二次ブルガリア帝国時代に宗教、文化、教育の中心だったタルノヴォ・スクールのあった所。スヴェタ・ゴラとは「聖なる丘」の意味。帝国内はもちろんロシアからの留学生もここで先進文化を学んだ。現在はキリル・メトディー大学がある。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］


ごあいさつ
　このたびサントリー美術館では「ブルガリア・イコン−民衆の祈り−」展を開催する運びとなりました。イコンは、その原形となるものが遠く初期キリスト教時代から作られ、ビザンティン文化の中で、独自の優れた美術的形式として発展してきました。今日、我国には、ヨーロッパ諸国の芸術が盛んに紹介されておりますが、そうした伝統文化の背景となるキリスト教美術の中でも、このイコンの重要性と、美術的価値については、これまでも本格的な作品の紹介が待たれていたと言えましょう。サントリー美術館では、かつて、1975年にロシア・イコンの展観を行い、ご好評を戴きましたが、今回、ブルガリア文化省、及び、ブルガリア文化委員会の全面的な御厚意により、ブルガリア・イコンの優れた作品の数々を展示することが出来ることとなりました。この展観を通して、ブルガリア・イコンの素晴らしさを十分に知って戴くと共に、そこに描かれたブルガリアの人々の強い信仰心とその姿をご覧戴きたいと思います。展覧会開催に多大のご助力を戴きましたブルガリア大使閣下をはじめ、共催の朝日新聞、ご後援を戴いた文化庁、外務省、ならびに、ご協賛を戴いた日本航空はじめ、関係各位にお礼申し上げます。
　　　サントリー美術館館長・サントリー株式会社会長　佐治敬三

　当展覧会のイコンおよびその他の展示作品は、国立美術館ブルガリア古典美術館分館−アレクサンダル・ネフスキ寺院地下展示場とヴェリコ・タルノヴォ県立歴史博物館などの収蔵品である。

　　　［図録『ブルガリア・イコン−民衆の祈り−展』(サントリー美術館、1990)から］

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●アルバナシ　Arbanassi

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聖誕教会　　The Nativity church

　ツァルクヴァ・ロージェストヴォ・フリストヴォ。
　アルバナシで最も古い教会。半ドーム状の内部は絢欄たるイコン、壁画で埋め尽くされている。16〜17世紀にかけての、宗救画、「運命の車輪」「イエスの木」など非常に美しい。内部は写真撮影不可。

アルバナシ　Arbanassi
　ヴェリコ・タルノヴォの近郊には、古都とともに歴史を刻んできた村がいくつもある。どの村にも古い教会があり、時間が止まったようにのんびりとしている。アルバナシもそんな村のひとつ。ヴェリコ・タルノヴォからは北へわずかに４km。ニコラ・ピコロ通りまで来れば旧市街からも遠くの崖の上にその姿が見える。
　アルバナシには古くからの屋敷が80余り現存しているが、そのうち36の家が国の文化財に指定されている。この村に美しい家が多いのには理由がある。1838年にオスマン朝のスルタンであるスレイマン２世は、義理の息子にアルバナシを贈り、その所有権は代々の後継者たちに受け継がれていった。オスマン朝の統治下にあってアルバナシは税制上の特権を授けられ、村人は有利な条件で商売ができた。職人や商人たちが美しい屋敷を建てられたのも、蓄財ができたからなのだ。 　それら屋敷のいくつかが公開されている。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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黒海沿岸地方

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●ブルガス　Burgas

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アート・ギャラリー　　Art Gallery

　フドジェストヴェナ・ガレリャ
　考古学博物館のある区画の南側には、もとのシナゴーグ（ユダヤ教の教会堂）を改築した小さなアートギャラリーがある。建物の３階すべてが展示室で、最大の見ものは18〜19世紀のイコンのコレクション。絵画は現代画も多く、海をテーマにブルガスの漁師を描いた、素朴ながら力強い作品が目立つ。学生の企画展示もある。残念ながら英語の解説はない。

聖キリル・メトディー致会　st. Ciril and Methudius church
　カテドラルナ・ツァルクヴァ・スヴェタ・キリル・イ・メトディー
　19世紀末期から20世紀初頭にかけて建てられた、ブルガリア正教の教会堂。堂内は壁や天井のフレスコ画が美しく、厳かな雰囲気が漂っている。日曜のミサ以外はひっそりとしている。

ブルガス　Burgas
　ルーマニアからブルガリアまで、黒海沿岸の諸都市はすべて紀元前のギリシア人の植民によつて歴史が始まつた。しかし、ブルガスの町は新しい。周辺の漁師が集落を造ったのが始まりで、17世紀までには町に成長、さらにブルガリアがオスマン朝から独立した19世紀後半にソフィアから鉄道が敷かれ、飛躍的に発展していく。
　ヴァルナに比べると全体的に小さいブルガスだが、湾岸都市としての機能は果たしていて、ここにも世界中からの貨物船がやってくる。港には石油コンビナートが林立し、工業都市として活気づいている。海岸近くの町並みは区画整理されているものの、近代ヨーロッパ調の美しい屋敷も目を引く。カフェやベーカリーはいつもにぎわっているし、ギリシア、トルコ料理店などもあちこちにあり、黒海沿岸ならではの混在する多文化が感じられる。
　近隣へのバスでのアクセスもよく、ヴァルナ発のバスは、リゾート地サニー・ビーチや世界遺産の町ネセパルを経由しながらブルガスに到着する。海水浴が目的の人は、ビーチリゾートとして充実したサニー・ビーチヘ直行したはうがいいだろう。南には歴史ある町ソゾポルもある。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

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●ソゾポル　Sozopol

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美術館　　

ソゾポル　Sozopol
　ソゾポルの歴史は古い。紀元前12世紀にギリシア人がこの地を開き、植民地として移り住んだことに始まる。ギリシア人は高さ12mにもなる太陽神アポロの像を建てて植民地をアポロニアと呼んだ。
　当時から貿易港として栄えていたアポロニアの海には、この地方の蜂蜜や穀物とギリシアのワインや織物などを積んだ船舶が頻繁に往来していた。しかし、紀元72年にはローマの将軍ルタウルルスが町を占領し、ギリシアの時代は終わりを遂げた。ローマはアポロ像を戦利品として持ち帰り、それ以降、町はソゾポル（魂の救い）と呼ばれるようになった。町の名前は変わっても、貿易の拠点としての地位はゆるがず、ローマ・ビザンツ時代も黒海沿岸の主要港としてソゾポルは繁栄を続ける。だが、ブルガリアがオスマン朝から独立して、ソフィアやプロヴディフからの鉄道がブルガスまで敷設されると、この地一方の貿易の中心地はブルガスに移ってしまった。
　現在のソゾポルは、石畳の坂道が多く、道沿いに古い民家が並ぶ小さなのんびりとした町。プルガスからは南へ35km。 　新市街の南の海岸は海水浴場になっている。
　おもな見どころは、公園の西端にある考古学博物館。海底に沈んでいた難破船から発見されたギリシア時代の宝物などが展示品で、特にギリシアの神々を主題とした壷のコレクションは国内第一といわれている。ほかには、旧市街の北に美術館があって、地元の画家による作品が並んでいる。夏のソゾポルは観光客でにぎわうが、一歩路地裏に入れば静かな時間が流れており、落ち着いて散策が楽しめる。

　　　［『地球の歩き方　ブルガリア ルーマニア』(ダイヤモンド社)から］

バルカン諸国　Balkan

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■スロヴェニア共和国　Republika Slovenija■

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●リュブリャナ　Ljubljana

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スロヴェニア国立美術館　　National Museum of Slovenia

　1888年に一般公開された。女流画家コビルツァをはじめとし、シュヴィッツ、グロハールなど、スロヴェニアの画家作品を中心に展示している。

　　　［『世界　美術館の旅』(小学館、2002)から］

Narodna galerija (National Gallery)
　スロヴェニアで最も重要な美術品を所蔵している国立美術館は、14世紀に作られたマリア像や、カリンゲルのロマン主義風景画からヤコピッチ、グロハールなどの印象派まで幅広い絵画作品を展示している。
　1896年に建てられた旧館には絵画を中心に、新館には絵画とスロヴェニアの秘宝の数々を展示している。

リュブリャーナ　Ljubljana
　オーストリア、イタリアとの国境に立ちはだかるユリアン・アルプス。そこから約50km南東の盆地に開けた首都リュブリャーナは、ルネッサンス、バロック、アールヌーヴォーなど各様式の建築物が調和した小さな芸術の都だ。
　およそ27万の人口をかかえる首都は、500年にわたる神聖ローマ帝国の支配の後オーストリア・ハンガリー帝国に組み込まれ、ハブスブルク家のもとで発展を遂げてきた。現在はスロヴェニアの政治、経済の中心として、その歩みを続けている。
　リュブリャーナ城の建つ緑の丘と、その下に流れるリュブリャニツァ川が、忙しさとは無縁の落ち着いた風景で旅行者を歓迎し、赤瓦の屋根が折り重なる旧市街の町並みは、中世へとタイムスリップしたような錯覚を起こさせる。自然と芸術が調和した美しい古都。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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近代美術館　　Moderna galerija (Museum ot Modern Art)

　1945年に Edo Ravnikar により建設された。スロヴェニア人芸術家による近〜現代のアートを中心に展示している美術館。企画展も意欲的に催されている。

国立博物館　Narodni muzei Slovenije (National Museum)
　緑地公園に面した白塗りの建物が、1885年に建てられた国立博物館だ。館内には、スロヴェニア有史以来の遺物が多く並べられている。紀元前６世紀に描かれたとされる壁画や、ローマ時代の宝石やガラス細工などが見どころだ。鉱物の標本や動物のはく製などを展示した自然史展示館 Prirodoslovnega muzej も併設されている。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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洞窟城　　predjamski grad (Predjama Castle)

　ポストイナ鍾乳洞からさらに９km離れた所に、ひとめ見たら忘れられない独特な姿をもった洞窟城がある。高さ123mもの切り立った崖に抱かれるようにひっそりとたたずみ、はるか下を流れる川、のどかな田園風景に取り巻かれて、まるで物語の中に入り込んでしまったかのように幻想的な光景だ。
　この場所に初めて城が建てられたのは12世紀頃といわれており、現在の姿は16世紀に建て替えられたもの。内部には16〜19世紀の家具や絵画、当時の生活を再現した人形などの展示もある。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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■クロアチア共和国　Republika Hrvatska■

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●ザグレブ　Zagreb　（フルヴァツカ地方）

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/a>近現代美術館　　Moderna galeriia

　19世紀と20世紀の200年にわたるクロアチアの絵画を展示する、クロアチアを代表する美術館。クロアチア出身の画家は残念ながら日本にはあまり紹介されていないが、それだけに、知られざる傑作の宝庫ともいえる。美術フアンであれば、ぜひとも足を運んでおきたい充実の展示。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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ミマラ博物館　　Mimara muzej (Mimara Museum)

　アンチ・ミマラ氏が寄付したコレクションを展示する博物館。グラスや陶磁器、織物など、美術工芸博物館で展示するものとの共通点も多いが、美術工芸博物館がおもにクロアチア国内と周辺諸国のものを中心としているのに対して、ミマラ博物館では、ヨーロッパはもとより中近東やインド、中国や日本のものと、より国際色豊かな展示となっている。ラファエロ、カラヴァッジオ、ルーベンス、ターナーといった世界的な画家の作品を多数展示する絵画部門も見ごたえがある。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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ストロスマエル美術館　　Strossmayerova galerija starih majstora　The Strossmayer Gallery of Old Masters

　クロアチア科学芸術アカデミー内にある美術館。カトリックの司教であり、政治家でもあったストロスマエル司教の美術コレクションを基にしており、14世紀から19世紀のヨーロッパ絵画をイタリアやオランダの作品を中心に展示している。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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●ザダル　Zadar　（ダルマチア地方）

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聖マリヤ教会・修道院　　crkva i samostan sv. Marije

　旧市街の中心部であるゼレニ広場。ここには、９世紀初めに建てられたプレ・ロマネスクの円形教会、聖ドナト教会がある。そのほかこの周辺には、ストシヤ大聖堂や考古学博物館など、旧市街の見どころが集まっており、特に聖マリヤ教会・修道院 crkva i samostan sv. Marije は見事な宗教美術コレクションを誇る博物館を併設していることで有名。

　ザグルはダルマチア地方中部の主要都市で、クロアチアでは５番目に大きな町。旧市街は海に突き出した半島上にあり、城壁内は600m2ほどの広さだ。
　紀元前９世紀にイリュリア人の港町として建設され、以来ローマ帝国、ビザンツ帝国、ヴェネツィア共和国と、大国による支配を受けた。第２次世界大戦中にはイタリアの支配下にあったために、連合軍によって攻撃されるという悲劇にも見舞われている。しかし、旧市街には中世の教会が数多く残り、昔ながらの面影を今に残している。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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●フヴァル　Hvar　（ダルマチア地方）

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フランシスコ会修道院　　sv.Franjo monastar

　修道院は絵画コレクションでよく知られており、特にマッテオ・インゴーリによって描かれたと言われる「最期の晩餐」は必見。

フヴァル　Hvar
　スプリットからフェリーで約１時間30分。真っ青なアドリア海に浮かぶ緑豊かなフヴァル島は、世界でも有数のリゾートアイランド。島のあちこちには、リゾートホテルが建ち並び、夏期には数多くの有名人が訪れることで知られている。島の中心都市は島名と同じフヴァル。小さいながらも、聖ステファン大聖堂をはじめとする数々の歴史的建築物にあふれている美しい港町だ。
　フェリーが着くのはフヴァル湾の東南端。町の中心はフェリー乗り場から真っすぐ北に行った所にある聖ステファン広場。この広場の南側には17世紀に建てられた武器庫、北側には1612年建造のルネッサンス劇場、東側には聖ステファン大聖堂と司教博物館が建っている。歴史的建造物に囲まれている美しい広場だ。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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●ドブロヴニク　Dubrovnik　（ダルマチア地方）

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総督邸（文化歴史博物館）　　Knezev dvor　Rector's Palace

　総督邸は、ラグーサ共和国の最高権力者である総督の住居であると同時に、大評議会、小評議会、元老院など共和国の行政を司るすべての機関が集まったドブロヴニクの心臓部。15世紀の初め、当時の有名建築家、オノフリオ・デッラ・ツァッヴによって建てられたゴシック様式の邸だったが、完成から30年後、近くに置いてあった火薬の爆発によって大きな被害を受け、ルネッサンス様式による補修作業がなされた。その結果、ゴシックとルネッサンスとが融合し、ダルマチア地方で最も魅力あふれる建物とまで評される、独特な建物となった。
　現在、総督邸は文化歴史博物館として使われている。ロココの間、ルイ16世様式の間など、それぞれ異なる様式の家具で飾られた部屋や、壁に飾られた多数の絵画などは、ラグーサ共和国が誇った経済力の一端を現代に伝えてくれている。武器や硬貨など、多彩な展示をもつ文化歴史博物館であるが、特筆すべきものとしては、薬を入れるさまざまな大きさをした陶磁器の壷のコレクション。いかにも薬学が発達していたドプロヴニクらしい。

ドブロヴニク　Dubrovnik
　クロアチアの最南端に位置する、アドリア海沿岸の小さな町ドブロヴニクは、“アドリア海の真珠”と呼ばれるクロアチアきっての観光地。ラグーサ共和国として15〜16世紀には、ヴェネツィアと並ぶ貿易都市として栄え、今も旧市街に当時の面影が色濃く残る。町はアドリア海に突き出した旧市街と、スルジ山の裾野に広がる新市街からなり、見どころは旧市街となる。
　旧市街は、オレンジ色の瓦屋根を頂いた家々がぎっしりと並び、8〜16世紀に増改築を繰り返して建造された城壁で囲まれている。敷き詰められた大理石が光沢を放つ目抜き通りのプラツァ通り中心に、左右に細長く狭い路地が延び、飾らない人々の暮らしがかいま見られる。この美しいドブロヴニク旧市街は、1979年にユネスコの世界遺産に萱辞された。
　1991年からのクロアチア独立戦争の際には、旧ユーゴスラヴィア連邦軍の攻撃により旧市街もかなりの被害を受け、一時は住民も減った。一時は「危機にさらされている世界遺産リスト」に挙げられていたものの、終戦後修復が進み、1994年にあらためて世界遺産に登録された。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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ドミニコ会修道院　　Dominikanski samostan　(Dominican Monastery)

　プロチェ門のそばにある立派な建物。1228年にドプロヴニクに入ってきたドミニコ会派により、15世紀に造られた。ロマネスクやゴシック、ルネッサンスなどの様式を取り入れた修道院内は宗教美術館となっており、11世紀に作られた銀製の聖遺物入れや、15〜16世紀の宗教画などを展示している。

聖イヴナチオ教会　sv. lgnacija (churh of Ignacio)
　石造りの祭壇が見事な聖イグナチオ教会は、1699〜1725年にローマの聖イグナシオ教会をモデルに、バロック様式で建てられたもの。祭壇の天井には、シチリア出身の画家、ガエタナ・ガルシアのフレスコ画が一面に描かれており、見ごたえがある。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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大聖堂　　katedrala Riznica (Cathedral)

　ルジャ広場の南にたたずむ大聖堂は、もともとは1192年に英国のリチャード王が創建したと伝えられるが、17世紀にバロック様式で再建されている。聖堂内の宝物殿には、ドブロヴニクが中世に貿易都市として繁栄していた当時を回想させる財宝の数々が保存されている。大理石などを使った祭壇もすばらしく、その奥にはイタリアの有名画家、ティツィアーノが15世紀に描いた「聖母被昇天」が飾られている。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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■ボスニア・ヘルツェゴヴィナ　Bosnia-Herzegovina■

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●ヴィシェグラード　Visegrad　（ボスニア地方）

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ヴィシェグラード市立美術館　　Visegrad

　（美術館そのもの記述なし）

ヴィシェグラード　Visegrad
　セルビアとの国境近く、ドリナ川沿いにひっそりとたたずむ町ヴィシェグラード。この小さな町は、ボスニア出身のノーベル賞作家イヴォ・アンドリッチの傑作『ドリナの橋』の舞台として描かれており、ボスニアはおろか旧ユーゴスラヴィア全域でも知らない人はいないほどの知名度を誇っている。以前から作品の愛読者が訪れていたが、2007年には、ドリナ川にかかるメフメット・パシャ・ソコロヴィッチ橋が世界遺産に登録されたこともあり、観光地としてさらなる注目を浴び始めるようになった。

ドブルン修道院
　ドブルン修道院はヴイシェグラードの東12kmほど、セルビアとの国境沿いにある修道院。14世紀に建てられた歴史ある修道院で、内部には当時この地域を治めていたセルビア皇帝シュテファン・ドゥシャンとその家族のフレスコ画が残っている。また、修道院の敷地内にある丘の頂上に立つ像は、19世紀のセルビア蜂起で活躍し、カラジョルジェヴィッチ王朝の創始者となったカラジョルジェ・ペトロヴィッチ。彼はセルビア蜂起後、ボスニア解放のため、この修道院に数カ月滞在した記録が残されている。修道院内にある博物館では、カラジョルジェに関する展示やイコン、イースターエッグなどの教会所有の美術品を公開している。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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■セルビア　Serbia■

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●ベオグラード　Belgrade

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/a>ベオグラード国立美術館　　National Museum

国立博物館　National Museurn
　共和国広場、ミハイロ公の像の背後にそびえる立派な外観の建物で、1844年に開館したセルビア最初の博物館。館内は３階建てになっており、１階は旧石器時代からギリシア・ローマ時代、８世紀までの発掘品など、２階では中世に関する展示と、18,19世紀のセルビアの美術品、３階には20世紀のセルビアの美術品と、14世紀から20世紀にわたる外国の美術品が展示されている。
＜セルビア共和国＞
　バルカン半島の中心部に位置するセルビア共和国は、西をディナル山脈、東をカルパティア山脈に囲まれた山がちな内陸国。中央に位置するセルビア共和国の本体に加え、南西はアルバニア人が多数派を占めるコソヴォ自治州、ドナウ川から北に広がる平原地帯はヴォイヴォディナ自治州と２つの自治州から成り立っている。かつてはユーゴスラヴィア内で中心的役割を果たした共和国であったが、６つの共和国がすべて独立。
　連なる山々とその間に流れる川によって造り出された渓谷などの美しい自然、ザイェチャル周辺にあるガレリウス帝の宮殿跡をはじめとするローマ時代の遺跡、中世セルビア王国の下で花開いたキリスト教文化を今に伝えるイコンやフレスコ画で彩られた教会など、文化的な史跡も数多く残っており、観光資源が不足している訳では決してない。
　コソヴォ自治州では、独立を求める多数派のアルバニア人と、それを阻止したい共和国との間で政治的な駆け引きが続けられており、不安定な要素を抱えているものの、南部セルビアを除くはとんどの地域では、概して治安はよく、人々はホスピタリティにあふれている。
　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］


あいさつ
　ユーゴスラビア社会主義連邦共和国の首都ベオグラードの中心地，共和国広場に位置するベオグラード国立美術館は，セルビア民族の歴史的文化遺産を収集，保存，展示することを目的に1844年創設されました。現在その収蔵品は30万点以上にのぽり，先史時代から古代，中世，そして現代にいたるユーゴスラビアを中心とするヨーロッパ，さらにはアジアにまで広がる様々な考古品，美術を保存，展示そして研究する総合美術館として機能しています。
　その数ある収蔵品の中でも，ヨーロッパ絵画のコレクションは王室や篤志家たちによる様々な努力が注ぎこまれ，東欧諸国の中でも屈指の充実した内容で，同美術館収蔵品の中核を形づくっております。今回出品されている19・20世紀フランス絵画はその中から選りすぐられた作品により構成されています。これらの作品のほとんどは永く西側諸国に公開されることなく，いわば知られざる逸品としてベオグラード国立美術館に秘蔵されていたものであり，本展が契機となってそのコレクションに光があてられることになったのは，誠に意義深いことと申せましょう。
　本展では19世紀から20世紀にいたるフランス美術の大きなうねりが，自然主義，印象派・後期印象派，象徴主義・ナビ派，フォーヴィスム，キュビスム・エコール＝ド＝パリと５つのセクションに分けられ紹介されています。各国に様々なかたちで波及していったこの人類共通の偉大なる遺産ともいえる19・20世紀フランス絵画の展覧会を介して，遠く離れたユーゴスラビアと日本との友好関係が深く結ばれ，ますます両国の文化交流が促進されますよう主催者として願ってやみません。
　本展開催にあたり，ご後援賜りました外務省，文化庁，ユーゴスラビア大使館ならびに関係各位に厚くお礼申し上げます。
　　　主催者

ベオグラード国立美術館について
　　　イェヴタ・イェヴトヴィッチ　ベオグラード国立美術館長
　ベオグラード国立美術館は国立の美術館であり，セルビア民族の文化遺産を収集，保存，研究，陳列し，一般に公開しています。また，他のユーゴスラビア民族や過去においてこの地に存在していた国々の文化遺産の一部をも同様に保存しています。当国立美術館は，セルビア共和国とユーゴスラビアにおける最も古く，最も発展した美術館のひとつです。創設は1844年のことで，美術館設立の功績は，文部大臣であり，著名なセルビア人作家でもあったヨヴァン・ステリャ・ポポヴィッチに帰せられます。その発展過程で，美術館は多くの困難に直面し，多くの変化をくぐりぬけてきました。そして，今日では美術と考古学の広範な分野についての近代的な美術館として知られています。
　その創立以来，この美術館は三つの発展段階を経て今日に至っています。第一段階である1844年から1881年までの創始期は，コレクションの収集と，今日的な意味での制度としての美術館の設立準備に関する仕事が中心でした。1881年から1941年までは，美術館が急激に発展した時期です。この時期，学術的な専門家の組織，研究活動，最初の展覧会の開催などが行なわれました。美術館の活動は，建築家のミハイロ・ヴァルトロヴィッチ博士，考古学者であったミハイエ・ヴァシッチ博士，そして美術史家のヴラディスラヴ・ベトコヴィッチ博士やミラン・カシャニン博士といった文化，科学の分野の著名な人たちによって進められていました。1935年から1941年の期間に，ミラン・カシャニンは近代的な美術館の基礎を作りました。この時期，特に絵画コレクションが拡充されたのです。王室の援助や摂政宮ポール・カラジョルジェヴィッチと彼の寄贈品などのお蔭で，美術館は西欧美術の多くの作品を収蔵品に加えることができました。それらの中でも，特に19世紀末から20世紀初頭にかけてのフランスの作家たちの作品コレクションは注目に値します。その多くは今回の日本での展覧会に出品されています。
　1944年以降，解放後のユーゴスラビアで国立美術館は恵まれた状態におかれました。作家で，鋭敏な目利きでもあったヴェルコ・ペトロヴィッチの管理下で，美術館で働く人々の専門職としての立場は大いに改良され，近代的な美術館の諸部門が形づくられ，意義深い国内外の展覧会が組織されたのです。そして，何度もの引っ越しと人材難を克服した後，最終的に1950年になってから国立美術館は，共和国広場の現在の建物に移転しました。
　美術館の建物は，本来は銀行として使うために，二段階に分けて建設されました。最初の半分は1903年に，残りは1933年に作られています。設計は，建築家のアンドラ・ステヴァノヴィッチとニコラ・ネストラヴィッチによってなされました。美術館として使うためのより重要な改良が行なわれたのは1965年から1968年の間のことで，その際，建物はルネサンスとバロックの要素を用いた，ヨーロッパの折衷様式によってデザインされました。
　この40年間に，ベオグラード国立美術館は，組織化された近代的な美術館制度の模範として発展を遂げてきました。四つの付随する美術館と150人以上の職員を抱え，この地域の文明，文化および芸術の発展を物語る30万点以上の美術ならびに考古学の収集品を保管しています。我が国の文化と歴史にとってとりわけ重要な数多くのコレクションや個々の収集品が，前史時代，古典，中世芸術から現代にいたるまで年代順に並べられています。
　実質的な文化並びに美術部門は，専門的科学的活動を中心としており，美術館の他の部門は，保存，修復，資料整備，教育的活動などを主として行っています。美術館が，その陳列品保護のために近代的な方法を導入したり，収蔵業務や近代的な恒久展示を行なったり，ユーゴスラビア内で，あるいは国際的な規模で展覧会を交換したり，セルビア，ユーゴスラビア，そして世界中の多くの都市で展覧会やその他の活動を行なったり，ということが実現したのは，後になってからのことでした。
　最近になって，当美術館は，あらゆる形態の美術館の仕事−コレクションの拡大と完成に努めることから，それらの専門的，科学的な調査研究，さらにそうしたコレクションの陳列や展覧会−に等しく精力を注ぎ込む，ヨーロッパ型の非常に機能的な機関となってきています。現在，進行中の計画では，当美術館は，専門的科学的な仕事において可能な限り最高の水準に達しようと努力しています。他方で，そうした業績が出来る限り広い範囲の人々の財産となるよう奮闘してもいるのです。つまり，出来るだけ多くの人々に，専門的なあるいは一般向けの講演やコンサート，映画やビデオの上映，美術書の閲覧などといった美術館が行なっている多様な活動に参加してもらうということで，当美術館はめざましい成果をあげてきたと言えましょう。
　これまでの活動によって，ベオグラード国立美術館は，現代的に組織され管理された世界の美術館の仲間入りをするための重要な必須条件を満たしてきました。ベオグラードのまさに中心に位置し，１万平方メートルを越える広さの中に20以上のまとまったコレクションが所有されています。国内から集められた前史時代や古代の考古学の遺品も所蔵していますが，中心となっているのは中世セルビア美術コレクションで，また年代順ピラミッドの頂点には17世紀および19，20世紀の美術があります。16世紀から20世紀までのほとんど全てのヨーロッパ絵画を代表するような約1,000枚の絵画コレクションは，当美術館の誇りとするところです。また，二つの非常に豊富なコレクションを収めた収蔵庫があり，それぞれ版画とメダルが所蔵されています。これらは，展示スペースが狭いために，現在のところ恒久的展示はなされていません。陶器や金属による美術品のための高度に発展した保存，修復センターもあり，これには絵画，イコン，フレスコ画，モザイク，彫刻などの修復用アトリエが併設されています。そして教育的活動を行なう部門や豊富な参考図書を有する資料部門，さらに暗室などがあります。
　当国立美術館の活動が，そのコレクションや，セルビアとユーゴスラビアの文化遺産を基にした展覧会を準備することを目的としているということは，特に目立つ点でしょう。忘れられない展覧会としては，「古代のブロンズ展」，「バルカン半島の前史展」，「12世紀から17世紀にかけての中世セルビア美術展」，「19世紀セルビア美術展」，「セルビアの考古学遺産展」，「セルビアにおけるピーダーマイヤー展」，「セルビア地方における中世墳墓の宝飾品展」，「レペンスキ・ヴィールの芸術展」，「ゼニトと20年代のユーゴスラビアのアヴァン・ギャルド展」，「セルビアの芸術遺産展」，「ユーゴスラビアのコレクションにおける世界の巨匠たち展」などがあげられます。当美術館が，毎年多くの出版物や作品目録−考古学，美術史，古銭学などの分野における年報など−を発行しているということも付け加えておきます。 　ベオグラード国立美術館は，他の国々から受け入れる展覧会と同様に，特に国際的な文化協力の一部として当美術館が組織する展覧会によっても注目されています。これまでに協力したヨーロッパの著名な美術館としては，エルミタージュ美術館，トレチャコフ美術館，モスクワ・クレムリン美術館，プーシキン美術館，マドリードのプラド美術館，フランクフルト考古学美術館，西ベルリン国立美術館，ソフィア国立美術館等々があります。
　当国立美術館の組織する展覧会は，しばしば国外にも紹介されます。いくつか例をあげると，ケルン，ミュンへン，サウザンプトン，リスボン，マドリードの「レペンスキ・ヴィールの芸術展」，アルジェリアでの「19世紀セルビア美術展」，プラド美術館ならびにウィーンでの「セルビアの芸術遺産展」，ソフィアでの「ユーゴスラビア美術1900−1950展」，モスクワ，フランクフルト，バルセロナ，マドリードでの「ユーゴスラビア地方の古代肖像展」などがあります。
　また，当美術館は，海外から多くの重要な展覧会を招待もしています。オーストリアからは「ウィーンのピーダーマイヤー展」，スペインからは「エル・グレコからゴヤまで展」，チフリス共和国からは「グルジアの中世美術展」，アメリカ合衆国のアーマンド・ハマー・コレクションからは「世界の巨匠たち展」，ソフィアからは「ブルガリア美術1900−1950展」，「モスクワ・クレムリン美術館名品展」，ブダペストからは「魂と形態−ハンガリー分離派展」，「19世紀ポーランド美術展」，「エルミタージュ名品展」，モスクワの国立歴史美術館からは「ユーラシア大陸の考古学展」といった具合です。
　ベオグラード国立美術館のこれまでの業績についての，この簡略で不完全な報告の結論に代えて，最後に述べておきたいことがあります。それは，バルカン半島のこの地方における動乱と激動に満ちた歴史的状況が，より豊かで恵まれた国々でさえも羨むほどの，素晴らしい正真正銘の文化遺産を生み出した，ということです。その歴史においてわが国は，外国からの影響に対する抵抗の結果として，また，普遍的な人間的かつ国家的なアイデンティティの確立の結果としての文化財産を創造したのです。当国立美術館のコレクションと建物は，その全ての活動とともに，この豊かで多様な文化遺産の目撃者であり解説者であるべく努力を続けています。
　こうした点からも，私たちは，東京新聞との共催で，今年日本の五都市を巡回する，この「ベオグラード国立美術館展−19・20世紀のフランス美術」の開催を歓迎するものです。私たちは，この展覧会が，両国間の友情と，より密接な相互理解や交友関係の強化に寄与することを願っています。我が国ユーゴスラビア，また私の故郷であるセルビアでは，日本の古代文化と現代文明，日本人の勤勉さと進取性は大いに賞賛されています。尊敬すべき日本の人々にお見せするために，ベオグラード国立美術館の極めて価値の高いこれらの作品を長い旅に送り出すことにしたのは，当美術館が所蔵する世界の美術遺産から選ばれた作品を楽しんでいただくことによって，私たちの間に横たわる地理的な距離を出来る限り縮め，両国がより親しくなるようにという願いをこめてのことなのです。
　　　1991年，ベオグラードにて　　翻訳：冨田章（美術史家）

　　　［図録『ベオグラード国立美術館展　19・20世紀フランス絵画』(東京新聞、1991)から］

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●ザイェチャル　Zajecar

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ラドゥル・ベゴヴ・コナック　　

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●ノヴィ・サド　Novi Sad　（ヴォイヴォディナ自治州）　

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ペトロヴァラディン要塞　　

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■モンテネグロ　Montenegro■

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●ポドゴリツァ　Podgorica

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ポドゴリツァ博物館・美術館　　muzej i galerija grada Podgorice

ポドゴリツァ　Podgorica
　モンテネグロの首都、ポドゴリツァ。ローマ時代以前にさかのぼる歴史の古い町であるが、残念ながら第２次世界大戦によって町の多くは破壊されたため、古い建物などは少ししか残っていない。いくつかの博物館や美術館があるほかは、見どころもあまり多くはないが、国際空港をもつモンテネグロの表玄関であり、国内交通網の中心でもあることから、どこへ行くにも便利である。観光地とはいえないまでも、観光の起点にするには優れた町といえるだろう。
　町の中心は共和国広場の周辺。ポドゴリツァ博物館・美術館 muzej i galerija grada Podgorice もここからそれほど遠くない。モラチャ川を渡った西岸には、モンテネグロ現代美術センター Centar savremene umjetnosti Crne Gore として利用されているニコラ王の夏の離宮があり、その周辺は公園として、人々の憩いの場になっている。
　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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モンテネグロ現代美術センター　　Centar savremene umjetnosti Crne Gore

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●ツェティニェ　Cetihje

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モンテネグロ国立博物館　　Narodni muzej Crne Gore (Montenegro National Museum)

　歴史部門と美術部門に分かれており、美術部門には「フィレルモの聖母」を収蔵している。ツェティニュにはこのほかニコラ王博物館 muzej klalja Nikole、民俗学博物館 Etnografski muzej、ビリャルダ Biljarda という３つの博物館があり、いずれち近くにある。

ツェティニェ　Cetihje
　ツェティニェはむき出しの岩山が連なるロヴチェン国立公園の麓にある人口わずか１万5000人ほどの小都市。しかしこの小さな町は、1946年にティトグラード（現在のポドゴリツァ）に首都が移されるまでの約500年間、モンテネグロの首都であり、モンテネグロの人々にとっては現在も特別な町である。モンテネグロは1918年までは独立国であったことから、町にはさまざまな国の旧在外公館の建物が並び、旧王宮を利用した博物館などがある。

ツェティニェ修道院　Cetinjski manastir (The Monastery of Cetinje)
　この地に初めて修道院が建てられたのは15世紀末のこと。その後たび重なるオスマン朝との戦争により、幾度かの破壊を経験し、現在の修道院は18世紀に建てられた。スラヴ語で最初に印刷された宝物館には15世紀の本や、17〜18世紀のイコン、緻密な彫刻が施された十字架などを収蔵している。
　また、この修道院には、マルタ騎士団が所有していた福音書作者ルカが描いたといわれる聖母マリアのイコン「フィレルモの聖母」（レプリカで本物はモンテネグロ国立博物館収蔵）、洗礼者ヨハネの右手、キリストの礫刑に用いられた十字架の一部という３つの宝があり、世界中から巡礼者が訪れる。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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■マケドニア共和国■　Macedonia

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●スコピエ　Skopje

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アート・ギャラリー　　Art Gallery

　オールド・バザールのすぐそばにある。もともとはダウト・パシナ・ハマムといい、15世紀に建てられたトルコ浴場であったが、1948年にアートギャラリーに転用された。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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マケドニア博物館　　Museum of Macedonia

　ムスタファ・パシナ・ジャーミヤの東、オールド・バザールの中にある博物館。考古学部門と民俗学部門とに分かれているが、チケットは共通。考古学部門には、ギリシア・ローマ時代の彫刻を含め、この地で発掘された数々の品物が展示されている。また、数々のイコンを集めたギャラリーもある。一方民俗学部門では、マケドニア各地の民族衣装が広い部屋を埋め尽くすように展示されている。

聖スパス教会　The Church Saint Saviour
　オールド・バザールの外れにある教会。19世紀前半建造の教会は一見ぱっとしないが、外観からは想像もできないほど内部はすばらしい装飾がされている。特にイコノスタス（多くのイコンがはめ込まれた壁のことで、その奥は至聖所になっている）は赦密な木彫が施されており、マケドニアにおける木彫芸術の最高峰との評判が高い。教会の横にある建物では、革命家ゴツェ・デルチェフの展示もある。

聖パンテレイモン修道院　St.Panteleimon
　スコピエの郊外にあるヴォドノ山の麓に建つ、1164年創建の修道院。内部はフレスコ画で装飾されており、特に北壁に描かれているキリストに寄り添った聖母マリアの嘆きのシーンは人間の内に秘める悲哀を見事に描いた傑作として有名。フレスコ画は12世紀に描かれたものと、16世紀に描かれたものがあり、ひとつの教会でありながら、異なる時代のフレスコ画を比較することができる。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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●オフリド　Ohrid

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国立博物館　　National Museum

　旧市街に入ってすぐ。19世紀に建てられた屋敷を利用した博物館。中には、ギリシア・ローマ時代の発掘物や、中世のイコンやコインなどさまざまなものを収蔵している。

オフリド　Ohrid
　マケドニアの南西に位置するオフリド湖は、面積348knうのうち、約４分の１がアルバニア領になる国境の湖。真っ青な湖 の湖畔にはマケドニアの最高峰で標高2764mのコラブ山をはじめ、雪をかぶった高峰が連なる。
　中世には、聖キリルとメトディウスの弟子である聖クリメントと聖ナウムがこの地で布教活動を行い、以来オフリドはスラ ヴ世界におけるキリスト教文化の中心地として栄えた。オフリドの旧市街をはじめとして、オフリド湖畔に残る数々の教会は 往時の繁栄を雄弁に語ってくれる。美しい自然環境と文化遺産を保持するオフリドは、1979年にユネスコ世界遺産の複合遺産 に登録されており、マケドニア屈指の観光地としてにぎわっている。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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イコン博物館　　The Gallery of Ohrid Icons

聖クリメント教会とイコン博物館　St.Clement's Church
　聖クリメントは、聖キリルとメトディウスの弟子で、886年頃オフリドに布教に訪れて以来、30年にわたってこの地でキリスト教文化の発展に貢献した。もともとは聖母マリアに捧げられた教会であったが、聖クリメントの遺骸がここに移されたため、名前も聖クリメント教会に変えられた。ここで必見なのは壁一面を覆い尽くす13世紀末のフレスコ画。保存状態もよく、聖母マリアの一生をはじめとして聖書のシーンの数々が描かれている。オフリドにある古い教会は一律100DENの入場料がかかるが、内部のフレスコ画は保存状態はよくないものが多い。そのなかでここのフレスコ画は質、量、保存状態とも非常によい。また、教会にはイコン博物館が隣接しており、11世紀から19世紀にかけてのイコンが多数展示されている。

聖ソフィヤ大聖堂　The Cathedral Church of St.Sophia
　オフリド旧市街にある丘の麓に建てられた大聖堂。11世紀建造のオフリドを代表する大聖堂であったが、オスマン朝支配の時代にはイスラム寺院に転用され、フレスコ画は塗りつぶされてしまった。第２次世界大戦後には、キリスト教会に戻り、復旧作業によって塗りつぶされたフレスコも再びその姿を現した。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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■アルバニア共和国　Republika e Shqiperise■

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●ティラナ　Tirana

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アルバニア国立美術館　　Gateria Kombetare e Arteve (The National Gallery of Arts)

　国立美術館はアルバニアにおける美の殿堂。展示は、13世紀から19世紀までを網羅するイコンなどのキリスト教美術、19世紀初めから第２次世界大戦までの民族復興期の作品、社会主義時代の絵画、社会主義時代の彫刻、現代アートという５つのパートに分かれている。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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国立歴史博物館　　Muzeu Historik Kombetar (National Historical Museum)

　国立歴史博物館は、スカンデルペグ広場の北に面している。建物正面の巨大なモザイクが目印で、さまざまな時代にわたる衣装を身にまとい、手には武器を持ったアルバニア人が描かれでいる。展示は年代順になっており、古代、中世、民族復興期、独立、第２次世界大戦、共産主義時代に分けられている。アルバニアの歴史の流れをつかむのには非常によくできた展示で、地図を多用し、領土や異民族の侵入などがひと目でわかるように工夫されている。展示品は、ドゥラスやアポロニア、ブトリントなどの発掘品が多く、ドゥラスで発掘された紀元前４世紀のアルバニア最古のモザイクを収蔵するなど、貴重な品が多い。そのほか、キリスト教の聖画イコンのギャラリーや民族衣装の展示もすばらしい。ミュージアムショップも充実している。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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ジャーミア・エトヘム・ベウト　Xhamia Et'hem Beut (Et'hem Bey Mosque)

　スカンデルベグ広場沿いに建つイスラム寺院。町の創建者であるスュレイマン・パシャの子孫によって1794年から1821年にかけて建てられた。玄関部分と内部はフレスコ画がびっしりと措かれている。川沿いの町並みや橋なども描かれており、イスラム美術のなかでもユニークな存在。その文化的価値の高さから、共産主義時代に宗教活動が禁じられたいたにもかかわらず、破壊を免れた。

　　［『地球の歩き方　中欧』(ダイヤモンド社)から］

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■ギリシア　Greece■

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ドギリシア中央部

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−アッティカ地方

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●アテネ　

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国立考古博物館　　National Archaeological Museum

　古代に栄華を誇ったギリシアは、時とともに西洋の周辺へと押しやられ、15世紀以降はオスマン・トルコの支配下にあった。1821年に始まる独立への戦いのなかで、民族の文化遺産保護の意識も高まり、1830年の独立から４年後、首都アテネでは、国立博物館開設へと動き出した。ギリシア全土からの出土品を集め、古代ギリシアの栄光と美を今に伝える国立考古博物館が現在地に開館したのは1889年のことだった。
　１、２階のフロア、全56室に先史時代からヘレニズム時代にいたる古代ギリシアの悠久の美が息づいている。まず入口を直進し、前17世紀のミュケナイ文明の部屋で、≪黄金のマスク≫や≪黄金の杯≫などを、隣の小室ではさらに古い、前3000年頃のキュクラデス文明の≪楽器奏者像≫を見よう。
　いったんホールに戻り、左まわりにいよいよ歴史時代のギリシアだ。まずは、前10世紀噴からの幾何学様式の時代で、ここは陶器が主である。陶器は前５世紀末までに不断に発展し、技術と美意識の展開を示す重要な資料だが、やはり前７〜前５世紀のアルカイック期以降の彫刻に目が惹きつけられる。ギリシア人は人間をかたどって神の像を作り、理想の人間像を追求し、以降それが西洋における人体表現の規範となったのだ。唇の端にアルカイック・スマイルを漂わす≪クロイソス墓像≫はアッテイカで出土したものだ。前５世紀〜前325年の古典期に作られた≪アルテミシオンのゼウス（ポセイドン）≫は人体美の極致だ。また、墓碑は静謐さのなかに崇高なまでの透徹した精神の拠りどころを刻している。模刻だが《ディアドゥメノス像≫は青年の、≪マラトンの少年≫は少年の美しさを永遠に封じ込めている。アレクサンドロス大王の東征によってもたらされたヘレニズム期（前325〜前30年）の彫刻は写実性と技巧性に特徴を見せる。
　２階にはサントリーニ（古名テラ）島のアクロティリ遺跡壁画のほか、ギリシア各地からの陶器のコレクションが展示されている。
　古代ギリシアの美をまさに教科書通りの作品、珠玉の名品で堪能しよう。
　青のフレスコ…前16世紀後半クレタ島を中心に前2000年〜前1400年に栄えた文明を、伝説の王の名によってミノス文明という。サントリーニ（吉名テラ）島で1967年に発掘された壁画は、前1628年の火山の噴火で埋もれていたもの。春に咲き乱れる赤百合と舞い飛ぶツバメが色鮮やかに描かれ、古代壁画には珍しい季節感のある表現である。

　　　［『世界　美術館の旅』(小学館、2002)から］

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アクロポリス美術館　　Acropolis Museum

　アテネの市街地から70メートル余り高いアクロポリスの丘は、古代ギリシアの栄光の象徴、アテネ観光のハイライトだ。前５世紀、都市国家アテナイ（アテネ）は最盛期を迎え、市内のいたるところから見える丘の上、守護神の知恵と戦いの女神アテナを祀る神殿を、新たにパルテノン神殿として造営した。東西約270メートルの長方形の聖地の西に参道がある。右上方にアテナ・ニケ小神殿に臨んで、楼門プロピュライアを通過、その北翼はかつて参拝者が奉納した絵画や財宝を保管したピナコテカだ。目前に、ドーリス式の正背面８柱、側面17柱のパルテノン神殿が荘重な姿を見せる。彫刻像を飾った壮大な東西南破風、柱頭と屋根の間の軒まわりのメトープと内部のイオニア式のフリーズには神話や歴史によるレリーフを加え、ギリシア古典期の美の結晶、西洋古典建築の最高傑作とされる。その北には６体の優美なカリアティード（女人柱）の支える柱廊を有するエレクティオンがある。アクロポリスは廃嘘であるにもかかわらず美しい。風雨にさらされ、戦火に破壊され、列強に掠奪され、あたかも精神のみが吃立するかのようだ。
　パルテノンの東側にあるアクロポリス美術館は景観を損ねないように、地中に掘り下げられている。ここにはアクロポリス周辺出土の彫刻や陶器などが収集されている。旧アテナ神殿の破風彫刻や≪子牛を担ぐ人≫≪ランパンの騎士≫、十数体の美しい少女像「コレー」など、アルカイック期の傑作が並ぶ。アルカイック期から古典期へと移行した時期には端正で厳格な表現が登場し、≪クリティオスの少年≫像やコレ一にその特徴が見られる。
　古典期ではパルテノン関係だ。破風彫刻を含む大部分は大英博物館の「エルギン・マーブルズ」収集となっているが、ここに残る断片やフリーズ彫刻などが、かつてのパルテノンの荘重さを臨場感豊かに訴えてくるだろう。また、アテナ・ニケ小神殿の浮彫りや、エレクティオンのカリアティードのオリジナルには、ギリシア美術の優美さが印象づけられる。 　パルチノン神殿…前５世紀　アテナイの政治家ペリクレスは彫刻家フェイディアスを総指揮として神域アクロポリス再建事業に着手した。そのシンボルがイクティノスの設計によるアテナ・パルテノスを本尊とする神殿、「処女の間」（パルテノン）をもつことからその名が付いたパルテノン神殿だ。廃墟とはいえ、壮麗無比な威容は西洋文化の精神的支柱として永遠の輝きを放っている。

　　　［『世界　美術館の旅』(小学館、2002)から］

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国立美術館　　National Gallery and Alexandros Soutzos Museum

　ギリシア美術を中心に、9500点にのぼる絵画、彫刻、調度品などを展示している。絵画には有名なヨーロッパ画家の作品もみられる。

　　　［『世界　美術館の旅』(小学館、2002)から］

コロナキ地区
　アテネ中心部にアクロポリスの丘と対するように、ひときわ高い丘がある。標高273mの市内で一番高いリカヴィトスの丘だ。この丘の南側に広がる地域をコロナキ地区という。アテネ中心部に近い高級住宅街でもあり、アテネで−番おしやれな場所だといっていい。
　コロナキ周辺はファッションばかりでない。バシリス・ソフィアス通り周辺には、シンタクマ方面からベナキ博物館、キクラデス博物館、ビザンティン博物館と続き、さらにその先にも戦争博物館や国立美術館と、博物館が密集している。この博物館街を抜けると、パシレオス・コンスタンティヌウ通りに合流し、人気のコンサートホール、メガロムシキ（別名アテネ・コンサートホール）があり、通りはさらにアテネの新市街区へと続く。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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国立歴史博物館　　National Historical Museum

　クラフトモノス広場より１ブロックほどシンタクマ広場方面へ戻った右側。博物館の前には、馬に乗ったギリシア独立戦争の英雄コロコトロニスの銅像があるのですぐわかる。博物館の中は、おもに独立戦争のときの文献、武器、旗、絵画などが展示されている。ギリシア人が独立を勝ち取るまでに、多くの犠牲を払わなければならなかった苦しみの歴史がここにある。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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ビザンチン博物館　　Byzantine Museum

　　美術館は1848年に建てられた邸宅を利用して1914年に設立された。収蔵されているのは、４〜19世紀までのさまざまなギリシア美術作品。

　　　［『世界　美術館の旅』(小学館、2002)から］

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−中央ギリシア（ステレア・エラス）（中央ギリシア、西ギリシア）　Sterea Ellas

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●デルフォイ　Delphi

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デルフォイ考古博物館　　Archaeological Museum

　デルフォイは霊峰パルナッソス山麓の険阻な地、神託で知られ、全ギリシア人の信仰を集めたアポロン神の聖地。アテネの西北西約170キロ、現在はバスで３時間弱、日帰りも可能だ。アポロン神殿を取り巻く広大な神城はその勢威を示し、このデルフォイこそギリシア世界の中心、へそ（オンファロス）と見なされていたのだ。大きく蛇行して上る参道の両側には、神託へのお礼として多くの都市国家が奉納した宝庫や記念建造物が立ち並んでいた。現在復元されているのは、「アテナイ人の宝庫」のみだが、多くの宝庫もこのような、正面２柱のイン・アンティス形式だったそうだ。アポロン神殿はすでに前７世紀にこの場所に建てられていたが、現在、ドーリス式の柱六つを残す遺構は前370〜前330年頃のものだ。この神殿の内陣奥の岩の裂け目から噴き上げる蒸気に神がかりとなった巫女が託宣を垂れたという。神殿の北の斜面には劇場が、さらに上には競技場が残っている。ここでは、アポロン神を主神とすピューティア祭が４年ごとに開催され、真美への賛歌として演劇、唱楽、朗誦や運動競技会が行われたという。
　デルフォイ市内からアポロン神城へ向かう街道沿いにデルフォイ考古博物館があり、この聖域から出土した品々を収集し、ギリシアの重要な考古博物館の一つとなっている。ナクソス人奉納の≪スフィンクス≫は前600〜前580年頃、アルゴスのポリュメデス作とされる≪クレオビスとピトン≫の２体のクーロス像は前580年頃で、ともにアルカイック期の代表作。シフノス人、シキュオン人、アテナイ人の奉納した宝庫のメトープやフリーズ彫刻が並び、参道沿いの遺構を思い起こさせる。1.8メートルの青銅の≪デルフォイの御者≫は、シチリア島のゲラの借主ポリュザロスがピューティア祭の戦車競技で優勝した記念に奉納したもので、馬と戦車は断片のみだが、厳格様式の代表作例として、精神と肉体の調和を求めたギリシアの理想美を示している。ローマ皇帝ハドリアヌスの愛した美少年≪アンティノス像≫もあり、アルカイックからローマ時代にいたる傑作で美の変遷をたどることができる。

　　　［『世界　美術館の旅』(小学館、2002)から］

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−(北)スポラデス諸島　Voriai Sporadhes

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考古学博物館（スキロス島）　　Skyros

　ミケーネ時代からローマ時代の遺物を展示している。

スキロス島
　スポラデス諸島では最大の広さをもつ。島の北半分は松の森に覆われたなだらかな丘が広がるが、南側の半島はほとんどが不毛の地であり、なかば野生化したヤギや馬の群れが生息している。
　アギオス・コンスタンティノスやヴォロスからの船は、島の主要う巷リナリア Linaria に入る。島の中心スキロス・タウン Skyros Town は、この港から階段を上っていった丘の上にある。町は丘の斜面に古代劇場を思わせるかのように扇型に広がり、キクラデスの島々のように細い路地が曲がりくねっている。そんな迷路のような町には、独自の建築技法を凝らした家々が続いていて、歩くだけでも楽しい。
　また木彫家具、刺繍や手編みのカゴ、陶器などの工芸品や民芸品はすばらしい。興味のある人は、町の北東にあるファルタイツ民芸博物館を見ておこう。古い邸宅がそのまま博物館になっていて、家具や衣類、陶器、写真などが展示され、かつての島の暮らしが偲ばれる。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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−サロニコス諸島（アルゴリス地方）　Saronikos

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ドペロポネソス半島（ギリシア南部）　Peloponnese

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●コリントス　Korinthos

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考古学博物館　　　Archaeological Museum

　壺が有名な考古学博物館。
　旧コリントス遺跡の考古学博物館こは、新石器時代からローマ期までの、この遺跡とこの地方一帯で出土した品が展示されている。各時代の作品のなかでも、紀元前８世紀〜紀元前７世紀のコリント式陶器が興味深い。これらは、小アジアとの貿易によってオリエント美術の影響を受けており、東方化様式ともいわれている。壷には動物や空想の怪獣、植物などの図柄が描かれていて、それ以前に主流だった幾何学模様に比べるとかなり装飾的になっており、その後のギリシアの壷絵に大きな影響を与えることになる。古代コリントスが貿易都市として最盛期を迎えるのは紀元前７世紀であるが、この地が全世界とつながっていたという事実は、この「コリントスの壷」が各地で発掘されていることから証明されている。このほか、黒絵式や赤絵式の土器も一見の価値がある。ローマ期の出土品では、アウグスティヌス帝の全身像やネロの頭部像が有名だ。

コリントス　Korinthos
　コリントスはペロポネソス半島への玄開口となる町だ。地図を見てもらえばわかるが、ギリシア本土とペロボネソス半島のちょうどつなぎ日にある。東側にサロニコス湾、西側にコリンティアコス湾が広がる、地の利に恵まれたコリントス地峡は、貿易だけでなく戦略的にも重要であったために、古来より常にこの地を争って都市の興亡が繰り返されてきた。 　古代都市コリントスは、今では旧コリントス（バレア・コリントス）と呼ばれ、現在のコリントスの町からさらに内陸に８kmほど入った所にある。現在のコリントス市は、人口約３万6600人の港町。旧コリントスが1858年に大地震で崩壊したあと、港の奥に建てられた。しかし再び地震に兼われ、1928年に今の場所に再建された。
　古代コリントスが最も隆盛を極めたのは紀元前７世紀。ギリシアが地中海沿岸に多くの植民市を建て、国内の商業が発達し始めた頃、僭主制の元で有力な商工業都市としておおいに栄えた。造船の分野でも画期的な３段櫂船（こぎ手の席が３段になっている大型船）を開発し、海軍を強化させて海上貿易をより発展させた。陶器やオリーブ油、ワイン、金細工などがおもな輸出品で、当時、西方への貿易はほぼコリントスの独占状懸だったという。
　やがて紀元前５世紀頓になると、アテネの繁栄にともない一時その力は衰退するが、紀元前３世紀のアレクサンドロス（アレクサンダー）大王の時代に、ギリシア都市国家「コリントス同盟」の長として君臨。ローマの植民地時代には、ローマン・ギリシアの首都となり、再び商業部市としての活気を取り戻す。現在旧コリントス遺跡に残る商店跡は、かつてこの土地が商いの町としての役謝を担っていたことを物語っている。
　コリントスの見どころとしては、前述の旧コリントス遺跡のはかに、今も南ギリシアとイオニア海やイタリア方面を結ぶ大切な海のルート、コリントス運河（高さ80m、輯23m、長さ6343m）がある。アテネからバスでやつて来るときここを選るが、切り立った崖が両側から迫り、はるか下方に緑色の細い水面が広がる風景は、何とも迫力があり印象的だ。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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●ナフプリオン　Nafplion

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考古学博物館　Archaeological Museum

　ミケーネ時代の出土品が充実。
　1713年に建てられたヴェネツィア保管倉庫を利用した博物館。ミケーネやティリンスの新石器時代から古典期の陶器類を含む発掘品が展示されている。特にティリンスで発見されたミケーネ時代の青銅の甲胃は、完全な形で残っているので、ぜひ見ておきたい。ほか「ミケーネの貴婦人」のプレスコ画なども必見。

ナフプリオン　Nafprlon
　アルゴリコス湾に面したナフプリオンは、風光明媚なリゾート地として人気の高い人口約１万4000人の港町だ。かつて古代アルゴリコス地方の首都として栄え、19世紀前半にはギリシアの首都となり、対トルコ戦の拠点となった所でもある。
　周辺にはミケーネ遺跡やエピダヴロス遺跡といった観光ポイントがあって、どちらも１時問以内でアクセスできる。特にシーズン中は、エピダヴロス劇場で古代演劇を楽しんだあと、ここでディナーやナイトライフを楽しむ観光客でおおいににぎわう。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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●スパルタ　Sparti

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ミストラ遺跡　Mistra

　町は３つの区域に分かれ、それぞれが城壁でくっきりと区別されている。頂上には城塞跡（カストロ）、中腹には王宮や高官たちの邸宅群、そして下の町は修道院や教会が点在する。
　東側の入口から入って南に進んだ先にペリヴレフトス修道院がある。この教会の名は「いたる所から見える」という意味。ここの14世紀の障壁画は必見。次は小石を敷き詰めた、曲がりくねった細道を、パンクナサ教会に向かって上る。聖母マリアを記念した教会で一番よく保存されている。建築様式は完全なビザンティン様式ではなく、ゴシック様式も取り入れられ独特の美を放っている。フレスコ画には、「キリストの誕生」「マリアヘの福音」「ラザロスの復活」など、聖書のできごとや人物が描かれている。これらは15世紀前半の作品。
　この教会の廊下でひと休みしたあとは王宮に向かおう。モネンヴァシア門を通り過ぎると、細道の下に、フランク族のギョーム王によって建てられビザンティン時代に増築された王宮がある。この王宮敷地内は上流階級の人々が住んだ所だ。細道と建物跡にその頃の生活風俗の一端がかいま見られる。その細道をさらに上り分かれ道を左に行くと、アギア・ソフィア教会Aがある。この教会で見るべきは、イコノスタシスのイコン（宗教画）だ。
　アギア・ソフィア教会を出てから再びモネンヴァシアの門を出て下に下りると、墓に囲まれた教会エヴァンゲリストリアがある。この内部にも美しいプレスコ画がある。ここを出て左に進むと、1296年に建てられたミストラで最も古い教会アギウ・テオドリ教会に出る。この教会の中心ドームは教会堂建築の初期の頃のもので、８本のアーチからできている。 　来た道を入口のほうへ戻ると、左に聖ディミトリオス教会と博物館がある。ここは聖ディミトリオスを記念した教会で、５つのドームをもち、このドームはキリストと４人の福音者のシンボルである。内部はプレスコ画で埋め尽くされていて、聖ディミトリオスの生涯が描き出されている。そのほかキリストの奇蹟、聖母マリアなどが色鮮やかに残っている。

ミストラ　Mistra
　スパルタから西へ向かって約６km。“ビザンティンの廃墟”と呼ばれる中世時代の原型を留めた遺跡がある。タイゲストス山脈の突端、標高600mほどの山の斜面に造られた教会の町で、山頂の城塞からはタイゲストス山塊の峡谷が見渡せ、すばらしい景勝地としても知られている。
　もともとミストラは、13世紀初期に十字軍の要塞が築かれた所だ。その後14〜15世紀にかけて、ビザンティン（東口ーマ）帝国の地方総督の本拠地となった。カンタクゼノス家、パレオロゴス家といった皇帝の支配下で、政治、文化の中心地として繁栄する。総督たちはこの地に宮殿を造り、西ヨーロッパの建材を使って独自の建築スタイルをもつ教会を建てた。内部に描かれたフレスコ画の、繊細なタッチと大胆な色使いは目を見張るばかりだ。この町には、多くの文化人が出入りするようになり、「オリエントのフィレンツェ」といわれるほどに栄えていた。しかし15世紀以降は、オスマン・トルコやヴェネツィアの支配を受け、18世紀、アルバニア軍の侵略で衰退の道をたどる。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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●オリンピア　Olimpia

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考古博物館　Archaeological Museum, Olimpia Museum

　古典文化の集大成ともいえる。
　ギリシアでも最も重要な博物館のひとつ。19〜20世紀にかけてオリンピア遺跡内で発掘された数々の彫刻や陶器類が、時代別に展示されていて、どれも見ごたえ充分だ。入口近くにオリンピア遺跡の模型があるので、最初に見て全体像をつかんでおくとわかりやすいだろう。
　第１室は、神殿付近で発掘された新石器時代（紀元前40世紀〜紀元前16世紀）の石器や陶器の破片、またミケーネ時代（紀元前16世紀〜紀元前11世紀）の陶器、小彫刻、宝飾品など。幾何学時代（紀元前11世紀〜紀元前8世紀）の馬や午、羊などの青銅像なども展示されている。ミケーネ時代の猪の牙でできた兜は必見。
　第２室は、幾何学時代後期からオリエンタル期（紀元前700年〜紀元前625年）、アルカイック期（紀元前625年〜紀元前480年）の青銅薄板、コリントス時代の兜や胴着など。なかでも、翼の付いた「セイレーン像」や「へラ神の頭像」は見もの。
　第３室は、ガメラ市奉納庫から復元された破風が展示されている。アルカイック期に制作された。 　第４室は、アルカイック期と古典期の部屋。特にテラコッタ製の「ガニュメデスをさらうゼウス像」、「アテナ神の頭像」、部屋の奥にあるバイオニオス作「勝利の女神ニケの像」は必見。ニケの像は女神が地上に降り立つ瞬間をとらえており、跳躍的な動きが印象深い。ほかには、オリンピック競技での勝利を感謝し、ゼウスに捧げられたという青銅製の馬像や牡牛の角などは見る価値がある。
　第５室は、この博物館のハイライトといえる。ゼウス神殿のふたつの破風と、神殿内部に装飾されたメトープ（小壁面）が展示されている。東の破風は、オイノマオス王とペロプスの戦車競争の出陣の場面、西の破風は馬身の怪人ケンタウロス族とラビタイ族との激しい戦いの場面を表している。これらの彫刻は、すべてパロス島の大理石が使われていて、古典期初期の傑作とされる。パルテノン神殿に匹敵する価値の高いものだ。両面の破風の中央には、ゼウスとアポロンが立っている。ほかの人物や怪人たちも、その表情は実に豊かで気高ささえ感じられ、躍動美にあふれている。
　第６室は、紀元前４世紀のヘレニズム期の部屋。大理石のアレクサンドロス大王の頭像は見もの。
　第８室ヘルメスの部屋には、古典期芸術の傑作として有名なプラクシテレス作「赤子のディオニソスをあやすヘルメス像」が展示されている。ゼウスの使者ヘルメスが、嫉妬に狂ったゼウスの正妻ヘラからディオニソスを守るため、ニンフ（妖精）たちに届けようとする姿が描かれている。
　第９室と第10室は、ヘレニズム時代と古代ローマ時代の彫刻が中心。イロド・アティコスの妻レギラがゼウスに捧げた「牡牛の像」は必見だ。端正な美少年「アンティノスの頭像」も美しい。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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ドギリシア中部　Central Greece

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−テッサリア地方

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●カランバカ　Kalambaka

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メテオラ岩上修道院群　Meteora

メガロ・メテオロン修道院（メタモツフォシス修道院）　Megaro Meteoron (Metamorfosis)
　14世紀にメテオラ出身の修道士アサナティオスによって建てられた、メテオラ最大の修道院だ。プラティ・リトス Platys Lithos（幅広の岩という意味）の上にあり、その高さは613m。内部には、イコン（宗教画）の部屋、博物館などがある。
　修道院内にある教会は16世紀中頃に建てられたもの。アトス山の建築様式を受け継いでいる。拝廊には修道院の創設者アサナティオスとイオアサフの墓がある。教会内の主教座は、螺鈿造りで、ドーム内の壁画に描かれているキリスト、使徒ルカス、大天使ミハエル、預言者ダニエルなどは必見。写本やイコン、宝物のコレクションもある。展望台からはかつて隠遁者が住んでいた洞窟を見ることができる。

ヴァルラーム修道院　Varlaam
　岩壁を削って造った階段を上って入る。14世紀に隠遁者ヴァルラームが建てた隠遁所の跡に建てられた修道院だ。この修道院は中央にドームがあり、３カ所の張り出し部分が十字架の形をしている。こうした様式はアトス山にあるものと同じ。教会内ドームや壁画に描かれた16世紀中頃のフレスコ画は、西ヨーロッパの影響を強く受けているせいか、色彩や構図などが独特で、ほかの修道院のものとはひと味違っている。例えば、教会に入ってすぐ正面には火を吹く聖獣や苦行者たちが、その奥には最後の審判や聖ヨハネの生涯の場面、また、クーポラ（ドーム型の屋根）の西側は聖母マリアの最後の眠りなど、すべてがすばらしく見ごたえ充分だ。礼拝堂にある17世紀のフレスコ画や調度品も見落とさないように。

アギア・トリアダ修道院　Agia Triada
　ヴァルラーム修道院から道を下り、Ｙ字路に出た所で左の道を取って２kmほど行くと、直面壁の一番美しいアギア・トリアダの麓に着く。だが、この修道院を見学するには、そこから1925年に造られた130段の階段を上らなければならない。かなりハードだ。高さ565mあり、正面からの風景はよく絵ハガキなどに利用されている。修道院に入つてすぐ左側には大天使ガブリエル、右側には同じく大天使ミハエルの壁画がある。
　もうひとつある教会は洗礼者聖ヨハネに捧げられたものだ。

アギオス・ステファノス修道院　Agios Stefanos
　アギア・トリアダ修道院からさらに２km進むと、尼僧院のアギオス・ステファノスだ。ここからのカランバカの村の眺めは絶景。巡礼者用の施設も整った広い修道院だ。２世紀に小アジアで殉死した聖ハラランボスに捧げられた教会もあり、ここに彼の遺体も眠っている。古いほうの教会は1798年に建てられたもの。修道院の壁画やイコンはもちろんだが、資料館内に収められた16〜17世紀のイコンや写本、刺繍なども見逃さないように。全体によく手入れされており、とてもきれいな所。

ルサヌー修道院　Roussanou
　アギオス・ステファノス修道院から再びＹ字路に戻り、カストラキ村にいたる右の道を行くと（Ｙ字路に出る手前で山を下りる近道あり）ルサヌー修道院がある。まるで空中に浮いたような印象を受けるこの修道院は、雑誌やポストカードなどの撮影によく使われている。1930年に橋がかけられたが、ある角度（カストラキ側のある地点）から見ると、まったく足がかりのない岩にしか見えない。現在はアギオス・ステファノス同様尼僧院となっている。ここの修道院はほかに比べてやや小振りだが、教会の中の調度品はすべてピカピカに磨かれて美しい。

メテオラ　Meteora
　ギリシア本土のほぼ中央、標高2000m級の山々が連なるピンドス山脈。そこから流れるピニオス（古代名ペーネイオス）がテッサリア平原に達する所に、奇岩群が突然現れる。ここがメテオラだ。平原をバックに、低いもので20〜30m、高いものは400mもある「岩の塔」が立ち並ぶ。そして、なんとこれらめ頂上には修道院が建っているのだ。ここでは、敬虔な修道士たちが厳しい戒律を守りながら共同生活を営んでいる。20世紀初頭までは岩山に階段もはしごもなく、下界から人問あるいは生活物資を運ぶ手段は、滑車につるした網袋だけだったという。ちなみに、メテオラは「空中につり上げられた」という意味だ。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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−イピロス地方

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●イオアニナ　Ioannia

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考古学博物館　Archaeological Museum, Ioannia

　ドドニからの出土品がすばらしい。
　エピロス地方の各地で出土した品が展示されている。展示室は３室に分かれていて、数は少ないが重要な陳列物がある。まず第１室、入口のほぼ正面奥にある小さな金メッキの紋章。図案は古代ギリシア３大悲劇のテーマともなっているオレステスの母親殺害の場面。愛人とともに夫を殺したクリュタイムネストラは、その子オレステスに「父親の敵」として殺される。次の第２室にはドドニからの出土品が並んでいるが、有名なのが奉納品として捧げられた青銅の像、特に「ドドニの神業」に注目。鷲はゼウスの神鳥でもある。

ビザンティン博物館（アリ・パシャの要塞）　Fortress of Ali Pasha
　考古学博物館からアウエロブ通りに戻り、さらに坂を下ると道の両側に金、銀、銅細工を並べた店が並ぶ。これはトルコ支配時代の伝統工芸の名残だ。その先は食料品市場地区になっていて、裏の路地に入ると日用雑貨も売られている。この先にアリ・パシヤの要塞がある。今は普通の住宅が建っている。この要塞の最北端には、ほぼ当時のままの姿でモスクが残っていて、現在はビザンティン博物館となっている。

ドドニ遺跡　Dodoni
　イオアニナの町を抜けて南下すると、国立イオアニナ大学が見えてくる。さらに７kmほど行った所で標識に従って右に入り、山の中に入っていくこと約13km。ドドニの古代遺跡入口に着く。夏の夜はここで演劇フェスティバルが開かれる。 　ギリシア人の考古学者コンスタンティノス・カラパノスにより、1875年に現在のドドニが古代のドドネであることが確認された。この神託所の歴史は古く、紀元前９世紀のホメロスの叙事詩の中にその名を見ることができるほど。神託所の誕生は、エジプトからテーパイにやって来た１羽の鳩に始まる。その鳩はドドニの樫の木の頂にとまり、神託所の開設を告げたという。今も遺跡の中央（ゼウス神殿脇）に大きな樫の木があるが、これは後年その話に由来して植えられたものだ。神は樫の木の葉が風にそよぐ音で神託を下したという。
　遺跡の門を入ってすぐが円形野外劇場。座席は1960〜63年になるべく元の材料を使って再建された。次はエビロス同盟用に建てられた会議場跡。奥はアフロデイテの神殿、隣がゼウス神殿跡。さらに隣が彼の妻ディオネーの神殿だ。その後キリスト教時代にヘラクレス神殿跡にバシリカ（古代ローマ時代の集会場）が建てられた。

イオアニナ　Ioannnina
イオアニナは人口約７万人を擁する、エピロス地方最大の都市。エビロス地方とは、アルバニアの南に隣接した北西ギリシアー帯をいう。イオアニナの北東には、ギリシア本土を南北に貫くピンドス山脈がある。メテオラ方向からイオアニナへバスで行く途中、ちょうどこの山並みを越えていく。
　ほかの主要都市に比べると歴史は浅く、この町の名が文書に登場するのは1020年になってから。町が最盛期を迎えるのは、何といっても“イオアニナのライオン”という異名を取ったアリ・パシヤ Ali Pasha の時代だろう。パシヤとは、オスマン・トルコ時代の知事に相当する高官の称号だ。アリ・パシヤのイオアニナ支配は30年ほどに及び、この間に彼は道路を建設したり交易を盛んにした。またイオアニナは文化の中心地ともなり、優れた学者がこの町の学校で教えていたともいわれている。そのためか多くの西洋の文化人がこの町を訪れたといわれ、イギリスの詩人バイロンもそのひとりだった。彼はアリ・パシヤの宮殿での体験をテーマの一部に取り入れて　『ハロルド卿の巡遊』という作品を残している。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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−イオニア諸島　Ionioi Nosoi

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●ケルキラ（ケルキラ（コルフ）島）　Kerkira(Corfu)

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考古学博物館　Archaeological Museum, Kerkira

　島の各地から発掘、出土した品が展示されている。

ケルキラ
　イオニア海に浮かぶケルキラ（コルフ）島は、以前イギリスの植民地だったこともあり、ギリシア的なものと西ヨーロッパ的なものが混在する。島の人口は約10万人。旅行者にはイタリアのプリンデイシとギリシアのバトラを結ぶフェリーの中継点としてよく知られている。島は全体に水に恵まれ、肥沃な土地が広がっている。400万本とも500万本ともいわれるオリーブの木からは高品質のオリーブ油が採れ、おもにイタリアへ輸出されている。またトマトも大切な特産品だ。
　ケルキラ島の中心地、ケルキラ市内には、イギリス以外にもヴェネツィア、フランス統治時代のさまざまな面影が残っている。特に旧市街はパステルカラーの建物が美しく、迷路のような裏路地を歩くのも楽しい。
　聖イアソン教会、聖ソシバトロス教会はビザンティン様式の美しい建物だ。ここから南の岬一帯は、ケルキラの古代都市跡となる。現在ではパレオポリス Paleopolis（古い都市という意味）と呼ばれており、この近くに、古代の祭壇やアルテミス神殿跡もある。考古学博物館で見られるコルゴン（見るものすべてを石に変えてしまう怪物）の像は、ここからの出土品だ。
　岬の最南端はカノニ。ここにフランス軍の大砲 Canon が置かれていたため、このように呼ばれている。ここからの海の眺めはすばらしい。小島への糸田い歩道がヴラヘルナの修道院に通じていて、ここから舟で美しいチャペルのあるボンデイコニシ（ネズミ島）に渡ることができる。なお、ケルキラ島の旧市街は2007年、世界遺産に登録された。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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ギリシア北部　Northern Greece

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−マケドニア地方

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●テッサロニキ　Thessaloniki

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ビザンティン文化博物館　Museum of Byzantine Culture

　テッサロニキ考古学博物館のすぐ近くにある博物館。おもに、テッサロニキやその周辺（マケドニア地方、トラキア地方）で発掘されたビザンティン時代の美術品（モザイク、イコン、フレスコ画、壷、装飾品など）を展示。館内は広々としていて明るく、とても見やすい。
　部屋は全部で11室あり、4世紀から19世紀までの美術品が年代別に分けられて展示されている。なかでも第７室は13〜15世紀に創作された大小さまざまなイコンやモザイクがずらりと並び必見。

テッサロニキ　Thessaloniki
　首都アテネに次ぐギリシア第２の都市がテッサロニキ。北部ギリシアを旅する人にとってはゲートウェイとなる。現在の人口は郊外も含めて約100万人。テルマイコス湾の良港に恵まれ、商工業の中心として発達してきた。
　商業都市とはいっても、その雰囲気は実にゆったりとしている。街なかの目抜き通りには街路樹が茂り、緑や花が街にあふれている。近代的な建物に混じって古いピザンティン時代の建物が趣を添える。テッサロニキは、ピザンティン帝国時代（４世紀半ば頃〜15世紀）には、コンスタンティノープルに次ぐ第２の都市でもあった。コンスタンティノープルではトルコ支配下に聖堂のほとんどが失われてしまったが、ここには、街のあちらこちらに当時の教会が残っている。ビザンティン1000年の宗教建築と美術を目のあたりにできる貴重な街であり、「ロトンダ」「アギオス・ディミトリオス教会」「バナギア・ハルケオン教会」は、1996年にユネスコの世界遺産に登録されている。
　またテッサロニキは、北部ギリシア地方の文化の中心地でもある。アテネ大学に次ぐテッサロニキ国立大学、そしてマケドニア学会の本部がある。北部ギリシア演劇の活動の本拠地でもあり、9〜12月は聖ディミトリオス祭、11月の映画フェスティバルの頃にはさまざまな催しが開かれ、街はさらに活気づく。

　テッサロニキは、紀元前315年、マケドニアの将軍カッサンドロスによつて造られた。カッサンドロスは、この年、アレクサンドロス大王の異母妹であるテッサロニケを妻として迎え、彼女の名を取つてテッサロニキと名付けた。
　古代ローマ時代には、中東方面へ向かう幹線街道の宿駅として栄え、紀元前168年に古代ローマがこの地を征服した後、立地のよさもあつてマケドニア地方の首都となる。バルカン半島の貿易ルートとしても重要な位置にあった。紀元後50年頃、使徒パウロがこの地で伝道し、キリスト教会を設立立してヨーロッパで最初のキリスト共同体がつくられたという。その後、ピザンティン帝国ユスティニアヌス帝の治世下で、テッサロニキはビザンティン（コンスタンティノープル）に次ぐ第２2の都市として発展する。
　しかし、第４次十字軍がコンスタンティノープルに攻め入り、テッサロニキには1204〜1224年にかけて大主教座が置かれて、ラテン王国の都に定められた。のち、再びビザンティン帝国の属州となるが、1492年、スペインから追放された約２万人のユダヤ人がこの地に移り住むことになった。商才あふれるユダヤ人たちは、綿糸、貴金属や宝石を扱い、商業を発達させて、西ヨーロッパとも交易を行いさらに繁栄していく。
　1921年のギリシア独立まではトルコに支配されていたが、トルコはある程度の自治を認めていたので、街は発展をし続けていった。そして、さまざまな文化が混ぎり合い、独自の文化が育まれたのである。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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ヴェルギナ考古学博物館　Archaeological Museum, Vergina

　マケドニア国王フィリッポス２世の墓。
　ヴェリアから南東に11kmほど行った所、ベルミオ山とピエリア山の間に位置している。南東の小高い丘にはパラティッツア宮殿 Patace of Palatitsa 跡があり、約100m四方のかなり大きい建物であったことがわかる。これまでにこの付近で20以上のマケドニア墳墓が発見されているが、1977年、テッサロニキ大学の考古学教授マノリス・アンドロニコスが掘り出した墳墓は、世界中をアッと言わせた。紀元前４世紀のマケドニア美術を伝える完全な絵画や、マケドニア王国の象徴である太陽の紋章の付いた骨を入れる黄金の小箱、武具、装飾品など、目もくらむような宝物が続々と発掘されたのだ。詳細な研究により、この墳墓はアレクサンドロス大王の父、フィリッボス２世のものであることが判明した。
　ヴェルギナの考古学博物館は、緩やかな丘の中腹に墳墓がそのまま残されていて、その周りにさまざまな展示がされている。展示品もすばらしいが、そのディスプレイの仕方もかなり凝っている。まず、墳墓の入口、神殿のようなファサード（前門）のスマートなデザインに目を見張る。左右の壁面に描かれた戦士たち。そして実際に秘宝の数々を目のあたりにすると、紀元前の時代にこれほど完成度の高い宝飾品や器などが作られていたのかと感嘆せずにいられない。
　ここからの展示出土品は、ヴェルギナ考古学博物館のほかにテッサロニキ考古学博物館に所蔵されている。（「フィリッボス２世とヴェルギナの遺跡」）。なおこの遺跡は、ユネスコの世界遺産に登録されており、平日でもかなり混雑する。

テッサロニキ考古学博物館　Archaeological Museum
　マケドニア文化の袖髄に触れる。
　東西マケドニア地方やハルキディキ半島からの出土品が集められている。何といっても、1977年にヴェルギナで発掘されたアレクサンドロス大王の父、フィリッボス２世の墓からの宝物が見もの。細かい金細工を施した冠や装飾品の美しさは、歳月の隔たりをまったく感じさせない。普通の博物館は、"石"や"壷"の展示品が多いが、ここはちょっと違う。例えば貴金属類のデザインの独自性、精密さなど、またシルバーの器など、現代との距離を感じずに目を奪われるものが多い。改修工事を経てさらに展示内容が充実し、見ごたえたっぶりだ。展示内容は時期によって替わる。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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●ペラ　Pella

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ペラ博物館　Archaeological Museum of Pella

　テッサコニキの西38kmに位置するペラは、紀元前５世紀の終わり頃、マケドニアの王アルケラーオス（紀元前413年〜紀元前399年）がアイガイ（今のエデッサ）からベラに首都を移したことに始まる。当時はすぐ近くまで潟が広がり、テルマイコス港へと通じる便利な所だった。アレクサンドロス大王の父フィリツポス２世は紀元前382年に、アレクサンドロス大王は紀元前356年にペラで誕生した。1958年の発掘によりすばらしいモザイクの床が発見され、ペラ考古学博物館に展示されている。
　博物館は遺跡とは道を隔てて反対側にある。また1982年の発掘で、紀元前３世紀後半のストア（柱廊）が見つかった。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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●アトス半島　Athos

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アトス山ギリシア正教修道院群　　

　まずカリエにあるアトス聖庁ポルタチス聖堂へ登る。ここでは有名なイコン、パンセリノス作のフレスコ画が見もの。近くにクトゥルムシウ修道院。小船でデイオニソウ修道院まで行く。ここには有名なプレスコ壁画、“預言”がある。歩いてクリゴリウ修道院へ。そこを見学した後、隣のシモノス・ベトラ修道へ。この修道院は断崖の上に建てられているので、登るのにひと苦労。しかし、修道院からの景色はすばらしく、疲れも忘れさせてくれる。ここから見るエーゲ海とアトス山は、刻々と色を変え、忘れ得ぬ光景となるだろう。
　このほかにイビロン、スタヴロ＝キク、バンドクラトロなどの修道院。またタフニから船でアトス半島の先端を回り、修道院のなかで最も歴史の古いメギスチ・ラヴラ修道院まで行くコースもある。そこまでの船旅では岬の先端にそびえる標高2033mのアトス山と、その裾が海lこ落ちる絶壁に修行者たちの小屋を見ることができる。この光景は、秘境そのものといえるだろう。

ギリシア正教の神秘〜修道院の生活
　修道生活は、労働と祈りが中心なので、祈りは日夜行われる。特に夜中と早朝から始められる祈りは、アトスならではの体験ができる。高い壁に囲まれた修道院の中に、シマンドロという木の板を独特の調子でたたく祈りの合図が響き渡り、それが自然の静寂を破って近くの山々にこだまする。すると暗闇の中から修道士たちが現れ、教会に集まる。ビザンティン調の祈りと歌、ロウソクの光と乳香の香りはまったくの別世界へ導いてくれる。そして長時間の祈りが続く。
　各修道院には、聖堂に中世ビザンティン期のイコン、フレスコ壁画などが数多くある。かつて修道士たちが生活の糧に作っていたものだ。これらの見学は祈りが済んだ食事後に、案内役の修道士が巡礼者を集めて説明してくれることもある。また図書室、資料保存室などもあって見学できる。特にメギスチ・ラヴラ修道院には数多くの古い写本などが保管されている、価値ある図書室がある。
　アトスには、セルビア（ヒランダリウ修道院）、ブルガリア（ゾグラフ修道院）、ロシア（パンテレイモノス修道院）、ルーマニアなどからの修道士もいる。
　アトスには修道院のほかに断崖絶壁や山中に小屋をもち、2、　3人で修行する人も多い。彼らは雨水を飲み、自給自足の生活で祈りを続けている。未来の預言をする修行者もいるとか‥…。
　近年はアトスに若い修道士が増えつつある。全般的には学識者（教授、医師など）の修道者も多く、特にスタヴロニキタに
は多く集まっている。英語を話す修道士も多いので会話に心配はない。
　このようにアトスでは、ギリシア正教の修道主義を守り、ビザンティン文化、イコン芸術、礼拝の原型を継承している。
アトスはビザンティン文化の研究、イコン、プレスコ画の研究、そしてギリシア正教の神秘性を体験できる唯−の場所である。　　　　　　（長屋房夫＋編集室）

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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−トラキア地方

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●アレキサンドゥルポリ　Alexandroupoli

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アレキサンドゥルポリ教会美術博物館　　

　（美術博物館そのものの記述なし）

　カヴァラの束を流れるネストスとギリシア、トルコ国境を流れるエヴロス川の間をトラキア地方という。アレクサンドゥルポリは、このトラキア地方、エピロス県の中心都市である。トルコ国境からわずか14．5km。テッサロニキ〜イスタンプール間には鉄道が通っていて、ここからトルコへ抜けられる。また、サモトラキ島への観光の基地でもある。
　ロシア人が支配していた1877年前後に、町は整備された。当時はデデ・アガッシュ（トルコ語で「聖人の樹」）と呼ばれていたが、1919年より「アレクサンドロス大王の町」という意味のアレクサンドゥルポリと呼ばれるようになった。
　アレクサンドゥルポリは、人口約4万3000人の美しい海辺の町。東西、南北ともに約１kmの範囲内にあり、碁盤の目のように道路が整備されているので、初めてでも問題なく歩ける。
　落ち着いた雰囲気のアギオス・工レフテリオス教会があるのでぜひ訪れてみたい。また市庁舎には、インフォメーションがあって、古代の出土品が展示されている。
　場所柄イスラム教徒が多く、周辺の村には今でもトルコの雰囲気が漂っている所が多い。思いがけない所に、名もないモスクがあったりする。ギリシアとトルコの境目としての魅力を味わつてみたい。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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ドエーゲ海諸島

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−クレタ島　Crete

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●イラクリオン　Iraklion

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クノッソス宮殿跡　　Knossos

　ギリシア神話によると、クレタ島のミノス王が、一度入ったら二度と出ることのできない迷宮を建てて、ミノタウロスという牛頭人身の怪物を閉じ込めていた、と伝えられている。これは長い間、単なる神話、あるいは物語として受け止められてきた。しかし、1900年に始められたイギリスの考古学者アーサー・エヴァンスの発掘によって、それが実在していた宮殿であったことが判明したのだ。
　クノッソスへ行くと、約3700年前の宮殿が復元され、想像以上に生々しく保存されているのに驚かされる。そしてここは、古代の平和な時代を思い起こさせる不思議な遺跡でもある。この遺跡はほかと違って城壁がまったくないからだろうか。赤い木の柱、牛の角をかたどったシンボル、色彩豊かな数々の壁画‥。それらは訪れる者のロマンをかきたて、神話の世界へと誘う。
　宮殿は一辺が160mで、中庭をもつ複雑で巨大な建物だ。４階建ての部分もあり、部屋の数は1200以上あったであろうと推定される。まさに迷宮だ。
　（中略）
　さて、王宮として用いられた東側の建物へ行つてみよう。中庭を通り大階段のある所は、この遺跡で最も高い建物であった。４階建ての複雑な構造だが、下の階まで光が採り入れられるように設計されているのは驚きだ。一番下の階（立ち入ることはできない）は地下で、柱廊の大広間となっているが、光はそこまで入り、赤と黒の柱は地階と感じさせない華やかさがある。　必見は女王の間とその隣の浴室。女王の間の壁には鮮明な色のイルカが描かれていて、柱や壁の模様もなごやかな雰囲気だ。浴室には女王が使用した浴槽があり、浴室の隣は水洗トイレだ。宮殿の北側は住居跡、倉庫、仕事場跡などだが、ここでは排水溝や上水道管に注目。このような給水、排水設備が整っていることは、高度な文明をもった人々が住んでいたことを証明レている。
　南と北の出入口近くにある壁画も見逃せない。南の入口が表といわれ、「ユリの王子の壁画」がある。これに対して裏側にあたる北口からは、倉庫や仕事場へ物資が運び込まれた。そこには牛の壁画がある。さらに北側の２階には壁画の部屋があって、「パリジェンヌ」、「牛の上のアクロバット」、「青い鳥」など、洗練された色彩と自由な表現のすばらしい絵が見つかっている。これらの壁画は修復されて、イラクリオン考古学博物館に展示されている。

　ゼウスと女神ムネモシュネ（「記憶」という意味をもつ）の９人の娘たちは「ムサイ（ミューズ。以下カツコ内は英語読み）」と呼ばれた。彼女たちは美術、音楽、文学、演劇などの芸術と、歴史、哲学、天文学などの学問を司る女神だった。なかでも音楽は彼女たちの得意分野だったので、「音楽＝ムシキ（ミュージック）」になった。また「博物館＝ムーセイオン（ミュージアム）」は「ムサイ（ミューズ）たちの神殿」の意。

プラトンが記述したアトランティス文明
　クノッソス宮殿の発掘をきっかけに、クレタ島に存在した高度な文眼の遺跡が次々に発見された（フェストス宮殿、マリア宮殿なと）。ミノア文明やクレタ文明などと呼ばれるが、後にサントリーニ島のアクロティリ遺跡が発掘され、さまざまな解明がなされると、エーゲ海一帯にひとつの高度な文明が栄えていたことを決定づける多くの類似点や相互関係が明らかにされた。これをエーゲ海文明と呼ぶ。これらの新たな発掘と研究は、哲学者プラトンが晩年に書き残した不思議な出来事−アトランティス文明の神秘−の解明へとつながるのかもしれない。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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考古学博物館　　Archaeological Museum

　クレタ文明のすべてが展示されている。
　アテネの考古学博物館はギリシア全土の遺跡からの出土品などを集めているが、唯一クレタ（ミノア）文明の出土品のみ展示されていない。クレタ島に起こったミノア文明の遺産はほとんどがこの博物館の中に収められているのだ。クノッソス宮殿の壁画を修復したものもここにあり、とにかく必見の場所。全部で23室に分かれていて、石器時代からローマ時代にいたるまでの出土品が展示されている。

聖マルコ大会堂　Agios Markos
　モロシニの噴水の斜め向かい側にある、14世紀に建てられたイタリア様式の建物。現在は展示場などに使われていて、クレタ各地の教会から集められたイコンなどが展示されたり、夏にはコンサートが行われたりする。また、この大会堂の周りにはヴェネツィア時代の建築物を復元したものがいくつか建っている。

クレタ歴史博物館　Historical Museum of Crete
　カザンツアキスの書斎もここに展示されている。

イラクリオン　Iraklion
　クレタ島の商業の中心地であり、ギリシアで一番裕福な都市イラクンは、クレタ島の北海岸、真ん中よりやや東に位置する。1971年には、それまでのハニアに代わりクレタ島の行政の中心となった。観光客にとってのイラクリオンは、クレタ島で一番有名な観光地、クノッソス遺跡への拠点であり、クレタ島内の各地へ向かう交通の起点である。クレタ島のメイン空港（国際線も発着する）、そしてメインボートもここイラクリオンにある。
　イラクリオンが歴史に登場するのは、クノッソス全盛期の頃。クノッソスの外港として栄えた。だが、イラクリオンが歴史の主役として登場するのは、それから約2200年を経た824年、アラブ人たちによってクレタ島が占領されてからだ。アラブ人たちはイラクリオン（当時の名前はハンダカス）を拠点としてクレタを治め、防衛のため町を壁で囲んだ。その後、支配主はビザンティン帝国、ヴェネツィア（ヴェネツィア時代にはイラクリオンはカンディアと呼ばれた）に代わったが、壁は修復され使われ続けた。現在でもほとんどが残っており、その歴史を物語っている。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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−キクラデス諸島　Kikladhes

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●フィラ（サントリーニ（ティラ）島）　Fira (Santorini)

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ティラ考古学博物館　　Thira

『サフラン摘み』　前16世紀後半
　火山の爆発によって大半が海に没したサントリーニ（ティラ）島は、近年調査が進み、エーゲ海文明の重要な島であったことが明らかとなった。。発掘された色鮮やかな壁画は、古代絵画の稀有な作例で、当時の様子や生活をよく伝えている。この島はアトランティス伝説のイメージソースともいわれている。

　　　［『世界　美術館の旅』(小学館、2002)から］

古代ティラ　Ancient Thira
　紀元前９世紀頃からビザンティン時代まで、1000年以上にわたって栄えた町の遺跡。カマリ・ビーチとペリッサ・ビーチの間にそびえるサントリーニの最高峰（369m）の頂上にある。カマリやペリッサから歩いて30〜40分。遺跡はほぼ土台しか残っていないが、ここからの出土品の多くはフィラの考古学博物館で見ることができる。

新先史期博物館
　アクロティリ遺跡から発掘されたものを展示している博物館。
　フィラから南西へ約10km、フィラから出ているアクロティリ行きのバスの終点にあたる。紀元前1500年頃の大噴火によって突如歴史の舞台から消えたアクロティリは、深い火山灰に覆われていたことが助けとなり、エーゲ海周辺で見つかっている先史時代の遺跡のなかでも、一番保存状態のよいものとされている。当時の建物は２階建てや３階建てまであり、かなり高度な文明であったことがうかがわれる。発掘されたものの多くはアテネの考古学博物館に展示されているので、そちらも見ておけばより理解が深まるだろう。

サントリーニ島
　日本や欧米でのとおり名はサントリーニだが、ギリシアでの正式名はティラという。キクラデス諸島の中で最も南にある火山島だ。今のような三日月形の島になるまでには、何回も火山の爆発があったとされている。特に、紀元前1500年頓に起こった史上最大ともいわれる火山の噴火で島の中心部が沈み、ほぼ今あるような形となった。
　この島に文明がもたらされたのは、紀元前3000年頃。クレタ島より移り住んできたクレタ（ミノア）人たちによってとされている。そのクレタ人たちが運んだクレタ（ミノア）文明は、この地でキクラデス文明として発展していったが、その大噴火によって一瞬にして歴史の舞台から姿を消した。この島に残るアクロティリ遺跡は、その噴火以前に栄えたとされる場所で、貴重な文化遺産だ。また、そんな灘に包まれた歴史から、ここが幻のアトランティス大陸だったとも噂されている。最近では、1956年に大噴火が起こり、フィラやイアの町のほとんどが崩犠した。現在の町並みはそれ以後にできたものがほとんどだ。
　サントリーニ島の景観は、ほかの島に比べてずいぶんと違う印象を受ける。船でこの島に行くと、まず赤茶けた断崖が壁のように立ちふさがる島の姿に驚かされる。船が近づくにつれ、断崖のてっぺんに白く雪がかぶさっているかのように、びっしりと建ち並ぶ白や水色の屋根の家々が見えてくる。その様子は、単に美しいのひと言では言い表せない。ミコノス島のなだらかな島影に風車のシルエットというイメージとは違う、また変わった厳しい自然と白い家の強烈なコントラストが魅力となって迫ってくる。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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●アピラドス（ナクソス島）　Apirados (Naxos)

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ミハエル・バルダーニ美術館　　Michael Bardani Museum

　パロス島のすぐ東に位置する。キクラデス諸島中、一番大きなナクソス島は、ゼウスの子であり、酒の神様で知られているディオニソスが生まれた所とされている。ディオニソスはゼウスの妻ヘラとの子ではなかったため、ヘラに悟られないように、誕生までゼウスは自分の腿の中に入れ育てたという。よって最初にこの島に住んだのはディオニソス信仰をもつトラキア人といわれている。
　また、クレタのミノス王の娘アリアドネの島としても名高い。アリアドネは父が造らせたクノッソスの迷宮から、アテネ人でミノタウロスを退治したテセウスを助け出し（迷宮に入ったものは二度と出られないとされていた）、その後ふたりでこの島へやって来る。テセウスはそれからアリアドネをこの島へ置き去りにしてしまった。そんな言い伝えも残っている島の中心の町ナクソス・タウン Naxos Town は、島の西側にあり、城壁に沿って続いている。
　島の見どころとしては、島を横断する幹線道路沿いにテラス状に広がる閑静な町ハルキとアピラドス。ハルキでは教会パナギア・ドロシアニ、アピラドスでは民芸博物館とミハエル・パルダーニ美術館 Michael Bardani Museum はぜひ見学したい。道路の終点の美しいビーチがある海岸の町、アポロンでくつろぐのもいい。隣のアオルゴスは考古学的に重要な所でもある。また、この島はパロス島同様、ミコノス〜サントリーニ間の乗り継ぎ点でもある。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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−ドデカニサ諸島　Dodecanissa

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−東エーゲ海諸島

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●サモス・タウン（サモス島）Samos

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考古学博物館　Archaeological Museum, Samos

　古代サモスの栄華を偲ぶ。
　サモス・タウン Samos Town の南側、市民公園のそばにある。イレオの聖域や古代サモスからの出土品を展示しており、必見はイレオから発掘された５m以上ある巨大な大理石のクーロス（青年）像。ライオンの体に鷲の頭と翼をもつ伝説上の怪獣グリフィン像もあり、紀元前７世紀頃には魔よけとして広く使われていた。このほかに同じくイレオ出土の通称“ゲネレオス・グループ Geneleos Group ががある。紀元前560年頃のサモスの彫刻家ゲネレオス作の大理石像群全６体をいうが、４体が現存する。

サモス島
　サモス島はエーゲ海の南東に浮かぶ島で、サモス海峡を隔てトルコからわずか２kmという距離にある。そのせいかオリエンタルな外国情緒が漂い、夏になるとジャスミンが咲き乱れ、トロピカルな雰囲気に包まれる。
　サモス島は、古代より輝かしい歴史をもつ。この地は、ギリシア神話の最高神ゼウスの妻ヘラの生誕の地とされており、古くからヘラ信仰が盛んであった。島の南東には、世界遺産にも登録されている巨大なヘラの神殿跡も残っている。 　紀元前６世紀、僧主ポリュクラトスのもとで政治、文化、商工業とも大いに栄えた全盛期にこの島で生まれ、「三平方の定理」を生み出した大数学者ピタコラスの存在も忘れてはならない。彼の出身地ピタコリオは、前述のヘラの神殿とともにユネスコの世界遺産に登録されている。

ピタゴリオ　Pithagorio
　サモス・タウンから南東へ約16km行った所にある人口約1500人の小さな港町。ここはかつて古代サモスの都として繁栄した町で、最盛期の紀元前６世紀には僧主ポリュクラトスが政治の拠点をおき、商工業を発展させ、文化面などすべてにおいてギリシアの頂点を極めた。このピタコリオの町からカストリの丘を２kmほど上った中腹に、当時ポリュクラトスが造らせた水道トンネル、エフパリノスのトンネルが残っている。メガラの建築家エフパリノスが手がけたこのトンネルは、山を隔てたミティリニ村にある泉からサモスの町に水を供給するために造られた。全長１km、高さ1.7m。山の両側から掘り進み、15年の歳月をかけて穴がつながったとき、数十cmの誤差しかなかったという。わずかな光の中を歩く気分はスリル満点だ。そのほかの見どころとしては、古代劇場跡から坂道を上った所にあるバナイア・スピリアニス修道院 Panagia Spilianis、ピタコリオの西側出口にあるローマ浴場跡などがある。以前ティガニ Tigani と呼ばれていたこの町は、数学者であり哲学者でもあるピタゴラスの名にちなみ、1955年にピタコリオと改称された。

ヘラの神殿　Temple of Hera
　パルテノンをしのぐ規模の世界遺産。
　別名イレオ lreo（Heraion）の聖域ともいう。太古より、サモスでは女神ヘラの信仰が盛んだった。青銅器時代からローマ帝国時代末期にかけて、ヘラを祀った神殿をはじめ、ほかの神域が次々に建てられたという。天災によって壊されたものも多く、今では草深い廃虚で見るべきものはほとんどない。しかし現存する１本の巨大な大理石柱だけは、サモスいちの美観を呈している。現在見られるこの神殿跡は、紀元前６世紀ポリュクラトスの時代に再建されたものといわれるが、唯一残るこの柱から、当時のヘラの神殿はアテネのパルテノン神殿の約４倍の規模があったと考えられている。
　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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●ミティリニ　Mitilini　（レスヴォス島 Lesvos）

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セオフィロス博物館　　Theophilos Museum

　セオフィロス・ハジミハイル（1873-1934）。“ギリシアのアンリ・ルソー”と呼ばれた奔放な放浪画家で、ギリシアの芸術家たちに大きな影響を与えた。彼の油彩画80点を展示。

　レスヴォスは、伝統的な古いギリシアのたたずまいと、トルコの風情が混じり合った不思議な島だ。紀元前６世紀後半に古代ギリシアで活躍した有名な女性詩人、サッフォーの出身地としても知られる。
　当時、エーゲ海沿いの小アジアはギリシアの植民市となっていて、レスヴォスやサモス、ヒオス、リムノス島などのイオニア地方では、オリエントの豊潤な文化に接し開放的な空気が強かった。叙事詩や叙情詩はこの地方で最も栄えたが、レスヴォス島はその中心となった島だ。多くの文人や画家が育っているが、ギリシアを代表する現代画家セオフィロス・ハジミハイルは特筆すべき存在だろう。
　島の中心ミティリニ Mitilini の町なかには貴金属店や金細工、古道具店などが目立ち、トルコの町の雰囲気に近い。とはいえ、同じようにトルコに近いドデカニサ諸島とはまた違った個性をもつ。ヴェネツィア時代の城跡と城壁が見どころ。島の北側にある漁港モリヴァス Molivas は、国内外から芸術家が集まる場所で、ここから東３kmの所には温泉もある。

　竪琴の名手オルフェウスは、愛妻エウリュディケを冥界から連れ戻すのに失敗したあと、すべての女性を避け荒野をひとりさまよった。彼に欲情を抱いたトラキアの女たち、無視されたことを恨み、彼を八つ裂きにして海に投げ捨ててしまう。彼の首と竪琴がレスヴォス島に流れ着くと、島民は首を埋葬して神殿を築き、竪琴を安置したという。それ以後、レスヴォス島の人々は詩と音楽、学問の才能に恵まれ、数多くの詩人や音楽家、学者を排出し、「文人の島」と称されるようになった。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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ネア・モニ修道院博物館　　Nea Moni Monastery

　ヒオス島は、東エーゲ海諸島の中でもビザンティン時代の影響を最も色濃く残している島だ。その一番の見どころといえば、ユネスコの世界遺産にも登録されているネア・モニ修道だろう。現在、11世紀以前に描かれたフレスコ画が残る修道院はギリシア内に３つある。そのひとつがこのネア・モニ修道院であり、八角形の教会とそのモザイク画は、当時のギリシア建築でも最高のできばえと評判が高い。博物館も併設されている。
　また、島中心部には旧トルコ時代の1210年に建てられた城の一部が残っていて、現在は彫刻博物館として公開され、すばらしいコレクションを見学することができる。町なかにはこのほかに、考古学博物館、セント・ジョージ教会などの見どころがある。

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■キプロス共和国　Cyprus■

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●レフコシア（ニコシア）　Lefkosia (Nicosia)

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キプロス考古学博物館　　Cyprus Archaeological Museum

　キプロス国内最大の博物館。
　旧市街を囲む城壁の西の外側にある。紀元前7000年の新石器時代からビザンティン前期までの貴重なコレクションが並ぶ。数多くの文化遺産が海外に流出しているキプロスで最大の博物館だ。キプロス島全体の歴史や文化を知るることができる。特に、テラコッタのフィギュアコレクションは見事だ。

　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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ビザンティン美術館　　Byzantine Museum and Art Gallery

　イコンのコレクションがすばらしい。
　聖ヨハネ教会のすぐ後ろにある。8〜18世紀のイコン（宗教画）のコレクションが圧巻だ。キプロス国内でも最大の点数を誇っている。海外で競売にかけられ、後に無償でキプロスに返還されたという６世紀のモザイクもある。
　アートギャラリーでは、油絵や地図、リトグラフなどの展示会が行われていたりするのでこちらにも立ち寄りたい。
聖ヨハネ教会
　18世紀のフレスコ画が見事。
　大主教の館の隣に1662年に建立。1730年には大主教の座がここに移された。今でも残るフレスコ画は1733年から描かれ始めた。
　イコン（宗教画）はおもに17〜18世紀のもの。聖バルナバスの墓が５世紀末に見つかったことを物語る壁画もあり、興味深い。

　　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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●レメソス（リマソール）　Lemesos (Limassol)

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レメソス考古学博物館　　Lemesos District Archaeological Museum

　レメソス周辺から出土した、新石器時代からローマ時代までのコレクションが展示されている。館内は３つの部屋に分かれていて、アマサスやクリオンの遺跡からの出土品も展示されている。展示物のなかには、アフロディテの美しいモザイクもあって見ものだ。

クリオンの古代遺跡
　コロッシ城からさらに５kmほどパフオス寄りにある。紀元前14世紀〜紀元前13世紀にギリシアのペロポネソス半島にあるアルコスからやって来たアカイア人の植民地として発展した場所。2000人の観客が入れるローマ式野外劇場rが圧巻だ。これは紀元前２世紀に造られ、紀元後１世紀に地震で壊れ、２世紀に再建されたもので、当初は3500人の観客が座れる造りだったという。３世紀には動物闘技が行われていたこともあり、観客席の下に動物用の小さな部屋が残っている。現在でも夏になると野外演劇や音楽会などが催される。また、その隣にあるエウストリオスのは、４世紀の大地震のあとに造られた公衆浴場跡。７世紀に破壊されてしまったが、サウナの跡や休憩室の床に見事なモザイクが残されている。

レメソス（リマソール）　Lemesos (Limassol)
　キプロス第２の都市がレメソス（リマソール）だ。ここはキプロスの商業の中心地でもあり、一方ではラルナカよりも有名なリゾート地でもある。海岸沿いには大型ホテルやタベルナ、多くのパーやナイトクラブが軒を連ねている。また、ラルナカが空の玄開口なら、レメソスは海の玄開口だ。ギリシアのピレウス港から国際船も寄港する。
　９月のブドウの収穫期には、この街でワインフェスティバルが開催される。というのも、レメソスがキプロスワインの生産の中心地だからだ。ほかにも、復活祭の四旬節の前に行われるカーニバルや春の花祭り、音楽や民族フェスティバルなど、多彩な催しが開催されている。　

　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

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●パフォス 　Pafos

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ビザンティン博物館　　Byzantine Museum

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●トロードス　Troodos

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壁画の教会群　　Painted Churches in the Troodos Region

　港から坂を上っていくパノ・パフォスには３つの博物館がある。まず、パフォス周辺から発掘された、新石器時代から1700年頃までの出土品が展示されている考古学博物館。12〜18世紀のイコンを含む、ビザンティン時代の展示品が並ぶビザンティン博物館。そして新石器時代から現代までの個人のコレクションがある民族博物館だ。

パフォスのモザイク
　カト・パフォスの港のそば、駐車場の突きあたりに遺跡の入口がある。ここは紀元前２世紀〜紀元後４世紀末までキプロスの都だった町で、野外劇場、ビザンティン時代の砦、デイオニソスの館、テセウスの館、エオンの館、オルフェウスの館などを自由に散策し、美しいモザイク画を見ることができる。デイオニソスの館は、1962年に耕作中の農夫によって発見された。またテセウスの館は、ローマ地方総督の館で、部屋数が100以上もある立派なものだったという。近年に発見されたのがエオンの館で、美しい人物画の描かれたモザイクは、地中海を代表するものといわれている。

パフォス　Pafos
　島の南西部にあるパフォスは気候に恵まれ、豊かな自然を誇るエリアだ。かつてはキプロスの首都として栄えた。貴重な文化財が数多く残されていることもあり、街全体がユネスコの世界遭産に登録されている。また海岸沿いは、マリンスポーツなら何でも楽しめるリゾート地でもある。

　　［『地球の歩き方　ギリシア』(ダイヤモンド社)から］

　 　　まえがき

　"東欧・バルカン"という名称でファイルを作り出したが、どうももはや、かつての"東欧"は"中欧"と呼ぶのが一般的になってきたようだ。そうすると、かつての"中欧"であるオーストリア・スイスは、そのまま"オーストリア・スイス"と呼称するしかない。たぶん今では"オーストリア"より"スイス"が先にくるのかもしれない。よって、今回のファイル名を"中欧・バルカン"とした。"バルカン"諸国は"中欧"の中に含めていいのだろう。ここではさらにギリシアを含めるため、敢えて広義の"バルカン"としたい。これまで文学や音楽の領域において、ギリシアはイタリアのファイルの中に含めてきたが、こと美術館−それも絵画のジャンルに焦点を絞っていることもあり−に関してはバルカン諸国に含めた方が適切かもしれない。ただし、なにせ絵画そのものでも、ことギリシア近現代絵画に関して全く無知なのだ。ずっと気にしながら、いまだ図録の一冊も持っていない。
　ギリシアだけではない。旧東欧諸国でさえ、それぞれ一、二冊しか所持していない各国の代表的な国立美術館展図録の解説書で知っている程度に過ぎない。たぶん、各国の絵画史、いや美術史の書物がないのだ。画家に絞っても同様な状態である。ポーランドといったらキスリング、チェコといったらミュシャ、ブルガリアといったらパスキンというのは周知であろう。愚生も安価な画集を所持しているレンピッカはどのくらい知られているのだろうか。現代絵画ファンならクプカも重要な存在である。あっと、モホリ＝ナギとヴァザルリを忘れてはいけない。さて、マテイコやムンカーチ、グリゴレスクとエミレスクとなると、どれだけ知られているのだろうか。そういう愚生なども、昨今、今地元で最も画家らしい、しかも優れた技巧と深い内容を併せ持つ知性派画家坂本智史氏から、ベクシンスキーについて教えてもらい、絶版となった画集も貸してもらった。ポーランドに恐るべき画家がいた。まだまだ愚生の知らない、愚生好みの画家がたくさんいることは確かだ。
　それだけに、無知に近い旧東欧の美術館を調べるのは大変な楽しみでもあった。並行して地方名を覚えることにも力を入れた。山脈ばかり多いと思っていたが、意外に平原が多いのを改めて知った。ただ、かつて一度は大きな王国を成して世界史に痕跡を残した東欧の国々の、やはり様々な国からの被支配国としての歴史があまりにも長く、その抑圧された暗さを、こと絵画の世界にあっても、ずっと引きずっているのがひしひしと感じられる。 　だが、音楽のみならず、全世紀後半の北欧のように、遅くとも21世紀後半にはドイツと共に敬意を抱かせる世界の主要地域になるような気がしてならない。保存された良き伝統と自然。良心的な質。今から、より学んでおく価値ある地域に思われてならない。
　（up時 2009.2.7）

　 　　あとがき

　ハンガリーをまとめているときに、無性にハンガリー絵画史のファイルを作りたい欲求に襲われた。このＨＰの本来の目的に適うファイルだが、時間がかなり要しそうなので断念した。退職後、いつか。
　今回、チトー没後のユーゴ解体による各国について幾らか知る機会となった。チトーの理想とその実現にずっと敬意を持ってきた愚生にとって、ユーゴ解体は実に残念な事態だった。それはソ連解体も同様であるが、それぞれの独立国、いや地域をより知ることになった長所でもあろう。いや両者とも連邦以前の多様な状態に戻っただけであり、民族史やアイディンティティの観点からは何ら変わったことではないのかもしれない。なのに、何とも民族浄化のための集団レイプや殺戮。深刻な悲劇。そうとう狂っている。本来の状態に戻ることをひたすら祈るしかない。バルカン諸国の貴重な多様性。とにかく、バルカン諸国について、それぞれのアイディンティティを幾らか知ることができた。愚生は、文化の固有性・多様性を基盤としながら、いまだ多重性を探索してでの共通項としてのより普遍性を求める志向が強いのは変わりないが。
　ただ、今回も偉大なる風景画家に出会えなかったのが淋しい。勉強の突込みが足りなかった。加えて、せっかく覚えた地方名も、このファイルが完成したときにはもう復唱できない状態。記憶力、いや暗記力が相当衰えている。口に出せるのは元の木阿弥ばかり。画家名ばかりか美術館名も然り。何度も何度も復習するしかない。掘り下げるのではなく、残念ながらほとんど同じ箇所ばかりだが。今最も多層的で複雑な、中欧・バルカン。堅固な厚みを感ずる地域。
　真の意味での科学の進歩に比例せず、近代以来ちっとも進歩していない"資本主義"。地に足の着かないのが資本主義という幽霊だが、いまだその亡霊に取り付かれあるいは恐れ続け、金が金を生み出す誤った仕組みに踊らされている、いや抑圧されている無知な我々も馬鹿なのだが。経済的に必要なのは衣食住に必要な生産と、そこに伴う物々交換だけあれば充分なのだ。フェティシズムはよくない。それを土台とした教育と医療。遠隔地の高価物など自分が属する地域には不必要。流通や情報網など最低限でよいし、もともと高価物などどこにもありはしない。質素で素朴な生活で充分。そこに自由な時間や福祉が生まれ、真の自然に基づいた精神文化が生まれるのだ。そこでは、狂気的な都会的病などに誰も価値観を抱かない。いい意味での社会主義リアリズムでいい。日常生活的で大げさでない素直な表現。高度資本主義は、社会主義リアリズムを低級なものとして顧みなかったが、愚生などは、文学・絵画・音楽の世界において、退廃的・世紀末的なものより、むしろそちらを好む。しかし、わが国ではそれらがほとんど紹介されていない。どこかの国のように、意識するしないに拘らずそれらの情報が入ってくるのが阻止されているのだ。だからこそ、社会主義を経た旧東欧に、何かしら学ぶべきものが多いような気がしてくる。国民楽派の音楽のように、絵画もまた。
　（up時 2009.2.7）